そこにバナナは必要ですか?
   そこにばななはひつようですか

作 楽静

登場人物

ヤオモテ タツコ 21歳 アルバイト 
イワイ ノリト 24歳 ウエディング・プランナー 
ウラノ アルコ 24歳 警備員 イワイの高校時代の先輩
ミエノ ミヨ 27歳 アパレルショップ店員
デグチ 37歳 芸人
オモイ キリゾウ 35歳 ツアコン
前説 上演前のネタ仕込み(初演時イワイ役が兼ねる)

ストーリー
とある春。結婚式場の披露宴会場で、ウエディングプランナーであるイワイは人手不足に悩みながら奔走する。
一方、彼氏との記念日に受付のバイトを入れてしまったヤオモテは、何とか早引けできないものかと悩む。
新郎新婦にとって良き日になるかどうかは、受付机にぽつんと置かれたバナナにかかっている……わけがない話。


   結婚式の披露宴が始まる2時間くらい前の物語。
   季節は春。桜の花が色づく頃。本日の天気は気象庁によれば曇りのち晴れ。雨の確率20%
   舞台には披露宴の会場の受付。下手奥はスタッフルーム。下手前はウエルカムスペースに続いていて、上手奥がトイレ。手前が出入り口。
   舞台やや下手よりに受付。中央付近側にウェルカムボード。どこかラブラブ感が出すぎていて嘘くさい。
   テーブルには受付のための名簿、芳名帳、ペンの他にスマートフォンとバナナが置いてある。
   ヤオモテがソワソワして座っている。前説の担当(初演ではイワイ役)が下手前にやって来る。胸ポケットにヒサカキを刺している。
   前説だけが浮かび上がる。
   ※前説担当が話す「お願い」は一例です。上演する環境に合わせてください。

前説 こんにちは○○(上演団体名)です。本日は、ご来場ありがとうございます。上演に先立ちまして、いくつか
 お願いを申し上げます。一つ目、スマートフォンや音の生る電子機器の電源はあらかじめお切り頂くか、音の鳴
 らない設定にしていただければ幸いです。二つ目、写真や動画の撮影はご遠慮ください。三つ目、席での飲食、
 喫煙はご遠慮ください。四つ目、非常時には係員が避難を指示いたします。慌てずにお席にて避難の指示をお待
 ちください。五つ目、本公演は上演時間を45分程度と予定しています。お手洗いは予めお済ませになりますよ
 うお願い申し上げます。
  さて、本日の舞台はとあるイベントホールの受付です。こちら(と下手前を指し)進んでいただくと会場となっ
 ております。こちら奥(と、下手奥を指し)はスタッフルームとなっており、関係者以外は立ち入り禁止となっ
 ています。あちら(下手前を指し)手前側はお客様の出入り口なっており、そちらの奥(と、上手奥を指す)は
 レストルームです。普段は企業の研修会や発表会にも使われる当会場ですが、本日はとある新郎新婦の結婚披露
 宴が行われる予定です。春のそして桜満開の時期ということもあり、新婦の方は相当に気合が入っていると聞き
 及んでおりますがどうなることやら。……ところで皆様、春と言えば桜が有名ですが、同じように春に花をつけ
 るヒサカキという植物をご存じでしょうか。(と、胸ポケットのヒサカキを出し)こちらです。神棚の両側に飾
 られることが多いので、「どこかで見たことある」という方もおられるかと思います。このヒサカキ、サカキと
 いう植物に似ているものの、サカキよりも小さめであるため「姫(ひめ)サカキ」から転じて「ヒサカキ」と呼ば
 れるようになった。いや、サカキに似ているもののサカキではないことから「非(ひ)サカキ」で「ヒサカキ」な
 のだと語源はあやふやです。古来より神事に使われることが多く、広く分布しているためか、ビシャ、ビシャコ、
 ヘンダラ、シャシャキ、ササキと呼び名も様々だったりします。春になると白く小さい花を咲かせ、可愛らしい
 ものの、その匂いは、独特です。地元密着型のスーパーなんかに置いてあることがあるので、花を咲かせる季節
 にはさりげなくお試しになってみてください。……なんてことが関係あるような無いような物語。間もなく開演
 となります。どうぞ最後までごゆっくりご笑覧ください。


一礼して前説が去る。照明が元に戻る。
やがて結婚を祝う音楽。ヤオモテがあたりを見渡し、こっそり上手へ去る。あたりが暗くなる。


   
   音楽の音量少し小さくなる。
   イワイが下手前から現れる。脇にファイルをはさみながら電話で話す。

イワイ はい。ウエディング・ウィング・リング・カンパニー、ウエディング部副部長、代理兼課長補佐副担当の
イワイです。ええ。大丈夫です。あ、ササキ様! 少々お待ちください。(電話を抑えて、袖に向かって)
BGM少し下げて! (と、音量小さくなる※イワイが話すうちに消える)OK!(電話に出て)お待たせしました。
どうでしょうか? はい。もう、お化粧も? では、記念撮影のほうに入っても? はい。ああ、それでは新郎の
ご家族にはこちらから連絡をしておきますので。はい? 木ですか? (と、客席側に向かってイワイは背伸び)
ああ、サクラの? はい。そこで、撮影、ですか? (スマフォを一瞬投げそうになるが、平常心で)はい。
もちろんです。お任せください。はい。また連絡いたします。失礼します。

   スマフォを切るとふと、ため息。気を取り直し。腕時計を確認する。

イワイ よし。(受付の準備を確認して)よし。

   そのまま反対方向にはけようとするが、立ち止まる。振り返り、バナナを凝視する。

イワイ (周りを見渡す。)

   バナナを見る。

イワイ (周りを見て、ため息)だれだ、ここにバナナ置いたの! って、俺は忘れ物係りか! 

   バナナを机に叩きつけそうになる。が、そっと置き、スマフォを鳴らす。
   机に置いてあったスマフォが鳴る。

イワイ そりゃそうだ。ここにあるもの。鳴るよね。ああもう! だからバイトに受付を任せたくなかったんだ。
ただでさえ人が少ないってのに面倒ばかり……厄年って本当なんだなぁ。



   ヤオモテがやってくる。ハンカチを口にくわえ、両手をぶらぶらしている。

ヤオモテ (ハンカチを口にくわえたまま)あ。
イワイ ヤオモテさん。
ヤオモテ (ハンカチを口にくわえたまま)はい。
イワイ とりあえず、ハンカチはずしてください。
ヤオモテ はい。

   と、そのままハンカチをポケットに入れると、服で手を拭く。

イワイ ハンカチの意味は!?
ヤオモテ はい? あ、ああ。

   と、ヤオモテはハンカチを使う。

ヤオモテ これ、あんまり水を吸収しないんですよね。
イワイ スマフォ、置いてあったんですけど?
ヤオモテ はい。トイレだったので。
イワイ 連絡つかないですよね。
ヤオモテ え? トイレですよ?
イワイ 常に片手は電話に出られる状態にしてください。
ヤオモテ 片手は常に? え? ちょっと待ってください。やったことないから。もしかしてセクハラですか?
イワイ もういいです。スマフォは、なるべく、携帯してください。
ヤオモテ はい。

   と、ヤオモテはスマフォをもつ。
   そして、当たり前のようにバナナを持つ。

イワイ やっぱり君か。
ヤオモテ なにがですか?
イワイ バナナ。
ヤオモテ バナナ? ああ、(ちょっと嬉しそうに)ジャイアント・キャベンディッシュです。
イワイ はい?
ヤオモテ 食用バナナの中でもっともポピュラーな奴ですね。安いのに栄養たっぷり。しかも、バナナに含まれて
いるセロトニンは、神経を落ち着かせる効果があるんです。あなどれないですよね。バナナ。
わたしはそんなバナナに敬意を払って、種類ごとにしっかりと呼ぶことにしているんです。
モンキーバナナと言われるセニョリータ。赤茶のモラード。そしてラツンダン。バナナの名前は
まるでバナナではないかのようで面白い。そう思いませんか?
イワイ そんなことを聞いてるんじゃなくて、なんでここにバナナを置いておいたんですか?
ヤオモテ だって、トイレには持っていけないじゃないですか。
イワイ そういうことじゃなくて。
ヤオモテ いや、トイレですよ? スマフォでも抵抗あるのに。まぁ、そりゃあ皮むきますから? 
そのまま食べるわけじゃないですけど。これが梨や柿だったらまだ大丈夫な気もするんです。でも、
シャインマスカットは持っていけませんよね? そしてバナナは……ちょっとわたしには無理ですね。すいません。
イワイ ではなくて、なぜバナナを持ってきたかと聞いてるんです。
ヤオモテ おやつですけど?
イワイ 小学生か!
ヤオモテ 履歴書に大学三年って書いたと思いますけど。
イワイ 知ってます! もういい。早く食べちゃってください。
ヤオモテ でも、まだおやつじゃないから。
イワイ ヤオモテさん。
ヤオモテ はい。
イワイ 今日の披露宴は何時からですか?
ヤオモテ ……おお、2時間ないですね。
イワイ 身内のみとは言え、気の早いお客様はもうご来場されるかもしれません。
ヤオモテ せっかちな人たちですね。
イワイ そんなとき、バナナを食べているあなたを見たらどう思われると思いますか?
ヤオモテ 「この人、バナナ好きなのかな?」
イワイ ヤオモテさん!
ヤオモテ はい。(と、期待する目でイワイを見る)……すいません。すぐ食べます。
イワイ 俺は少し離れますけど、くれぐれもお願いします。いくらまだ学生でアルバイトって言っても、
 お客様は分からないんですから。
ヤオモテ 了解です。
イワイ (ため息)さっさと食べて、ちゃんと捨てておいてくださいね。

   イワイは去る。



ヤオモテ さすがに式当日にはふざけたことやっても「帰れ」とはならないか。人いないもんねぇ。

   と、ヤオモテのスマフォが鳴る。
   
ヤオモテ もしもし。うん。まだ仕事場。仕方ないじゃんシフト入れたの忘れてたんだから。いや、うん。
記念日やろうって言ったのは私です。だからごめんて。そう簡単に抜けられないよ、人いないし。うん。
なんとか早めに抜ける。じゃあ、また後でね。

   電話を切る。時計を見て、

ヤオモテ いや、私が悪いんだけどさぁ。……(と、バナナをむき出す)ベリベリベリ。「ああ、お止めになって」
「ふっはっはっは。泣いてもわめいても助けなど来ぬわ。どうれ、後一枚」「ああ」ベリベリベリ。

   ヤオモテがバナナを食べようとしていると、デグチがやってくる。TPOを考えていない格好。
   ヤオモテはデグチに気づき、動きを止め、ゆっくりと、皮を戻し受付のテーブルに置く。何事も無かったかのように

ヤオモテ いらっしゃいませ。申し訳ありませんが本日は結婚披露宴のため、当会場は貸切となっております。
階をお間違えではありませんか?
デグチ あの、俺はですね。
ヤオモテ はい。申し訳ありませんが本日は結婚披露宴のため、当会場は貸切となっております。
階をお間違えではありませんか?
デグチ でも、俺は、
ヤオモテ ええ。申し訳ありませんが本日は結婚披露宴のため、当会場は貸切となっております。
階をお間違えではありませんか?
デグチ ……そうかもしれません。
ヤオモテ それではお帰りください。今日はそういう(格好の人が来る)イベントじゃないですから。
デグチ 間違えました?
ヤオモテ はい。ではお帰りください。
デグチ でも、
ヤオモテ でもじゃなくて。今日はここで披露宴があるんですよ。
デグチ うん。
ヤオモテ だから、それにふさわしい人が来るんです。
デグチ うん。入っていいかな?
ヤオモテ 帰れ! 帰れ帰れ!

    ヤオモテがいい加減切れて追い返す。

ヤオモテ まったく。食べるのが遅くなっちゃった。しかーし。果物の中で効酸化作用が強いバナナは、
ちょっとやそっと置いておいたくらいでは味に支障無いのだった。(一口食べて)うんうまい。



    と、イワイが書類を手にやって来る。

イワイ ヤオモテさん?
ヤオモテ はい?
イワイ なぜ、今、バナナを、食べてる?
ヤオモテ いや、食べようとしたら変な人がやってきて。
イワイ 変な人? まさか中に、
ヤオモテ ちゃんと「帰れ帰れ!」って追っ払ってやりました。(と、バナナを食べようとする)
イワイ よかった。話の途中でバナナを食べない!
ヤオモテ 今日のは凄いんですよ。この皮の艶。このシュガースポットの配置。凄いですよね?
イワイ いや、バナナの見た目なんてそんな変わらないよね?
ヤオモテ 全然違いますよ! どれも同じなんて思っていたら人生の半分を損しますよ。
イワイ 流石にそれは言い過ぎだろう。
ヤオモテ 少しの見た目の違いで、中身は大違いなんです。どうですこの香り。いかにも、バナナって感じですよね?
イワイ いや、ちょっと鼻詰まりで匂いわからない。
ヤオモテ 風邪ですか? もしかして、(コロナ)
イワイ 花粉症!
ヤオモテ スギですか?
イワイ そう。
ヤオモテ だったら余計にバナナがおすすめですよ。バナナの香りに含まれるオイゲノールには、
体内の免疫システムを整える効果があると言われているんです。花粉症にも効果大、間違いなし。
イワイ へぇ。凄いんだー。って、それよりも、これ。
ヤオモテ なんですか?
イワイ 今回、来て欲しくない方をまとめたリストです。
ヤオモテ どんな客ですかそれ。
イワイ どうやら今回の新郎新婦は、異性の交友関係が広かったものの、長続きしなかったようですね。
ヤオモテ 元カノ元カレってやつですか。え、これをどうしろと?
イワイ 基本的には招待状をお持ちでない方はNGです。招待状を忘れた方はお名前を聞いて、
もしこちらのリストの名前であれば、
ヤオモテ 中に通せばいいんですね!
イワイ 修羅場になるわ!
ヤオモテ そうしたら最前で見ていたいです。
イワイ 絶対に、通さないでください。
ヤオモテ フリですか?
イワイ フリじゃねーよ。いいですね。絶対に通さないこと。下手したら賠償問題になりますからね。
ヤオモテ わかりました。
イワイ あと、バナナはさっさと食べてください。
ヤオモテ はい。

    イワイが式場に入っていく。
    ヤオモテはバナナを食べながらリストを見る。

ヤオモテ こんなに付き合っても満足できないもんなんだ。……満足したから結婚するのか? 凄いな。
一人と付き合うだけでも大変なのになぁ。

    と、バナナを食べ終わる。ゴミ箱が見当たらないので、

ヤオモテ チョット捨ててきますよ~「いいですよ。」よし。OK。

    と、ヤオモテが去ろうとする。が、戻ってスマフォを手に持ち、改めて去る。
    音楽が漏れ聞こえてくる。



    ミエノがやってくる。派手な格好。毒々しい花束を持っている。
    受付に誰もいないのを見て時間を確認する。
    と、そこへスマフォで電話をしながらイワイがやってくる。思わず受付の裏に体を隠す。

イワイ (袖に)OK! 悪いね急な変更で。曲はそっちでよろしく。

    音楽が止む。

イワイ (電話に)いや大丈夫ですよ。人がいない忙しさにも慣れてきましたから。先輩は体調万全ですか? 
よかったです。今どちらに? あ、みなとみらいですか? でしたらですね、駅降りたら右手に
行ってください。はい(と、外を見る)それで、ほら、なんでしたっけ。ほら、アレが見えますよね。
ほら、でっかい奴。何たらタワー。

    と、イワイは片手でミエノに教えての合図。
    電話に集中しているため、ミエノを見ない。
    ※上演会場への駅からの向かい方によって、道順や問いかけるものは変える。

ミエノ (私か? と自分を指して)ランドマークタワー?
イワイ そう! ランドマークタワー目指してもらって。その先が桜木町ですから。線路沿いに歩いてもらって。
紅葉坂って坂道の先、桜の木が目印ですから。じゃあ、よろしくおねがいします(と、電話を切り)
写真撮影はっと……あれ、ヒサカキ近いけど大丈夫か?(と、電話をかけながら)食べましたか?
ミエノ え?
イワイ バナナですよバナナ。食べてないんですか?
ミエノ 食べてないですけど。
イワイ 披露宴までに食べてなきゃ追い出しますからね。
ミエノ バナナを食べてなきゃ駄目なんです?
イワイ 当たり前でしょう!(と、電話する)
ミエノ 当たり前って(と、言いながらバナナを探し始める)え? バナナ? どこかに?
イワイ (と、外を見ながら)あ、ササキ様。すいません。写真の方はもう? そうですか! 
よかった。ええ。ご満足いただけて何よりです。はい。では、式は予定通りに。はい。失礼します。(電話を切る)
ふう。
ミエノ あの。
イワイ (脇のファイルを見つつ)なんですか? 忙しいんだから早く食べてください。
ミエノ (と、受付に花束を置いて裏も探しつつ)ない場合は。
イワイ (と、思わず床を踏みしめ)無い分けないだろ!

   ミエノは受けつけ裏に引っ込む。

イワイ 忙しんですからあんまり怒らせないで(ください)(と、振り返り、ミエノが見えず)っていないし。

   と、電話がかかってくる。電話を見てため息をつく。

イワイ 全く次から次と……

   イワイが式場に入っていく。ミエノが受付裏から顔を出す。

ミエノ バナナか。……苦手なのになぁ……



    と、バナナの皮をもってヤオモテが登場。

ヤオモテ ゴミ箱くらいあってもいいのになぁ。
ミエノ やっぱりバナナがいるのか。
ヤオモテ え? あ。すいません。席を外しておりました。(時計を見て)ずいぶん早いですね?

    と、ヤオモテは席に座ろうとする。

ミエノ ちょっと、待って。
ヤオモテ え?
ミエノ それ、譲ってくれない?
ヤオモテ は?
ミエノ 本当は食べた方がいいんだろうけど、あたし、バナナ苦手で。
ヤオモテ いや、意味が分かりませんけど。
ミエノ 金なら出す。
ヤオモテ (バナナの)皮ですよ?
ミエノ 皮でいいの。分からない人かな。その皮をあたしが持っていればどう見える?
ヤオモテ ……バナナの皮を持っている人。
ミエノ 想像力を働かせてよ。まさか、リンゴを食べたようには見えないでしょ。
ヤオモテ 見えるわけ無いじゃないですか!
ミエノ 例えだから!
ヤオモテ え? 例えって。バナナの皮ですよ。リンゴを食べたように見えるって、どんだけ目が悪い人ですか。
ミエノ だから、見えないでしょ?
ヤオモテ 見えないですよ。バナナを持ってるのにリンゴって。え? じゃあ、リンゴの皮を持っていたら? 
バナナ? いや、案外ひねくれてて、ブドウとか。じゃあ、ブドウを持っていたらなんに見えるんですか?
ミエノ だから、見えないだろうって話をしたかったの!
ヤオモテ 見えるわけ無いじゃないですか(冷たく)
ミエノ (イラッとした気持ちを抑え)そう見えるわけ無い。でも、バナナを食べたようには見えるでしょう?

    ミエノは自分のアイデアを気に入っているように見える。

ヤオモテ はぁ。
ミエノ 分かったら譲ってくれない? 金なら出すから。いくら?
ヤオモテ いくらって言われても……ただでいいですよ?
ミエノ それはさすがに悪いから。一万でどう。(と、あっさり出す)
ヤオモテ 一万!?(と、受け取りながら)え? 皮なんですよ?
ミエノ だから、皮であることの方が重要なの。(と、受け取ると)よし。
ヤオモテ ああ、ちょっと。待ってください。
ミエノ なにか?
ヤオモテ 失礼ですけど招待状はお持ちですか?
ミエノ あー。家に忘れてきた、かもしれない。どうしよ。
ヤオモテ ……それではお名前をお聞きしてもよろしいですか?
ミエノ ミエノ。ミエノ、ミヨ。これでいい?
ヤオモテ ミエノ様……。

    ヤオモテはリストをチェックする。

ヤオモテ あ、やっぱり。
ミエノ じゃあ、入っていい?
ヤオモテ いや、そのままどうか出ていってもらえます?
ミエノ なんでよ。
ヤオモテ ミエノ様は残念ながら入れない方のリストに書いてあるんですよ。
ミエノ なんで!?
ヤオモテ そんなの私は知らないですよ。作った人に聞いてください。
ミエノ でも、LINEブロックされたし。電話も繋がらなかったから。
ヤオモテ それ、完全に嫌われているんじゃないですか?
ミエノ ここの情報を掴むのにどれだけ苦労したと思ってるの!?
ヤオモテ まず、結婚するって分かった時点で諦めません?
ミエノ 別に結婚相手とは思ってなかったから、結婚自体はいいの。なんでそれを知らせないのかがわからないだけ。
これじゃ私が振られたみたいじゃない?
ヤオモテ 振られたんじゃないですか?
ミエノ 何であたしが振られなきゃいけないの!?
ヤオモテ 私に聞かれても。
ミエノ それもそうか。彼に直接聞く。

    と、ミエノは中に入っていこうとする。慌ててヤオモテは止める。

ヤオモテ ちょ、ちょっと待ってください。
ミエノ お願い通して。お金なら出すから。
ヤオモテ いえ、それで問題起こったら困りますから。
ミエノ (と、片手を出し)でどう。
ヤオモテ ?
ミエノ 5万。
ヤオモテ え、どうしようかなぁ。

    と、そこにウラノがやってくる。



   ウラノは髪を後ろでまとめている。マスク+サングラスのせいで、だいぶ怪しい。

ウラノ 止まれ。
ヤオモテ&ミエノ え?
ウラノ 動くな。
ヤオモテ 今度はなんですか。
ウラノ 黙れ。
ヤオモテ あのですね、ここはそういうよく分からない格好の方が来るところじゃない(んですけど)
ウラノ 黙れと言った。聞こえなかった?
ヤオモテ いや、でも、
ミエノ ここはあたしに。
ヤオモテ はい?
ミエノ 良いから任せなさい。うるさいのがいなくなってから、改めて取引をしましょう。
ヤオモテ はあ。

   ミエノはバナナの皮を受付のテーブルに置き、

ミエノ さて。……いくら欲しいの?
ウラノ 黙れ。(と、ミエノを殴る)

   と、ミエノは派手に倒れる。

ミエノ な、殴った!? 見た? この人あたしを殴ったんだけど!?
ウラノ (ヤオモテに)ここはイワイさんが仕切る会場?
ヤオモテ あ、イワイさんのお知り合いですか?
ウラノ 返答はイエスorノーで。
ヤオモテ イ、イエス。
ウラノ あんたは受付?
ヤオモテ イエスイエス。
ウラノ (ミエノを指し)これは客?
ヤオモテ ノー、かなぁ。
ウラノ 了解。排除する。
ヤオモテ え?
ミエノ いや、あたしは新郎に用があるんだけど。
ウラノ 黙れ。(と、背中に回り込むと腕を捻り上げる)
ミエノ 痛い痛い! 何するの!? あたしは客よ!
ウラノ 招かれてないやつは客じゃない。帰れ。
ミエノ 嫌よ! あの人に会うまで帰るもんですか。この気持ちは何されたって変わんないんだから
(と、腕をひねり上げられ)嘘です! 帰ります! 帰らせてください!

   ウラノがミエノを放す。ミエノは痛みを堪えつつ、

ミエノ 客に向かってこんな態度許されると思ってるの?
ウラノ 客じゃないだろ。
ミエノ 覚えてろ!

   ミエノが去る。

ヤオモテ えっと。
ウラノ (と、手で制止、スマフォをかける。可愛い声で)あ、イワイくん? 今到着したよ。うん。受付にいるね。
うん。待ってる。
ヤオモテ えぇ~?
ウラノ (と、また口調が戻り、髪を下ろし)一つ忠告しておく。
ヤオモテ はい。
ウラノ (と、マスクを外し、鏡で顔を確認してから)余計な告げ口は、死を覚悟しろ。
ヤオモテ はあ?

    ウラノはサングラスを取りしまう。ガラリと雰囲気が変わる。



    イワイが現れる。ウラノの性格は激変する。(恋愛感情ではなく、お気に入りの人相手という感じで)

イワイ (と、出てきて)ウラノ先輩。
ウラノ (と、可愛く)イワイ君♪
ヤオモテ ぶっ。(と、吹き出す)
ウラノ (ヤオモテをにらむ)
ヤオモテ (と、ミエノの置いていった花束を見て)きれいな花だなぁ。
イワイ どうしたんです?
ウラノ なんでもない。ごめんね遅くなって。
イワイ いえ。急な話でしたし。来てくれて嬉しいです。
ウラノ 後輩の頼みだもの。いつだって飛んでくるよ。
イワイ ありがとうございます。ヤオモテさん。紹介します。こちら、ウラノ・アルコさん。
今日、披露宴が始まってからの警備をお願いしているんです。
ヤオモテ 警備? でもいつもは……
イワイ 昨日、発症者が出ちゃったらしいんです。
ヤオモテ あー。ここのところまた増えてますからね。
イワイ で、藁をも掴む気持ちで連絡してみたら、快くウラノ先輩が引き受けてくれまして。
ウラノ イワイくんに頼まれるなんてめったに無いからね。
イワイ こちらがヤオモテ……えっと、
ヤオモテ タツコです。
イワイ そうそう。タツコさん。
ウラノ 初めまして♪ ウラノアルコ、柔道三段空手は二段。特技は水平チョップでビール瓶の首を切ることです♪
ヤオモテ パワーワードが多すぎて全然頭に入ってこない。
イワイ 余興で男三人投げ飛ばしたりもしてましたよね。
ウラノ やめてよイワイ君恥ずかしいでしょ!

   と、ウラノがイワイを叩く。イワイが吹っ飛ぶ。

ウラノ イワイ君! ごめん!
イワイ ……いえ、大丈夫です(花を見て)誰か来たんですか?
ヤオモテ ああ。ブラックリストに載っている人が。
イワイ そうですか。追い返してくれました?
ヤオモテ ええ。それはもう、ウラノさんが……
ウラノ 仕事はしっかりしないとね!
イワイ さすが先輩。(バナナの皮を見て)やっと食べてくれたんですね?
ヤオモテ あ、はい。
ウラノ え?(何を食べたのかと興味がわく)
イワイ じゃあ、ちゃんと片付けておいてください。
ヤオモテ いや、でもここら辺にですね(ゴミ箱が)
イワイ ヤオモテさん。
ヤオモテ はい。片付けておきます。
イワイ じゃないと、(お客様に)恥ずかしいですから。
ウラノ イワイ君、恥ずかしいってなにが?
イワイ いや、いいんですよ。大したことじゃないんです。ですよね?
ヤオモテ 別に、私は恥ずかしくないですけどね。
イワイ 俺が恥ずかしいんです。
ウラノ 恥ずかしいって何!?
ヤオモテ 分かりました。きちんと片付けておきます。
イワイ じゃ、席はその受付の隣を使ってください。開場まで後少しです。良い式にしましょう!

    イワイは会場に入っていく。ヤオモテはバナナの皮をもてあそぶ。



    ウラノはイワイの後を見送ると、サングラスをかける。

ヤオモテ (イワイの行くのを見て)がんばってるなぁ。もう少し私も頑張らなきゃ駄目か。(と、伸びをする)
ウラノ 何を食べた?
ヤオモテ え?
ウラノ 何をイワイ君からもらって食べたって聞いてるんだよ。
ヤオモテ 何ももらってませんよ?
ウラノ 嘘をつけ。
ヤオモテ 嘘って。
ウラノ あのイワイ君がアレほど恥ずかしがるんだから、相当のものに決まってる。
ヤオモテ 相当って……いや、あれはですね。
ウラノ あれは!? やっぱりもらってる!
ヤオモテ いや、そうじゃなくて。
ウラノ 弁当!?
ヤオモテ はい!?
ウラノ まさか手作り弁当をもらったのか!?
ヤオモテ もらってないもらってない。
ウラノ 高校時代からずっと可愛がり続けている私ですらもらったことの無い手作り弁当を! キサマ!
ヤオモテ 誤解ですって。これ。これの話なんです。
ウラノ バナナ?
ヤオモテ そう。正確にはジャイアント・キャベンディッシュ。バナナの中でもっともポピュラーなバナナです。
ウラノ これが?
ヤオモテ だから。これを片付けておけって。
ウラノ へえ。そういうこと。
ヤオモテ そういうことなんです。
ウラノ お前は敵か。
ヤオモテ へ?
ウラノ そこまでしてとぼけるってことは、あれか? 優越感を持っているわけだ。私に対して。
ヤオモテ え。なんでそうなるんです?
ウラノ そうやって、可愛がってる後輩にお弁当をもらうことも無いかわいそうな先輩、を鼻で笑っているわけだ。
ヤオモテ いや、だから本当にバナナなんですって。
ウラノ だまそうとしても無駄。だって、これはさっきの女が持ってた物だろ。私はしっかり見てたんだよ!
ヤオモテ それはあの人が欲しがったから。
ウラノ なんでバナナなんて欲しがるんだ!
ヤオモテ バナナじゃないんです。バナナの皮!
ウラノ 余計意味分からないだろ!
ヤオモテ 私が知るわけないですよ! でもちゃんと金だって払ったし。それだけ大事だったんですよ。ほら。


    と、ヤオモテは受け取ったお金を見せる。

ウラノ 嘘もいいかげんにしろ! 皮に、いやたかがバナナに、そんな金を払う奴がいてたまるか! 
ヤオモテ たかがバナナだと!?

    ヤオモテが切れる。

ウラノ なに? バナナなんて所詮、束でいくらの果物でしょ?
ヤオモテ バナナを馬鹿にしますか? バナナは紀元前5000年頃にはもう栽培されていた、
歴史ある食べものなんですよ!? このシルエットの面白さ。皮のむきやすさ。栄養価の高さと食べやすさ。
そんなバナナを馬鹿にしますか!?
ウラノ 私、バナナ苦手だし。

10

    と、オモイがやってくる。白装束な和装あるいは白い洋装。
    脇差を包んだ風呂敷を持っている。

ヤオモテ なぜ!? なぜバナナを嫌う。
ウラノ だって形がアレに似てるでしょ?
ヤオモテ アレ? バナナがアレって何ですか!? アレって。
ウラノ アレってのはほら(と、オモイが目に入り)……誰?

   ヤオモテもオモイに気づく。

オモイ いや、邪魔をする気はなかったんだ。うむ。だが、その、うら若き乙女がする話題ではないと思うのは
私の心が汚れているからなんだろうか。

   ヤオモテとウラノは顔を見合わせる。

オモイ わからないのならいい。お気になさらず。
ウラノ お客様ですか?
オモイ ああ。早かったかな?
ウラノ ええ。だいぶ(と、ヤオモテを見て顎で受付を指示する)
ヤオモテ えっと(気を取り直し、オモイを見て)その格好は?
オモイ いや、なに。余興のためにね。うん。
ヤオモテ ああ。友人のパフォーマンスとか、なんか、そんな感じですか?
オモイ ああ。うん。まあね。そんな感じかな。
ヤオモテ 招待状はお持ちですか?
オモイ ……名前を言えば分かるはずだ。
ヤオモテ それでは、お名前を伺っても?
オモイ オモイだ。オモイキリゾウ。
ウラノ 芸名みたい。
オモイ よく言われる。お陰で本名のまま仕事をしていてもなんら支障が無い。(ウラノが首をかしげたのを見て)
ああ。私は外国の人用のツアーガイドをやっていてね。いつもは武士の格好を。
ウラノ ああ。なるほど。
オモイ 彼女と知り合ったのも、空港で外国のお客様を待っている時だった。
ヤオモテ あれ? おかしいなぁ。招待状は届いてたんですよね?
オモイ (自分の世界に浸って)私達は一目でお互いがお互いにとって必要だと言うことがわかった。
彼女は頼れる強い男を求めていたし、私は……頼れる強い制服フェチだったからね。
ウラノ げ。(と、ヤオモテを見る)
ヤオモテ もしかして(と、ブラックリストを見始める)
オモイ 彼女の愛は強く、そして熱かった。「私、いつも世界中を飛んでいるの。だから、翼が生えたのよ」そうい
 って笑う彼女の肩甲骨は冗談みたいに細かった。私達は多くの時間を過ごした。時には空港で。時にはツアー客の
 目を盗むようにして私達は会った。「ずっとここにいれたらいいのに」と、彼女は、スミレは確かにそう言った。
 そう言っていたんだ……

    オモイが泣き崩れる。

ヤオモテ あのぉ。オモイさま? 申し訳ないのですが。オモイ様は中には入れないことになっているんですよ。
……新婦の方からの希望で。本当に申し訳ないのですが。
オモイ そんなことだろうと思っていた。
ヤオモテ そうですか。
オモイ せめてここから、祝いの言葉を投げさせてもらえないだろうか?
ヤオモテ はぁ。(どうしようかとウラノを見る)
ウラノ いいんじゃない? それくらいなら。
ヤオモテ たぶん、新婦の方には聞こえないと思いますが。
オモイ それでもいい。では。

    と、オモイは一度立ち、羽織を下に引くと座りなおす。

オモイ ササキスミレよ。……新郎の名はなんというのですか?
ヤオモテ えっと……(と、調べ)カケル様です。
オモイ (うなずき)ササキスミレよ。カケルと今日結ばれる女よ。お前は鳥のような女だった。自由に空を飛ぶの
 が似合いの女だった。だからきっと、他の男の元へ三歩も歩いたその時から、私のことなぞすっかり忘れてしまっ
 たに違いない。私は長々と恨みの言葉を言うつもりも、二人を罵倒するつもりも無い。心から祝福しよう。

    と、言いながら風呂敷から脇差しを取り出し鞘から抜く。

ヤオモテ オモイさま?
オモイ この私の血によってな!
ウラノ ちょっと! 何する気!
オモイ 止めてくれるな! 武士の本懐を遂げるまでのこと。
ヤオモテ いやいや武士って。やめてください!
オモイ 私の血で濡れた会場で、永遠の愛を誓えばいいさ! それが私の祝福だ!
ウラノ それ完全に復讐だろ!

   ウラノは後ろからオモイを羽交い絞めにする。

オモイ な、何をする!
ヤオモテ えい!

   ヤオモテはバナナの皮でオモイの手をはたく。オモイの手からナイフが落ちる。

オモイ 何をする!
ヤオモテ 見たか! バナナ万能説!
ウラノ 捨てて!
ヤオモテ え、え? えっと、えい!(と、ナイフを下袖に投げる)

   ※初演時は効果音と共にスローにし、出ていない役者(デグチ)が黒子のようにナイフを受け取り去る。

イワイ声 ぐわぁああ!?
オモイ&ウラノ&ヤオモテ え?
ウラノ ……イワイくん?
ヤオモテ の、声でした?

   オモイも含め、三人が恐る恐るナイフが飛んだ方向を見る。

11

   刃物を真剣白刃取りのように掴んだイワイがやってくる。

イワイ 危なかった。危なかった。後数センチ。いえ、数ミリのとこでしたよ。え? 今日刃物が降るなんて
予報やってましたっけ?
ウラノ イワイくん!
ヤオモテ 大丈夫ですか!?
イワイ ええ。見ての通り大丈夫ですよ。ってそんなわけないでしょ! ギリギリでしたよ! だれですか? 
これ投げたの?

   オモイとウラノがヤオモテを見る。ヤオモテが手を上げる。

イワイ 習いませんでした? 刃を人に向けちゃいけませんって。
ヤオモテ 習いました。
イワイ なぜ投げた?
ヤオモテ 勢い?
イワイ そっかー勢いか〜。勢いで殺されてたまるか!
オモイ 返せ!

   と、刃物を持ったままイワイが思い切り床を踏む。
   イワイが振りかざした刃物にオモイの腰が抜ける。

イワイ (怒りを抑える声で)で?
ヤオモテ 「で」と、言いますと?
イワイ なんですかこれ?
ヤオモテ えっと。(と、ウラノを見る)
ウラノ それは……(と、オモイを見る)
オモイ ……私か?
イワイ まぁ、とりあえず、(ナイフをオモイに近づけ)コレは?
オモイ 脇差(包丁)です。
イワイ そんなことは分かってんだよ。なんで、こんなことしてるんだって聞いてる。
オモイ スミレが、その、他の男と結婚する祝福をと。
イワイ 祝福じゃないよな? それ。
オモイ だが、私の中では
イワイ 祝福じゃないよな。
オモイ ハイ。
イワイ よし、立て。(と、オモイが立ったのを見て)行け。
オモイ はい!

   オモイは逃げるように去る。が、一瞬立ち止まってイワイを見る。

オモイ あの、(と、脇差しの鞘を見せ、刃物を返して欲しそうにする)

   イワイが追うように歩く。オモイは慌てて逃げ去る。
   イワイはオモイが去ったのを確認し、途端、気が抜けたように元のキャラに戻る。

イワイ ああ。びっくりした。びっくりしましたねぇ。先輩。
ウラノ あ、はい!
イワイ ヤオモテさんも。
ヤオモテ すいません。お手数かけちゃって。
イワイ いいんですよ。初めからそれほど期待してないですから。
ヤオモテ はい。
イワイ ただ、こちらも余裕はないので。なるべく受付で問題を片付けていただけると助かります。
ヤオモテ はい。
イワイ (脇差(包丁)を見せ)これ、片付けておきますから。
ヤオモテ お願いします。
イワイ じゃあ、よろしくお願いしますね。

   と、イワイは去る。

12

ヤオモテ あ、ついでにこのバナナも……まぁ、いいか。

    と、ヤオモテは受付の椅子に座り、バナナをさりげなく飾る。

ヤオモテ よし。……大丈夫ですか?
ウラノ 呆れられた。
ヤオモテ え?
ウラノ 絶対呆れられた。せっかくヘルプに来たのに何の役にも立たない先輩だって思われた。
ヤオモテ いや、そんな事無いんじゃないですか? 
ウラノ あるの。人間、あっという間に評価下げるんだから。もうダメ。……バナナ貸して。
ヤオモテ 何に使うんです?
ウラノ バナナの皮で滑って頭打って死ぬ。
ヤオモテ そんなことに使わないでください! というか、今死なれたら式台無しですから。
ウラノ そっか。そだね。

   ウラノは椅子に座ってため息。
   と、電話が鳴る。ウラノを気にしながらヤオモテは電話に出る。
 
ヤオモテ もしもし? うん。まだ抜けられない。……ごめん。え? さすがに仮病はまずいよ。不謹慎すぎる。
いや、そりゃ、期待させたのは悪かったし。うん。ごめん。ごめんって。ごめ(と、言ってるうちに電話が切れた)

    ヤオモテは思わずため息をつく。

ウラノ 彼氏?
ヤオモテ まぁ、はい。
ウラノ 仮病って?
ヤオモテ その、今日、会う約束してたんですけど、忘れてシフト入れちゃって。本当は適当に途中で抜けるつもり
だったんです。首になってもいいかなぁって勢いで。怒られて「帰れ」とでも言われたらそのまま帰るつもりで。
でも、無理じゃないですか。人いないし。だけど、分かってくれなくて。
ウラノ 大変ね。付き合っているのも。
ヤオモテ まぁ。
ウラノ 私には彼氏なんていないけど。
ヤオモテ イワイさん一筋だったわけですか?
ウラノ イワイ君はそういうんじゃないから。
ヤオモテ 違うんですか?
ウラノ マスコットキャラ的な? なんか、あるでしょ。そういうの。お気に入り的な。

ヤオモテ ちょっとよくわかんないです。
ウラノ あんのよ。愛には色々と。……嫌われたけど。
ヤオモテ いや、大丈夫ですって。多分。
ウラノ そこは「絶対」って言ってよ。
ヤオモテ すいません。

   結婚式特有の音楽が流れてくる。
   ヤオモテはふと、音楽を気にする。ウラノは立って窓から外を見る。

ヤオモテ (独り言)結婚かぁ。
ウラノ 何か言った?
ヤオモテ 何でもありません。
ウラノ そう。(独り言)あ、ここからもサクラ見えるんだ。
ヤオモテ え?
ウラノ なんでもない。

    ウラノは外を見たまま、胸ポケットに入れていたサクラの枝を取り出す。
    ヤオモテは結婚について考えている。

ウラノ (外の桜を見て)素敵よね。
ヤオモテ (結婚式のことだと思って)ですよね。(と、独り言として)結婚なんて出来るのかなぁ。
ウラノ 若々しくて(と、桜の枝を見る)すごい奇麗。
ヤオモテ そうなんですね。(新婦を)見てないですけど。
ウラノ え? 見てないの?
ヤオモテ はい。
ウラノ 凄かったよ。近くで見るとまた一段と。
ヤオモテ でしょうね。
ウラノ ピンク色でキラキラしてて。
ヤオモテ ピンクでキラキラかぁ……えー。派手だなぁ。
ウラノ 風が吹くとね、(花びらが)ひらひらって。
ヤオモテ (踊っている姿を想像して)へえ。ずいぶん陽気なんですね。
ウラノ あんまり綺麗だったからちょっともらってきちゃった。(と、サクラの枝をひらひら。ウラノには見えない)
ヤオモテ ……は? 駄目ですよもらっちゃ!
ウラノ え? (と、思わず枝をしまい)だって綺麗だったから。
ヤオモテ せっかくの衣装なんだから。
ウラノ 衣装か。そうよね。衣装よね。ある意味。
ヤオモテ ある意味もなにも。
ウラノ しかたないじゃん綺麗だったんだから。まあ、シャシャキは臭かったけど。
ヤオモテ シャシャキ? (と、リストを見てぼそりと)あ、ササキか。
ウラノ そう。
ヤオモテ 臭いんですか?
ウラノ 結構臭ってた。イワイくんも、匂いは苦手ってよく言ってたなぁ。
ヤオモテ そうなんですか。

   と、また微妙な間。

ウラノ よし。元気出すか!
ヤオモテ なんですかいきなり。
ウラノ 関係ないよね。呆れられても、嫌われても。あたしの気持ちは変わらないんだから。
ヤオモテ いや、一歩間違えるとさっき来た人たちみたいな迷惑な存在に(なりそうな気もしますけど)
ウラノ 関係ないの! 気持ちが大事! 人が元気出そうとしているんだから茶化すな!
ヤオモテ ですよね。
ウラノ というわけで、トイレ。
ヤオモテ どういうわけです?
ウラノ 嫌な気持ち全部流してくる。

   ウラノが去る。

ヤオモテ 気持ちが大事か。(スマフォを見て)あたしの気持ちはどうなんだろうねぇ。
(と、式場を見て)ササキさん、臭いのか。



13

   イワイがやって来る。

ヤオモテ (と、気づいて)あ、大丈夫ですよ。問題ありません。
イワイ そう何度も問題があっても困るよ。ウラノ先輩は?
ヤオモテ トイレです。
イワイ そっか。えっと、どう、でした?
ヤオモテ 「どう?」ですか?
イワイ ウラノ先輩、引いてませんでした?
ヤオモテ 引いて? うーん、そこは(別に)
イワイ いや、分かる。引きたくなるのは。自分でもあそこまで怒るつもりはなくて。でも、
今日は色々と立て続けで起こっているせいでイライラが溜まったと言うか。
あ、べつにヤオモテさんだけのせいではなくてですね。色々あるんですよ。
ヤオモテ はぁ。え? 私のせいでもあるんですか?
イワイ 自覚ないなら良いです。それよりも、ウラノ先輩は大丈夫そうでしたか?
ヤオモテ まあ。「気持ちが大事!」って叫んでましたから。
イワイ なんですそれ?
ヤオモテ さぁ?
イワイ まあ、元気そうなら、良かった。
ヤオモテ もしかして好きなんですか?
イワイ え?
ヤオモテ ウラノさんのこと。
イワイ 全然? いや、嫌いじゃないですよ。でも、多分、ヤオモテさんの言いたいような「好き」ではないな。
なんか、先輩後輩として? 仲良くしていたいなというか。嫌われたくはないなという感じ?
ヤオモテ そうですかぁ。(と、あからさまにがっかりする)
イワイ え、なんでそんながっかりしてるの?
ヤオモテ いや、ウラノさんも似たようなこと言ってたので。イワイさんの片思いなら面白いのになって思って。
イワイ ひどいな君は!
ヤオモテ それほどでもないですよ。
イワイ 褒めてないからね? ま、恋愛はしばらくいいなぁ。
ヤオモテ そうなんですか?
イワイ この仕事やっているとさ。なんか、色々考えちゃうから。
ヤオモテ 色々?
イワイ ヤオモテさんが話してくれたバナナじゃないけどさ。同じような式に見えても違うからね。百組カップルが
いたら、百通りの生き方があって、式があって。入社する前はさ、結婚式って、絶対幸せの頂点にあるものだと
思ってたんだよ。
ヤオモテ 違うんですか?
イワイ 違うよ。本当に。人それぞれ。そうやっていくつものカップル見てるとさ、付き合うこととか、
付き合った後とか、色々わからなくなるんだよね。だから今はもう少し仕事だけでいいかなぁと。
誰かとの時間より、自分だけの時間を大事にしたい……なんて、ちょっとクサイか。
ヤオモテ いや、クサイというか、急に何って引きました。
イワイ 本当ひどいな君は!
ヤオモテ あ、くさいで思い出したんですけど。
イワイ フォローもなしか。
ヤオモテ 花嫁さんって匂うんですか?
イワイ は? え!? なんで?
ヤオモテ ウラノさんが。ササキが臭かったって。ササキって花嫁さんですよね?
イワイ 今日鼻詰まってるから……ちょっとスタッフにも聞いてみる。本当なら大変だ。
ヤオモテ ですよね。

   と、イワイが慌てて去る。

ヤオモテ 自分だけの時間か。でもやっぱり一人はなぁ……


14 仕事というもの。

   ウラノが両手に飲み物を持ってやってくる。

ウラノ どしたの。落ち込んじゃって
ヤオモテ なんでもないです。早かったですね。
ウラノ うん。ついでに飲み物買って来た。飲む?
ヤオモテ いただきます。って炭酸か。
ウラノ 炭酸苦手?
ヤオモテ ちょっと。
ウラノ と思っておしるこも買っておいた。
ヤオモテ 余計いらないです。
ウラノ おいしいよ?
ヤオモテ そういう問題じゃない……。

   ミエノがやってくる。バナナを束で持っている。

ウラノ また来たのか。
ヤオモテ ここは、私が。
ウラノ 大丈夫?
ヤオモテ 受付ですから。任せてください。

   ミエノの道を遮るようにヤオモテが立つ。

ヤオモテ ミエノさん、でしたね。それどこのバナナ!?
ウラノ そこかよ。
ミエノ 買った。
ヤオモテ 買った、だと? それは紛れもなく、アポ山PS(ぴーえす)!
ウラノ 分かるのか。てかなにその変な名前。
ヤオモテ 何が変か! アポ山PSは、フィリピン・ミンダナオ島にあるフィリピンの最高峰アポ山、
標高3144mの中腹約800メートルの地点で栽培された高原バナナのことですよ!
ウラノ PSは?
ヤオモテ プレミアムスーパーの略です。
ウラノ でも、バナナでしょ?
ヤオモテ 一本1000円位します。
ウラノ 高っ。バナナのくせに!
ヤオモテ だからバナナを差別するな!
ミエノ これで、中に入れるのよね?
ヤオモテ ? 入れませんけど?
ミエノ どういうこと!?
ヤオモテ え、どういうことです?(と、ウラノを見る)
ウラノ 私にふらないでよ。
ミエノ バナナがないと入れないんでしょ!? 持ってきたから入れて!
ヤオモテ いつからそんな話に?

   と、風呂敷を持ったオモイがやって来る。

オモイ バナナがあれば入れるのか!?
ミエノ 誰!?
ヤオモテ また来た。
ウラノ 無駄に熱心だな。
オモイ (と、ミエノに)頼む! 私に一本!
ミエノ なんであげなきゃいけないのよ。
オモイ 取り返さなきゃいけないものがあるんだ。(と、風呂敷を握りしめる)
ミエノ 取り返す?
オモイ 私にとって、命の次に大切な。(と、風呂敷から鞘だけ取り出す)
ヤオモテ (と、鞘を見て)あ。
ウラノ イワイくんが持ってっちゃったっけ。
ミエノ わかった。この際味方は多いほうが良いし、分けてあげる。一緒に乗り込みましょう。(と、バナナを渡す)
オモイ (と、重々しく受取り)御意。
ミエノ バナナは1人一本あればいいわよね?
ウラノ いや、バナナ関係ないから。
ヤオモテ むしろ一本私にください。
ウラノ あんたのその発言が、無駄な混乱を作ってるんじゃない?
ヤオモテ 失礼な!
オモイ (と、ヤオモテに)渡したら通れそうだ。
ミエノ あなたに渡せばいいの?
ヤオモテ ぜひ。
ウラノ だから、無駄な混乱を作るな!(と、ヤオモテを止める)
ヤオモテ 離せ!
オモイ 今のうちだ。
ミエノ そうね。
ウラノ させるか!

   と、イワイがやって来る。「通せ!」「させるか!」「バナナ!」「あげたら通すか!?」「どうしよう」「悩むな!」等

イワイ なんですかこの騒ぎは!
ウラノ イワイくん!
オモイ (と、イワイに気づくと)返せ! 私のを返せ!
ウラノ (とい、慌てて抑えて)ちょっと、暴れないで!
ヤオモテ あ、バナナ私にも一本ください。
ミエノ 通すのと引き換えなら?
ヤオモテ どうしようかなぁ。
イワイ 皆さん落ち着いて! ねえ、一回落ち着きましょう。落ち着いてください! 落ち着けっ!!!

   と、イワイの全力の怒声に皆思わずピシリとする。
   デグチがやってくる。招待状を持っている。

ヤオモテ あ、さっきの変な人。
デグチ どうも。
ヤオモテ いや、だから、ここはですね。

   と、デグチはヤオモテが止める前にイワイに招待状を渡す。

デグチ これ。
イワイ はい。……デグチ様ですね。ようこそいらっしゃいました。(と、受付に向かい)こちらにご記入ください。
デグチ (と、ご祝儀袋を出し)この度はおめでとうございます。
イワイ (と、受け取って)ありがとうございます。あちらがウェルカムドリンクコーナーとなっております。
お時間までどうぞお寛ぎください。
デグチ はい。(と、ヤオモテを見る)今日は、そういう人のイベントじゃない、だっけ?
ヤオモテ 嘘。
デグチ ふさわしい人が来る? とかも言ってたっけ。
ヤオモテ いや、だって、
デグチ 言わないの? 帰れって。
ヤオモテ あ、その、(すいませんでした)
イワイ (と、ヤオモテの状況を察し)申し訳有りませんでした!

   と、イワイがヤオモテを守るように頭を下げる。

デグチ 別に、あなたに謝ってほしいわけじゃないんだけど。
イワイ 受付を任せた時の、私の配慮が足りてなかったようです。せっかくの式にご不快な思いをさせてしまい、
大変申し訳有りません。
ウラノ 申し訳有りません!

   二人のあとに、ヤオモテも慌てて頭を下げる。

デグチ ……入っていいんですよね?
イワイ もちろんです。どうぞ。

   デグチが去る。

ヤオモテ すいません(お客さまだったなんて)わからなくて。
イワイ 招待状、確認しなかったんですね?
ヤオモテ はい。
イワイ 色々な格好の方がいます。見た目で判断するのはやめましょう。
ヤオモテ でもあれは流石に……いえ、あの、ありがとうございます。
イワイ 仕事ですから。さ、もうお客様も来られる時間のようですし。ヤオモテさんは受付について。
ヤオモテ はい。(と、受付に向かう)仕事、か。
イワイ あなた達2人は、別室でゆっくりお話しましょうか?
ミエノ 別に話なんて無いけど?
オモイ 私は私のものを返してもらえればそれでいい。
イワイ そういうのも後で聞きます。(と、ウラノに)お願いしても?
ウラノ 任せて! その代わりに後で私にお弁当ね。
イワイ え? なんでお弁当?
ウラノ ほら、あんたたち。行くよ。

   と、ウラノが2人を引っ張っていこうとする。イワイのスマフォが鳴る。

イワイ はい。……なんだって!? わかった。すぐ行く。

   と、電話を切るイワイ。

ウラノ どうしたの?
イワイ スタッフが匂いについて話しているのを新婦が聞いちゃったらしいんです。
デリケートな問題だから気をつけてって言っておいたのに。
ウラノ 匂いって?
ヤオモテ もしかして、花嫁さんの?
イワイ (と、頷いて)俺はわからなかったけど。本当だったら困ると思ってスタッフに聞いたんです。
ヤオモテ それを新婦が聞いてしまったわけだ。
ウラノ なにそれ? 新婦って臭うの?
イワイ ウラノさんが言ってたんじゃないんですか?
ウラノ あたしが?
ヤオモテ 言ってたじゃないですか。ササキが匂うって。
ウラノ シャシャキがね?
ヤオモテ だからササキですよね。花嫁さんの。
ウラノ ちがうよ。シャシャキ。サクラの隣に生えてるやつ。
ヤオモテ え?
イワイ もしかして、ヒサカキのことですか?
ウラノ あ、そうとも呼ぶんだっけ? この時期匂うよね?
イワイ 確かに、サクラの横に植えてありましたね。ヒサカキの木。
ヤオモテ だって、桃色で綺麗だって。
ウラノ サクラがね。衣装ともいえるなぁって言ったよね?
ヤオモテ ……嘘ぉ。
イワイ これは……
オモイ つまり?
ミエノ 決まってる。
ミエノ&オモイ ざまぁ!(と、2人で笑いだす)
ウラノ え? もしかして、花嫁さんに言っちゃったの? 臭いって? それは傷つくでしょ。
イワイ 大変だ。(と、走り出す)
ウラノ イワイくん! この2人は?
イワイ お任せします! とにかくフォローしないと。ヤオモテさん。受付、頼みましたよ。
ヤオモテ あ、はい!

   イワイが走り去る。

ウラノ ほら、行くよ。(笑っている2人に)いい加減笑うのはやめれ!

   と、ウラノはミエノとオモイを連れて去る。

ヤオモテ そして誰もいなくなったと。もう、やるっきゃないよね。仕事、だし。

   ふとスマフォを見る。そして、電話を掛ける。

ヤオモテ 私。うん。終わりそうに無いかな。これからが本番みたいなものだし。……仕方ないでしょ? 
頑張んなきゃって思っちゃったんだから。いや、確かに私が悪いんだけど。そこは、応援しろよ。
お前さ、あたしのことが好きなんだろ!? ……うん。ありがと。じゃあ、また終わったら電話する。
……バカ。そんなの、あたしもだし。

    スマフォを切り。ちょっと照れて。

ヤオモテ まぁ、色々と、頑張りますかね。

    ヤオモテは受付を整える。幸せそうな音楽と共に暗くなっていく。



あとがき

コロナをきっかけに考え方が変わったものはいくつもありますが、
結婚式に関わることなんかもその中に入るんじゃないかと思います。
結婚式の受付+バナナというシチュエーションは変わってないものの、
なんとなく作品の空気が以前とは違うような気がしながら改変していました。
季節の違いだけでなく、経年による変化を楽しんでいただければ幸いです。

それにしても、久々に書き直して上演した時にやっちゃったなぁと思ったのが、
自分では想定外のバナナの不人気さ。上演時の役者の半分がバナナ嫌いという……
「なぜそこまでバナナを嫌う」がリアルに起こっていて頭を抱えたくなりました。
食べ物の好き嫌いが自分に無いので、無意識に押し付けてしまうこともあるなと反省しきり。
とはいえ、作品書く前に「ねえ、アボガドって好き? ……え? アボカドなの!?」
なんて会話は中々しないものですよね。食べ物が出てくる話だいぶ好きなのですが、
難しいなぁと思ったりした出来事でした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。