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作 楽静


登場人物
男@EFGHJO 女ABCDIKMN

空港の見送り人
@高島 タケシ 男 27歳。売れないカメラマン。割とヒモっぽい生活。
A    ユイ 女 29歳。タケシの姉。自称敏腕編集者。割とお金には大雑把。
B竹沢 サキコ 女 27歳。タケシの恋人。小説家。駄目人間を甘やかすのが好き。
C天空時トラコ 女 29歳。ユイの友人。思春期を経て無表情キャラに変化した。
海原小学校 六年三組
D 男の子 小学六年生。皮肉気味な少年。人は独りだよねとか言っちゃう。
Eリュウ 男の子 小学六年生。男。お山の大将。結構仕切りたがり。
Fミチル 男の子 小学六年生。男。秀才。クールぶってる自分カッコイイと思う年。
Gダイチ 男の子 小学六年生。男 リュウの子分1 時々シュンとキャラがかぶる
Hシュン 男の子 小学六年生。男 リュウの子分2 時々ダイチと(略)
Iマキ 女の子 小学六年生。女。明るく能天気。
3”サキコ 女の子 小学六年生。女。委員長タイプ。駄目な人好き。特に構っても無駄なくらいな人が好き。
J先生 男 先生。威厳と迫力のない熱血教師。
海原中学校 二年1組
2” ユイ 女子 中学二年生。僕の姉。お人よしタイプ。
4”トラコ 女子 中学二年生。リュウの姉。ドライな秀才。
8”ウマダ 男子 中学二年生 バカ。シカヤとは大学を浪人する時まで仲良し。
9”シカヤ 男子 中学二年生 バカ。ウマダとはロト6で2位があたるまで仲良し。
Kヒナミ 女子 中学二年生 三度の飯より筋肉好き。中学卒業後忽然と姿を消す。
11” 先生 男 先生。セクハラをしないよう自己暗示を繰り返す。3年後新聞に載る。
旅人の家族
Lアマミ ソラタ 男の子 永遠に旅を続ける少年。旅に心は膿み始めている。
M     スズネ 女子 ソラタの姉。楽しければ良いと納得している少女。
N母さん 女 ソラタとスズネの母。日本語が少し不自由。いつも元気にしてないとすぐ落ち込む。
11”父さん 男 明るい父親を意識。この人がアマミ家に秘密を生んだ原因なのだが作中では触れられない。
黒い例の組織
O 用心棒 男 まあ良くある武闘派。肝心なところでは拳銃もちゃんと使う。
12” 姐さん 女 黒い例の組織の幹部らしい女性。コードネームはあるらしいが、「アネさん」と呼ばれたがる。
男女 アテンションプリーズ。録音でも可。

※ 台本作成時、僕役は女子に演じてもらう予定でした。
※ ○数字と 数字”は同じ役者が演じるつもりで書いています。



 


   白いブロックと椅子が置かれた空間。
   中央奥には時計のモニュメントが置かれている。
   印象としては空港の待合所に近い。
   思い出の中で舞台は進むので、
   シーンごとの情景は抽象的なものになる。


01 僕らは二人で今を生きている


   2011年三月。空港。晴天。
   飛行機の離着音が聞こえる。
   旅行カバンを持ったサキコと、ラフな格好のタケシがやって来る。
   胸元にカメラを下げている。
   タケシは携帯を片手に話をしている。

タケシ 今? もう、中に入ってるよ。うん。ゲートの近く。今のところ時間通りみたいだね。間に合いそう? いや、トラコさん脅してどうするの。(電話を抑えてサキコに)運転手に、制限速度破らせようとしてる。
サキコ ユイさんらしい。
タケシ (電話に戻って)別に無理しなくてもいいから。(ト、うるさいのか電話を離して耳を押さえる)ちょっと、トラコさんに怒られるよ……切れてる。
サキコ ユイさん、なんて?
タケシ 「無理するのはあたしじゃない、トラコだから大丈夫!」ってさ。
サキコ 間に合うかな。
タケシ どうだろう。ごめんね。なんかぐだぐだになっちゃって。
サキコ こっちこそ仕事あるのに見送りさせてごめん。
タケシ いや、こんないい天気の時に仕事なんてしてられないから。(ト、カメラを構え)ほら、そこの窓のとこ立って。すごい青空だよ。
サキコ 本当。こんな晴れたの久しぶり。
タケシ 一枚撮ってあげる。
サキコ 撮ってどうするの?
タケシ 渡欧中に、体型がどれほど変化したかのいい目安になる。
サキコ 殴るよ。
タケシ あ、カメラは止めて。

   アナウンスが聞こえる

声 全日空からロンドンへご出発のお客様にご案内致します。全日空、ロンドン行き、定刻13時55分発、NH202便をご利用のお客様は、ただ今、44番ゲートよりご搭乗を開始致します。ご搭乗のお客様は、44番ゲートよりご搭乗下さい。本日も全日空をご利用下さいましてありがとうございます。Passengers on zenikkuu flight NH202 to ……
サキコ そろそろかな。ユイさんによろしく。
タケシ うん。気をつけて。(ト、手を出す)
サキコ そっちも。(ト、手を握りつつ)ちゃんと自分で料理しなよ。
タケシ 分かってるよ。
サキコ コンビニ弁当ばかりだと、体に悪いから。冷蔵庫にいくつか作りおきしておいたから食べて。
タケシ ありがとう。
サキコ あと、納豆はもう賞味期限切れ掛かってるから食べちゃって。冷凍庫の魚は解凍してから焼かないとダメだから。焼いた後の網洗う時は金物用のたわしを使って。こないだスポンジ使ったでしょ。あれだと、スポンジから油落とすのにすごい苦労するから。生もののゴミは三角コーナーに捨ててから、ネット縛って生ゴミに出すように。三角コーナーのネットは引き出しの下から二段目。見つからないからってすぐ新しいの買わないで。トイレットペーパーも新しいのはトイレの上に置いておいたから。買う時は芯がある奴を。駅前の、スーパーよりも、裏手にあるやつの方が安く売ってるから。あと、シャンプーとリンスは、
タケシ 分かってるよ。大丈夫だから。
サキコ じゃあ、駅前のスーパーだと、いつも使ってるシャンプーがいくらで売ってるか言ってみて。
タケシ 400円、くらい?
サキコ 320円。でも、裏手のスーパーだと、
タケシ そうじゃなくて。大丈夫だから。付き合う前だって一人暮らししてたんだから。
サキコ 月に一度は私が掃除しに行ってた。
タケシ そうだったけど。
サキコ 心配だ。やっぱり止めようかな。海外なんて行ってる間に、干からびちゃってたりしたらどうしよう。
タケシ 翻訳記念で講演会に招かれるなんて、村上春樹みたいだってあんなに喜んでたじゃないか。
サキコ それはそうなんだけど、でも、放っておいたら平気で何日も食べなかったりするし。


02 しばしの別れ


   と、ユイがやって来る。走ってきたのか少し息が切れている。
   その後ろからのんびりトラコがやって来る。

ユイ 大丈夫! タケシの面倒は、あたしが、見るから!
サキコ ユイさん!
トラコ あたしもいるよ。
タケシ トラコさん。運転手お疲れ様です。
トラコ ま、いつものことだから。
ユイ いやーごめんごめん。遅刻しないように!って思ったんだけどさぁ。
トラコ 待ち合わせの時間過ぎても連絡ないから電話したら、寝てた。
タケシ 最低だ。
ユイ (サキコに)ごめんね。遅れて。これ、機内で読んで。
サキコ なんですか?
ユイ 新作の感想。
サキコ もう読んでくれたんですか!?
ユイ メールにしようかと思ったんだけど、読み終わったら興奮しちゃって。で、この熱意をどうやったら伝えられるだろうか〜と思って。今日の明け方まで書いてた。
トラコ それで爆睡と。
タケシ 最悪だ。
ユイ いや、これ売れるよ。間違いない。というか私が売り込んでみせる。
サキコ ありがとうございます。
ユイ 本当ならあたしも着いていきたいんだけどさ、担当している作家さんで仕事が遅い人がいてどうしようもなんなくて、タケシは暇なんだからついていきゃいいのにさ、こいつは本当相変わらずっていうか、そんなんじゃサキコちゃん他の男に取られちゃうぞなんて言ったんだけど聞きやしなくて、いや、これでもね、その瞬間だけはすごい不機嫌になってね、なんだかんだであんたにベタ惚れだから許してやって、
タケシ そろそろ行かなくちゃまずいんじゃない?
サキコ あ、うん。そうだね。
ユイ なんだ、照れてるの? あんた。
タケシ 出発の時間が迫ってるんだって。
サキコ じゃあ、行ってきます。
ユイ&トラコ 行ってらっしゃい。
タケシ 気をつけて。
サキコ うん。

   サキコは去る。

ユイ 「気をつけて」ねぇ。
タケシ なんだよ。
ユイ もっと気が利いたこと言えないのかね。
タケシ うるさいな。遅刻してきた人間が何言ってるんだよ。
ユイ 面白い本を読んだら、止まらなくなるのが、正しい編集者って奴よ。
タケシ 何言ってるんだか。
ユイ いや、本当面白かったのよ。サキコちゃんの新作。あんた読んだ?
タケシ 俺が読むのは本になってから。
ユイ ソラタ君出てきたよ。
タケシ ……え?
トラコ ユイ。
ユイ うん?
トラコ ちょっと、喫煙スペース探してくる。
ユイ うん。

   トラコが去る。

タケシ あれ? トラコさん、タバコ吸うんだっけ? いつから?
ユイ ソラタ君の話になったから逃げたのよ。行きの車の中でも散々話したからさ。あいつは、やっぱりまだ怖いんだろうなぁ。ソラタ君のこと。
タケシ 本当に、ソラタが出てくるの? サキコの本に?
ユイ もちろん実名じゃないし、雰囲気も少し違うけど。でも、あれはソラタ君だった。サキコちゃんも忘れてなかったのね。……時々、ふと思い出すんだよね。彼、今何やってるんだろうって。不思議な子だったじゃない? 彼と、あとスズネ。二人とも一緒にいた時間は短いのに、なんだか心に残って。……もう、10年以上たつのにね。

   ユイが語りながら去る。
   一人残されたタケシは観客席へ語りだす。

タケシ 忘れるわけ無いじゃないか。ソラタは友達なんだから。アマミ
ソラタ。今でも初めてあったときのことを思い出すことが出来る。あいつと初めて出会ったとき、僕らはまだ小学校六年生になったばかりだった。

   僕が現れる。
   僕とタケシの目が合う。タケシは去る。


03 僕らの世界で、僕は孤独なフリをする。


   15年前の教室。4月から5月にかけて
   歓声をあげながらリュウとダイチとシュンが走ってくる。
   リュウは眼鏡を片手に持っている。
   僕は無言で椅子に座っている。
   わめくように子供たちは騒いでいる。

リュウ いえー、取った取った〜
ダイチ リュウちゃんマジ早いよ! すげぇ! 神業じゃね?
シュン リュウちゃん、俺にかけさせてよ〜
リュウ シュンはもうかけてるだろ。
ダイチ リュウちゃん、掛けてみて、おっとこ前、おっとこ前、
シュン 三人で、眼鏡戦隊やろーよ。
リュウ なんだよ眼鏡戦隊って。
シュン 眼鏡の戦隊だよ、カッコイイだろ。
ダイチ リュウちゃん、眼鏡かけようぜ。眼鏡!

   と、ミチルの手を引いてマキがやって来る。

マキ リュウ、ミッチーの眼鏡返してあげてよ!
ミチル マキちゃん、手を引かれなくても床くらい見えるよ。
マキ 大丈夫。ミッチーのことは、私がちゃんと案内してあげるから。
ミチル 人の話を聞いて欲しいよ。
リュウ なんだよ、ミチル、お前女子に助けてもらうのかよ〜、
ミチル 違う、これはマキちゃんが、
ダイチ だっせー、だっせー! それすっげぇだっせーよ。リュウちゃん。あいつ、まじだせぇ。
シュン リュウちゃん、あいつら出来てるんじゃね?
リュウ なんだよ、お前ら出来てるのかよ〜。
ダイチ だっせー。まじだっせー。
マキ うるさい! 意味分かって使ってるの!?
ダイチ 意味なんて分からなくても使えます〜
マキ 意味分からないで言葉使うとか、バカじゃないの!?
ダイチ あーそうですねー。すいませーん。
マキ はぁ!? 何に謝ってるわけ。
ダイチ そうですねー。
マキ だから、
ダイチ&シュン そうですねー
マキ 話を聞きなさいよ!
ダイチ&シュン&リュウ そうですねー
マキ むかつく! こいつら本当いちいちムカつく!
ミチル マキちゃん落ち着いて。
マキ ひどいよねこいつら。ひどいよね?
ミチル 仕方ないよ。こちらの言葉が理解できないと、似たような言葉を繰り返すだけになっちゃうんだよきっと。
リュウ ミチル、何お前、知ったかぶってんだよ。
ダイチ 女子の前だからって格好つけてるんじゃねえ? それってダサすぎるんだけど。
シュン 本当のこと言っちゃ可哀想だって。
ミチル モテ無いからって、ひがまないで欲しいんだけどな。
ダイチ&シュン&リュウ 僻んでねえよ!
マキ え、こいつら私たちのことひがんでるの? ダサ。
ダイチ&シュン&リュウ 僻んでねえ!!
ダイチ リュウちゃん、もうこいつらやっちまおうぜ。
シュン ここまで言われて黙ってらんねーよ。やっちまおうぜ。
リュウ やっちまうかぁ?
ダイチ&シュン やっちまおう!

   リュウとダイチとシュンはミチルとマキを囲む。
   と、タケシが出てくる。照明はタケシに当たる。

タケシ 海原小学校は港の見える山林につくられた、生徒数700人程度の市立小学校だった。六学年のクラスは三クラス。一クラスの在籍生徒数は32人。当然ここにいる以外も生徒はいるんだけれど、僕から見える世界ではこのあたりまでが現実の範囲だった。小学校
のクラスメイトを言ってみてといわれて、とっさに出てくる人たち。と思ってもらえればいいかな。
僕 誰に言い分けをしてるの?
タケシ いや、なんとなくね。というか、モノローグ中に入ってこないで。
僕 暇だったから。
タケシ 暇ならみんなの中に入ればいいのに。
僕 僕は一人が好きなんだ。
タケシ まぁ、こんな風にすれたガキだった。記憶の中でいかに美化しようとしても、子供の頃の自分は痛い記憶しか出てこないね。
僕 なら思い出さなきゃいいのに。
タケシ そんな孤独を気取る僕の横で大騒ぎしている三人がいた。リュウとダイチとシュン。ダイチとシュンは違うクラスだったのに、しょっちゅうリュウのところにやってきては三人で馬鹿騒ぎをしていた。多分、親分と子分みたいな関係だったんだろうと思う。なんであの二人がリュウを慕っているのかはよく分からないけれど。
リュウ そりゃ俺が偉いからだろ。
ダイチ&シュン リュウちゃん最高!
ミチル いいよね馬鹿は気楽で。
リュウ&ダイチ&シュン 何か言ったか!?
タケシ 普段は眼鏡をかけているクールな彼は、ミチル。女の子みたいな名前だし、女の子とばかり仲が良かったせいで周りの男子からは余り好かれて無かったし彼自身、周りの男子を相手にしてなかった。
ミチル バカは嫌いなんだ。
僕 だったら相手にしなきゃいいのに。
ミチル 羽虫ってさ、何もしてなくても、光ってるものに寄ってくるもんなんだよね。別に他意はないけど。
リュウ&ダイチ&シュン うそつけ!
タケシ これでも、僕が当時クラスで二番目に話す人だった。大抵、休み時間になるとリュウが騒いで、時々ミチルあたりにちょっかいを出すというのが普段のクラス風景だった。
マキ おい。あたしは?
タケシ 5−6年は同じクラスだったために、真新しいことの何も無い4月を僕らは迎えていた。退屈さゆえに、騒ぎ、騒ぎが抑えられる頃にはまた退屈さを覚えていた。様な気がする。
マキ おい。あたしは?
タケシ まぁ、どんなに騒ぎが大きくなっても、解決方法はいつも同じだった。
マキ ちょっと、あたしの紹介は!?


04 喧騒の収拾


   と、先生が入ってくる。

先生 おい、何を騒いでるんだ〜。 クラスの外にまで声が聞こえたぞ。マキ。お前か。
マキ 違います!
先生 ほら、今日はやることあるから席に着け。おい、お前らは隣のクラスだろうが。
リュウ 先生 ミチル君とマキさんがいちゃいちゃしていてうざいでーす。
ダイチ&シュン うざいでーす。
先生 おい、いいからクラスにもどれ。
リュウ&ダイチ&シュン うざいでーす。
先生 なんだそれ、俺がウザイみたいになってるじゃないか。
リュウ&ダイチ&シュン うざいでーす。
先生 いいからクラス戻れって。
リュウ&ダイチ&シュン いやでーす。
タケシ 僕のクラスの担任は威厳と迫力と説得力が皆無な先生で、生徒にはまるっきり舐められていた。
先生 それ、まったくいいところ無いよね。
タケシ ということで、クラスの暴走を止めるのは、いつも彼女の役目だった。

   タケシは去る。
   バケツをちりとりで叩きながら小学生のサキコがやって来る。

サキコ いつまで騒いでんの! さっさと席に戻りなさい!
リュウ&ダイチ&シュン げっタケザワサキコ!
サキコ 呼び捨てにするな!!

   サキコはすばやくちりとりでリュウとダイチとシュンをはたく。
   三人は痛がる。

サキコ 早くクラスに帰れ。帰れ、帰れ、帰れ!
ダイチ 帰るよ〜。だから叩くなよ〜
シュン 頭が悪くなったらどうするんだよ〜
サキコ 悪くなるような頭があるんなら、初めから馬鹿なことするな!
シュン この暴力女!
サキコ 女が暴力ふるって何が悪い!
ダイチ シュン、いこうぜ。
シュン ああ。覚えてろよ!
サキコ お前らのことなんて三秒で忘れてやる!
ダイチ&シュン ひどいっ

   ダイチとシュンが去る。
   サキコはリュウを向き、

サキコ それで?
リュウ なんだよそれでって。
サキコ その、眼鏡は?
リュウ これは、その、
サキコ さっさと持ち主に返せ!
リュウ はい!

   リュウはミチルに眼鏡を返す。

リュウ ほらよ。
ミチル ああ。

   リュウの頭をサキコがはたく。

リュウ 何するんだ!
サキコ ごめんなさいは?
リュウ はぁ!?
サキコ ごめんなさいは?
リュウ ごめんなさい。
サキコ あたしじゃなくて。

   サキコはミチルをアゴで指す。リュウはミチルを向き、

リュウ ごめんなさい。

   リュウは席に戻る。

ミチル (サキコに)ありがとう。
サキコ 騒がしかったから止めただけ。
マキ ミチル君、座ろう?
ミチル うん。

   マキとミチルが座る。
   サキコは僕の近くに座る。僕を見て、少し笑う。

サキコ どうぞ、先生。話の続きを。
先生 あ、ああ、はい。えっと、では帰りのHRを始めます。今日は転校生を紹介します。いや、本当は朝紹介するはずだったんだけど、到着が遅れて、帰りになってしまいました。どうぞ、入ってきて。


05 アマミソラタ

   
   ソラタが入ってくる。帽子をかぶっている。

先生 アマミ・ソラタ君です。ご両親の仕事の関係でこちらに引っ越してきました。えっと、自己紹介はじゃあ自分でやってもらおうかな。
ソラタ (頷いて)アマミ・ソラタです。よろしく。

   タケシがいつの間にか現れている。

タケシ それがソラタとの出会いだった。僕は何故か目が離せないままソラタを見ていた。ソラタも、僕を見ているような気がした。

先生 じゃあ、席は空いてるのがタケシの隣にあるからそれ使って。よーし。じゃあ今日はここまで。さようなら。
リュウ&ミチル&マキ さようなら。

   ざわめく教室。去る先生。
   ソラタはゆっくりと僕に近づく。

ソラタ タケシ君って、君?
僕 ああ。うん。よく分かったね。
ソラタ ずっと僕を見てたからね。よろしく。ソラタって呼んで。

   ソラタが手を出す。
   と、その前にサキコが進み出る。

サキコ タケザワサキコ。クラスで分からないことがあったら聞いて。
ソラタ よろしく。
サキコ ……うん。なんか似てる。
ソラタ 誰と?
サキコ こちらの話。タケシ。あたし今日塾だから先帰る。
僕 うん。じゃあまた明日。
サキコ また後で。

   サキコが去る。

ソラタ 何か怒らせたかな。
僕 ううん。サキコはいつもあんな感じだから。
ソラタ 僕が誰と似てるって思ったんだろ。
僕 ……僕かも。
ソラタ 君? ……そうかもね。

   と、ソラタの帽子をリュウが取る。

僕 リュウ!
リュウ いえー、取った取った〜
ミチル 懲りない奴。
マキ 進歩しない男って最低。
リュウ ほら、転校生、返して欲しかったら捕まえてみな!

   リュウは言いながら走り去る。

僕 待てよリュウ!

   僕が追いかけて去る。

ミチル 追わないの?
ソラタ 帽子くらい、いいかなって思って。
マキ 大人ぁ。でも、タケシ君が代わりに走っていったけど。
ミチル 珍しいね。彼が熱くなるなんて。
ソラタ へぇ。そうなんだ。

   辺りは暗くなる。


06 アマミソラタと僕


   タケシが現れる。

タケシ あの時どうしてリュウを追いかけたのか分からない。出会った瞬間に、僕はソラタに何かを感じてしまったんだろうか。 その何かをリュウが帽子を奪った瞬間、奪われたと思ったのだろうか。何故許せないと思ったか分からないまま、僕はがむしゃらに走っていった。リュウは階段を下りて、昇降口から外に飛び出して、中庭を駆け抜け、校舎の裏を走り回り、体育館裏まで走り続けた。

   と、リュウが現れる。ダイチとシュンも。
   校舎裏的なところ。椅子を転がして少年三人は調子に乗っている。

リュウ ほらほら、ここまで来てみろよ。
ダイチ&シュン 来てみろよ〜。
タケシ 僕は、当時も今も体力なんて全然なかったから、追いついたときにはへとへとになっていた。
僕 はぁ、はぁ、はぁ……

リュウ ずいぶん疲れてるじゃないか。
僕 帽子、返せよ。
ダイチ なんでそんな転校生の肩持つんだ?
シュン お前ら知り合い?
僕 違うよ。でも、こんなの格好悪いだろ。
リュウ いい子ちゃんぶってるって訳か。
ダイチ リュウちゃん、こいつやっちまおうぜ。
シュン おお、やっちゃえやっちゃえ〜
リュウ そんなにこれを返して欲しいのか
僕 返せよ
リュウ 返して欲しかったら力尽くで来いよ
僕 返せ!

   タケシが三人に向かっていく。
   タケシは翻弄される。

リュウ 弱いなぁ。お前。弱い。弱すぎる。いや、俺が強すぎるのか。
ダイチ リュウちゃん強えええ。
シュン リュウちゃん最強。

   と、そこにソラタが現れる。

ソラタ なんかおもしろいことしているね
リュウ&ダイチ&シュン 転校生!
ソラタ いやいや、出来れば名前で呼んで欲しいな。
僕 ……アマミ君
ソラタ いや、だからソラタでいいって。
僕 あ、うん。わかったよソラタ。
ソラタ よろしく。タケシ。
リュウ おい、無視するなよ。
ソラタ じゃあ、とりあえず、せっかくだから返してもらおうかな。
その帽子。

   ソラタは帽子を取ろうとする。
   よける。攻める。そして帽子を取る。

リュウ あぁ!
ソラタ 行こうぜ、タケシ。
僕 うん!

   ソラタと僕が走っていく。
   リュウとダイチとシュンが追いかける。


07 姉とアマミスズネ


   見送るタケシ。中学生姿のユイが現れる。

ユイ なにニヤニヤしているの気持ち悪い。
タケシ うるさいな。ちょっと懐かしい記憶を思い出していただけだよ。
って、姉さん!? なにその格好。
ユイ 私も回想シーンやろうと思って。
タケシ やろうと思ってって。ここをどこだと思ってるんだ。
ユイ ここは、海原中学校
タケシ むちゃくちゃだ。
ユイ いいでしょ。私だって出会っていたんだから。不思議な女の子に。
タケシ ああ、そうか。
ユイ ということで、丁度同じ日、私のクラスに転校生が来ていた。

   その言葉に合わせて、ウマダ&シカヤ(中学生の格好)
   ヒナミとトラコが現れる。
   少し姿を変えて、先生が現れる。今度は中学校教師役。
   タケシは一度去る。
   場面は中学校へと変わる。

先生 よーし、お前ら席に着け。転校生を紹介するぞ。
ウマダ&シカヤ 転校生!?
トラコ 先生! 転校生って男ですか? 
ユイ トラコは当時、クラスの委員長的存在だった。ついでに今更説明すると、弟のクラスにいたリュウ君のお姉さんである(と、説明しながら席に着く)
ヒナミ 男? マジ男? え、よっしゃーー。あたしの時代が来た!
ユイ 彼女はヒナミ。えっと、確か、こんな性格の子だったような? 違うかな? あんまり覚えてない。
トラコ ついでに、金持ちですか?
ヒナミ ちょっと、トラちゃん。金よりも筋肉でしょ。筋肉。先生! 筋肉質な男子でした?
ユイ 背は高いですか? 
トラコ ブルジョワですか?
ヒナミ マッチョですか?ベリーマッチョですか?でらマッチョですか?
ユイ 頭は良さそうですか?
ヒナミ 頭よりも筋肉だってば!
トラコ お金もってそうですか?
ウマダ&シカヤ 女怖ええええ。
先生 お前ら質問が多い。 第一、転校生は女だ。
トラコ&ユイ えーー。
ヒナミ あたしの青春終わった!
ウマダ&シカヤ よっし!
トラコ じゃあ、あたし帰ります。
ヒナミ あたし学校辞めます!
ユイ いや、トラコ。待とう。お金もちのお嬢さんかもしれない。
トラコ そうか。
ヒナミ なんであたしには何も言ってくれないの!?
ユイ お金持ちでマッチョなお嬢様かも?
ヒナミ お金持ってたらマッチョになるのは当たり前じゃん!
ユイ そうか?
トラコ いや、当たり前じゃないだろ。
ウマダ 先生! 転校生って、可愛い?
先生 そんなの答えられるわけないだろ。
シカヤ 答えないって事は、それなりって事かぁ。
トラコ 先生的には好みの子ですか?
先生 ノーコメント。
トラコ え〜。
先生 中学生に対して、好みだとかそうじゃないとか考えたことはない!
ユイ 小学生にはあるんですよね?
先生 なーい!
ヒナミ 先生。さすがに幼稚園生に手を出すのは……
先生 違う! とにかく転校生を紹介します!

   現れる転校生

スズネ 初めまして。アマミスズネです。よろしくお願いします。
ヒナミ 全然マッチョじゃなーい。(ばったり倒れる)
ユイ それが彼女との出会いだった。
先生 よーし、じゃあ、アマミの席は、……まぁ、適当に決めてくれ。ホームルーム終わり。
ウマダ&シカヤ 初めまして、アマミさん。えっと、僕の名前は、
トラコ ヒナミ。 男子が、レスリング勝負したいって。
ヒナミ マジで! 私にまかせて!
ウマダ&シカヤ いや、そんなこと言ってな……
ヒナミ OK! OK! 遠慮するなって! 体育館裏行こうぜ!

   ヒナミは男子二人を無理矢理引っ張って去る。

トラコ 悪の芽は早めに刈り取らないとね。
ユイ よくやった。

   先生が去る。
   スズネとユイとトラコは互いに自己紹介しあう。


08 男同士の勢力争い


   タケシが話し出す。

タケシ 姉とトラコさんと、スズネさん。この三人はすぐ仲良くなったらしい。出会ったその日には三人でお茶をしに行き、その次の日にはお弁当のおかずを交換し、さらにその次の日には休みの日に出かける場所の計画を三人で練っていた。実に平和的な友情だと思う。一方、僕の方はこんな感じだった。

   音楽とともに、僕とソラタがやって来る。
   リュウとダイチとシュンが取り囲む。三人は武器を持っている。
   と、サキコがやってくる。

サキコ 寄ってたかって、そんなの持って追いかけるなんて卑怯だと思わないの!?
リュウ お前には関係ないだろ!
サキコ あるわよ。今日はタケシに買い物につきあってもらう約束だったんだから。
僕 こんな感じだから、ちょっと今日は無理かも。
サキコ ほら、タケシのやる気が下がってる。さっさと通しなさいよ。
リュウ 女は黙ってろよ!
ソラタ その台詞、本当に言う奴いるんだね。
リュウ なんだと!
僕 なんで余計に怒らせるようなこと言うかなぁ。
ソラタ ごめん。
リュウ やっちまえ!
ダイチ&シュン おー!

   三人VS三人
   武器を持つ相手に持たない三人は劣勢となる。
   サキコを狙ったリュウの攻撃を、僕は代わりに受けようとする。
   が、その僕の身代わりにソラタが受ける。

僕 ソラタ!
サキコ リュウ! あんたこれ冗談で済まされないわよ!
リュウ お前らが調子乗ってるのが悪いんだろ!
僕 ソラタ! 大丈夫? って、血、血が出てるよ!
ソラタ ちょっと、まずいことになっちゃったな。
僕 病院行こう、病院。
ソラタ いや、家に帰った方が近いから、家に帰るよ。
僕 僕、送る! サキコ、だからその……
サキコ 買い物はまた今度でしょ。わかってる。私も手伝うから。
僕 ありがとう。
リュウ お前らが悪いんだからな! 行くぞ。
ダイチ&シュン 待ってよリュウちゃん。

   リュウ&ダイチ&シュンが去る。
   僕&ソラタ&サキコも反対側に去る。


09 姉とアマミ家


タケシ なんて、どこの不良漫画だ的な展開を見せる僕らの友情とは打って変わって、姉さんはのんきにスズネさんの家にお呼ばれされて、お茶なんか飲んでいたりしたのだった。

   舞台には母さんが出てきて準備を始める。
   スズネとユイとトラコがやってくる。

スズネ ただいま〜
ユイ&トラコ おじゃましまーす。
母さん お帰りなさい。今準備しているとこだったわよ。って、あらあらまぁまぁスズネのお友達?
ユイ&トラコ ええ、まぁ。
母さん え、お友達!?
ユイ はい。
トラコ そうですけど。
スズネ 母さん。ちょっと部屋(で遊んでるから)
母さん お友達ね!! フレンドね! アミーコ(伊)ね! ていうか、フロイント(独)ね! むしろドゥルーク(露)ね! やっぱりサディーク(アラビア)かしら! 全部意味は一つだけどね! ちょっと、あーた! あーた!
スズネ 大げさだよお母さん。
父さん はいはい、あーたと呼ばれるたびに内なる幸せが膨らむ男、お父さんですよっと、なんだい母さん。アーンド、そこの子達は何者ですか?
母さん フレンドよ! スズネの心の友と書いて心友(しんゆう)よ!
父さん なにぃ! あの、困ったときだけ心の友と呼んでおけば何となくいい人そうに見えなくもないけれど、でも実際問題として「俺、お前のこと心友(しんゆう)だって思ってるから。あ、心の友の方ね」なんて言う状況がどれくらいあるのかちょっとお父さんにもわからないなぁ。的な友達かい!?
母さん ちょっとお父さんスズネが友達連れてきたくらいで、ちょっと大げさよ!
父さん 大げさって、母さんは驚かないのか! スズネが友達を連れてきたんだぞ!
母さん そうよ! スズネが友達を連れてきたのよ!
父さん あの、いつも「一人で遊ぶ方が楽しいよ」と言っていたスズネが友達を連れてきたんだ!
母さん そうよ、あの「友達っていたら便利なの?」なんて真顔で言っていたスズネが友達を連れてきたのよ!
母さん&父さん まじでえええええ!
スズネ 私、今日あたり家出しようと思うんだけど。
トラコ うち、泊めてあげようか?
スズネ ありがとう。
父さん あの、き、君たちは本当にスズネの友達なのか?
ユイ ええ。そのつもりですけど。
母さん つもり!?
ユイ いえ、あの、今のはその、
父さん つもりってなんだ母さん!
母さん 連用形よ!
父さん 活用形じゃない! 友達のつもりって言うのは、友達なのか! じゃないのか!
母さん わからないわ! タモリじゃないってことしか分からない!
父さん それは父さんにも分かってるよ!
ユイ 友達です! ちゃんと、私、スズネさんの友達です。
母さん&父さん 本当かなぁ?
スズネ 本当やだ。この家族。
ユイ 本当です。ね?
トラコ そう。友達です。ちゃんと。
母さん&父さん な〜んてね。
ユイ&トラコ は?
母さん ごめんなさい。ちょっと母さん調子乗っちゃった。
父さん うん。父さんも超調子乗ってみた。
スズネ ごめんね二人とも。うちの家族変だから。
母さん あらあら。なに言ってるのかしらこの子は。ねぇあーた。
父さん 本当だよ。なに言ってるんだか。
母さん 家に初めて友達を連れてきたとき、家族なんてこんな反応するものよ。
父さん そうだ。初めて友達を連れてきたとき、家族はこんな反応をするものだ。
スズネ 嘘ばっかり。
母さん (ユイとトラコに)驚かしてごめんなさいね。お名前、聞いてもいいかしら?
ユイ ユイです。
トラコ トラコです。
父さん ユイさんに、トラコさんか。うちの娘をよろしく頼むよ。
ユイ えっと、はい。
母さん 出来るならずっと友人でいてくださいね。どこにいても。何があっても。
トラコ スズネ、どこか行くの?
スズネ しばらくはどこにも行かないよ。でしょう?
母さん ……そうね。
父さん よーし、父さんが一つおいしいケーキを作ってあげよう。こう見えて、私はお菓子作りが得意なんだ。ファニーメーカーだからね。
母さん あーた、それじゃあ「おかしい作り手よ」
父さん たいして変わらないじゃないか!
母さん 確かにそうね!


10 騒動の末路


   と、そこへ僕とソラタとサキコがやってくる。
   ソラタは殴られた箇所を押さえている。

ソラタ だから大丈夫だって。
僕 あんな血が出ていて大丈夫なわけ無いだろう。
サキコ 病院が嫌ならせめて、ちゃんと傷口洗わないと。
ソラタ だから大丈夫なんだよって……
母さん&父さん&スズネ ソラタ!
ソラタ 父さんに母さん、姉さんまで。
ユイ タケシ!
トラコ サキコちゃん。
僕 姉さん。
サキコ それに、トラコさんまで。
母さん ソラタ怪我!? もしかしてそれ怪我!?
父さん ままままま、まま、ま、まままままさか! 怪我したのかソラタ!
ソラタ してないよ怪我なんか。
父さん してないのか!
母さん してないのね!
僕 結構大きな怪我なんです。
サキコ 殴られたの。……リュウ君に。
トラコ あの馬鹿!
ソラタ たいした怪我じゃないよ。
父さん 鯛が下とか、海老が下とかいう話しじゃないんだ!
スズネ ソラタ! 怪我したの!? してないの!?
ソラタ した。
僕 ごめんなさい。僕達のせいで。
サキコ ソラタ君は巻き込まれただけなんです。
僕 怒るなら僕達を、

   と、スズネがソラタをはたく。

母さん&父さん&ユイ スズネ!

同時に
僕 ソラタ!
サキコ ソラタ君!

スズネ 馬鹿。馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!

   と、スズネはソラタをたたき続ける。

ソラタ ごめん。姉さんごめん。
母さん スズネやめなさい!
父さん やめるんだスズネ! ソラタだって、怪我したくてしたわけじゃないんだ。そうだろう? ソラタ。

   言いながら父さんと母さんはスズネをソラタから離す。

ユイ 分かってるくせに。私たちが外で怪我なんかしちゃいけないってことくらい。分かってるくせに。
僕 ごめんなさい。僕達が悪いんです。
サキコ でも、今はそれよりソラタ君の怪我を……え……
ユイ えっと、どこを怪我したの?
僕 なに言ってるんだよ姉さん。こんなの見れば分か……そんな。
トラコ どこも怪我なんてしてないけど。
僕 そんなはずはないんだ。あんなに、血が出てたのに。
サキコ 服に血がついてたの。私、確かに見たのに。
ソラタ 治ったんだ。
ユイ たいした怪我じゃなくて良かったじゃない。ね?
トラコ うん、すこし安心した。本当、あの愚弟は。
僕 治ったって。だったらなんで血まで消えているのさ!
父さん それはきっと見間違えたんじゃないかな。
母さん そうね。勘違いよ。勘違い。ね?
サキコ そんなことないです。私、ちゃんと見ました。
スズネ ソラタの馬鹿。
ソラタ 仕方ないだろう。僕は、そういう生き物なんだから。
僕 そういう生き物?
母さん ソラタ? 何を言う気?
ソラタ 僕は、いや、僕らはこれくらいの怪我をしてもすぐに治る。
スズネ ソラタやめて。
ソラタ いや、どんな怪我をしたところですぐに治ってしまう。
父さん ソラタ何を言い出す気だ。
ソラタ だって、僕らは、
母さん ソラタ。やめなさい。
スズネ ソラタ!
ソラタ 僕らはね、不死身なんだ。
僕 不死身?

   家族はソラタの言葉に時を止める。
   タケシが現れる

タケシ 不死身。死なない体。死ねない体。物語の中にしか出てこないはずの生き物。空想の産物。怪我をしてもたちどころに治り、病にもかからない。そして、人よりもずっと長い人生を生きるよう定められた存在。それがアマミソラタの家族であり、そのために彼らは何度と無く引越しを繰り返していたのだった。自分たちが人とは違うことを知られないようにするために。

   タケシが去る


11 少年たちと黒い例の組織


   帰り道
   リュウとダイチとシュンが現れる。

シュン なあ大丈夫だったかなぁ?
ダイチ なにが?
シュン ソラタの奴。結構強くぶつかったから。
ダイチ 何だよあんな奴の心配するのか?
シュン そんな訳じゃないけど。
リュウ ふん。
ダイチ ソラタ、生意気だよなぁ。
シュン なんかこの頃タケシも調子乗っているし。
ダイチ ついでにサキコもな。
シュン しめた方がいいよな。
ダイチ ぎゃふんと言わせないと。
シュン ぎゃふんは古いよ。
ダイチ ぎゃふんは古いか。
シュン でも、ソラタ強いよな。
ダイチ 割と素早いし。でも、リュウちゃんの方が強いよね。
シュン そりゃそうだよ。ね?
リュウ ……ふん。

   ミチルとマキが現れる。

マキ あ、馬鹿がいる。
ミチル 駄目だろ。本当のこと言っちゃ。
マキ ごめんなさい。
ミチル いいよ。僕は気にしないから。
シュン おいおいおい、なんだお前たちいきなりけんか売りやがって。
ダイチ リュウちゃん、締めようぜこいつら。
マキ あーあ。自分に実力無いからって他力本願する男って最高に格好悪い。
ミチル だから駄目だって本当のこと言ったら。
マキ ごめんなさい。
ミチル いいよ。僕は気にしないから。
リュウ 何の用だよ。
ミチル 別に。通りがかっただけだよ。
リュウ さっさと行けよ。
ダイチ 今、リュウちゃん機嫌が悪いんだ。
ミチル まだアマミソラタにちょっかい出しているのか?
リュウ 関係ないだろ。
ミチル やめておいたほうがいいよ。あいつ、普通じゃない。
リュウ 普通じゃない?
ミチル 一応クラス委員だからね、色々面倒見るよう先生に頼まれていたから話すことも多いんだけど、変なんだよね。
ダイチ 変って何が?
ミチル 僕らと同い年にはとても思えない。単純に頭がいいとかの話じゃない。引っ越しの回数や行ったことがある場所、そこで過ごした季節を考えると計算に合わないんだ。
シュン どういうことだよ。
ミチル 少なくても、彼はこの学校に来るまでに5回の春と8回の夏と6回の冬を経験している。それも、それぞれ全然違う場所で。
マキ でもそれは、引っ越しの回数が多いだけじゃないの?
ミチル 秋のイベントって割と多いよね。
マキ うん。
ミチル ちょっと利いた限りでも、彼は10の国で秋のイベントを体験しているみたいだよ。物心がついてからと考えても、ちょっとおかしな数字になるよね。
リュウ なんだよそれ。
ミチル 結論から言うと、アマミソラタは年齢を詐称している。それがどうしてかは分からないけれどね。

   姐さんと用心棒が現れる。

姐さん ちょっといいかな? 君たち、この辺の子?
マキ そうですけど。
姐さん アマミソラタって名前に聞き覚えない?
ミチル (マキが話しそうになるのを止めて)……ありませんけど。
姐さん そう。
ミチル じゃあ、僕はこれで。
用心棒 ちょっと待てよ。
姐さん (用心棒を制して)ねえ。キミ、というか君たち。知ってるでしょう。アマミソラタって子。
リュウ だったらどうだっていうんだ?
姐さん 教えて欲しいのよ。私たちに。もしかしたら君たちの役にも立つかもしれない。
リュウ 役に?
姐さん 好きじゃないんでしょう? その子。お姉さんたちに教えてくれたら、「ぎゃふん」と言わせてあげる。
リュウ いつから聞いてたんだよ?
姐さん さぁ。ね。教えてくれる? とりあえず、ここじゃ何だから向こうで話そうか?

   少年たちは顔を見合す。
   姐さんが指す方へ少年たちは歩き去る。
   最後に用心棒と姐さんが去る。

12 家族の中の独り

   再び両親達の空間へ。タケシは彼らの話を見守るようそこにいる。

父さん というわけでね、普通に生きている人たちに比べると僕らの一生はとてつもなく長い。だから僕達は一つの場所に長い時間とどまることは出来なかったんだ。少しでも怪我をすればばれてしまうし、ずっと若いままだと怪しまれる。転々とし続けるしかなかった。これでも日本に戻ってくるのは20年ぶりくらい、だったかな。
母さん そうね。今度はもう少し長くいたかったんだけど。
トラコ 20年ぶりって、
ユイ え、それじゃあ二人は本当はいくつなの?
ソラタ さぁ。もう忘れたよ。
スズネ 少なくとも、私は10年は中学生をやってるかな。
サキコ じゃあ、ソラタ君、私たちより年上なんだ。……ぜんぜん見えないけど。
父さん まぁばれてしまったのは仕方ないからね。荷物をまとめよう。
僕 え?
母さん 学校へはなんて説明します?
父さん 会社の都合で、としか説明できないだろうね。
ソラタ 待ってよ。
母さん 怪しまれないかしら。
父さん どうせまたしばらく戻ってこないんだから構わないさ。
母さん それもそうね。
父さん さ、じゃあスズネ。部屋の片づけをよろしく。ソラタもちゃんと手伝ってくれよ。君たちは、とりあえず、今日一日くらいは黙っていてくれるよね? 
僕 「今日一日は」って……
父さん 明日には日本を離れるつもりだよ。それからなら何を言ってくれても構わないから。どうせ誰も信じやしないだろうからね。
僕 そんな、ちょっと待って(ください。)
ソラタ 待ってよ!!
父さん ソラタ?
ソラタ 大丈夫だよ。まだばれたのは友達だけなんだし、これからはもっと気をつけるから。
父さん 怪我をした時周りにいたのは、友達だけってわけじゃないんだろう?
ソラタ 友達だよ。
母さん 「あなたは巻き込まれた」ってさっきそのお友達が言ってたのよ?
ソラタ でも、せっかく友達が出来たんだ。姉さんだって、急に離れ離れになるのは嫌だろう?
スズネ ……私は、父さんたちについていく。
ソラタ 姉さん!
スズネ 仕方ないじゃない。私たちにとっては、正体がばれないことがなにより大事なんだから。……(ユイとトラコに)そういうことだから、ごめん。
トラコ いや、あたしたちに謝ることなんて。
ユイ 何か手伝うことある? せっかくだし、荷物まとめるのとか手を貸すよ?
スズネ 大丈夫。一人で出来るから。
ソラタ 俺は嫌だ。
スズネ ソラタ。
父さん 仕方ないだろう。
ソラタ 嫌だ。
母さん ソラタ。
ソラタ 嫌なんだよもう! 行くのなら母さんたちだけで行けばいいだろう。俺は残る。
父さん 馬鹿なことを言うんじゃない。
母さん そんな事出来るわけ無いじゃない。
スズネ ソラタ。私たちは人とは違うのよ。
ソラタ でも嫌だ俺は。一人なんてもう嫌なんだ! 

   ソラタが走り去る。

僕 ソラタ!
サキコ ソラタ君!

   僕が追いかける。
   サキコはしばしどうしようか迷うが、やはり追いかけていく。


13 姉と僕


   ユイとタケシだけが浮かび上がる。

タケシ その時になって、僕は初めて分かった気がした。
ユイ なにを?
タケシ 僕らが友達になれた理由だよ。
ユイ 私には今でも分からない。あんたが、ソラタ君を追いかけた理由が。
タケシ 姉さんにはわかりっこないよ。
ユイ あんたたちが男の子だから?
タケシ 違う。僕はね、一人だと思ってたんだ。
ユイ あんたにはサキコちゃんがいつも一緒にいたじゃない。
タケシ でも、一人だと思ってたんだ。
ユイ 一人が好きだったんでしょう?
タケシ 違う。僕はあの時、いつも感じてた。なぜ誰かといても、こんなにも独りなんだろう。姉さんといても、サキコといても、クラスメイトが側にいたって、こんなにも寂しくなるんだろう。
ユイ なにそれ。全然分からない。
タケシ 姉さんにはわかりっこないよ。
ユイ ソラタ君には分かったってこと?
タケシ ソラタにも分かるものか。
ユイ もう意味分からない。

   ユイが去る。
   景色はやがて道端になる。

タケシ 僕だって、本当は分からないんだ。なんでこんな寂しいのか。でも、ソラタは、ソラタだってずっと感じていたに違いないんだ。僕らはなんて、独りなんだろうって!


14 僕らと少年たち


   ソラタが現れて座り込む。
   僕がやって来る。ソラタの隣に座る。

僕 なんとなくここかなって思った。……手紙、書くよ。だから新しい場所に行っても住所教えてくれると嬉しいな。ケータイ買ったらメールする。だからアドレス教えてね。パソコンがあれば簡単なのにな。でも、うちの親、中学入るまではだめだって言うんだ。信じてないんだ。ひどいよね。……ねぇ、ソラタ。……その、ずっと、友達でいてくれる? ……ソラタが大きくなる頃には、僕がいくつになってるか分からないけど。でも、ずっと友達でいてくれる?
ソラタ なんでそんなこと言うんだよ。
僕 なんでって。
ソラタ 俺みたいなの、気持ち悪いだけだろ。
僕 そんなことない。……カッコイイよ。ソラタはいつだってカッコイイ。

   ソラタと僕が顔を見合わせる。
   と、そこにリュウとシュンとダイチが現れる。
   三人とも黒い格好。

ダイチ&シュン じゃじゃーーん。
リュウ こんな所にいたのか。
ダイチ 呼ばれてないのに、俺たち登場!
シュン 登場!
僕 リュウ。
ソラタ なんだよ、お前らその格好。
シュン いいだろ。俺たち、組織に入れてもらったんだ。
僕 組織?
ダイチ 黒い例の組織だよ。
シュン コードネームまでもらったんだぜ。
ソラタ コードネーム?
ダイチ 俺はマッコリ!
シュン 俺はグラッパ!
リュウ そして、俺がハイボール。だとさ。
僕&ソラタ ダサい……。

   と、姐さんが現れる。

姐さん お前たち、見つけてくれたのかい?
ダイチ&シュン はい姐さん!
姐さん いい子だねぇ。
ダイチ&シュン えへへー。
姐さん それで、(と、僕らを見て)どちらが「ソラタ君」だい?
ダイチ&シュン こいつです!(と、ソラタを指す)
姐さん いい子だねぇ。
ダイチ&シュン えへへー。
リュウ 馬鹿馬鹿しい。
僕 (ソラタに)行こう?
ソラタ ああ。
姐さん おやおや、どこに行こうって言うんだい?

   と、反対側から用心棒が現れる。
   その腕にはミチルとマキが捕まっている。

用心棒 動くな。こいつらがどうなってもいいのか?
僕 ミチル! マキさん!
ミチル ごめん。なんか迷惑かけているね。
マキ そこの馬鹿どものせいだから。
ミチル マキちゃん。
マキ ごめん。言い過ぎた。
ミチル ううん。もっと言ってやって。
用心棒 黙ってろ。

   と、用心棒は腕に力を入れる。ミチルとマキは苦しげにうめく。

僕 ミチル! マキさん!
ソラタ 二人をどうする気だ!
姐さん どうしようかねぇ。まぁ、その辺向こうでゆっくり
話そうじゃないか。フフフフフ。
用心棒 ゆっくり、な。ハハハハハ。
ダイチ&シュン ハーハッハッハッハッハッハ

   用心棒が来た方向へ、全員去る。
   と、覗いていたかのようにサキコが現れる。その後ろからタケシも。

サキコ 大変。どうしよう……

   サキコが走り去る。

タケシ その当時、黒い例の組織と言えば日本で知らない人間はいないというほどの有名な秘密組織だった。怪しげな薬で大人を子供にしてしまったり、取引が失敗したからってビルを爆破して見せたり、おおよそ、ちょっと怪しげな事件の裏には彼らの姿があったと言っても過言ではなかった。そんな有名な彼らのことだ。恐らくどこからか彼らは不死者の存在を知ったのだろう。そして、ずっと探していたに違いない。もしかしたらソラタの両親は既に自分たちが負われていることに気づいていて、だからこそ各地を転々としていたのかもしれない。なんて事を小学生の頭で冷静に考え付く頃には、僕たちは町外れの廃工場といういかにも何かが起こりそうな場所に連れ去られていたのだった。

   タケシの語りが終わると、廃工場中に景色は変る。


15 血まみれの勇気


   僕、ソラタ、ミチル、マキ、ダイチ、シュン、リュウが後ろ手で
   縛られている。用心棒が縄を縛って確認している。

リュウ って、なんで俺たちまで捕まってるんだよ!
ダイチ そうだ! 俺たちは関係ないだろ!
シュン 離せ! 解け!

   姐さんが現れる。


姐さん うるさいねぇ。人質は多いほうがいいだろう? しっかり縛れてるかい?
用心棒 問題ない。

   用心棒が去る。

姐さん これで準備万全ってわけだねぇ。さ、後はこの子のお仲間を集めるだけと。
ソラタ 僕たちをどうする気だ?
姐さん さぁねぇ。集めるまでが私たちの仕事だからねぇ。集めて渡してしまってからは知らないよ。まぁ、きっと、体中をいじられるんじゃないかな?

   用心棒が現れる。電話を持っている。

用心棒 取引先からだ。
姐さん はいはい。さっそく催促のお電話かしらねぇ。
(と、電話を受け取り)はーい。あたし。そう。ご機嫌よ。分かる?

   と、姐さんが去る。
   用心棒も去る。

マキ これからどうなるのかな?
ミチル さぁ。さすがにこれだけの小学生が行方不明になったら問題になるだろうから、全員どうにかなるって事はないだろうけどね。
マキ じゃあ、数人ならどうにかなるかもしれないの?
ミチル かもね。
リュウ ……(ソラタに)全部、お前のせいだからな。
ソラタ ……。
リュウ お前が来なければこんなことにはならなかったんだ。
シュン そ、そうだ。お前さえ来なければ、俺たちがこんな眼に会うことなかったんだぞ。
ダイチ そうだ。お前のせいだからな。お前さえいなければ良かったんだ。
僕 やめろよ。
ダイチ なんだよ、お前こんな奴の味方するのかよ。
シュン こいつ、人間じゃないんだぜ。俺、姐さんから聞いたんだ。こいつ、
僕 止めろって言ってるんだよ! それ以上、僕の友達を悪く言うな。
ソラタ ……リュウたちの言うとおりだよ。
僕 ソラタ?
ソラタ 俺のせいだ。
僕 違うソラタ。それは違うよ。
ソラタ だけど、だからこそ、君らは俺が守る。
リュウ は、どうやってだよ。
ソラタ タケシ。
僕 な、なに?
ソラタ ごめん。
僕 何言ってるんだ。謝ることなんてないよ。ソラタは悪くないんだから。
ソラタ いや、俺が悪いんだよ。俺は一人でいなければいけなかったんだ。独りに慣れなきゃいけなかったんだ。独りでなきゃいけなかった。なのに、タケシに会った時、俺は思ってしまったんだ。あまりにも君が一人で生きているから。一人でいるのに慣れすぎているから、なのに寂しそうに見えるから。思ってしまったんだ。やっぱり独りは嫌だって。だけど……結局巻き込んだだけだった。
僕 違う。そんな事ないって。
ソラタ ダイチ、それにシュン。ミチル、マキ、リュウ、も、巻き込んでしまってごめん。……タケシ、
僕 謝るなよ! 僕は謝ってほしくなんかない!
ソラタ ……ありがとう。こんな俺と友達になってくれて。そして、……やっぱりごめん。

   と、ソラタは体に思い切り力を入れ始める。
   縄を解くのではなく、抜けようとするように。

僕 ソラタ?
リュウ 何してるんだお前。
ミチル 子供の力なんかで解ける縄じゃないよ。
ソラタ 解けはしないけど、縄よりも腕が細くなれば、自然と、抜ける、かもしれないだろ?
僕 縄より細くって……やめろ! そんなに力入れたら、腕の皮が、血が、
マキ 血、血が出てるよ!
ミチル 見ちゃダメだ!
ダイチ い、痛くないのかよ!
シュン 見てるこっちが痛くなる。
ソラタ 身体の痛みなんて、いくらだって我慢してやるさ。こんな、痛みくらい、いくらだって、我慢してやる!

   そして、ソラタは縄から抜ける。
   その両手は赤く染まっている。
   用心棒がやって来る。

用心棒 何を騒いでいる。キサマいつの間に! 動くな!

   用心棒が銃を出す。
   ソラタは無遠慮に近づく。

用心棒 脅しじゃないぞ!

   銃声。銃弾はソラタの右肩に当たる。

用心棒 少しくらい身体が痛んでいても、取引には支障ないんだ。分かったら大人しくしてるんだな。
ソラタ 痛い。痛いけど、我慢できないほどじゃない。
用心棒 何を言ってるんだ。
ソラタ 俺は不死身なんだよ? 銃なんて利かない。

   ソラタが用心棒に近づく。
   銃を再び撃とうとする腕を払い一撃を加える。用心棒が崩れ落ちる。

ソラタ さぁ、とりあえず今のうちに逃げよう。縄を解くよ。

   両手を赤く染め、近寄るソラタに皆は、僕は少しだけ後ずさる。

ソラタ ……。
僕 あ、ちがう。今のは違うんだ。
ソラタ ……この場所は、君らのお姉さんに知らせておくよ。(と、自分を縛っていた縄を用心棒に縛りつけ)あの姐さんだっけ? をどうにかしたら俺は消えるから。今日のことはなるべく早く忘れなね。……じゃあ。バイバイ。

   ソラタが走り去る。

僕 ソラタ! 待ってソラタ! 違うんだ!

   追おうとする僕をリュウとミチルが止める。

リュウ やめろタケシ!
ミチル タケシ。もういいだろ。
僕 何がいいんだよ。ソラタが行っちゃうんだぞ!
リュウ バカかお前。見てなかったのかよ今のを。
ミチル あいつは全然違うんだ。俺たちとまるっきり違うんだよ。
マキ 私、怖かった。
シュン あんな奴に勝とうとしてたのか俺たち。
ダイチ 殺されるかと思った……。
僕 違う! 違うんだ! ソラタ! 待って! ソラタ! ソラタ!

   全てが闇に包まれる。


16 こんな晴れた空の下で


   タケシが立っている。

タケシ それから僕らはサキコと姉さん、それにトラコさんに助けられた。縄を解いている時も、帰るときも、誰も何も話そうとしなかったし、僕も黙っていた。もう、ソラタが行ってしまったことだけは分かったから。学校では誰もソラタのことを話そうとしなかった。まるでタチの悪い怪談みたいに、語ること自体を嫌われていた。みんなソラタのことを忘れたがっているようだった。そのまま忘れてしまったかのようだった。

   ユイが現れる。
   始まりと同じ格好。

ユイ 忘れたかったのよ。みんな。
タケシ 忘れたの?
ユイ 忘れちゃったわよ。ほとんどね。
タケシ なんで?
ユイ 当たり前でしょう? あれはここにいてはいけない者だった。私たちとは交われない存在だった。
タケシ でも確かにいたんだ。痛みをこらえて僕らを助けてくれたんだ。
ユイ そうね。……おなか空いちゃった。トラコ見つけて、何か食べて帰りましょう。
タケシ そうだね。……姉さん覚えてる? こんな、
ユイ 「こんな青空だったよね」って? あの子達が転校してきた日は。

   ユイが去る。

タケシ 全然忘れてないじゃないか。覚えてる? 姉さん。……ソラタがいなくなった日も、こんな青空だったんだ。

   と、旅行帰りに見える家族が通り過ぎていく。

スズネ うわぁ。久しぶりの日本だわ。
父さん うーん。何年ぶりかな。ねぇ、母さん。
母さん 10年はたってるわね。色々変わってそうで怖いわ。
スズネ ソラタ〜。早く来なさいよ。
ソラタ声 分かってるよ!

   音楽
   空を見上げていると、家族が通り過ぎていく。
   父さん。母さん。そしてスズネ。
   そして、三人に追いつこうとするソラタが現れる。
   タケシはソラタを見る。
   ソラタがタケシを見る。
   二人の口が相手の名を呼ぶように動く。
   二人、どうしていいか分からない顔のまま、微笑んで――



あとがき
昔から山下和美さんの「不思議な少年」が好きで、
不変でありながら流動するという存在を作品にしたいなと思って出来た作品。
年を取らないとか、不思議な力を持っている存在とか、キャラ○ルボッ○スっぽいなと反省。

登場人物があまりにも多すぎて、まだまだ大人数の処理が出来ていないですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。