空×虹
作 楽静


登場人物

トモ  17歳 高校二年生 引っ越す少女。
サトル 男 20歳 大学二年生 トモの兄。
マコト  17歳 高校二年生
ヒヨノ  16歳 高校二年生
イズミ  17歳 高校二年生
アキラ  17歳 高校二年生
ナナ  18歳 高校三年生

※登場人物たちは、最終シーン(15)でそれぞれ1色ずつ、虹の構成色を着ていました。
※初演時のナナのコスプレは出てくる順番に巫女→メイド→ナース→黒服→チャイナ(赤)でした。






     客席が暗くなるとともに、雨音。
     闇の中、舞台の幕は静かに上がる。

1 駅前 昼近く

     曇天。
     少女が一人立っている。吉田トモである。
     軽装。傘を差さず、雨に打たれている。
     誰かを待っているように、どこかをじっと見ている。
     夏なのに、どこか寒そうに両手で体を抱く。

     サトルが現れる。
     雨が降っている事に気づいて、傘をさす。


サトル 次、○時10分だってさ。それ逃がしたら、乗り換え面倒になっちゃうから、次のに乗るぞ。

トモ ……

サトル 父さん達今から出るってよ。「どっちが先に着くか競争だな」て。
    はしゃいじゃってんの。あれだよな。「子の心親知らず」だよな。

トモ ……

サトル そういえば親知らずって、カタカナで書くと、敵の名前みたいだよな。
    怪人、オヤシ・ラーズみたいな。必殺技、オヤシ・ラズーン!みたいな? 
    好きな食べ物、シラ〜ス。神出鬼没で、正体を誰も知ら〜んす。なんてな! HAHAHA!

トモ お兄ちゃん。

サトル うん?

トモ 寒い。

サトル だろ! だから傘をさせって言ったじゃないか。体冷えたんだよ。ほら


      と、サトルは傘を差し出す


トモ いいよ。

サトル そうか? そうか…… しっかし遅いな。来るはずなんだろう?

トモ さぁ。

サトル さぁって……なんだったら別に出発の時間くらい遅らせたって(いいんだぞ)

トモ お兄ちゃん。

サトル うん?

トモ 行こう?

サトル いいのか?

トモ このままじゃ、風邪引いちゃうでしょ。

サトル そうか。


     サトルが先に歩き出す。
     トモが歩き出す。
     ふと、声が聞こえた気がして振り返る。


サトル どうした?

トモ ううん。なんでもない。

サトル そっか。


     サトルが去る。
     トモは目を閉じて、奇跡を願うようにつぶやく。


トモ さよなら。みんな、ごめんね。


     音楽が高まる。
     暗転


2 数日前 とある高校 体育館


     突然明るい音楽とともに、客電がつく。
     そして、観客席側からナナを筆頭に、アキラ、ヒヨノ、イズミが現れる。


ナナ こんにちは〜。演劇部です!

アキラ 失礼します。

ヒヨノ 失礼しまーす。

イズミ っす。

ヒヨノ うわっ。あっつーい。

アキラ いきなり失礼なこと言わない。

ヒヨノ だって。ね?

イズミ ああ。

ヒヨノ 『まるで灼熱地獄だ』って。

アキラ 本当にそんなこと言ってたの? 今の一言で?

ヒヨノ うん。

ナナ あ、バレー部の部長さんですか。顧問の先生から聞いていたと思うんですけど。ええ、
  舞台を。あ、緞帳閉めますんで、全然迷惑にはならないと思いますから。(アキラに)ね?

アキラ はい。

ナナ ってことで、失礼しま〜す。アキラちゃん。緞帳お願い。

アキラ はい。


     アキラが舞台の上に上がる。


ヒヨノ 先輩。あたしは何しますか?

ナナ じゃあ、ヒヨちゃんは、

アキラ 先輩、これ、どっちに引っ張るんでしたっけ?

ナナ ああ、それはね、確か右手で引っ張るとしまるんだよ。


     ナナが言いながら上る。


ヒヨノ 先輩〜あたしは?

アキラ なんですか、右手って、

ナナ (ヒヨノに)準備体操!


     アキラとナナが袖に隠れる。


ヒヨノ はーい。ねぇ、イズミ


     ヒヨノは舞台に上がりつつ、


イズミ うん?

ヒヨノ 緞帳閉めたら、余計暑くなるよね?

イズミ ああ。


     イズミも舞台に上がりつつ、


ヒヨノ よし。今日もがんばろうっか

イズミ おう。


     と、客席が暗くなると同時に
     舞台は明るくなる。





     アキラとナナが袖から出てくる。

アキラ 向かって右なら、向かって右って言ってくださいよ。

ナナ だから、右手でしょう? 去年もやったじゃない。

アキラ だって、体育館なんて文化祭ぶりですから、って、(ヒヨノに)なにやってるの?

ヒヨノ 準備体操。

イズミ そう。

アキラ なんで舞台の準備しないで体操してんのよ。

ナナ そうだよ。ヒヨちゃん。まずは、心臓から遠いとこを伸ばしていかなきゃ。

ヒヨノ あ、そうか。

アキラ そうかじゃなくて。

※以下の場面は同時進行
舞台の上

ナナ そうよね、ほら、イズミも体操やるんだったら、
   あたしも一緒にやるから。ね、

アキラ だからそうじゃなくて、

ヒヨノ アキラちゃんはやらないの?

ナナ え! やらないの? だめよ、そんなの!

アキラ だから、そうじゃなくて! 

ナナ 準備体操って言うのはね、体とのキャッチボール
   なんだから!真剣にやらなきゃだめよ。

アキラ ……もういい。

ヒヨノ あ、いじけちゃった。

イズミ だな。

ヒヨノ 本当。すぐいじけるよねぇ。

ナナ  ねぇ。
客席からマコトとトモが現れる

マコト 失礼します。

トモ あ、ほら、やっぱり。緞帳もうしまっちゃってるよ。

マコト まぁそうだろうと思ってたから。大丈夫。

トモ ごめんね。待たせちゃって。

マコト 何言ってんの着替え遅いのはいつものことでしょ。

トモ ごめん。

マコト だから気にしてないって。気にすんな。

トモ じゃあ、気にしない。

マコト それもどうかと思うけど、

トモ お先!

マコト あ、待て!


     トモが袖に入る。
     マコトが追いかけて去る。

トモ すいません遅れました。

ナナ あ、遅いよ〜。


     ナナは言いつつ、準備体操をしている。


マコト すいません。

トモ マコトが遅くって。

マコト って、おい!

トモ え?

マコト 「え」じゃないでしょ。何であたしのせい。

トモ だって、気にするなって。

マコト 言ったけどさ。

トモ だから。

マコト だからじゃないでしょ。って、アキラ、何やってるの?

アキラ 見てわからない?

マコト ごめん。わからない。

ヒヨノ アキラちゃん、いじけちゃってるの。

マコト&トモ え? なんで?

ヒヨノ ね?

イズミ ああ。

ヒヨノ 『アキラちゃんだから』って。

マコト イズミ、いい加減自分で話すようにしたほうがいいよ。第一、それ説明になってないでしょ。

イズミ めんどい。

ヒヨノ 『めんどくさい』って。

マコト いや、それはわかった。

トモ (アキラに)どうしたの?

アキラ 一年の時はヒヨノもかわいかったのにね。

トモ え、なにそれ。

アキラ 一年で人間って変わるんだなぁって思って。

ヒヨノ 変わったかなぁ。

マコト いや、この場合は変わったわけじゃないんじゃない?

アキラ でも、一年の時はもう少し大人しかったと思わない?

マコト 猫かぶってたから。

アキラ 猫かぶってたのか。

マコト 猫かぶってたよ。

トモ 猫かぶってたね。

イズミ ああ。

ヒヨノ そんなことないよ! ねぇ、先輩? ……先輩?


     ナナはどこか嬉しそうに皆を見ていた。


ナナ あ、ごめん。いいなぁ。って思って。

アキラ 猫かぶりが、ですか?

ナナ じゃなくて。いいね、仲間って。

アキラ はぁ。

ナナ こういうの見ると、演劇部をネタにした舞台を作りたくなるよね!

ヒヨノ じゃあ、今度やってみましょうよ。

イズミ ああ。

ナナ そうだね。秋の文化祭にでも。

トモ 文化祭か。

マコト 懐かしいねぇ。もう一年以上前なんだね。

トモ うん。

ナナ そう。光陰は矢の如し、なわけよ。でもね、みんなこれだけは覚えておいて、
  (『少年老いやすく学成り難し。なれど、夢あきらめざらんば、即ち叶わん』夢破れて
  山河ありだろうと、地を耕せば田畑なり。人集まれば、村なり、町なり、文化なり。
  この一歩は私にとっては小さな一歩かもしれないが、人類にとっては大きな一歩で
  あるという。その意味。つまりはどんな小さなことからも必ず偉大なる結果が
  できるであろうと、そのことを、忘れてはいけないのである。)


     タイミングを見計らったかのように放送が流れる。
     ナナの言葉は、放送にかき消される。


NA 演劇部の部長さんは職員室まで来てください。繰り返します。
  演劇部の部長さんは職員室まで来てください。

ナナ ……行ってきます。

他全員 行ってらっしゃい。


     ナナが去る。


アキラ 演劇部が呼ばれるなんて珍しいねぇ。

マコト 見学者でも来たのかな?

ヒヨノ ね。

イズミ うん。

トモ だったらいいけど、(突然)ひゃあ!

ヒヨノ トモちゃん?

マコト どうしたのよ?

トモ ごめん。携帯、バイブにしてたの忘れてた。ちょっと出てくるね。


     と、トモが去る。


ヒヨノ いきなり振動してびっくりすることってあるよねぇ。

イズミ どこに入れてたんだろうな。

アキラ ……あんた、そういうことだけはしっかりしゃべるのね。

イズミ 気になるだろ。

アキラ そりゃなるけど。

イズミ むっつりだな。

アキラ なんでよ!

マコト (袖に)トモ、大丈夫?

トモ (袖から)大丈夫〜お兄ちゃんからだから〜。

イズミ だな。

ヒヨノ だね。

マコト なによ。

ヒヨノ 過保護だなぁって。

アキラ 確かに。

マコト うっさい。まぁ、とりあえず、先輩戻ってくるまで何かやろうか。

ヒヨノ なんかって。

マコト そうねぇ。たとえば、ジップザップ!


     一斉に目をそらす面々。


マコト え、なにこれ。いじめ?

イズミ 別に。

アキラ ジップザップはいいんじゃない?

マコト そう?

ヒヨノ アキラちゃんが、いじけちゃうからね~

アキラ ヒヨノ!

マコト え、なんでなんで?

アキラ あれはあんたが悪いんでしょ!

マコト どういうこと?

ヒヨノ こないだ、三人しかいないときがあってさ。

マコト うん。

ヒヨノ だからジップザップやったら、アキラちゃん、怒っちゃって。

マコト え、意味がわからない。あれだよね、ジップザップって。右にいる人に回す時が、

ヒヨノ ジップ。

マコト 左が、

アキラ ザップ。

マコト それ以外に飛ばす時が、

イズミ ボーイング。

マコト だよね。そういうゲームだよねぇ。え、それでなんで怒るの?

アキラ とにかく、やってたわけよ。


     三人が輪を作る。


ヒヨノ ザップ

イズミ ザップ

アキラ ザップ

ヒヨノ ザップ

イズミ ザップ

アキラ ザップ

ヒヨノ ザップ

イズミ ザップ

アキラ ジップ

イズミ ザップ

アキラ ……ザップ

ヒヨノ ザップ

イズミ ザップ

アキラ ジップ

イズミ ザップ

アキラ ……ザップってやってられるか! 


     アキラは体育館隅に丸くなる。


ヒヨノ (マコトに)いじけちゃった。

マコト 変なことで怒るからね。

ヒヨノ ね。

トモ(声) だから、来ないでって行ってるでしょ!

イズミ あっちも、だな。

ヒヨノ トモちゃんが怒鳴るなんて珍しいね。

マコト ……大丈夫かなぁ。なんか面倒に巻き込まれてなきゃ良いけど。

ヒヨノ 面倒って?

マコト 何か買ってきて〜とか。回覧板回しておいて〜とか。

ヒヨノ 優しいもんね。トモちゃん。

マコト 人が良すぎるのよ。中学の時からずっとだから。

ヒヨノ そうなんだ?

マコト 頼まれたら嫌と言えないのよね。

ヒヨノ じゃあお姉ちゃんは大変だ。

マコト まったくそのとおりよ〜。って誰がお姉ちゃんよ。

アキラ 何やってるのよ。

マコト え?

アキラ やるんでしょ? ジップザップ。

マコト ああ、うん。やるんだ。

アキラ やるわよ。

ヒヨノ じゃあ、やろうよ。イズミも。

イズミ うん。


     そして、四人は輪になる。始まるジップザップ。


アキラ ザップ

イズミ ザップ

ヒヨノ ボーイング(アキラに)

アキラ ザップ

イズミ ザップ

ヒヨノ ボーイング(アキラに)

アキラ ザップ

イズミ ザップ

ヒヨノ ボーイング(アキラに)

マコト っておい。

アキラ ザップ なに?

マコト 何故私に回さない?

アキラ ザップ ヒヨノに言ってよ。

マコト ヒヨ〜?

ヒヨノ なに?

マコト ボーイング以外も使ったら?

ヒヨノ あ、そか。ジップ。

イズミ ジップ

アキラ ザップ

イズミ ザップ

ヒヨノ ボーイング(アキラに)

マコト なんじゃそりゃ! お前らそんなにあたしが嫌いか!

アキラ ほら。

マコト なにが!?

アキラ 頭にくるでしょ?

マコト 確かに。(ヒヨノに)お前が悪い!

ヒヨノ そんなことないよ、ねぇ?

イズミ うん。

マコト イズミはヒヨに甘すぎるのよ。

アキラ 絶対こいつ、腹の中で笑ってるから。

マコト 笑ってるね。

イズミ え?

ヒヨノ そんなことないって。

マコト いーや、絶対笑ってる。ね?

アキラ そういうタイプよ。

ヒヨノ え〜。


     と、そこにナナがやってくる。


ナナ ただいま〜。

ヒヨノ 先輩〜


     と、ヒヨノがナナに抱きつく。



ナナ お、どうしたどうした。寂しかったの?

ヒヨノ イジメです。

ナナ イジメ!?

ヒヨノ あたし、イジメられました!

ナナ 誰に?

ヒヨノ あの二人にです。

マコト 苛めたらしいよあたしら。

アキラ 間違いなく、あの子のほうがいじめだったと思うけど。

ナナ なにがあったの? イズミ。あんた見てた?

イズミ ん。

ナナ え?

イズミ だから。

ナナ えぇ!?

イズミ てわけ。

ナナ そんな酷いことを!?

マコト よくわかりますね先輩。

ナナ わかんないよ?

アキラ わからないのかよ。

ナナ そう。ヒヨちゃんも辛かったでしょう? でも、良くぞ耐えたわね。

ヒヨノ はい。

アキラ 耐えるも何も、

ナナ あたしが来たからにはもう大丈夫よ。あなた達、この子をいじめるなら、
   まず私を倒してからにする事ね。さぁ、私を倒してみなさい!

マコト どういう話になっているんだか……。

ナナ こないなら、こっちから行くわよ!

マコト いや、先輩だから、

トモ(声) だから、来るなって言ってるだろ! いいから来るな! 
   来ても会わないからね!……じゃあね! 私部活あるから!




     と、言いながらトモが電話を片手に出てくる。


トモ あれ? どうしたのみんな。

ナナ そんな全力で「来るな」って言うことないじゃん!


     ナナがいじける。


トモ え?

ナナ 「こっちから行くよ」って言ったら、「これるものなら来てみろ!」
   とか、そういう返し方が普通じゃない?(なんかぶつぶつ言っている)

トモ え、(マコトに)どういうこと?

マコト まぁ、いつものことだから。

アキラ (ナナに)先輩、元気出してください。大丈夫ですよ。嫌われてないですから。

ナナ うん。アキラちゃんだけだよ。そう言ってくれるのは。

アキラ はは本当みんなひどいですよね。

ナナ よーし。元気出すぞっと。

アキラ 切り替え早っ

ナナ あ、ヒヨちゃん、体育館の外に人いると思うから呼んできて。

ヒヨノ はーい。(イズミに)行こう?

イズミ うん。

ヒヨノ 行ってきま〜す。

マコト&アキラ&ナナ 行ってらっしゃい。


     ヒヨノとイズミが去る。




アキラ よかった。回復早くて。

マコト (トモに)塾入れとか?

トモ え? なにが?

マコト 夏休みに部活ばっかりやってるなよ〜って、電話じゃないの?

トモ ああ、違う違う。

マコト そっか。うちはうるさいよ〜毎日小言ばっか。

ナナ なんで? 皆まだ二年生じゃん。

マコト だからですよ。

アキラ 先輩、今更ですけど、大丈夫なんですか?

ナナ 何が?

アキラ 『何が』って

マコト 先輩、三年生じゃないですか。

ナナ ああ。大丈夫だよ〜。

アキラ 本当ですか?

ナナ それよりほら、このメンバーでやれるのも今年で最後なんだしさ。
   しっかりいい思い出作りたいじゃない?

アキラ まぁ来年は、部活自体無さそうですからね。

マコト 一年、入ってこなかったからなぁ。

ナナ 秋になったら入ってくるかもよ。

マコト そんなこと過去あったんですか?

ナナ んー。でも、文化祭には来年の一年生候補も見に来るから。
   もちろん、地区大会もだけど。

マコト じゃあ、まだチャンスはあるってことか。

アキラ そうね。

ナナ そうよ〜。頑張らないと駄目なんだから。

マコト 頑張るっきゃないかぁ(トモに)ね?

トモ え?

マコト 「え」?

トモ え?

マコト いや、じゃなくて。どうしたのあんた?

トモ なんでもないよ? 

マコト なんかあった?

トモ ううん。何も無いよ?


4 

     と、イズミに腕を後ろ手につかまれて、サトルがやってくる。


サトル 痛い痛い痛いって、だから誤解だって言ってるでしょ。

イズミ 先輩。

ヒヨノ 不審人物を見つけました。って。

ナナ あれ? なんで?

イズミ だから。

ヒヨノ 「いきなり、ヒヨノに飛びかかろうとしたから」って。

マコト&アキラ はぁ!?

サトル 違う! ただ、可愛い子には、それなりに、きちんと挨拶をだね、
    しようって思うじゃないか。思うだろ? 思うんだよ。だからって、
    変なことを考えていたわけじゃないぞ。だから、こんなふうにされるの
    は、ひどいんじゃないかなぁって、思うんだけど。

ナナ まぁ、でも、実際犯罪は駄目よねぇ。どうする? 先生に言う?

サトル そんな! 君、さっきまでニコニコと話してただろ。

ナナ でも、あなたのこと、良く知りませんし。

サトル だから、吉田だって。吉田サトル。あ、(ヒヨノに)20歳。大学2年生の吉田サトルね。

ヒヨノ 吉田? 

同時に
マコト トモのお兄さん
トモ お兄ちゃん。

ヒヨノ&イズミ&アキラ お兄ちゃん!?

ナナ そうらしいわよ。びっくりよね。

サトル だから、あんたにそう話しただろ!

マコト どうしたんですか? 学校に来るなんて。

サトル あ、マコトちゃん久しぶり。

マコト お久しぶりです。じゃなくて、

トモ なんで、来てるの?

マコト トモ?

サトル だってお前、荷物とか一人で持って帰れないだろ。

マコト 荷物?

トモ 大丈夫って言ったよね?

サトル 言われたけど、実は既に学校についてたのさ。

ヒヨノ あ、じゃあさっきの放送って。

ナナ うん。あれが、あれ。

サトル まさか、断られるとは思ってなかったからな。

トモ 今すぐ帰って。

サトル そんなこと言って、お前いつまでも準備してないじゃないか。
    部活だってまだ出てるし。ですよね。

ナナ まぁ。割と。

サトル 部長さんにも話してなかったんだろう?

トモ 話しなら自分で出来る。

サトル でもさっき聞いたら、なにも聞いてないって言ってたぞ。

トモ いいから帰ってよ!

マコト なに? トモ、何の話?

トモ なんでもない。

サトル なんだ、もしかしてマコトちゃんにも話してないのか?

トモ いいから帰ってって言ってるでしょ!

サトル 友達に対してあんまりだろ、それは。

トモ 帰って!

サトル お前な! 黙ったまま引っ越すつもりなのか!? 
    引越しの日にちは待ってくれないんだぞ!

マコト 引越し?

サトル あ――

ヒヨノ 引越しって?

イズミ トモが?

アキラ 引っ越す?

ナナ らしいわね。

サトル ……先月、決まったんだよ。親父の転勤で。
    家族についてきて欲しいって話をされて。だから、行くんだ。

マコト うそ……え、何言ってるんですかお兄さん。やだなぁ。
   冗談きついって。ねぇ? トモ。……嘘でしょ?


    トモがうつむく。


マコト うそ……


     暗転




     次の日の舞台。
     アキラとイズミがいる。


アキラ なんかさ、びっくりだったわね。昨日は。

イズミ ……

アキラ トモ、帰っちゃうし。練習も、なんか身入らないし。

イズミ ……

アキラ 引越しって、どこに行くのかしらね。

イズミ ……

アキラ 北か、南か……家族で行くんだとしたら南か。北ってなんか一人って
    イメージあるものね。でもさ。夏に南はきついわよね。
    暑そうだし。……そういえば、引越しっていつなんだろう。ね。
    ……あんた、あたしの話聞いてる?

イズミ 聞いてる。

アキラ で、何で話さないわけ?

イズミ 別に。

アキラ それはあれか? あたしになんか話しかけたくないってことか。

イズミ 言ってない。

アキラ まぁ、いいけど。……舞台、どうすんのかね。


     と、ヒヨノとマコトが現れる。


ヒヨノ おはよ〜。

アキラ おはよ。

イズミ ん。

ヒヨノ 二人とも早いねぇ。やっぱり、あれ?

アキラ そういうこと。

イズミ お前も?

ヒヨノ うん。先輩が、早く来てって。ね?

マコト そうね。

アキラ どうしたのマコトは。

ヒヨノ なんか、学校来る間ずっとこんな感じだったよ。

アキラ 体調でも悪いの?

マコト 別に。普通よ。

ヒヨノ 普通なんだって。

アキラ へぇ。

マコト なに?

アキラ べつに。


     そこへ、ナナがやってくる。
     今日はまた違った服装をしている。メイド服。


ナナ おっはよぉ。

マコト&アキラ&ヒヨノ おはようございます。

イズミ っす。

ナナ お〜皆ちゃんと来ているね。感心感心。

マコト 先輩、まだトモが、

ナナ ああ、いいの。これはトモちゃんのための集まりなんだから。

マコト トモのための?

アキラ だろうと思った。

ナナ 題して、『盛大に開いてやりましょお別れ会!』作戦! 
   英語で言うなら、……『オワカーレカイ DETH』

アキラ&ヒヨノ&イズミ いや、日本語だから。

ナナ せっかく皆一緒にやってきたんだから、盛大に送り出してあげようと思って。ね。

ヒヨノ はい!

アキラ で、具体的には?

ナナ それを今から考えようってわけよ。

イズミ 飲む?

ヒヨノ アルコールは駄目だよ。

ナナ 一応舞台の上だからねぇ。

イズミ 黙ってりゃばれないって。

ヒヨノ 駄目。

イズミ はい。

アキラ 先輩は?

ヒヨノ なにか良い案あるんですか?

ナナ それは、この格好を見れば分かるでしょ。

アキラ いえ。さっぱり分かりませんが。

ナナ うっそぉ。これよこれ。メイドといったら?

アキラ さあ?

ナナ そう! 奉仕活動!

アキラ 奉仕活動って。

ナナ 肩たたきからマッサージまで。サービスするわよ〜。

アキラ それって、女の子がやってもらって嬉しいものですか?

ナナ 嬉しくない?

ヒヨノ 私は嬉しいですよ。

ナナ でしょぉ?

ヒヨノ イズミも肩たたきならして欲しいよね?

イズミ うん。

ナナ ほら。

アキラ そんなものかねぇ……(マコトに)あんたは、なんかある?

マコト なにかって?

アキラ そりゃ、トモが喜ぶようなものよ。あんたの方が思いつくでしょ?

ナナ なんか良い案ある?

マコト 別に、いいんじゃないですか?

ヒヨノ いいって?

ナナ やっぱりマッサージ!?

マコト いえ。

ナナ じゃあ、肩たたきだけか。

マコト じゃなくて。……お別れ会なんてしなくていいんじゃないですか?

ヒヨノ なんで!? トモちゃんの引越しだよ!?

ナナ 思い出に残る事してあげなきゃ。

マコト どうしてですか?

ナナ どうしてって。

マコト 所詮私たちなんて、部活が一緒ってだけじゃないですか。
   それなのにお別れ会なんて開いても、迷惑なだけですよ。

ヒヨノ そんなことないよ。

マコト そう?

ヒヨノ だって……(イズミに)だよね?

イズミ でも、

ヒヨノ イズミ?

イズミ 言われなかったからな。

アキラ そうね。聞かなかったわね。

ヒヨノ それはさ。タイミングがつかめなかったとかで。

マコト トモのお兄さんが言ってたでしょ。先月に決まったって。一ヶ月もあったんだよ。

ヒヨノ でも、

アキラ マコトも、聞いてなかったんでしょ?

マコト (頷く)つまり、あたしたちなんて、結局、『学校』だけの付き合いだったってわけですよ。

ヒヨノ でも、マコトちゃんは? トモちゃんとは中学から一緒だったんだからさ、

マコト それだって、そんな珍しいことじゃないでしょ。幼馴染とかならまだしも。
   偶然同じ中学、高校っていう人なんていくらでもいるし。
   トモにとっては私だって同じ部活だから一緒にいる。それだけだったのよ。

アキラ 同じ部活だから、か。

ヒヨノ 本当に、そう思うの?

マコト ……引っ越すんなら勝手に引っ越せば良いだけよ。
   どこにでも行けば良いじゃん。どこだって好きなとこに。
   さっさと行っちゃえば良いのよ。





     と、マコトが話している途中にやってくるトモとサトル。
     トモの格好は制服。サトルの格好はちょっとしっかりした感じ。
     背に花束を持っている。


アキラ トモ……

マコト なに? 言いたい事があるんなら言えば?

トモ ……ごめんね。


     マコトは無言でトモの横をすり抜けるように出て行く。


アキラ マコト!


     アキラがマコトの後を追っていく。


トモ 部室開けてもらって良いですか? 私物、持ち帰ろうと思って。

ナナ うん。行こっか。


     ナナとトモが去る。
     サトルとヒヨノとイズミが残る。


ヒヨノ 行かないんですか?

サトル ……いい天気ですよね! 今日は。

ヒヨノ はい?

サトル 後で空を見てみてください。
    僕のあなたへの気持ちくらい澄んだ青空ですから。

イズミ なに言ってるか分からないぞ?

サトル だから、この空が、僕の思いくらいだな、

イズミ そうじゃなくて、滑舌だよ!

サトル なんてひどい事を。(ヒヨノに向かい)今日はあなたにこれをと思いまして。


     サトルが花を差し出す。


ヒヨノ えっと。

サトル 真紅のバラ。花言葉は、情熱の愛!

イズミ うわっ引く。

サトル お前に言ってねえよ。

ヒヨノ えっと、

サトル どうぞ、貰ってください。

ヒヨノ (笑顔で)いりません。

サトル じゃあ、せめて携帯のメアド教えてください。
    メル友になりましょうよ。

ヒヨノ (笑顔で)嫌です。

サトル だったら、携帯番号で。

ヒヨノ (笑顔で)嫌です。

サトル じゃあ、家電でもいいですよ。

ヒヨノ (笑顔で)もっと嫌です。

サトル だったら、やっぱり携帯のメアドって事になるんですかね!

ヒヨノ (笑顔で)なりません。


     と、言っているうちに暗転。


7 数日後


     電話の音。
     電話を持ったままのトモが浮かび上がる。
     マコトが浮かび上がる。
     携帯を見つめると、出るかどうか一瞬迷い、結局電話を取る。


マコト もしもし

トモ あ、マコト?

マコト なに?

トモ なにって。

マコト 用があるから電話したんでしょ?

トモ あの、一昨日から部活来てないよね?

マコト 体調が悪かったのよ。

トモ なんかあったのかなって、思って。

マコト 体調が悪かったのよ。

トモ 連絡も、ないし。

マコト 体調が悪かったの。

トモ だったら、いいんだけど。いや、いいっていうのはちがくて。
  体調が悪いのは凄く悪い事だと思うし、いいってこととは違うけど、
  まぁ、それで、でも、つまりね、

マコト いいんだったら、いいでしょ。

トモ そうだね。

マコト じゃ、切るわよ。

トモ ……私のせい?

マコト 違う。

トモ 部活、来なくなったの、私のせい?

マコト だから、違うって。

トモ アキラが言ってたの。マコト、こないだから、なんか変だって。私が、引っ越すって話してから。

マコト 別に。あんたのことは何も関係ないから。

トモ ごめんね。

マコト なにが?

トモ 引越しのこと言えなくて。

マコト ……べつに、気にしてないわよ。

トモ マコトには一番に言いたかったんだけど、どうしても言えなかった。なんか、言ったら本当になっちゃう気がして。

マコト 言わなくても引っ越す事に変わりはないでしょ。

トモ そうなんだけど。でも、言わなかったら。いつの間にか無かった事にならないかなって。そう、思っちゃって。

マコト ……そう。

トモ 本当は今でも実感ないんだ。荷物もまとめたのになんか学校変わるとか、皆に会えなくなるとか、全然実感できなくて。
  不思議だよね。お母さんと一緒に近所に挨拶にも行ったんだよ。だけど、自分のことじゃないみたいなんだ。本当。

マコト (ため息)

トモ ……だから、ごめん。

マコト あのねぇ、しっかりしなさいよ。そんなんじゃ、新しい学校で友達出来ないわよ。

トモ うん。

マコト 大丈夫なの? 転校初日の挨拶はもう考えてる?

トモ そんなの今から考えられないよ。

マコト 何言ってんのよ。初対面って大事なのよ。しっかり考えないと。

トモ 考えろっていわれても。

マコト ほら。例えばあたしたちが初めて会った時みたいなさ。

トモ 中学の、入学式?

マコト 違うわよ。その前にもあったでしょ。

トモ 説明会の時!


     途端、あたりは中学校となる。
     舞台には一脚の椅子。
     マコトは語りながら、席へと向かう


マコト そう。入学式前にさ。なんかの説明するからって体育館に集められて。
   あたし、届いたばっかの制服来て緊張して出かけて。……そしたら、あたりみんな私服だったし。

トモ あたしとマコトだけだったよね。制服着てたの。

マコト あんたはいいよ? 遅れてきたから。あたしなんて無駄にドキドキしたんだから。
   目立たないように、一番後ろに座ってさ。校長先生の話がやたら長くって。
   緊張しているんだか、退屈なんだか分からなくなってて。
   ……で、あんたが来た。

トモ あたし、その日に限って寝坊したんだよ。

マコト 遅いから、空いてる席あたしの隣しかなくて、で、あんた走ってきて。

トモ だって、みんな見てたんだから。

マコト で、転んじゃって。


     トモがマコトの隣でこける。


マコト えらい音したもんね。パイプ椅子ひっ倒してさ。先生の話一瞬止まったからね。
   あんた動かないし。もしかして死んでるんじゃないかって、あたし馬鹿なこと考えてた。

トモ 恥ずかしくて死ぬかと思ったよ。

マコト でも、しばらくしたら動き出してさ。で、何か言うなぁと思って見てたら開口一番が、

トモ 「は、初めまして」

マコト お前他に言う事あるだろうっていうさ。……あんな感じでいいのよ。

トモ 転べって事?

マコト 盛大にね。どうせなら、転校生の紹介されている時にでも。

トモ 絶対引かれると思うけど。

マコト あたしとは仲良くなれたじゃん。

トモ そうだけど。結構痛かったんだよ。


     トモは言いながら立ち上がる。


マコト いろんな意味でね。

トモ 昔に戻れたら、走り出すあたしに『やめれ!』って言うと思うな。


     トモが離れる。(電話の位置へ)


マコト 無かったことにしたいか。


     マコトが離れる(電話の位置へ)


トモ 出来ればね。

マコト そっか……。


     世界は再びサスだけの世界へ。


トモ マコト?

マコト ま、いいじゃん、そうやってどんどん友達作りなさいよ。
   たくさん友達作って。新しい生活を楽しく過ごせばいいのよ。

トモ 出来るかな。

マコト 出来るといいわね。今度こそ、ちゃんとした友達がさ。

トモ ……なに、今度こそって。

マコト 今度こそは、今度こそよ。次こそはってことよ。ネクストよネクスト。

トモ 今の友達は、ちゃんとした友達じゃないってこと?

マコト さぁ。それは自分がよく分かっているんじゃない? 
   なんせ引っ越すことすら教えられない人たちなわけだし。

トモ だからそれは、

マコト だからあたしらはあたしらで勝手にやるからさ。
   余計な心配はしなくていいから。

トモ 余計な心配って?

マコト こうやって電話かけてきたりとかさ。逆に迷惑なんだよね。

トモ わたしは、マコトが心配で。

マコト 別に、あんたに心配される理由なんてないわよ。

トモ 友達、だから、

マコト じゃあ、何であたしに何も話してくれなかったのよ!?

トモ マコト――

マコト あたしたちは友達だったんじゃないの?

トモ だから、それは、

マコト 悩んでるなら、悩んでる事も言ってくれればよかったでしょ。あたしそんなに頼りないの? 
   あんたの相談受けられないほど、たいしたことないの?

トモ ちがうよ、そうじゃなくて、

マコト じゃあ、あたしはあんたにとってなんなのよ!?

トモ ……友達だよ。……友達だから、言えなかったんじゃん。


     電話切れる


トモ マコト? ……ごめん。


     トモの姿が消える。


マコト ……そんなの、分かってるよ。分かってるから、腹が立つのよ。


     マコトの姿が消える。


8 次の日の舞台


     浮かび上がる姿はイズミ。
     場違いなほど明るい音楽。


イズミ さぁ、ついに栄えある第一位の発表です。
   第一回P1(ピーワン)に見事輝いたのは、この人。
   ダラダラダラダラダラ(ドラムロールを口で言っている)ダン! ヒヨノさんです!


     と、ヒヨノにピンスポット。
     信じられない顔で驚くヒヨノ。


ヒヨノ え、あたし? あたしなんかでいいんですか?

イズミ もちろんですよミス・ヒヨノ。 さぁ、今の感想を一言。

ヒヨノ 信じられないです。

イズミ 今の感動を誰に一番伝えたいですか?

ヒヨノ じゃあ、ずっと私を見守ってくれた、田舎のダニエルに。

イズミ おっと。そのダニエル君はもしかして、あなたの?

ヒヨノ ペットです。

イズミ ペットかよ。

ヒヨノ まめ柴なんだよ、あたしが帰るとね、いつも尻尾振ってくれるんだから。

イズミ ここでペット出すなよ。


     いつの間にかアキラが立っている。


アキラ 何やってるの?

ヒヨノ あ、おはよ〜

アキラ おはよ。じゃなくて、なにこれ?

ヒヨノ 練習だよ。

アキラ なんの?

ヒヨノ もしも、ある日突然「日本でプリンを食べる表情が一番いい女の子コンテスト、
   略してP1」に出ることになったらっていう。ね?

イズミ ああ。

アキラ ヒヨノ。

ヒヨノ なに?

アキラ そんな日は絶対に来ない。

ヒヨノ えぇ〜 そんなことないよ。ね?

イズミ え? ないだろ?

ヒヨノ えぇ〜。

アキラ せっかく早く来てたんなら、そんな練習してないで、台本考えてればいいのに。

ヒヨノ だって、ナナ先輩に任せたじゃん。

アキラ でも、 どんな話がいいかは考えられるでしょ。

ヒヨノ どんなのがいいなんて分からないよ〜。

アキラ そんなこと言ったって、

ヒヨノ あたしは、みんないる劇がやりたかったんだし。

アキラ そんなこと、今言っても仕方ないわよ。

ヒヨノ イズミがいて、アキラちゃんがいて、トモちゃんがいて、マコトちゃんがいて、
   ナナ先輩がいて、そんな劇がよかったのに。

アキラ 言っても仕方ないって。

ヒヨノ なんか最近みんな暗いしさ。マコトちゃんは部活来ないし。
   トモちゃんは何考えてるかわからないし。つまんないよね。

イズミ まぁな。

アキラ だから言っても仕方ないって言ってるでしょ! 不満ばっかり言って、それで何か解決するわけ? 
    解決しないでしょ? しないこと口にしてどーすんのよ!

イズミ ……何切れてるんだよ。

アキラ ……別に。

ヒヨノ ごめんね。

アキラ ……いいわよもう。だけど、言っても仕方ないこと
    グチグチ言ってもなんもならないでしょ。

ヒヨノ だから、言わなかったのかな。

アキラ なにが?

ヒヨノ トモちゃん。仕方ないから、『引っ越す』って言えなかったのかな?

アキラ さぁ。


     と、そこにナナがやってくる。
     その後ろにはマコトがいる。


ナナ おっはよう〜。あら? 暗いなぁ。

ヒヨノ 先輩……に、マコトちゃん。

ナナ 校門のところで、なんかうろうろしてたから捕まえてきた。

アキラ へぇ。三日ぶりね。

マコト だから?

アキラ べつに。

ナナ ほらほら、久しぶりに全員集まったんだから、暗い顔しないしない。ね?

ヒヨノ 全員? だって、(トモちゃんが)

ナナ それに諸君! 今日はおまけにこいつがあるのだよ!


     と、ナナが本を見せる。


アキラ 台本?

イズミ 出来たのか。

ナナ まさに、出来立てほやほや。(と、イズミに台本を渡しつつ)「村井(むらい)」
   という名をもつ、5人の女による、汗と涙の友情物語。題して、
   「五人の、THE 村井(ザ・ムライ)」

イズミ 五人、か。

ヒヨノ だね。

マコト いない人間のことあれこれ言っても仕方ないでしょ。

ヒヨノ 仕方ない、か。(と、アキラを見る)

アキラ (無言で目をそらす)

マコト なに?

ヒヨノ マコトちゃんは平気なんだ?

マコト ……

ナナ さぁ、じゃあ私は(イズミから台本を取り)コピーしてくるから。

アップ、終わらせといてね〜。


     ナナは去る途中で立ち止まり、


ナナ 昨日、トモちゃんから退部届けを受け取ったわ。

マコト そうですか。

ヒヨノ それで、さっき全員って(言ったんだ)

ナナ だから、部活にはもう来ないかもしれないわね。
  会えるうちに、言いたいこと言っておきなよ〜。

マコト 別に、言いたい事なんて無いですよ。

ナナ あるよ。

マコト なんで(そんなこと)

ナナ だって。皆は仲間でしょ? ね? 皆には仲間がいるんだから。
   大事にしなよ。大事にしないと駄目よ。……な〜んてね。では、行ってきま〜す。


     ナナは去る。





アキラ 先輩は、一人だったんだもんね。

ヒヨノ うん。

マコト 一人のほうが良いわよ。

ヒヨノ そんなことないよ。皆がいたほうが楽しいじゃん。ね?

イズミ おう。

マコト どうせ今だけでしょ。

ヒヨノ そんなの分からないよ。

マコト 分かるわよ。ずっと一緒なんかないんだから。

ヒヨノ トモちゃんみたいに?

マコト ……そうよ。どうせ一人になるんだったらさ、初めから一人のほうが気楽でしょ。
   一人だったら余計なこと考えなくてもいいし。慣れちゃえば、どってこと無いだろうし。

ヒヨノ そんなの……(寂しいよ)

アキラ だから?

マコト え?

アキラ だから何? あんたもなわけ?

マコト 『も』って?

アキラ なんかグチグチした愚痴よ。止めて欲しいのよねいい加減。
    言ったって何にもならないんだから。

マコト べつにそんな気ないわよ。変に絡むの止めてくれない?

アキラ あっそう。


   間


イズミ ……(マコトに)言えよ。

ヒヨノ イズミ?

マコト なに?

イズミ 言いたいこと言えよ。

ヒヨノ うん! そうだよ言いなよ!

マコト 別にないわよ。

イズミ あるだろ。

アキラ 無いって言ってんだからほっときなさいよ。

イズミ お前には聞いてないんだよ!

ヒヨノ 聞いてないよ!

アキラ なに熱くなってるのよ?

イズミ 面倒くさいんだよお前らは!

ヒヨノ 面倒くさいんだよって、えぇ!?

マコト なによそれ。

アキラ 意味わからないわよ。

ヒヨノ 意味わかんないよ?

イズミ ぐちゃぐちゃ考えてんじゃねーよ。
   (マコトに)一人にすんなって言いたいんだろ? そう言えばいいじゃんかよ。

ヒヨノ イズミ……そうだよ、言いなよ。

マコト 言ってないわよそんな事。

イズミ そう聞こえるんだよ。

マコト 耳がおかしいんじゃないの?

イズミ だから面倒くさい奴だって言ってんだよ。(アキラに)お前もさ! 仕方ない、
   仕方ないって言ってりゃそれですむのかよ。お前だって、ダチだろ!

ヒヨノ 友達でしょ?

アキラ 言ってどうなるのかって聞いてるのよあたしは!

イズミ 知るかよ! でも言わなきゃ分からないだろ! 
   言わないで分かるやつなんていないんだよ。

ヒヨノ いないんだよ!

マコト&アキラ あんたらにだけは言われたくないわ!


同時に、
イズミ なんでだよ!
ヒヨノ なんでよ!


アキラ いつも話すこと放棄しているのはあんたでしょ?

マコト ヒヨノに頼ってばっかりでさ。

イズミ それとこれとは関係ないだろ!

ヒヨノ 関係ないよ。

マコト そういえばこの間借りた漫画さぁ。

アキラ ああ、面白かったでしょ〜

マコト うん。面白かった〜

イズミ だから、その話はどうでもいいだろ。

マコト あたしはあんたの話がどうでもいいのよ!


     マコトが去ろうとする。


アキラ どこ行くの?

マコト 帰るのよ。なんかここにいたら吊るし上げられるだけみたいだし。
   先輩によろしく。

ヒヨノ マコトちゃん!

イズミ 嫌なんだろ! 一人が。なんでそう言わないんだよ。

マコト 何でも分かっているようなこと言わないでくれる? 
   どうせ何にも分からないくせに。

イズミ わかんねーよ。だから言えって言ってんだよ。お前も、お前も!

   ……あたしも、言うからさ。

     マコトが去る

アキラ ほらね。熱くなったって、何も解決しないのよ。

ヒヨノ アキラちゃんは、それでいいの?

アキラ 仕方ないでしょ? 高校生の「ゆうじょう」なんて、そんなもんよ。


     アキラが去る


ヒヨノ ねぇ。なんで、こんなバラバラになっちゃうんだろ。皆素直になればいいだけなのに。なんで、うまくいかないんだろう。

イズミ ごめん。分からない。


     イズミが去る。


ヒヨノ うん。そうだよね。


     と、ナナとトモとサトルが現れる。


ナナ みんな……いないみたいね。

ヒヨノ 帰っちゃいました。すいません。

ナナ ううん。(サトルに)どうします?

サトル ……(トモに)ほら、言えよ。

トモ ……(ヒヨノに向いて)お別れをね、言いにきたの。最後の。

ヒヨノ え?

トモ 引越し、明日なんだ。


     暗転。


10 その夜


     電話が鳴る。
     少女たちが浮かび上がってくる。
     (ここから先は、演出的な部分もあるので取捨選択してほしい。)

     下手前に、マコトが浮かび上がる。
     会話の相手は皆ヒヨノである。


マコト もしもし? うん。あたしだけど。

なによ。はぁ? 何で泣いているのよ? ……引越し? 

トモの? そう……明日、なんだ。


     上奥にアキラが浮かび上がる。


アキラ 明日ね。天気予報では雨みたいだけど。まぁ、関係ないか。
    ……じゃあ、また内緒にされてたわけだ。


     下奥にイズミが浮かび上がる


イズミ そうか。明日か。


     上手前にヒヨノ


ヒヨノ ね、だから、明日さ。みんなで、一緒に、

マコト 悪いけど、パス。

ヒヨノ え?

アキラ 私、やめておくわ。

ヒヨノ なんで?

イズミ 無理。

アキラ なんて顔したらいいのか分からないし。

マコト 私なんかに何か言えるわけじゃないし。

イズミ 今更、だから。

ヒヨノ 今更なんかじゃないよ。何も言わなくたって良いじゃん。どんな顔したらいいかなんて、私にも分からないよ。

イズミ だったら行っても意味無いだろ?

ヒヨノ だけど、友達でしょ? あたしたち。

マコト トモダチだった。でしょ?

ヒヨノ 友達だよ。

イズミ ダチ、か。

アキラ まだ?

ヒヨノ まだじゃない。ずっと。そうでしょう?

アキラ どうかしらね。

マコト あんたたちがどう思おうと、トモは、なんとも思ってないかもしれないわよ。

ヒヨノ そんなことないよ。トモちゃんだって辛かったんだよ。

イズミ そう、なのかな。

ヒヨノ そうだよ。でも、そんなこと言っても仕方ないからって、ずっと黙ってたんだよ。

アキラ 黙ってたんなら、黙ったまま行かせてやりなさいよ。

ヒヨノ そうやって、トモちゃんを一人にするの?

マコト 一人になんて、

ヒヨノ マコトちゃん言ったよね? ずっと一緒なんかないんだから。って。
   でも、今マコトちゃんは、自分から手を離そうとしているんじゃない? 
   突き放されるのが怖いくせに、自分から突き放してるよ。

マコト 仕方ないじゃない。

ヒヨノ 仕方なくなんてないよ。一緒にいたいって思えば、離れてたってきっと、

マコト そんなの誰がわかるのよ! 

ヒヨノ マコトちゃん……。

マコト 離れてからなんて分からないじゃない。この先どうなるかなんて誰も知らないでしょ。
   だったら、もう仕方ないのよ。

ヒヨノ だからって、

マコト 怖がりなのよ。私。だから。

ヒヨノ マコトちゃん。

アキラ ごめんね。

イズミ ごめん。

マコト ごめん。トモに、よろしく。


     電話の切れる音。
     全員の顔が思わず中央を見る。
     中央にはトモが浮かび上がる。
     うつむいたままのトモ。
     アキラが、イズミが、ヒヨノが、背を向け去る。
     そして、マコトが背を向け去る。
     夜半過ぎから、雨が降り出した――


11 翌朝


     舞台は始まりに戻る。


サトル なんてな! HAHAHA!

トモ お兄ちゃん。

サトル うん?

トモ 寒い。

サトル だろ! だから傘をさせって言ったじゃないか。体冷えたんだよ。ほら。


     と、サトルは傘を差し出す。


トモ いいよ。

サトル そうか? そうか…… しっかし遅いな。来るはずなんだろう?

トモ さぁ。

サトル さぁって……なんだったら別に出発の時間くらい遅らせたって(いいんだぞ)

トモ お兄ちゃん。

サトル うん?

トモ 行こう?

サトル いいのか?

トモ このままじゃ、風邪引いちゃうでしょ。

サトル そうか。


     サトルが先に歩き出す。
     トモが歩き出す。
     ふと、声が聞こえた気がして振り返る。


サトル どうした?

トモ ううん。なんでもない。

サトル そっか。


     サトルが去る。
     トモは目を閉じて、奇跡を願うようにつぶやく。


トモ さよなら。みんな、ごめんね。


12


マコト トモ!


     マコトが走りこんでくる。
     黒い私服。そうとう走ってきたように見える。


トモ マコト……

マコト (息苦しそうに)ヒヨノに、任せよう、と思ってたのに、あいつ、寝坊したとかって、電話してきて。

トモ うん。

マコト あんたに、言いたいこと、あったの、思い出して。

トモ 言いたいこと。

マコト ……あんたね! 言いなさいよ。引っ越す日くらい。あたしをなんだと思ってるのよ!

トモ ごめ(ん)

マコト お別れ会だって出来なかったじゃない! さよならだって満足に言えないで。しかも、喧嘩別れみたいになって。
   もう少し時間あるって思うでしょ普通。引っ越すって聞いても、少しは先の事なのかなって思っちゃうでしょ。思いたいでしょ。
   だから、言いなさいよ。あんたが言わなかったら分かるわけないんだから!

トモ だって、聞かれなかったから。

マコト 聞かれなかったからじゃない!

トモ ご(めん)

マコト 謝るな! 謝ってもらうために来たんじゃないんだから。謝るな。いい?

トモ うん。

マコト よし。

トモ ……ありがとう。

マコト なんでそれが出てくるかな。

トモ 来てくれると思ってなかったから。

マコト でも、ちゃんと来たでしょ?

トモ うん。だから、ありがとう。

マコト ……ごめんね。

トモ なにが?

マコト 色々。今まで。全部。あれやこれや、含めて。

トモ うん。ありがとう。

マコト なによそれ。

トモ 色々。今まで。全部。あれやこれや、含めて。

マコト 真似すんなよ。

トモ うん。

マコト メールしなさいよ。

トモ うん。

マコト あと、たまには戻ってきなさいよ。

トモ うん。

マコト あ、年賀状書くから。

トモ うん。

マコト あと、えっと、なんだ?

トモ さぁ?

マコト あれだ、ほら。あとはあれね。

トモ うん。

マコト あれ。

トモ うん。

マコト ほら、なんだっけ。ちょっと待てよ。

トモ うん。

マコト まだあんだよ。ね? まだあるんだけど中々思い出せなくて。いや思い出せないだけだから。大丈夫。すぐに出て来るんだよ。
   えっと、だから、その。なんだ。色々あんたには言いたいことがあったんだよ。文句だって一杯言ってやろうって。だから、ううん。
   そうじゃなくて。迷惑かけた事もいっぱいあったしだから……なんでだろ。浮かばないや。なんか他にも言いたいことあったのに。
   あったんだけどな。……浮かばないや。

トモ ……うん


     二人は見詰め合う。
     マコトが自然に手を差し出す。
     トモがその手を握ろうとする。


13


     ヒヨノとイズミが現れる。二人とも黒い服を着ている。
     ヒヨノにイズミは引っ張られている。
     二人は慌てて手を引っ込める。


ヒヨノ 良かったぁ。間に合ったよイズミ。

イズミ 疲れた。

ヒヨノ これくらいで疲れないでよ。

イズミ 無茶言うな。

トモ ヒヨノに、イズミ……

ヒヨノ 引っ張ってきたら遅れちゃった。でも、丁度良かったかな。

マコト なに言ってるのよ。誘った張本人が遅刻してどうする。

ヒヨノ ごめーん。でも、二人とも仲直りできてよかったね。

マコト 何言ってるの? 喧嘩なんてしてないわよ。ねぇ?

トモ うん。


     ナナが現れる。黒い服。


ナナ トモちゃん!

ヒヨノ 先輩!

ナナ よかった。間に合わないかと思った。

トモ 先輩も来てくれたんですか?

ナナ 当たり前じゃない。だって私、先輩だから。


     と、アキラが現れる。黒い服装。
     来た途端、皆揃っているのを見て帰ろうとする。


ヒヨノ あ、やっぱり来た。イズミ!

イズミ 了解。


     イズミがアキラを捕まえてくる。


アキラ わかった! 別に逃げないから。

トモ アキラ……

アキラ 誰も来てなかったら寂しいだろうと思ってきただけよ。

ヒヨノ 一番遅れてきたくせに一番偉そうだよね。

イズミ しめるか。

アキラ しめるな!

マコト 許す!

アキラ 許すな!

ナナ 許可する。

アキラ 先輩も、私が嫌いですか?

トモ みんな!


     アキラもマコトもイズミもヒヨノもナナもトモを見る。


トモ ありがとう。


     皆照れる。
     トモは空を見上げる。


トモ ……なんて事になったら良いのに。


     瞬間、全員の動きが止まる。トモにだけ光が集る。
     アキラもマコトもイズミもヒヨノもナナも去る。
     トモは目を閉じる。


トモ 都合のいい夢を浮かべた。笑っちゃうくらい身勝手で、馬鹿馬鹿しいほど自分本位で。
  傷つけた事全部無視して、あたしは、あたしだけが幸せになれる夢を見てみた。
  目を閉じた世界であたしは、どうしようも無いくらい笑顔で。幸せで。何でも出来るような気がして。
  だったら、目を開けたその先でも笑えるんじゃないかって、そう思った。そう思ったら、
  笑ってるような気がして、目を開く。……あたしは、一人だ。


14

     サトルが現れる。


サトル 何を語っているんだお前?

トモ いきなりモノローグに入ってこないでよ!

サトル なんだよモノローグって。

トモ 独白(どくはく)のこと。演劇でよくあるでしょ?

サトル ああ、独り言だろ。

トモ もういい。電車、もうすぐだよね?

サトル いいのか? 待ってたんだろ?

トモ どうせ来ないよ。

サトル そっか。

トモ お兄ちゃんこそ誰もいないみたいだけど?

サトル 俺はこないだ済ましたから。

トモ そうなんだ?

サトル おう。案外、あっさりしたもんだったよ。

トモ あっさりか。

サトル そ。

トモ そうなれたらよかったのにな。

サトル なれちゃうもんだよ、そのうち。

トモ なれるかな?

サトル なれるさ。

トモ なれちゃうのかな。別れの言葉も、あっさりと。言えるようになれちゃうのかな。

サトル ……なるさ。

トモ ……そうだよね。なるんだよね。いつか。仕方ないことだもんね。

サトル でも、我慢するなよ。

トモ え?

サトル 嫌だったら、嫌って言っていいんだぞ

トモ 嫌がってどうなるの。

サトル どうもならないよそりゃ。

トモ でしょ。だったら(仕方ないじゃん)。

サトル でも強がったって、なんもいいこと無いじゃんか。

トモ 弱くたっていいこと無いよ。

サトル 相手の弱い一面ってドキッとするだろ。

トモ ドキッとさせてどうすんの。

サトル それが恋の始まりとなる!

トモ 馬鹿なこと言ってないで、行くよ。

サトル いいんだよ、馬鹿で。強がって黙ってるより、馬鹿で弱いほうが、ずっと。

トモ ずっと?

サトル 楽しい。

トモ なにそれ。

サトル (携帯を取り出し)素直になれってことだよ。

トモ (携帯を渡され)なに?

サトル ヒヨノちゃんの携帯番号、聞いておいたから。せめて別れの言葉くらい言っておきな。

トモ いつの間に!?

サトル はっはっは。成せば成るのだ。

トモ って、いいよ別に今更言う事なんて(ないよ)

サトル でも、既にかけておいたから。

トモ えっ!?


15


ヒヨノ(声) もしもし?

トモ !

ヒヨノ(声) もしもし?

トモ ……

ヒヨノ(声)……トモちゃん?

トモ ……なんで、わかるの?

ヒヨノ(声) やっぱり。どうしたの? もう出発するの?

トモ うん。そうなんだけど、その、あたし、みんなに、その……(お別れを言いたくて)

ヒヨノ(声) うん。

トモ あたし、その、これで、お別れで、その、だから、ね、皆に迷惑かけて、一杯。だから、今更、なんだけど、

ヒヨノ(声) うん。

トモ あたし、あたしね、(うつむき、)やっぱり、その……引越し、いや、なんだ。引っ越したくないんだ。
   だけど、でも、本当、わがままだって分かってるけど、みんなと、一緒にいたいよ。引越しなんてしたくないよ。
   ずっと、ずっと一緒にいたいよ。こんな風に、離れたくない。もっと、いっぱい、色んな事、したかった。
   一緒に台本覚えて、一緒に舞台に立って、泣いて、笑って、時々喧嘩して。修学旅行だってみんなと行きたかったし、
   一緒に三年生になって、受験大変だねなんて言って。でも演劇部は続けて、それで、それで、文化祭だって、頑張って、
   だから、ずっと……一人になりたくないよ。みんなといたいよ。こんなこと言っても、仕方ないんだけど、
   今更なんだけど……わたし……ごめんね。ごめん。

ヒヨノ(声) うん。

トモ ごめんね。いきなり変なこと言って。マコトにも伝えておいてくれる? ごめんって。本当、ごめん。

ヒヨノ 自分で言えばいいと思うなぁ。

トモ え?


     ヒヨノが現れる。


トモ ヒヨノ?

ヒヨノ ほら、しっかり歩く!


     と、イズミに捕まったマコトと、
     ナナに捕まったアキラが表れる。


トモ みんな……?

ヒヨノ 本当はもっと早く着くはずだったんだけどさぁ。手こずっちゃって。

イズミ 散々暴れられたからな。

マコト ふん。

トモ 暴れたって……

ヒヨノ 大変だったんだから。

ナナ それで、ヒヨノちゃんから連絡受けて、あたしも、助っ人に参上したと。

ヒヨノ 助かりました。

ナナ いえいえ。(アキラを投げつつ)だって、あたし、先輩だから!

アキラ 先輩ってのは人の寝込みをいきなり襲うもんなんですね。初めて知りましたよ。

ナナ それは、なかなか起きないアキラちゃんが悪い。

ヒヨノ でも、来てよかったでしょ?

マコト 別に。

イズミ まだ強がってんのかよ。

マコト ほっといてよ。

トモ どういうこと?

ヒヨノ やっぱり、みんなでちゃんとお別れしたかったから。だから、みんな集めたの。

トモ ヒヨノが?

ヒヨノ (マコトを見つつ)ま、誰かさんは本当は行く気だったみたいだけどね。

イズミ だな。

マコト 本屋に行くついでにちょっと見るだけだって言ったでしょ。

トモ マコト……

マコト ……なんて顔してんのよ。

トモ ごめん。

マコト 友達、でしょ? あたしたちは。ずっと。友達でいてくれるんでしょ? ずっと。


     と、マコトは手を差し出す。
     トモが握る。


トモ うん。ありがとう。

マコト うん。

イズミ しかし、よく浸ってたよな。

トモ え?

ヒヨノ ね? 気持ちよさそうだったよね。

アキラ 見事なモノローグだったわ。

トモ え、ちょっと?

ナナ さっすが、演劇部員よね。

トモ それって、もしかして、

マコト 見てたわよ。ずっと。

トモ ……なにそれ。

マコト 向こうの、あそこらへんに、皆で張り付いてたのよ。すぐ出て行きゃいいのに、
   『今は駄目だよ』なんてヒヨノが言うからさ。

トモ 普通に出てくれば良いのに。

マコト 馬鹿みたいでしょ。

トモ 本当だよ。

マコト 馬鹿だからみんな。って、ことじゃない?……あたしやあんたも含めて。

トモ そうだね。馬鹿だ。

マコト ね。

サトル いやぁ、でもまさか、ヒヨノちゃんが僕の為に来てくれるとは

ヒヨノ 違います。

サトル 嬉しいな。あ、せっかくだから今から一緒に行きませんか? 
    一泊や二泊くらい軽く出来ますから大丈夫ですよ。

ヒヨノ 結構です。

トモ ほら、お兄ちゃん行くよ。

サトル いや、しかし今俺はだな、人生の春を見つけて飛び立つ蝶というか、

トモ 行くよ。

サトル はい。


     サトルを引きづりつつ。
     去る途中で一度止まって振り返る。


トモ みんな。……ありがと。じゃあね。


     アキラもマコトもイズミもヒヨノもナナは、
     一度顔を見合わせた後、声を揃える。


5人 行ってらっしゃい。

トモ ……うん。行って来ます!


     全員笑顔を浮かべる。
     雨はとうに上がってしまったようだ。
     晴れ間に虹が見えている。
    
     真の友情を得た時、
     きっと別れであろうと笑みを浮かべられる。

あとがき
何度目だ引っ越しネタ。
という感じではありますが、また引越しが元になった物語です。

友人が就職し、転勤で移動するかもしれないという話を最近良く聞きます。
とても仲のいい友人ではあるのですが、きっと転勤が本決まりになったとしても、
「そうか。元気でな」
という挨拶程度になってしまうような予感が今からしています。

止められない仕方ないことだから。
なるべく相手の負担になるような言葉はかけない。

いつからか自分の中に出来てしまっている本音を伝えきれない「仕方ない」という言葉。
今の高校生たちも、「仕方ない」で言えないことがいくつもあるんじゃないかな。
そんなことを思いながら書きました。

最後までお読みいただきありがとうございました。