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〜男たちの挽歌編〜

登場人物

トシヤ ボス的存在
ナオト 演劇に対しては熱い。ちょっと小太り
サトル 冷静沈着な兄。弟に弱い
ユウキ 演劇は好きだけどちょっと大人しい青年




○『○○町』バス停 2002年(昼

 停留所を示す物が置いてある。
 ユウキが一人ぽつんと舞台中央に立っている。
 着ている服はレインコート。
 その上からさらに傘をさしている。
 雨に濡れ俯いている。

音響 FI→(雨の音
照明 FI→(薄暗い色


ユウキ 上手、下手に視線を送る。
    溜息をついて俯く。

音響 CI→バス

ユウキ バスが止まる音に顔をあげる。
    ドアが開くが首を振って一方後ろに下がる。
    ドアが閉まり、バスは行ってしまう。

サトル 下手から登場
    傘を差している。レインコート着用
    冷静な足取り。
    ユウキを見て一瞬眉を曇らせるが、
    わかっていたそぶり


サトル「ユウキ」

ユウキ「兄さん」

サトル「やっぱり、ここにいたのか」

ユウキ「他に行くところなんて無いから」

サトル「ユウキ……」


ユウキ 俯いてから思い出したように笑みを浮かべて


ユウキ「今日、だったんだ。あの日。覚えてた?」

サトル「(頷く)忘れたくても、忘れられないよ」

ユウキ「そう、だよね。(弱々しい笑みを浮かべて)
    ……遅れているんだよ。きっと(サトルの顔を見て)そんなわけ、ない、か」


サトル ユウキに対して優しい言葉をかけようとする。
    言葉が浮かばず首を振ってから。


サトル「いいかげん、夢を見るのはやめろ。待っていたって無駄だろ?」

ユウキ「夢じゃない。約束だよ」

サトル「決してかなわないものを、約束なんて言わない。それはただの夢だ」


ユウキ サトルに向かって
    笑顔を浮かべたしかめるように


ユウキ「……約束、だろ? ここで、会うって、約束。
    ……約束だったじゃんか」


ユウキ 俯く
サトル 何も言葉がかけられない


音響 FI→(雨
   徐々にその音を大きくしていく

照明 FO
   暗転


ユウキ 上手へ退場
    レインコートは脱いでおく

サトル 下手へ移動
    レインコートを脱いでおく。


音響 FO

*二年前*

○トシヤの部屋 2000年(昼
 2DKの部屋の中。玄関のすぐ隣に台所がある
 ほとんどの荷物は運ばれてしまい、部屋の中には何もなくなってしまっている。
 サトルが、運搬行の人と、最後の話し合いをしているところ


照明 FI→(明るい色
音響 FI→(


サトル 運搬行の人に荷物の運び場所について話している
    服装は動きやすい格好。肩にタオルをかけている
    ちっこいカバンをかけている


サトル「ええ。これで荷物はすべてです。
    ……そうです。佐久間倉庫まで運んでください。 
    はい。こちらからも一人、指示をしに行かせます。
    ……お疲れ様です。よろしくお願いします。
    雨降りそうですから、気をつけてください」


サトル 運搬行の人を見送ったあと


サトル「さて、運ぶ荷物もないし、お先に休憩とさせてもらうか」


サトル 汗を拭いながら下手へ退場


トシヤ「オーライ。オーライ。あ、ナオト、こけんなよ」


トシヤ 上手から登場
    動きやすい格好
    上手を向いたまま後ろ歩きで入ってくる


ナオト「こけるか!」


ナオト 上手から登場
    動きやすい格好
    側面に「劇団(ハート)『○○会』」と書かれた
    段ボール箱を抱えている(上手側奥)


ユウキ「あ、ナオトさん、大丈夫っすか? 」

ナオト「あたりまえだろって。ユウキこそ、気をつけろよ」

ユウキ「ういっす」


ユウキ 上手から登場
    動きやすい格好
    トシヤと同じ段ボール箱を抱えている(下手側手前)


トシヤ「さぁ、もう少し。頑張れ〜」

ナオト「てか、なんだよこのダンボール。何でこんな重たいんだ?」

トシヤ「死体でも入ってたりしてな」

ユウキ「最後の一個なのに……二人がかりなん、て」

ナオト「よく底抜けないよなぁ、これ。ああ、もう駄目。一回下ろすぞ」

ユウキ「はい」


ナオト&ユウキ
    ダンボールを床に下ろす


トシヤ「体力無いねぇ〜そんなんでバテルようじゃ、『○○会』は復活させられないよ」

ナオト「『○○会』復活させる前に、俺の腰がダメになるっつーの」

トシヤ「やわな腰だなぁ」

ナオト「昨日使いすぎたかなぁ……」

ユウキ「あ、そうだボス。運搬の人を、また呼ぶってのはどうですか?」

ナオト「いいねぇそれ。せっかく金払ってんだから、利用しないと」

トシヤ「しょうがないなぁ。怠け者の君らのために、この俺が呼んできてあげるよ」

ナオト「うわっ偉そう」

トシヤ「チッチッチ。違うなあ、ナオト。偉そうじゃない。偉いんだよ」

ナオト「へーいへい」


トシヤ 下手へ行って
    下手観客側を覗くまね


トシヤ「あれぇ?」

ナオト「どうした?」

トシヤ「いないぜ? 運搬車も、人も」

ナオト「まじぃ!?」

ユウキ「え? どういうことっすか?」

トシヤ「どういうことも、何も、見えないんだよ。車が」

ナオト「誰だよ帰したのは?」

ユウキ「僕じゃないですよ」

ナオト「んじゃ、トシヤか?」

トシヤ「あたしじゃないわよ」

ユウキ「え゛?……」

トシヤ「あ……」

ナオト「トシヤぁ。カマ語は止めろって言ったろう?」

トシヤ「あ、ごめん。ついでちった。俺じゃないぜ」

ナオト「今更言っても遅いっつーの」

トシヤ「うっさいわねぇ。しょうがないでしょう?
    一応これで食べてるんだもの」

ユウキ「え? ど、どういうことすか?」

ナオト「(溜息)これが、トシヤの最近の仕事なんだとさ」

ユウキ「へ?」

トシヤ「ユウキにはまだ言ってなかったねぇ〜
    俺って最近、銀座では『銀座のマリリン』ってちょっと知れた人間なのよ」

ユウキ「マ、マリリン?」

ナオキ「もういい。言うな。たくっ。いい年して恥ずかしくないのかよ」

トシヤ「なにいってんの。タメのくせに」

ナオキ「そういう問題じゃないだろ」

トシヤ「大体、なんでお前が恥ずかしがるんだよ? 
    隠すこともない。銀座のマリリンは俺の源氏名さ」

ユウキ「ゲンジナ?」

トシヤ「ホステスだよ。銀座じゃ二番目のパブのね」

ユウキ「へえ。凄いじゃないですか」

ナオト「オカマパブだけどな」

ユウキ「え゛っ……」

トシヤ「いいんだよ。美しさは俺の武器だからね。輝かせられる場所で輝かすものなのさ」

ナオト「自分で言うか? そういうことって」

トシヤ「言うね。そして、ナオトの武器は怪力だろう?」

ナオト「誰が怪力だ!」

トシヤ「違うの? マリリンびっくりぃ」

ナオト「気持ち悪い声を出すな!! 俺の武器は、この(と言って立ち上がる)優雅さ。だ」

トシヤ「優雅ぁ? サトルが聞いたら、なんていうなぁ」

ユウキ「あ、でも、ナオトさんの踊りは凄いですよ」

ナオト「だろ〜。この踊りの才能を生かして、二年間、みっちり鍛えるつもりさ。
    二年後の『○○会』復活の暁には、俺の踊りで観客席は沸きまくり、決定!」

トシヤ「ダンボール運びくらいで根を上げるくらいじゃあ、どんな習い事も続かないって」

ナオト「大丈夫。年相応のものを選ぶつもりだから」

トシヤ「いきなりおっさん発言かよ」

ナオト「冗談だって、冗談。でもな、ダンボールくらいって言うけど、マジこれ重いぜ?
    (ユウキに)なぁ?」

ユウキ「そうですよ」

トシヤ「二人がかりで運べないなんてね〜。もう、情けなくって涙が出るわ」

ナオト「うるせえな。じゃあ、お前が運べよ」

トシヤ「いや、マリリンお箸より重いの持ったことないし〜」

ナオト「そうくるか……」

ユウキ「ボス、力ないですからねぇ」

トシヤ「ほら、俺って半分女だから」

ユウキ「そういう問題なんすか?」

トシヤ「そうよぉ。だけど、あんたたち男でしょ?
    男だったら軽く持ち上げられなきゃやばいって。
    そんなんじゃ二年修行したって、『○○会』はまたすぐお休み、
    もしくは潰れちゃうよ?」

ナオト「平気さ。このまま続いてたって大丈夫なくらいなんだから」

トシヤ「とかいってて、こないだの最終公演じゃぁ、
    見にきたお客はやっと10人いくかいかないかだっただろう?」

ナオト「そ、それはそうだけど」


三人 思わず黙る


ユウキ「(明るく)きっと、広告にあまりお金使わなかったのが悪かったんですよ」

トシヤ「そうよね〜 きっと」

ナオト「はい、そこカマ言葉禁止。まぁ、自分に言い訳してもかっこ悪いしなぁ」


ユウキ 何もいえなくなる
ナオト 後の言葉が続かない
トシヤ 二人を見て安心させるように


トシヤ「大丈夫。これからじっくり力を蓄えて、また、蘇ればいいんだから。だろ?」

ユウキ「はい」

ナオト「だよなぁ。深刻ぶっても始まらないし」
トシヤ「そうそう」

ナオト「んじゃ俺、運搬車探してくるわ。
    もしかしたら、駐車場所を変えただけかもしれないし」

トシヤ「あ、それはあるな。あそこらへん駐車禁止だしね」

ナオト「そうそう」

トシヤ「まったく。気がついたんだったらもっと早く行けよ。気が利かないねぇ」

ナオト「そういうこと言うか? 普通」

トシヤ「ほらほら、喋ってないですぐに行く」

ナオト「へーいへい」


ナオト 下手へ退場
トシヤ 胸を軽く抑えながら
ユウキ どこか考えているようにダンボールをいじっている


トシヤ「まったく(苦笑)……ユウキも、疲れただろう?」

ユウキ「え? あ、はい正直言うと結構」

トシヤ「仕方ないよ。まだ高校生なんだから」

ユウキ「この春までですよ」

トシヤ「あ、そうだった。どこ行くかもう決まってたっけ?」

ユウキ「一応、演劇の専門へって」

トシヤ「そうっか。あ、でもまさか」


音響 CI→放送禁止用語ごまかし音「ピーとか」


トシヤ「(音)じゃないよな?」

ユウキ「え?」

トシヤ「だぁから」


音響 CI→


トシヤ「(音)だけはやばいからさ。お金ぼったくられるだけだし」

ユウキ「あの、なに言っているのかわからないんですけど」

トシヤ「え? (少し考えて)あ、そうか。ごめん。
    たぶん名誉毀損になるから放送禁止なんだ」

ユウキ「はぁ」

トシヤ「良くあることだよ。まあ気にするな」

ユウキ「分かりました」


トシヤ 軽く胸を抑えて
ユウキ トシヤに寄る


トシヤ「しっかし、ユウキも、とうとう巣立ちのときか。速かったなぁ。
    サトルの弟として○○会に入ってから、もう二年だ」

ユウキ「ですね。……はじめは驚きましたよ。僕いれて四人しかいない劇団なんて」

トシヤ「そりゃあめずらしいだろうからな。人数少ない上に、
    そのつながりが、友人に、後輩、さらにその弟なんて」

ユウキ「でも本当は、兄さんより僕のほうが演劇始めたのは早いんですよ」

トシヤ「知ってる。サトルから聞いたよ。兄弟で演劇やっているなんて面白いよね」

ユウキ「トシヤと、トシキさんも、そうだったらもっと面白かったですよね」

トシヤ「うちは無理だなぁ〜。双子でそっくりなのは外見だけ。
    中身はまるで正反対なんだから」

ユウキ「車の運転とか、ですね(苦笑)」

トシヤ「そうそう。アイツまるで一般車道で無いかのように乗り回すからね(苦笑)」

ユウキ「一度乗って大変な目に会いましたよ」

トシヤ「ああ、去年の大会のときだろ? 会場に、間に合わないからって」


音響 車の音
照明 中央明るく


トシヤ(トシキ) 車のハンドルを握る
ユウキ   横で必死に耐えている


ユウキ「あ、トシキさん、シートベルトはつけないんですか?」

トシキ「俺はいらん」

ユウキ「そうですか……なんか、スピード出すぎじゃないですか?」

トシキ「そうか?」

ユウキ「そうかって……あの、トシキさん、今、赤じゃなかったですか?」

トシキ「あのな。運転しているときは黙ってろ」

ユウキ「すいませ……あ、あの、今完全に赤だったですよ?」

トシキ「大丈夫。あんな車にぶつけられやしないから。それよりシートベルトしたか?」

ユウキ「しましたから、しましたから前向いてください」

トシキ「わかってる」

ユウキ「あ、赤! ……なんで止まらないんですか!!」

トシキ「舌噛み切りたくなきゃ口開くな!」

ユウキ「そんなスピード出さないでください!」

トシキ「大丈夫。まだ、限界じゃない」

ユウキ「そんな問題じゃ……ま、前おじいさんが渡って……ああっ!!」


ユウキ 顔を伏せる

音響 FO


ユウキ「おじいさんが、おじいさんが〜避けてぇ〜」

トシヤ「ユウキ! ユウキ! 大丈夫! ここはトシキの車じゃない。俺の部屋だ!」

ユウキ「……あ、トシヤさん」

トシヤ「……大丈夫か?」

ユウキ「はい。……恐かったです」

トシヤ「ごめんな。あの時はトシキの車になんか乗せちゃって。
    まさか、トラウマになるなんて……」

ユウキ「いいんですよ。今となっては、あれもいい思い出ですから」

トシヤ「いい思い出ではないと思うけど(苦笑)」

ユウキ「あ、そうですね(苦笑)」

トシヤ「まぁ、何でもかんでも今となっては『思い出』だなぁ。
    結成してたった二年だったけど、いろんなことがあったし」

ユウキ「…………」

トシヤ「どうした? 急に黙っちゃって」

ユウキ「僕は……ずっとここにいられると思ってました」

トシヤ「……そりゃあな。できたばかりの頃は、
    まさか休むことになるなんて思ってなかったからな」

ユウキ「どうしても、避けられないことなんですか?」

トシヤ「よせよ今更だろ? 客が来ない以上、
    俺たちになにか足りないのはわかっていることなんだから」

ユウキ「でも、せっかく『○○会』としてここまで来たんだから」

トシヤ「確かに、劇団『○○会』としての二年間は長かった。
    ここで止めてしまうのが恐いくらいに」

ユウキ「だったら、このままもずっと」

トシヤ「それは……できない」

ユウキ「なんで、ですか?

トシヤ「…………・このまま行っても『○○会』は成功しないだろ?
    一度、俺たちが自分を振り返って足りないところを見つけないと」

ユウキ「……そんなことそんな大切なんですか? 楽しいんだから、いいじゃないですか」

トシヤ「ユウキ……」


ナオト 下手から飛び込んで登場


ナオト「おい! ねぇっぞ。車! てか、人に探させといてなになごんでるんだよ!」

トシヤ「うるさいのが帰ってきた」

ナオト「うるさいってなんだよ! 人がせっかく走り回って帰ってくれば」

ユウキ「お疲れ様です」

ナオト「ほら、これが普通の反応だろう!?」

トシヤ「(マリリンで)お疲れ様でーす」

ナオト「…………俺が間違ってました」

トシヤ「ほらいわんこっちゃない。んで? どうしたんだよ?」

ナオト「いや、だからさ。車が、なくなってんだよ」

トシヤ「車? 運搬車やっぱりなくなってたのか?」

ナオト「え? まぁ、それは、そうなんだけど」

トシヤ「えー。どういうことだよそれ。マリリン疑問なんだけどぉ。
    ここにある荷物どうしろって言うのよ」

ナオト「カマ語止めろって。てか、そんなの俺に聞かれたってわからないし」

ユウキ「つまり、これは僕らで下まで運んで、
    かつ誰かの車で運ばなくちゃいけないってことですか?」

トシヤ「まじで? 俺嫌だよ」

ナオト「嫌だよって言ったって……て、そうじゃないんだよ、問題は」

トシヤ「何が問題なんだよ?」

ナオト「……サトルの車が無いんだ」

トシヤ「え!?」

ユウキ「兄さんの車が?」


トシヤ&ユウキ
    顔を見合わせる
    同時に


トシヤ「やばいよそれ」

ユウキ「やばいですよそれって」

ナオト「だろう? だから慌てて来たんだって」

ユウキ「兄さんの運転がやばいことくらい、ナオトサンも知っているでしょう?」

トシヤ「障害物にぶつけまくる時点で、トシキより酷いくらいなんだぜ?」


トシヤ&ユウキ
   同時に


トシヤ「なんで運転させたんだよ」

ユウキ「なんで運転させたんですか」

ナオト「いや、俺がさせたんじゃなくて、出てみたらいなくなってたんだよ」

ユウキ「そんな……とうとう町に血の雨が……」

トシヤ「せっかく、いつもわざわざ朝早く来させて、夜遅く帰らせていたのに」

ナオト「やっぱり警察とかに連絡した方がいいんだよなぁ?」


音響 FI→救急車の音


トシヤ「……遅かったか」


トシヤ 胸を抑えてうずくまる


ナオト「トシヤ!? 大丈夫か?」

トシヤ「(苦痛を悟られないようにわざとらしく)心配で、胃がっ」

ナオト「いや、そこ胃じゃないし」

ユウキ「大丈夫ですよ、ボス。兄さんを信じましょう」


トシヤ 弱々しくユウキを見る
ユウキ 頷く

音響 FI→パトカー


ユウキ「……すべては遅かったみたいですね」

ナオト「(大声で)信じてねぇーー」


サトル 下手から登場
    両手にジュースの缶を持っている。(残りはカバンの中)


サトル「なに馬鹿でかい声だしてるんだよ? 近所迷惑だぞ?」

ナオト「サトル!!」

ユウキ「兄さん!?」

サトル「まぁ、お前の声が無駄にでかいのは昔からか」

ナオト「おい、帰ってきていきなり喧嘩売る気か?」

サトル「(ナオトを無視して)ボス……大丈夫か?」


トシヤ 胸を抑えたまま


トシヤ「サトルぅ、マリリン心配で、肺が痛くなっちゃったじゃない〜」

ナオト「もう、カマはええって」

サトル「なに言ってんだよ。俺がどうにかなるわけ無いだろ?」

ユウキ「兄さんが車運転したりするから、皆に迷惑かけるんだよ」

サトル「なんだよ。
    せっかく、疲れているだろうボスと俺のために飲み物を買ってきたのに」

トシヤ「マジで〜よし、許そう」

ユウキ「駄目ですよ許しちゃ! その気まぐれで何人死んだか」

サトル「誰も殺してない。はい、ボス」


トシヤ ジュースを受け取る


トシヤ「よっしゃ。ウーロンだ。ラッキィ」

サトル「運搬の人も帰らせたし、ここらで休憩でもしようかなと」

トシヤ「さっすが、サトル。気が利くねぇ。誰かさんと違って(ナオトを見る)」

ナオト「うおぃ、そういうこと言うか!」

サトル「俺は『聡い』と書いてサトルだからな」


ナオト 一人不満げに


ナオト「さり気に、ボスとサトルだけってところが気が利いてないと思うんだけどなぁ」

ユウキ「まったくです」

トシヤ「まぁまぁ。許せよ」

サトル「よし、許す」

ナオト「お前が言うな」

ユウキ「そういえば兄さんが、運搬の車帰らせたの?」

サトル「そうだけど?」

ナオト「お前ねぇ。俺、わざわざ探しちゃったじゃんかよ」

サトル「お疲れ様」

ナオト「お疲れ様って……ここに、荷物がまだ一つ残ってるんだけど」

サトル「知ってる。わざと残した」

ユウキ「え?」

ナオト「んだと、おい」

トシヤ「(ジュースを開けながら)どういうこと?」

サトル「さぁ、なぜでしょう」

トシヤ「降参」

サトル「少しは考えろよ」

ナオト「こんな重いものわざわざ残すなんて、よっぽどの理由があんだろうなぁ?」

ユウキ「そうだよ。かなり重いよ、これ」

サトル「まぁ、この箱だけは家に置いときたいなと思ったんだ。
    衣装とか、小道具とかとはちがった思い出が残ってるし。
    最後に、皆で見てみるのも、面白いと思うから」

ナオト「そんなこと言って、そのあと、誰が家まで運ぶんだよ」

サトル「大丈夫。俺が運ぶ」

ユウキ「兄さん、平気なの?」

サトル「当前(胸を張る)」

ユウキ「車で?」

サトル「もちろん」

ユウキ「却下」

サトル「へ?」

ユウキ「兄さんは、運転するたびに、皆に迷惑かけるから運転禁止」

ナオト「そうそう。」

ユウキ「車に乗せるのは兄さん。そして運転は僕がするから」

トシヤ「あれ? ユウキ免許持ってたっけ?」

ユウキ「大丈夫です(胸を張って) 仮免持ってます!」

トシヤ「すごいじゃん」

ナオト「いつの間に取ったんだ?」

ユウキ「三日前です」

サトル「仮免じゃ、不安すぎるって。なぁトシヤ」

トシヤ「うんにゃ。サトルが運転するよりは不安じゃない」

サトル「酷いな」

ナオト「確かにいえてる」

ユウキ「ですよね。そんなわけで、はい、兄さん」


ユウキ サトルに手を出す


サトル「なんだ? この手」

ユウキ「自動車のカギ。渡しておいて」

サトル「俺はまだ(納得してない)……(周りの視線に負けて)分かったよ」


サトル カギをポケットから出してユウキに渡す
    カギにはゾンビ人形がついている


トシヤ「うわ、なにこの気持ち悪いの」

ナオト「まるで、サトルの車の犠牲者みたいだな」

サトル「いかしてるだろ? パロピレ君」

トシヤ「はい?」

サトル「パロピレ君。こいつの名前」

トシヤ「へぇ……まぁ、人の好みはいろいろだからね」


トシヤ 薄気味悪そうに人形を離す
ユウキ ポケットにしまう


ユウキ「はい。じゃあ確かに受け取っておきます」

ナオト「これで一安心だな」


サトル 無言で怒っている


トシヤ「そんな怒るなよサトル。皆心配しているだけなんだから」

サトル「面白がってるのも若干一名いるみたいだけど」

ナオト「さぁって、誰のことぉかねぇ?」

トシヤ「まぁまぁ(苦笑)あ、てか、今更だけど皆お疲れ。
    無事、劇団『○○会』の今までの荷物をほぼ、
    運び出すことができたし。ここもずいぶん片付いたな」

ナオト「まだ、これが残ってるけどねぇ」

サトル「俺が運ぶって言ったの聞こえなかったのか? その大きな耳で」

ナオト「けっ」

ユウキ「結構、荷物ありましたねぇ」

トシヤ「なんせ、ダンボール10箱分だからねぇ。
    よくもまぁ、衣装だの、小道具だの二年間でこれだけ溜まったもんだよ」

サトル「ボスの私品もずいぶん多かったけど」

トシヤ「なんか言った?」

サトル「いえ、べつに」

ユウキ「あの荷物全部、貸し倉庫に入るんですか?」

トシヤ「当然。佐久間の貸し倉庫は、県で一番大きい会社だからね。
    インド像だって十匹くらい一つの倉庫に入るよ」

ユウキ「へぇえ」

ナオト「高かったんじゃないか? 二年間も借りてるなんて」

トシヤ「まぁね。ちょっとばかしね。でも、仕方ないだろ? 
    売り払ったりしたら、それこそ『○○会』がなくなっちゃうみたいだし」

ユウキ「ただ、二年間の修行するだけですからね」


サトル チラリとトシヤを見る
トシヤ サトルに視線を返して


トシヤ「そう。劇団『○○会』は、いったんお休み。
    だけど、それは決して潰れたわけじゃない。
    ただ、二年間、パワーを充電させるだけ」


三人 頷く


トシヤ「これからの二年間は、俺たちから演劇を取ることはできないってことを、
    改めて気づかせてくれるさ。
    そして、その気持ちを大切にしつつ、
    皆にはみっちりと経験を積んでもらわなくてはね。
    (おまけのように)、ま、俺も頑張るけど」


トシヤ ガッツポーズを取る
    さりげなく胸元を抑える


サトル「以上、劇団長からのお話でした」


ナオト&ユウキ 拍手


トシヤ「なんか、最後の挨拶って感じになっちゃったな」

ユウキ「いいんじゃないですか。ボスらしくて」

トシヤ「やっぱりぃ」

ナオト「調子乗り過ぎ」

トシヤ「最後ぐらいいいだろ? ナオトも、踊りだっけ? 頑張れよ」

ナオト「任せておけって」

トシヤ「サトルもね。なんかやるんだろ?」

サトル「まぁな。あとは、なるようになる」

ユウキ「(無言で俯く)」

トシヤ「ユウキは、専門学校か」

ユウキ「だけど、僕はまだ何も……」

トシヤ「まだ若いんだからゆっくり考えればいいって」

ナオト「いいねぇ。若さって。そだ。そういや、二年後にどこ集まりにするわけ?」

トシヤ「ああ、それはもう決めてある」

サトル「どこ?」


トシヤ もったいぶったように周りを見渡してから立ち上がる


トシヤ「バス停、さ」

ナオト「バス停?」

ユウキ「バス停、ですか?」

トシヤ「そう。バス停の、『○○町』前。このアパートのすぐまん前にあるじゃんか。あそこ。
    ドラマっぽいだろ?
    『来ないのかな』そう思っていると、目の前に止まったバスから、
    『(マリリンで)お久しぶり〜』って」

サトル「……なるほど。当日、バスで来る気か」

トシヤ「まぁね。車使うのって、たるいじゃん」

ナオト「まぁ、トシヤがいいなら、いいんじゃない?」

ユウキ「僕は別に」

サトル「決定、か」

トシヤ「OK んじゃ、二年後の今日、バス停の『○○町』前集合な」

ナオト「好きだねぇ。ドラマっぽい展開が」

トシヤ「当然♪ ……あ! てか、運搬車がもう出ちゃったんなら、
    俺、佐久間の貸し倉庫まで行ってこないと。だめじゃない?」

サトル「確かに。あちらで、荷物入れの指示をしますからと、俺も運送業の人に言ったから。
    今ごろ、もうついているかもよ?」

トシヤ「そりゃ大変。(飲み物を一気に飲んで)ごちそう様。」


トシヤ サトルに缶を渡して
サトル その缶と、自分の缶をトシヤに渡し返す


サトル「外に出て、すぐにゴミ捨て場あるから。よろしく」

トシヤ「しっかりしてるなぁ。OK。んじゃ、行ってくるから」

三人 「いってらっしゃい」

トシヤ「俺残して帰るなよ〜」

ナオト「分かってるって」


トシヤ 下手へ退場


サトル「さて、では思い出話にでもふけるとするか皆の衆」

ナオト「お前、もうちょっと若者らしい言葉使いできないのかよ?」

サトル「その発言の方がおっさんぽい」

ナオト「うるさい! てか、さっきから黙ってりゃ飲み物二つだけってちょっと酷くないか?」

サトル「いつ、俺がそんな酷いことを?(言いながらカバンから飲み物を出す)はい、ユウキ」

ユウキ「(お茶を受け取って)ありがとう」

ナオト「なんだよ、ちゃんとあったのか」


ナオト 嬉しそうに手を出す
サトル カバンに手を突っ込んで


サトル「ほらよ」

ナオト「え? って、あっつぅ」

サトル「あれ? 熱かった?」

ナオト「この暑いのにポタージュスープかよ!?」

サトル「そだよ?」

ナオト「そして、ユウキには冷えた緑茶?」

サトル「だから?」

ナオト「いや、だからって。(嬉しそうに)良く俺の好み覚えてたな」

サトル「二年の付き合いだから」

ナオト「そっか。二年。長いようで短かったけど」

ユウキ「で、でも、どうせまた二年だけのお別れですよ」

ナオト「あったりまえだってーの。二年後には、今よりはるかにグレードアップした俺と、
    ボスと、そしてユウキと……おまけのサトルで、再び劇団『○○会』は、復活!」

サトル「おまけという言葉には賛同しかねるが……お前、グレードアップはいいが、
    やりすぎるなよ?」

ナオト「どー言う意味だよ?」

サトル「マッチョキモイ」

ナオト「なるか!」

ユウキ「また皆で『○○会』できますよね」

ナオト「もちろん。なぁ?」

サトル「さあな。先のことなんて分からない」

ユウキ「え?」

サトル「これからの二年で、ナオトが事故死するかもしれないだろ?」

ナオト「何で俺なんだよ。俺死なねえよ?」

サトル「お前不死身か?」

ナオト「そうじゃないけど……」

サトル「とにかく。二年なんて経ってみなきゃ分からないだろ?」

ユウキ「……(俯きつつお茶を飲む)」


三人  何か思案するように黙る


ナオト いきなりスープをすする(ズズズズっと言う音あり)


サトル「うるさい」

ナオト「コーンが取れないんだよ。これなかなかしぶといんだよなぁ。
    やっぱり始めにもうちょっと振っとくんだったなぁ」


ナオト 言いながら立ち上がる


サトル「頼むから、ジャンプしてコーンを取ろうとするのだけは辞めとけ」

ナオト「わかってる。みっともないもんな」


ナオト 腰をおろす


サトル「床を心配してるんだよ。抜けるかもしれないからな」

ナオト「抜けるわけ無いだろ!」

サトル「この床木製だから、分からないぞ」

ナオト「お前ねぇ……」

ユウキ「ナオトさん落ち着いて。兄さんの言うことですから」

ナオト「ユウキ! ……ユウキは、こんな人を人とも思わないような大人にはなるなよ」

サトル「人だったのか」

ナオト「いい加減だまっとけ」

ユウキ「兄さんも、いいかげんにやめなよ。……最後の日だろ?」

サトル「だな。……その箱、中身見ろよ? 色々面白いのがつまってるから」

ナオト「だろうな。ずいぶん重かったし」

サトル「嫌味か? パンチ弱いぞ」

ナオト「さすが、嫌味大魔人には勝てないさ」

サトル「当然だろ」

ナオト「はいはい。言うと思った」


ナオト 言いながら箱を開ける


サトル「あ、せっかく閉じたのに開けられた」

ナオト「開けろって言ったのお前だろ!?」

サトル「俺は事実を言っただけで、責めたわけじゃない」

ナオト「一々一々お前って人間は」

ユウキ「(誤魔化すように)ナオトさん! なにが入ってるんです?」

ナオト「え? ええっと、ババン!」


ナオト 箱の中身を取り出す
    ビニール袋に入ったバナナの皮が出てくる


ナオト「なんだこれ?」

ユウキ「バナナの皮?」

サトル「そう。第一回公演でナオトがこけたバナナの皮」

ナオト「ああ、あの河川敷ですっころんだところを謎の転校生に見つけられるってやつか。
    懐かしいなぁ……って! それじゃ、これ2年前のバナナかよ!!」


ナオト バナナの皮を投げる
サトル キャッチ
    ナオトの前に突きつける


サトル「大丈夫。完全密封」

ナオト「ちょっと近づけんなよ。汚ねぇなぁ」

ユウキ「兄さん、何でそんなの……」

サトル「思い出だって。こんなのもある」


サトル 箱の中身を取り出す。(軽そうに)
    漬物石(発泡スチロール灰色に塗っても可)が出てくる


ナオト「石?」

サトル「よくお昼ご馳走になった食堂のばぁちゃんが使ってた漬物石。記念にって」

ナオト「なんに使うんだ? こんなの」

ユウキ「美味しい漬物ができるかもしれないですよ」

ナオト「だからって、箱に詰めること無いだろ。
    こんな石(サトルから石を奪おうとする)おっもー」


ナオト その場に石を落とす


サトル「まったく余計なことしかしない」

ナオト「こっちの台詞だ! この箱が重かったのはこの漬物石のせいかよ! 
    何でこんなもの詰めんだ!」

サトル「思い出」

ナオト「どんな思い出だ!?」

サトル「俺たちが、これまで活動してきたっていう証拠の、に決まっているだろ?」

ユウキ「兄さん?」

サトル「……この二年間、俺は劇団『○○会』のことだけだったから。
    どんな小さな思い出だって俺にとっては大切なんだよ」

ナオト「そ、そりゃ俺だってそうだけど」

サトル「(頷いて)だからその思い出を、ボスや、ナオト、
    それにユウキと一緒に確かめ合って、
    しばしの別れを少しでも辛くないものにしようとしたんだけどな」

ナオト「……(箱の中身とサトルを交互に見ている)」

ユウキ「……ありがとう。兄さん」

サトル「いいんだよユウキ。ただ、覚えておくんだ。
    俺たちは終わったんじゃないってことを。
    この思い出達は過去を振り返るためではなくて、未来に進むためにあるんだ」

ユウキ「……(黙ったまま頷く)」

サトル「明日はいつだって目の前にある。
    だけど、昨日を振り返ることをやめてはいけないんだ」

ユウキ「兄さん……」


サトル&ユウキ
   二人手を繋ぎあい、遠くを見るような目つき


ナオト「(箱の中を見て)……んで、お前の思い出って言うのは、
    この電池の束もそうなわけ?」


音響 CO


サトル「……見つかったか」

ユウキ「え?」

ナオト「見つかったかじゃねえよ! よく見たら、この中身ゴミばかりじゃんか! 
    使い古されたゴキブリほいほいに、
    小型扇風機の残骸……なんで、賞味期限切れた納豆の束まで入っていんだよ!?」

サトル「思い出だ」

ナオト「ただ単に、段ボール箱が一個余ったからって、
    暇つぶしに皆を驚かそうとしただけじゃないのか!」

サトル「うわ、すご。よくわかったなぁ」

ナオト「マジでその通りかよ!」

サトル「はい、正解者のナオト君に大きな拍手〜」

ユウキ「うそ、だったんだ」

ナオト「お前はそうやっていつもいつも〜」


ナオト&サトル
   取っ組み合う


ユウキ サトルと手を組んだままの姿勢でしばらく固まっている
    ナオトとサトルの喧嘩に哀しそうに自分の体を抱く。
    感情を抑えている。


ナオト「俺は、てめえが始めから気に入らなかったんだよ」

サトル「俺も始めからその顔には気が滅入ったね」

ナオト「なんだよ、いつも台詞とちってばかりだったくせに」

サトル「お前は存在がどじってんだよ」

ナオト「てめえと劇やらないですむかと思うとせいせいするね」

サトル「ああ、俺もお前の演技見てゲイゲイ吐かなくて済むよ」

ナオト「んだと、こら。 くだらないことやっていつも人を怒らせやがって」

サトル「もともとくだらないお前に、少しでも重みをつけようとしたんだけどね。
    無駄だったか」

ナオト「誰がくだらないだと!?」

サトル「体の重みは人一倍あるのになぁ」

ナオト「どういう意味だ!」

サトル「おや、わからない? 本当に?」

ナオト「喧嘩売っているのだけは分かってたぜこのド畜生が!」

サトル「へぇ、お前で俺に勝てるかなぁ!」


ナオト&サトル 互いにバトル!


ユウキ「やめろぉぉぉぉぉお!」


ナオト&サトル
   はっとしてユウキを見る


ユウキ「何でそんな悪ふざけができるんだよ? 
    何で、くだらない喧嘩ができるんだよ?」


ユウキ ゆっくり立ち上がる
    はじめ独白のように。徐々にテンションを上げていく


ユウキ「最後なんだよ? 僕ら、これで終わりなのに。
    皆、皆終わっちゃったのに、何でそんなことができんだよ?」

サトル「ユウキ、別に俺たちは」

ユウキ「二人とも、本当は『○○会』なんてどうでもいいんだ。そうでしょ? 
    ナオトさんはこれからまた楽しい習い事の日々が待ってるんだもんね」

ナオト「別に、楽しんでだわけじゃない。俺はただ」

ユウキ「僕はどうすればいいんだよ!? 
    ねぇ、兄さんはこれからどうすんだよ? 
    これから、一体どうやって生きていくんだよ?」

サトル「俺は……ただ、いつもどおりよ」

ユウキ「『○○会』がなくなっちゃっても、平気なんだ? 全然、何も変わらないんだ?」

サトル「変わらないわね。俺の中は」


ユウキ サトルのきっぱりとした言葉にショックを受ける


ユウキ「僕は『○○会』しかない。『○○会』が無くなったら、もう、何もできないよ。
    僕は、僕は……二人とは違う!」


ユウキ 下手へ走っていく
    下手へ退場


サトル「……馬鹿な奴」

ナオト「サトル! お前、本気で言ってのか?」

サトル「……当然、だろ?」

ナオト「冷たい奴だな」

サトル「なにを今更?」

ナオト「お前にとって『○○会』ってそんなちっぽけなものだったのかよ?」

サトル「……(無言で俯く)」

ナオト「俺は、あきらめたわけじゃない。二年間、たった二年間だ。
    『○○会』を休んでるのは」

サトル「……そして、また取り戻せると思ってるのか? 
    この二年で作り上げた『○○会』という存在を」

ナオト「トシヤがその気でいるじゃんか! 
    ボスが……あいつが本気になったらできないことは無いんだよ。
    それは一番お前が分かっているはずだろ? トシヤの後輩であるお前が。
    あいつのがいたから、俺たち集まって、これまでやって来れて
    ……お前そんなことも、分からないのかよ!?」

サトル「わかってる」

ナオト「だったらなんで」

サトル「未来なんて、分からない。誰にも」

ナオト「そう、かもしれないけど」

サトル「分かりもしないことに夢をかけて望みすぎるのは……逃げだ」

ナオト「……信じちゃいけないのかよ」


ナオト 走って下手へ退場


サトル「ナオト……俺たちは、強くならなくちゃいけないんだ。
    頼りすぎることが、弱さの証明だって……なんで気づかないんだ」


サトル 俯く
    段ボール箱を見る
    漬物石などを段ボール箱にしまっていく
    箱を閉じることができずにじっとしている


トシヤ 下手から登場


トシヤ「いやぁ、ビックリしちゃったよぉ。佐久間の倉庫まで行ったら、
    トシキが全部仕切ってやがんの。信じられるか?って、あれ?」

サトル「お帰り、ボス」

トシヤ「皆は?」

サトル「ちょっと喧嘩して(苦笑)出てった」

トシヤ「(マリリン)だめねぇ〜」

サトル「(苦笑)引越しのこと、トシキさんに言ってたっけ?」

トシヤ「まぁねぇ。言ったけどさ。まさか来てくれるとは思わなかったから」

サトル「散々反対されたからな」

トシヤ「いやぁ、その節はお世話になりました」

サトル「……トシキさんのほうは、元気?」

トシヤ「もちろん。相変わらずまじめぶった奴だけど。
    車から降りたら、運搬行の人がビックリして言うんだよ
    『あれ? さっきまで、倉庫の方に立っていませんでしたか』って。面白かったぁ」

サトル「(苦笑)」


トシヤ サトルの隣まで着て


トシヤ「これでとうとう全部終わりか。長かったようで短かったかな」

サトル「ナオトも同じこと言ってた」

トシヤ「え? 本当? やだぁ。それはちょっとマリリン不満〜」


サトル 俯いたまま


トシヤ「なんだよ、スルーかよ〜。突っ込みいれられないと寂しいじゃんか」

サトル「俺は、男には突っ込まないたちでね」

トシヤ「それって、危なげ」

サトル「いや、むしろノーマルだろ?」

トシヤ「そりゃそうだ(笑)」

サトル「……元気だな」

トシヤ「元気元気。元気一杯。なんて言ったって、
    これから二年間頑張って演劇経験積まなきゃいけないんだから」

サトル「……そうだよな」

トシヤ「まじ大変よ? まずはシナリオを一から学びなおさないと。
    どうも客のつかみが足りないからね。
    それから多くの劇団の劇を見るようにして」

サトル「楽しそうだな」

トシヤ「あったりまえじゃん。やりたいことはたくさんあるからね。
    やりたいことが。二年間のうちでできるだけ」


トシヤ 胸元を軽く抑えて膝をつく


サトル「…………耐えられるのか?」

トシヤ「(痛みを無理矢理押し殺した笑みで)さぁ。やってみないと分からないでしょって」

サトル「……残酷だな」

トシヤ「俺が?」

サトル「ああ。こんなこと俺が他人に話せる訳ないってわかってて頼ってる」

トシヤ「話せるわけないだろうあいつらに」

サトル「うらまれるぞ」

トシヤ「話したらどうなると思ってるんだよ」

サトル「とりあえずユウキはパニクルな」

トシヤ「ナオトは俺を病院に監禁しかねないぞ」

サトル「確かに(苦笑)」

トシヤ「……しょうも無い先輩を持ったと思ってあきらめろよ、サトル」

サトル「わかりましたよ。先輩」


トシヤ&サトル
   しばらく見詰め合って


サトル「同じくらいしょうもない子達のお迎えに行きます」


サトル 立ち上がって下手へ


トシヤ「……辛くないか?」

サトル「誰かが耐えなきゃ。それに、俺にはそれができる」

トシヤ「ごめんな」

サトル「あんまり意外なことやりすぎると寿命縮むぞ?」

トシヤ「(苦笑)俺も、一緒に行くよ」


トシヤ 立ち上がる

音響  FI→雨音


サトル「止めといた方がいい。雨が降ってきた」

トシヤ「何とも無いって。これくらい」

サトル「身体に障るだろう?」

トシヤ「俺を誰だと思ってんだよ?
    ……銀座のマリリンはこんな雨くらいへっちゃらなのよ♪」

サトル「分かったよ」


トシヤ 胸を抑えている
トシヤ&サトル
    下手へ

ナオト 下手から登場
トシヤ 慌てて胸から手を離して背中へ回す。


ナオト「ちっくしょう、いきなりふって来やがってよぉ」

トシヤ「探す必要なかったな」

サトル「怒って出て行ったんじゃなかったっか?」

ナオト「雨に濡れたら怒ってたのが馬鹿みたいって思えてね。
    お前が現実主義なのは前からだし。
    まぁ、お前ら兄弟のことは、俺がどうこう言うことじゃないしねぇ」

サトル「それはそうだね」

ナオト「んで、俺なりに考えたわけよ。お前が、ああいう態度を取ったのは、
    きっとお前なりに考えてのことだろうって」

サトル「足りない頭でよくそこまで思いつけたな」

トシヤ「えらいわぁ。マリリン感激」

ナオト「なんか、褒められてるって気がしないんだけど」

サトル「気のせいだ」

トシヤ「そうそう。気のせい。 ユウキは? あいつも、まだ外だろう?」

ナオト「え? 見なかったけど(下手へ歩いて行って)まだ、外にいるんじゃねぇ?
    ……あ、そうだ、サトル」

サトル「なんだよ?」

ナオト「お前、車いつの間に動かしといたんだ? 
    まぁそりゃ駐車禁止のとこに止めてあったから、動かすの当たり前だけど、
    どこに動かしたんだよ?」

サトル「何の話だ?」


トシヤ 苦しそうに胸に手を当てる


ナオト「だから、車だって。お前の、あのぶつけた場所ばかりのでこぼこしたセダン」

サトル「俺、車どけてなんか無いぜ?」

ナオト「え? だって、外に車無かったぞ」

サトル「レッカー車にもっていかれたか?」

トシヤ「不審な車だからねぇ。なんせぼこぼこだし」

サトル「血は、付いてないんだけどなぁ」

ナオト「でも、レッカー移動の車なんて走ってたら目立つんじゃねぇ?
    見えなかったけどなぁ」

サトル「そんなこと言ったってカギだって……カギ? ……ユウキ、あの馬鹿!」


サトル 血相変えて外へ出ようとする
ナオト 身体を抑えて
トシヤ 明らかに体調が悪い


ナオト「どこ行く気だよ」

サトル「ユウキを探すに決まってるだろう? あの馬鹿、雨ん中車走らせやがって!」

ナオト「ちょっと落ち着けよ」

サトル「落ち着けるか! ユウキはまだ仮免なんだぞ!」

ナオト「大丈夫だよ。お前よりもきっと運転上手いから」

サトル「そんなんで落ち着けるわけ無いだろう!」

ナオト「落ち着けって。車も無いのにどうするつもりなんだよ」

サトル「(はっとしてから)貸せ」

ナオト「は?」

サトル「車のキー。貸せ」

ナオト「お前が車に乗ったら自殺行為だっつーの!」

サトル「あいつが、事故にでもあったらどーすんだよ!」


トシヤ 胸を抑えたままで


トシヤ「俺、が車出す。サトルは、横に乗れよ」

ナオト「トシヤ! でもこの雨じゃ車で探そうったって」

トシヤ「何も、しないよりは、ましだろ。
    『○○会』最後の、日が、メンバーの事故死、なんて、俺は、嫌だ」

サトル「トシヤ、でも身体が」

トシヤ「俺の、心配、よりも、今は、ユウキ、だろう!」

サトル「トシヤ」

トシヤ「俺、は、大丈、夫」


トシヤ 胸を強く掴む


トシヤ「行こう」


トシヤ 一歩二歩辛そうに前に進む


ナオト「トシヤ?」

トシヤ「俺は、大丈……夫」

ナオト「なんだよ、お前体調悪いんじゃねえの? 顔色悪いぞ」

トシヤ「あらぁ? 不思議」

サトル「トシヤは休んでいた方がいい。俺とナオトで行くから」

トシヤ「あたし、だけ、置いてこうったって、そうは行かないわよ〜」


トシヤ ふざけているように見えて痛々しい


ナオト「トシヤ、お前どうしたんだよ!? 凄い苦しそうだぞ?」

サトル「トシヤ! その体調で無理しちゃダメだ」

トシヤ「無理、なんて、してないって、いってるだろう?」


トシヤ サトルの胸倉を掴む。
    その顔を自分まで近づけようとして、
    その場に膝をつく。手はナオトの服を掴んだまま。


トシヤ「ユウキ、探さ、ないと」

サトル「いいから、トシヤはいいよ。あいつ、どうせすぐに戻ってくるから」

トシヤ「心配、だろう? だったら行かなきゃ、ダメだ」


トシヤ 倒れる


ナオト「え? トシヤ? ちょっと、どうしたんだよ? トシヤ? なぁ、トシヤ!」

サトル「救急車」

ナオト「ちょっと、これって」

サトル「いいから速く救急車呼べよ」

ナオト「え、でも電話はもう」

サトル「携帯ででもかけれるだろ! 速く電話しろよ」

ナオト「あ、おう」


音響 FI→雨の音


サトル「トシヤ! トシヤ!」

ナオト「あ、すいません。あの、友達がいきなり倒れて救急車を……住所? 
    えっと、住所は」


音響 音を強くする
照明 FO
   暗転


*現在*

○『○○町』バス停 2002年(昼
 停留所を示す物が置いてある。


ナオト 上手へ退場
トシヤ 上手へ退場
    着替えておく


サトル レインコート着て、
    傘持って舞台下手へ


ユウキ レインコート着て
    傘持って舞台中央
    その場に崩れている


照明 FI
音響 台詞とともにFO


サトル「分かっているんだろう? 
    いくら待っても、ボスは……トシヤ先輩はもう戻ってこないって」

ユウキ「僕が……僕があの時、車なんかで」

サトル「それは違う」


ユウキ サトルを見上げる


サトル「トシヤは、もうずっと前から心臓が弱かった。
    ……もう、何度となく言っただろう?
    『○○会』の舞台がずっとあまり調子が悪かったのもそのせいだ。
    だからトシヤは」

ユウキ「そんなの嘘だよ」

サトル「嘘じゃない。トシヤは心臓の移植ができなければ、
    もうあと2年生きられるかどうかだった。
    だから、『○○会』を休止した。」

ユウキ「だって、あんなに元気だったのに……」

サトル「フリをしていたんだよ。元気な『○○会』のボス役の仮面をかぶって。
    でも、それは無理だった」

ユウキ「そんな……」


ユウキ 俯く
    独白のように


ユウキ「ずっと、ずっと思ってた。夢ならいいのにって。
    『○○会』がずっと終わらないで続いていたのならいいのにって」

サトル「ユウキ……」

ユウキ「兄さんが、あの日最後まで残していた段ボール箱の中身みたいに、
    僕たちのあの時を閉じ込めていられればいいのに。
    元気なボスがいて、ナオトさんがいて、兄さんがいて。
    楽しいことばかりで、苦しいことなんて何も無かったあの時が、
    ずっとあの茶色い箱の中に入ったままならいいのに」

サトル「ユウキ……夢は覚めるんだよ。いつか必ず。
    ボス……トシヤ先輩も、夢を見ようとしてた。
    自分は元気なんだって。でも、そんな夢現実にはならなかった。
    ただ、余計に周りの人を苦しめるだけだったのに、
    あの人は最後にもう一度だけ輝こうとしてた。自分が大好きな場所で」

ユウキ「だったら……だったら最後まで一緒にいて欲しかった。
    『○○会』のままでいて欲しかった。
    夢を見させてくれれば良かったのに」

サトル「それじゃあ、ユウキは前に進めないだろう?」


ユウキ サトルを見つめる
ナオト 上手から登場
    傘を差している
    片手に封筒(台本が入っている)を持っている。


サトル「ナオトは前に進めないだろう? 俺も……前に進めない。
    だから、あの人は選んだ。
    いつなくなるかも分からない命で、俺たちが進むのを見ていようと。
    俺たちに、強さを与えるために」

ユウキ「だったら! だったら結局ボスの思いを叶わなくしたのは僕だ。
    僕さえいなければボスは、いなくならなかったし、
    ナオトさんだっていなくならなかった。僕が……」

サトル「ユウキ……」

ナオト「それは違う」

サトル「ナオト!?……いつから」

ナオト「今さっき。ごめんなユウキ。着くの遅くなって」

ユウキ「ナオトさん……違うって?」

ナオト「ボスは、ユウキがいたから頑張れたんだ。……俺は、そう思う」

ユウキ「ナオトさん……」

ナオト「この2年。ずっと考えてた。トシヤが……もう、いないって分かるのに一年。
    あの日の事を、理解するのに同じくらいの時間使って。
    ……そして気づいたんだ。俺は、やっぱり『○○会』だって」

ユウキ「え?」

ナオト「サトル、お前も、なんだろう? あの時、あの喧嘩のとき、
    お前が『変わらない』って言ったのは、
    そういうことなんだろう? ……ボスがいなくても」

サトル「(頷く)」

ユウキ「兄さん?」

サトル「俺たちはボスに集められてからもう、ずっと『○○会』だ。
    どんなことがあっても変わらない。そうだろ? ユウキ。
    それだけは、変わらない」

ユウキ「でも、僕は、ボスを……」


ナオト ユウキに近づく
    台本を渡す


ナオト「俺、ボスが頑張れたのがユウキのおかげって言っただろう? 
    その証拠だよ、それ。今日、トシキさんから連絡があって、取りに行ってたんだ」


ユウキ 恐る恐る封筒を受け取る
    両手で受け取るために、傘がその手から落ちる


照明 少し明るくする(雨がやむ)


ナオト 雨の音が止んだことに気づいて空を見る
サトル ナルの行動に気づいて自分も傘をどける
ユウキ 封筒を開く
    ゆっくりと字を追っていく


音響 FI→


ユウキ「See you again ……my friends」


ユウキ 泣き出しそうになりながらページをめくる


ユウ「登場人物……三人」


ナオト ユウの肩に手を置く
サトル ユウの肩越しから台本を覗く


ナオト「どうやら、『○○会』復活一作品目が決まったみたいだな」

サトル「まさか、逃げる気はないよな、ナオト」

ナオト「当然。俺、これでも、この二年でパワーアップしたんだぜ?」

サトル「ますます重くなったようにも見えるけどな」

ナオト「そういうお前こそ、大丈夫かよ? 台詞またとちるんじゃねえの?」

サトル「冗談。舌技は磨ききってるさ」

ナオト「いやらしい言い方するなよ」

サトル「そう取る方が悪いんだよ」


ナオト&サトル 苦笑


ナオト「主役は誰だ?」

サトル「さぁ、お前じゃないことは確実だろ」

ナオト「そういう、お前でもないだろう」


ユウキ 二人の視線の意味に気づいて
    台本に顔を押し付けたまま


ユウキ「はい。僕が……俺がやります!」



音響 あげていく

サトル ユウキの頭を手で掴む
ナオト ユウキの傘を拾って畳む
ユウキ 受け取った傘をバス停にかけていく

三人  それぞれに無声演技をしながら下手へ歩いていく

照明 CO
スポット バス停
     まるで逝ってしまった人の墓標のようにバス停は照らされる。
照明 溶暗
音響 FO

完