誰が為に言の葉バトルの鐘は鳴る 作 楽静 二年 女  ミヤサワ ケイ    留学のために引っ越すことが決まった二年生。 やる気ある部員たち 二年 女  ミノシマ ユキノ   真面目な文芸部員。ソウタに片思い中。 二年 男  ナナツメ ソウタ   秀才。副部長。 一年 女  タニサキ ジュン   鈍感力のある新人。 やる気無い部員たち 二年 女  サノ アキヨ     楽天家。飽きっぽい。 二年 女  モリイ オウカ    読み専門。漫画が特に好き。 一年 男  アクノガワ      やんちゃ。ゲーム好き。タニサキが好き。 先生 女  イズミ キョウコ   文芸部顧問。面倒くさがり。      舞台はとある高校の文芸部室。夏休み直前の物語。      舞台上には文芸部室がある。      乱雑。丸まった原稿用紙が入りまくったゴミ箱。      黒板には「文芸誌のノルマは一人4000字」とか。      「20××年度の目標! 今年こそ、出すぞ一冊!」とか。      ※「××」には上演の年が入る。 1 終業式当日@      音楽と共に幕が開く。      夏休み直前。終業式が終わった後の放課後。      部室の電気をつけて、ミヤサワが入ってくる。      あたりを見渡す。机や椅子に触れて過去を思い浮かべる。      と、その目がゴングに向く。ゴングを鳴らして少し笑う。      ミノシマがやって来る。ぎょっとする。 ミノシマ ……なに一人で黄昏れちゃってるの。 ミヤサワ なんか、あっという間だったなぁって思って。 ミノシマ 明日の昼? だっけ。 ミヤサワ うん。 ミノシマ 17年一緒にいた幼馴染とも、明日でさよならか〜。泣いちゃうなぁきっと。飛行機雲とか見えたらさ、「ああ、あの飛行機にはケイが乗っているかもしれないんだ」なんて思って、だばー(大泣きするフリ) ミヤサワ 大袈裟。 ミノシマ (けろっと)しかし、あっという間だったよね。 ミヤサワ うん。 ミノシマ 高校入って、同じ部活に入ってさ、 ミヤサワ ね。 ミノシマ まさか思わなかったよね。……無くなるなんてさ。 ミヤサワ 本当だよ。 ミノシマ あんなことで廃部なんてね。 ミヤサワ 本当。あっという間だった。      ミヤサワが黒板を見る。      ミノシマも黒板を見る。      音楽が大きくなり、そこには数日前の部室の光景が広がる。      ミヤサワが去る。(ゴングを持って)      オープニング 2 終業式四日前 いつもの部室。      パソコンへ向くミノシマにだけ光が当たる。台詞終わりに部室の風景となる。 ミノシマ (と、キーを打ちながら)「後はよろしく」そう彼女の瞳は告げている様に見えた。だから私は心に決めた。今年こそ、やり遂げて見せると。決意をあらたに見渡した部室では、真剣な目をしたみんなが……      ナナツメは無言でパソコンを打つ。ミノシマはナナツメを意識しつつ周りも気になる。タニサキは原稿(漫画)を見ている。      サノはタニサキの言葉に大げさに反応する。アクノガワは携帯ゲームをやりつつ、タニサキを意識している。モリイは漫画を読んでいる。      ミノシマは続きを打とうとするものの、集中できない。 タニサキ 言おうか迷いましたけど、書き直した方がいいと思います。 サノ は〜い。ナナツメ、代わって? ナナツメ 今使ってるだろ。 サノ 少しだけ。ほんの一時間。 ナナツメ あと少し待てよ。 タニサキ あ、情景描写が甘い。マイナス一点。 サノ ほら、ナナツメ〜 手直しの必要ありなんだよ〜。 アクノガワ やられた〜。(タニサキを気にして)初めてのステージとはいえ、まだまだだな。俺。 モリイ (アクノガワに)まぁまぁじゃない? サノ ナナツメソウタ〜 アクノガワ ですよね(と、タニサキを気にする) タニサキ 表情が台詞にあってない。マイナス一点。 サノ どんどん減ってく。おい、ナナツメ、ソウタちゃーん。 ミノシマ アキヨ。いい加減うるさい。 サノ 別にユキノには言ってないじゃん。 ミノシマ (自分の前のパソコンを指し)これ使えば? あたし、休憩してもいいし。 サノ やだよ。データ入ってるのこっちだもん。 ミノシマ USBメモリあるでしょ。 (モリイに)どこだっけ? モリイ そこの棚の三段目。 ミノシマ (振り返り棚を見渡し)上から? 下から? ナナツメ 無駄だよ。 ミノシマ なんで? 文章データなんてメモリに入れちゃえば、どうとでも(なるでしょ) ナナツメ 漫画だから。サノが今描いてるの。だろ? サノ そっちのパソだとスペック足りないんだよね。 ミノシマ なにそれ。なんで(文芸部で漫画?) サノ 何故今漫画かというと、やりたいから! っていうか小説を書くの飽きた! ミノシマ 小説を書け! (と、アクノガワやモリイにも)あんたらも! いい加減遊んでないで原稿書きな!  ナナツメは、こんな真剣に書いてるでしょ! モリイ ……とばっちり。 ミノシマ なんか言った!?(と、サノやモリイやる気ない反応を見て)ちょっと、ここがどこだか分かってんの!? アクノガワ 先輩。 ミノシマ なに!? アクノガワ ここは文芸部室ですよ? ミノシマ 分かってる! 3 元部長      と、ミヤサワがやって来る。大き目のカバンを持っている。 ミヤサワ 遅れて、ごめんね……      それぞれに挨拶する部員達。 ミノシマ ケイ! ちょっと聞いてよ! ミヤサワ ちょっと待って(と、荷物を自分の椅子に置き)どうしたの今日は? ミノシマ それが(早速話そうとする) サノ うわ〜すごい荷物。 ミヤサワ 教科書、机に入れっぱなしだったから。 ミノシマ そうなんだ。でさ、(話そうとする) モリイ わ〜持って帰るの大変そう。 ミヤサワ まずここ来るまでがしんどかったよ。 タニサキ 部長、私手伝いましょうか? ミヤサワ それは申し訳ないよ。って、いい加減部長って呼ぶの止めようよ。 タニサキ すいません。つい。 アクノガワ だったら俺! 途中まで持ちますよ! 駅まで一緒ですし。 ミヤサワ 本当? ありがとう〜。 アクノガワ (タニサキを気にしつつ)当然っすよ。 ミノシマ ……(いじける) ナナツメ (いじけるミノシマを見て、声をかけようとして止める) タニサキ (アクノガワのアピールには気づかず)終業式後、すぐでしたよね。 ミヤサワ うん。夏休みになると同時に発つつもり。 モリイ じゃあ、日本にいるのもあと(と、指折り日にちを数え)五日だ。 ミヤサワ うん。 アクノガワ いいっすね。留学。 サノ 英語、少しは喋れるようになった? ミヤサワ 少しはね。 モリィ Did you become able to speak English well? ミヤサワ yes. I'm getting a little better at speaking English. サノ 止めてよ。頭痛くなってくる。 タニサキ 二学期には部長……ケイ先輩いないんですね。 ミヤサワ 寂しい? タニサキ まぁ、それなりには。 ナナツメ (軽い咳払い)いい加減、あれどうにかしないのか? ミヤサワ え? ユキノ? ミノシマ (と、いじけて)そうだよね。みんな、ケイの代わりにあたしがいなくなればよかったのにとか思っているんだよね。「新しく部長になる二年って誰だっけ〜?」くらいのノリなんだね。 ミヤサワ そんな事誰も思ってないよ。(サノに)ね? サノ そうそう。みんなユキノ新部長には、いて欲しいと思っているよ。 モリイ 建前では。 ミノシマ 建前かよ! ミヤサワ そんな事無いって! (ナナツメに)ね? ナナツメ 俺に振るなよ。面倒くさい。 ミノシマ めんどくさい! 面倒くさい女なんだ私は! 面倒くさくて、そこがちょっと可愛い女なんだ! アクノガワ 本当に面倒くさ。 ミヤサワ そんな事無いって。(タニサキに)ね? タニサキ ……(と、目をそらす) ミノシマ 目をそらされた〜 ミヤサワ ユキノは私にとって大事な友達だから。ね? ミノシマ ケイ〜。(と、ミヤサワに抱きつく) ミヤサワ それで? 何の話をしようとしていたの? ミノシマ え?…………だから! 元はといえばお前が悪い!(と、サノを指さす) サノ あたし!? ミノシマ もうすぐ夏休みになるってのに、全然作品を書こうとしない! 描いたと思ったら、漫画! マジメに書いている人間の邪魔をする! 9月前には原稿完成させて校正に入らないといけないのに、二年がそんなんじゃ一年生に示しがつかないでしょ! いつまでもゲームやってる一年もいるし。 ミヤサワ それは、ちょっとまずいねぇ。 アクノガワ え、でもそれは、 サノ 去年もこんな感じじゃーん。 アクノガワ って先輩が言うから。 ミノシマ だからそれがダメだって言ってるの! 去年の二の舞になるの嫌でしょ? タニサキ 去年? アクノガワ 何かあったんすか? ナナツメ (黒板を指さし)多くは語らない。想像しろ。 タニサキ 「今年こそ」か。 アクノガワ あーなるほど。 サノ ちゃんと、たまには書いてるよ。(アクノガワに)ねぇ? アクノガワ そうですよ。先輩達だってたまには書いてますよ。(モリイに)ですよね? モリイ まあ、たまには。 サノ あたしなんて昨日までに三行も書いたし。 アクノガワ すごいじゃないですか! モリィ さすが。 アクノガワ 俺も二十字は書きました。 モリィ さすがだね。 サノ やるじゃん。 モリィ あたしも多い、読んだ冊数が。 アクノガワ すごいっすよね。 サノ やるねぇ。 ミノシマ 黙れ三馬鹿! 見苦しい言い訳をするな。 サノ・モリイ・アクノガワ はぁ!? ミヤサワ ユキノ、(言いすぎ) ミノシマ はっきり言ってね。真面目にやっている人にとってはあんたたちは、迷惑なの。それをちゃんと自覚して欲しいわ。 サノ なにそれ? そこまで言う? ミノシマ 言うね! ね? ジュンもそう思うでしょ? タニサキ (と、ぎこちなく頷く) ミノシマ ナナツメもそう思うよね? ナナツメ まぁ、うるさいのは勘弁して欲しい。 ミノシマ ほら。 サノ はあ? 何ユキノの肩持っちゃってんの? もしかしてアレ? 部内恋愛ですか? アクノガワ え、付き合ってるんすか!? ミノシマ バカなこと言わないでよ! (そんなわけないでしょ) ナナツメ そんなわけないだろ。お前ら最近うるさ過ぎなんだよ。 ミノシマ そうだよ。そんなわけ無いんだから。ただちょっとくらいは照れたりしてくれたりすると嬉しかった。 ナナツメ ん? ミノシマ じゃなくて、そんな風に変にちゃかしたり、騒いでないで真面目に活動しろって言ってるの! モリイ 部活なんて楽しくやればいいと思うけど。 ミノシマ 楽しいのはあんたたちだけでしょ。 サノ なによ? 黙って、暗〜く作業していればいいってわけ? ミノシマ ふざけるくらいなら部室来るなって言ってるの! サノ 別にふざけてないんだけど!? ミノシマ ふざけてるだろ!? 何だよ三行って! サノ 電車の中で書いたんだから仕方無いでしょ。 ミノシマ 電車!? 携帯かよ! サノ スマフォだよ! ミノシマ 原稿に書け! ミヤサワ ちょ、ちょっと待ってよ。ね? 落ち着こうよ。そんな喧嘩すること無いじゃん。そりゃ原稿書かない人もいるけどさ。ジュンみたいに編集やりたいって入ってきた子もいるし、読み専門って子もいるし。色々いるのがうちの文芸部でしょ? ミノシマ 読み専門って言ってて、読むのが漫画ってのもどうかと思うけど。 モリイ 他人の作品に点つける読み方なんて出来ないんで。 タニサキ モリイ先輩、それあたしへの嫌味ですよね? モリイ べつに〜。 タニサキ 言おうか迷ってましたけど、先輩が読んでる漫画って、どれも面白くないですよね。 モリイ (無言でタニサキへ向かう) ミヤサワ ちょっと、だから、待ってって。え? なんで? なんで今になって喧嘩するの? 反抗期? 前髪切り過ぎた? ナナツメ いや、むしろ今だから、と言った方がいいんじゃないか。これから本格的に部誌を作る過程に入っていくわけだし。やる気も無い低レベルな奴ら、むしろ邪魔な戦力は今のうちに切り落としたほうがいい。 アクノガワ なんすかそれ。意味わからないんすけど! ナナツメ 時と場所を考えろって言ってるんだ! ミヤサワ 仲良くやってきたよね。今まで。これからも、仲良くやっていってよ。ね? ミノシマ これは、ケイのためでもあるんだよ。 ミヤサワ 私のため? サノ ケイも、アタシたちがいなくなったほうがいいって思うわけ!? ミヤサワ ちがうよ。私は、皆仲良くって。ね? だからちょっと落ち着いてさ。 アクノガワ  喧嘩売ってきたのは、ミノシマ先輩たちの方じゃないですか。 ナナツメ それはお前らが真面目にやらないからだろう! ミヤサワ じゃあ、皆これから真面目にやればさ、 モリイ マジメにヤル(殺る)? そうね。それしかないみたいね。 タニサキ いつでも受けてたちますよ。 サノ 決着、つけるか。 ミノシマ そうね。 ミヤサワ なんでそうなるの!? ミノシマ ま、どうせあたし達の勝ちだろうけど。 サノ・モリイ・アクノガワ はぁ!?      と、ミノシマが語る間にイズミが現れる。その姿に気づいて、皆ミノシマから目をそらす。      イズミはミノシマの背後に立つ。 4 先生の登場 ミノシマ 何の勝負する? あ、テレビゲームはやめてよね。幼稚だし。どうしてもっていうんなら仕方無いけど。勝つのはあたしらだしね。……って、なにこの空気? ちょっと! あたしがなんか滑ったみたいになってるよっ! って、(後ろを振り向き)先生! イズミ まぁた面倒くさいことやってるわけ? やめてよねぇ。ただでさえ、文芸部は大した活動して無いくせに部室持っていたり、やかましい音立てていたりで、人気ないんだから。下手したらそのうち潰されちゃうわよ。ま、あたしはその方が楽だけど。 サノ またまたぁ。(と、椅子をすばやく運びつつ)先生、なんだかんだでうちら好きなくせに。 イズミ でもねぇ。漫研の子達が欲しいって言ってるんだよねぇ。部室。漫画研究会、一昨年部員足りなくて廃部になったでしょ? 人数集めて復活したものの、部室は無いままだからさぁ。あたし、漫研の顧問でもあるし、あの子達も好きなんだよねぇ〜。 ミノシマ 大丈夫です。じきに静かになりますから。 イズミ ならいいけど。お、よかった。ミヤザワ発見。 ミヤサワ お疲れ様です。ミヤサワ、です。 イズミ 放送入れようかと思ったけど、漫研行くついでと思って。(と、封筒を出す)個人の賞状。去年の分。 ミヤサワ ありがとうございます。 イズミ まあ、ミヤザワくらいだから。 ミヤサワ ミヤ「サワ」です。 イズミ この部でなんか活動らしい活動したのは。 ミノシマ 今年はちゃんと活動します。 イズミ 頼むよ新部長さん。せめて部誌の一冊くらいは出してよね。 ミノシマ はい! ナナツメ もちろんです。今年はやる気のある一年もいますし。 タニサキ あ、頑張ります。 イズミ ま、去年みたいにふざけたまんまも私は嫌いじゃないけど。 サノ ですよねぇ。 モリイ 部誌なんて飾りですよ。な。 アクノガワ 楽しいのが一番っすよ。 サノ あーあ。さっきまで楽しかったのになぁ。 アクノガワ ですよね。 ミノシマ 言いたいことがあるならはっきり言ったら? サノ べつに〜。 ナナツメ こいつら語彙力ないからな。 サノ&モリイ&アクノガワ はぁ!? サノ どこがだよ? タニサキ そういうところだと思いますけど。      と、イズミは部員たちの会話にため息をつきつつ、ふと思いついて イズミ で、どうやって決着つけるの? ミヤサワ 先生!? イズミ え? 勝負するんでしょ? 退部かけて。 ミヤサワ 退部!? いえ、しませんから。 イズミ でも、このままギスギスした感じでいるよりはねぇ? なんかで勝負して、負けた方は部活辞めて出ていく、くらいの方がいいんじゃない? ねえ? ミヤサワ 全然よくありません! (皆に)ね? ミノシマ 退部か……。 ミヤサワ ユキノ? サノ 確かに、負けたらどうするか決めて無かった。 ミヤサワ アキヨ、 モリイ アレだけのこと言ったんだから、もちろん覚悟出来てるわけだ。 ミヤサワ オウカ、 アクノガワ でも、俺ら勝っちゃったら、(と、タニサキを気にする) タニサキ 勝負する前から勝ったつもりになるって負けパターンですよね。 ミヤサワ ジュン…… ナナツメ (頷く) ミヤサワ いや、ほら、ダメだよ! 退部なんて。 ここは落ち着いてさ。文芸部らしく、良く話し合ってみたりしてさ、 イズミ ディベートは? ミヤサワ はい? イズミ ディベート。丁度同じ数ずつでぶつかっているみたいだし。語彙力の勝負にもなるし。一つのお題に対して、各チーム一人ずつ選出による、意見と意見、言葉と言葉のぶつかり合い。それなら文芸部らしいと思うけど? ミヤサワ以外の生徒六人 それだ! ミヤサワ たきつけてどうするんです!? 大体ディベートって。審査員は!? イズミ そこは、元部長の出番でしょ? ミヤサワ あたしぃ!? って先生! どうする気ですか!?      去ろうとするイズミをミヤサワは捕まえ端に連れて行く。にらみ合う六人は二人の会話に気づかない。 イズミ 漫研行くつもりだけど? そして帰る。 ミヤサワ 先生の予定じゃなくて。 イズミ ただあの子達、どこの教室で活動しているか、探さなきゃいけないのよね。面倒くさい。 ミヤサワ なにか、考えがあるんですよね? ぶつかり合うことによって友情を導き出す、とか。 イズミ ……(と、にやりと笑い、去る) ミヤサワ 先生! ミノシマ いつがいい? サノ いつでも。 ナナツメ 敗北を教えてやるよ。 モリイ その言葉、そっくり返すわ。 アクノガワ タニサキ、悪いけど、俺、(お前に勝つよ) ミノシマ ジュン〜。作戦会議しよ。 タニサキ はい。 アクノガワ 聞けよ! ミヤサワ 何でこうなっちゃうの〜      音楽と共にミヤサワ以外の文芸部員によって舞台チェンジ。 5 三日後。終業式前日      文芸部室は戦いの場へと変わる。簡易的なリング。上下に椅子が別れ、やる気あるチームと無いチームがいる。       呆然とミヤサワは立ち尽くしている。 サノ 部長〜 じゃなかった。元部長〜 ケイ〜? ミヤサワ え? サノ そろそろ現実に戻ってきなよ。 ミヤサワ あ、ごめん。なんか今思い出がふあーって走っていった。 ナナツメ 現実逃避しても始まらないだろ。 ミヤサワ だよね。 ミノシマ それより見てよ。(と、リングを指差し)あれから三日で作り上げたんだから。 サノ これ(と、ゴングを指し)どうしたの? モリイ 買った。 ナナツメ 本当、無駄な事には力使うよな。 アクノガワ 負けたほうはこれの片付けもっすからね。 タニサキ 既に勝った気になるのって痛いと思う。 アクノガワ そ、そうだよね……(しゅんとなる) モリイ (タニサキを睨む) ミヤサワ ねぇ、みんなやっぱりさ、      と、イズミがやって来る。マイクと部員名簿を持っている イズミ ごめん。遅れた。 サノ 遅いよせんせ〜。 イズミ 明日、終業式だから。色々と忙しいのよ。 ナナツメ ちゃんと持ってきてくれましたか? イズミ はいよ。部員名簿(と、ナナツメに見せる) ナナツメ 負けたほうが、この名簿から名前を消す。それでいいな? サノ 当然。 ナナツメ よし。ミヤサワは、こっちに。審判席用意したから。(と、席を示す) ミヤサワ (椅子に近づきながら)あの、でも、ディベートってことはお題があるんだよね。 ナナツメ まあな。 ミヤサワ それ、誰が出すの? イズミ ま、そこは当然あたしだな!(と、マイクを取り出し)じゃあ、早速始めますか!      音楽。ミヤサワ近くにイズミが座る。      やる気あるチーム・無いチームそれぞれに気合を入れる。 6 一回戦前      やる気あるチームからはタニサキ、やる気無いチームからは、サノが進み出る。 サノ なんだ。一年生か。ラッキー。 ミノシマ げっ。いきなりアキヨか。 ナナツメ あいつ、こういうのはやる気あるからな。 アクノガワ 先輩、油断はダメですよ。 サノ って言っても年下だからなぁ。私にとってはなんて言うか、お子ちゃま? 経験不足っていうか。 タニサキ そうですね。どう見ても私には足りてないですよね。悪意とか。だらしなさとか。部屋の汚さとか。先輩に比べて不足しているところばかりですね。 サノ 背も足りてないもんね。 タニサキ 先輩、胴長いですもんね。 サノ てか、スカートと靴下くっつきそうじゃない? だっさー。 タニサキ 足太いのによくそんな短く出来ますね? 感心しちゃうなぁ。      サノとタニサキは互いに罵り合う。周りは煽る。 ミヤサワ (と、ゴングを鳴らして)はいはいはい。喧嘩はそこまで。 イズミ 二人とも飛ばすねぇ。まるで常日頃から憎みあっているみたいだ。いいねぇ。 ミヤサワ どこがいいんですか……(皆に)では、一回戦を始めます。お題を先生に出してもらい、 ディベートをしてもらいます。判定は、私が、つけ、ます。 ミノシマ ヒイキはダメだからね。 ミヤサワ そんな余裕無い! えっと、では先生。お題をお願いします。 イズミ そうね。じゃあ、……「リンゴジュースとブドウジュースではリンゴジュースの方が美味しい。是か否か」 ミヤサワ ……はい? イズミ 購買のところに自販機あるでしょ? 商品は定期的に入れ替えてるんだけど。業者の人にどっちを残すか聞かれてさ。売れゆきとしては同じくらいみたいなんだよね。で、どうしようかと思ってたから。 ミヤサワ 学校の問題を持ち込むのは止めてください! イズミ 参考にするだけよ。で、どっちがリンゴジュース派になる? サノ はい! リンゴ! アクノガワ はやっ。 モリイ リンゴジュース大好きだからな。 ミノシマ ちょっと、そんな勝手に決めていいの? ナナツメ そこは一年生を優先にすべきだろ。 タニサキ いいですよ。私はブドウで。アキヨ先輩の方がリンゴっぽいですし。 サノ どういう意味? タニサキ そのままの意味です。 サノ だから、どういう意味だよ。 タニサキ 理解力無いですね。 サノ 説明力がないんだろ。 ミヤサワ (と、ゴングを鳴らして)はい。喧嘩はそこまで。はい。じゃあ、始めよう? ね? イズミ (ミヤサワの袖を引っ張っている) ミヤサワ 二人とももうちょっと離れて。先攻は? イズミ (ミヤサワの袖を引っ張っている) タニサキ お先にどうぞ。 イズミ (ミヤサワの袖を引っ張っている) サノ じゃあ、あたしからで。 ミヤサワ では、アキヨからで……って、なんですか先生。 イズミ アレ、やらないの? アレ。 ミヤサワ アレ? イズミ プロレスとか、ボクシングであるやつ。 ミヤサワ ……分かりました。(軽く咳払いして、以下アナウンサー風に)赤コーナー 文芸部2年、サノ〜 アキヨ〜      やる気無いチームが歓声を上げる。 ミヤサワ 青コーナー 文芸部1年、タニサキ〜 ジュン〜      やる気あるチームが歓声を上げる。 イズミ では、始めましょうか。レディ、ゴー!      イズミがゴングを鳴らす。 7 一回戦      音楽と共に、サノは語りだす。 サノ まずはじめに一つ言いたいことは、リンゴジュースは美味しい。ブドウよりも美味しい。次にすっきりするでしょ。朝、眠くても、飲んだらクーってなるわけ。わかる? 子供も好きよね。美味しいから。それと……えっと、水分が多いから、体育の授業の後の水分補給に? 良い? 体に良いから。あと、メジャー。ブドウよりも。だってレストランのドリンクバーには大抵あるし。飲み放題。お得。あと……そうだ、摩り下ろして飲めば病気にも効く。絶対。栄養があるから。……しかも美味しい。カレーに入れるのもOK! 隠し味にしても大丈夫。ということで、リンゴジュースの勝ち。以上。      間 ミヤサワ ……え? 終わり? サノ そうだけど? アクノガワ (サノに)先輩、 サノ なに? アクノガワ ディベートって、分かってます? サノ はぁ? 当たり前でしょ。 ナナツメ 勝ったな。 タニサキ えっと、じゃあ私の番でいいですか? サノ (堂々と)どうぞ? ミヤサワ では、後攻、お願いします。 ミノシマ ジュン、頑張って。 タニサキ (任せろというように頷く)その昔、ブドウ王国をラブルスカ王が治めていた時代のお話です。 タニサキ以外の全員 ……は? タニサキ ラブルスカ王には、アムレンシスとピオーネという王女がいました。 ミヤサワ ちょっと待って。 タニサキ アムレンシスは背が高く、冷たい微笑みながら心は優しい。ピオーネは低い背で、優しい笑顔でありながら心の中は冷え切っている、という対照的な姉妹でした。ある日のことです。アムレンシスが家来を連れて道を歩いていると……突然! 近くの木から鳥がバサバサバサ! そこらへんに不穏な空気がフワー! 「曲者か! 王女。我々の影に!」 ミヤサワ えっと、あの、だからさ、 タニサキ 「退(の)け、ルペストリス! わらわに盾はいらぬ!」アムレンシスは、忠臣ルペストリスの横に凛と立つと言いました。その言葉を待っていたかのように銃声がバーーーン。ゆっくりと崩れていく体。緊張した空気が切り取られていくような、恐ろしい長さを持った一瞬の静寂。そして、響き渡る悲鳴。「ルペストリス!」すがりつくアムレンシスに、ルペストリスは口の端を持ち上げましたが、言葉は出ませんでした。「馬鹿者。お前は馬鹿だルペストリス」責める声と共に、頬を伝う一筋の涙。……その時です。「なんだ。外したか」と、一人の姿がアムレンシスの前に現れました。アムレンシスは目を見開き、震える声で言いました。「なぜ、お前がここにいる。答えろ! ピオーネ!」 ミヤサワ はいストップ。止めます。ストップです。      ミヤサワはゴングを叩いてタニサキの話を止める。      周りは呆然。 タニサキ これからだったのに。 ミヤサワ えっと、じゃなくて。あの、周りを見て欲しいんだけど。 タニサキ 聞き入ってましたね。完全に。 ミヤサワ いや、えっと、ジュン、ディベートってなんだか分かってる? タニサキ お題に関して、どっちが優れているかの話をするんですよね? ミヤサワ うん。だからね、 タニサキ だから、ブドウがいかに戦力的に優れているかを壮大な物語を使って説明しようかと。 ミヤサワ アキヨの勝ち。 タニサキ なぜ! サノ よーっし! まずは一勝! モリイ ラッキーだった。 ナナツメ ルールくらい、皆理解していると思って説明しなかったこちらのミスだな。 アクノガワ でも、タニサキの話、わりと、面白かったぜ。 タニサキ ……ありがとう。 ミノシマ よくもまぁ、あんなでたらめな名前思いついたわ。 タニサキ でたらめじゃないですよ。品種です。 ミノシマ 品種? タニサキ アムレンシスやピオーネはブドウの品種です。私、ブドウには詳しいんです。 ミノシマ だったらその話をしろよ! タニサキ だからしたじゃないですか!      イズミがゴングを何度か鳴らす。 イズミ はいはいはい。まぁ、一回戦は、こっち(やる気無いチーム)の勝ちってことでね。さあ、続いて二回戦行きましょうか。 ナナツメ まあ、これで勝てばいいんだろ? ミノシマ 頼りにしているからね。 アクノガワ ここは連勝で勝負を決めたいところですね。 サノ よし。私に続け! モリイ オッケー。 8 二回戦      モリイとナナツメがそれぞれ前に進む。 ナナツメ 俺の相手はモリイか。 モリイ 何か不都合? ナナツメ 別に。まぁ、楽しませてくれよ。 サノ なにその上から目線。 ナナツメ 負ける気がしないんでね。 サノ うわ〜。いらつく〜。 モリイ ナナツメ。 ナナツメ なんだよ。手加減はしないぞ。 モリイ さっきから台詞が全部、負けフラグ。 ナナツメ ……早く始めようか。 ミヤサワ 先生、お題は? イズミ うーん。じゃあね、「コンビニの深夜営業はやめるべき。是か否か」 ミヤサワ 今度は真面目なんですね。 アクノガワ コンビニが深夜営業できなかったらコンビニじゃないですよ。 モリイ そうだね。 ナナツメ じゃあ、俺が肯定派か。先に言わせてもらっていいかな? ミノシマ レフェリー。 ミヤサワ また!? イズミ しょうがないわねぇ。ここは、私が見本を見せてあげる。ちょっと持ってて。(と、部員名簿をミヤサワに渡す) ミヤサワ あ、はい。(と、部員名簿を受け取り、ふと注意書きを読む)……え、これって。 イズミ 赤コーナー! 2年 感想担当。文芸部会計 モリイ〜 オウカ〜      やる気無いチームが歓声を上げる。 イズミ 青コーナー 同じく2年執筆担当。文芸部副部長 ナナツメ〜 ソウタ〜      やる気あるチームが歓声を上げる。 ミヤサワ 先生、これって…… イズミ (と、ミヤサワにニヤリと笑ってから)レディ、ゴー!(と、ゴングを鳴らす) ナナツメ コンビニの深夜営業はやめるべきという意見は、三つの点から肯定することが出来る。コスト面、安全面、環境面の三点だ。一点目。コスト面に関して。現在、深夜時間帯には多くの店舗で一人ないしは二人が作業をしている。ちなみに、現在のコンビニ店舗数はどれくらいか分かるか? モリイ さぁ。 ナナツメ 約51000店だ。 モリイ へぇ。 ナナツメ おそらく、この店舗数の多さから、深夜営業を止めれば労働者が大量に失職するという懸念を抱く人がいるだろう。だが、考えて欲しいのは、雇用面でかかるコストだ。深夜一人を雇うのに、会社はいくらお金を使っているか。そして、その採算は取れているのか? 採算が取れない場合はどこにしわ寄せが来るのか? 会社は儲けるために、原価を抑える。結果、圧迫されるのは商品をコンビニにおろしている製造業の人々だ。当たり前だが、人件費というのが一番厄介なんだ。コンビニの営業を業界全体で深夜禁止ということにすれば、この人件費が一気に浮く。 モリイ なるほど。 アクノガワ 説得されてどうするんすか。 モリイ そうか。 ナナツメ 第二点、安全面について。深夜のコンビニは灯りが常についている場所、いつでも商品が買える場所としてたまり場になりやすい。店員が少ない店では強盗の被害に遭うことも多い。つまり、コンビニの深夜営業は、治安が悪化するだけで百害あって一理も無い。 モリイ 確かに、危ない。 アクノガワ だから説得されちゃだめですって。 モリイ そうか。 ナナツメ 最後に環境面についてだが、これは分かりやすいだろう。深夜中も照明のために使われる電気、冷蔵・冷凍などで排出され続けるCO2。有限であるエネルギーの点に立ってみても、コンビニの深夜営業は止めるべきだ。以上。さ、反論は? ミヤサワ すごい。本当にディベートしているみたい。 ナナツメ 本当にディベートをしてるんだよ。 アクノガワ これは、無理だ…… サノ 大人気なさ過ぎ。 ナナツメ あるんなら、遠慮なく言ってくれ。 モリイ 反論、 ナナツメ なんだよ。 モリイ 深夜のコンビニって便利でしょ? ナナツメ ……は? モリイ コンビニが深夜にやってなかったら、深夜に急にお腹空いた時とか、なんか欲しくなった時、困るし。 ナナツメ だから便利とかそういう問題じゃなくてな、環境面から言っても、 モリイ でも便利。 ナナツメ 便利だけで安全や環境を犠牲に出来ないだろ。 モリイ 車は走っているのに? ナナツメ なんだ車って。 モリイ 車が深夜走らない方が環境にも優しいし、安全。暴漢に遭う確率よりも、交通事故に遭う確率の方が多分高い。交通事故のニュースって毎日のようにやってるし。 ナナツメ そんなのはへ理屈だ。それにな、便利だからって、正しいってことにはならないだろう。 モリイ それは、おかしい。 ナナツメ 何が。 モリイ ではここで質問。「convenience」の意味は? ナナツメ 便利。 モリイ 大正解。不便になったらコンビニの意味無い。 ナナツメ 別に深夜営業をしなくてもコンビニは便利じゃないか。 モリイ それに、ナナツメが言ったことは、24時間で営業している店舗にはほとんど言えることだと思う。 ナナツメ …… モリイ 牛丼屋とか、ファミレスとか。ガソリンスタンドとか。一部のハンバーガー屋とか。 つまり、「コンビニが深夜営業をすべきではない」というお題にたいしての意見だとは言えない。 ナナツメ だから……それはだな、 モリイ どうしてコンビニだけが深夜営業しちゃいけないの? ナナツメ ……それはその…… モリイ ねえ、なんで? ナナツメ それは、だから、 モリイ なんで? ねえ、なんで? ナナツメ ……確かに、コンビニに限ったことではなかったかもしれない。      イズミがゴングを鳴らす。 イズミ ここまででいいんじゃない? なんとなく、勝敗は決まったでしょ? ミヤサワ あ、はい。……えっと、でも、 ナナツメ 俺の負けだ。 ミヤサワ オウカの勝ち。      やる気無いチームは歓声を上げる。 9 勝敗の結果。 アクノガワ すげぇ。難癖だけで勝った。 モリイ 圧勝。 イズミ 同点になって決勝戦に勝敗はもつれ込む! ……とか、ならないあたりが、現実のつまんないとこよね。 ナナツメ すまん。 ミノシマ ナナツメが謝ることじゃないよ。ね? タニサキ これで、私たち……。      盛り上がっていたアクノガワ、モリイ、サノは思わず黙る。皆が部員名簿を注目する。 ミヤサワ みんな、それでいいの? ……本当にそれでいいの!?      ミヤサワが守るように部員名簿を抱く。 イズミ さて、嫌なことはさっさと終わらせますか。      と、言いながらミヤサワの手から部員名簿を取る。 ミヤサワ あっ。 イズミ で、いいのね? 名簿から消えちゃって。      ミノシマ・ナナツメ・タニサキは頷く。 イズミ じゃあ、消しちゃうよ。えっと、ミノシマユキノ、ナナツメソウタ、タニサキジュンっと。      と、イズミは部員名簿に線を引いていく。 アクノガワ あっさりですね。 モリイ うん。 イズミ これで、部員は一年生がアクノガワ君。二年生が、サノさん。モリイさんか。 ナナツメ 副部長、ちゃんと決めろよ。 ミノシマ 部長もね ミヤサワ (イズミに)文芸部が3人になって。次はどうなるんですか?      全員の視線がミヤサワへ行く。 ミノシマ どうなるって、次はこの子らで部誌を作るんでしょ? ナナツメ 原稿を用意できるかが問題だけどな。 ミヤサワ (イズミに)部誌、作れるんですか? サノ いや、アタシたちだってやる時はやるわよ。ねぇ? アクノガワ そうっすよ。 モリイ たぶん。 アクノガワ そこは無理にでも出来ますって言いましょうよ。 モリイ うそは言えない。 ミヤサワ 文芸部が、なくなっても? サノ ……え? イズミ あ、見ちゃった? 注意書き。 ミヤサワ (頷く) ミノシマ え? どういうことですか? イズミ いいじゃない。あなたたちはもう辞めたんだし。 ミヤサワ 部員名簿に書いてあったの! 部活と認められる人数は五人以上。新年度一学期間中に部員が5名に達しない部は、廃部とする。 ナナツメ 一学期間中って、だって今日は…… タニサキ もう明日終業式ですよ? イズミ だから、確実に廃部だね。 ミノシマ そんなっ! イズミ 仕方ないでしょ。規則で決められているんだから。 タニサキ だからって、いきなり廃部なんて。 ナナツメ 一教師がそんなこと勝手に決めていいんですか? アクノガワ 俺はこれからどこでゲームすればいいんすか!? モリイ 部室に置いたままの漫画どうしよう。      生徒たちは口々に勝手なことを言う。 サノ 大体そんな事一言も(言ってなかったじゃないですか) イズミ 確かめなかったあなたたちが悪いんでしょう! せっかくこないだ、廃部になった部活の話をしてあげたのにね。……まぁ、人数足りてないところが部室持っていたって宝の持ち腐れだし? いつも喧嘩している部よりは?仲良く活動しているのに部室をもらえていない可哀想な部に部室を譲ってあげるべきじゃない? ミヤサワ 先生? 冗談ですよね? イズミ 漫研って毎回活動する教室変えるのよ。言ったっけ? ミヤサワ (頷く) イズミ 面倒くさいのよね。一つのところにいてくれたほうがさ、こっちとしては楽なわけ。ってことで、今日書類提出すれば、明日には廃部って決まると思うから。夏休み中に荷物整理の日、予定作っておいてね。えーっと、サノさんか、モリイさん。よろしく。      イズミは去る。 10 どうする?      蝉の鳴き声がやけに響く。誰ともなく、部室を元通りに直していく。      オープニングと同じような配置になったところで、      ナナツメがパソコンのキーを叩き始める。 ミヤサワ ……何してるの? ナナツメ 帰るんだ。その前にパソコンのデータ、持って帰らなきゃならないだろ。 ミノシマ ……あたしも。……(モリイに)USBメモリどこだっけ? モリイ そこの棚の三段目。 ミノシマ (振り返り棚を見渡し)上から? 下から? モリイ そこの……(ふっと笑う) ミノシマ なに? モリイ (こんな会話を)こないだもしたなって。 ミノシマ ……うん。      無言の間。ミヤサワは周りを見て自分が何とかしないとという決意を込めて頷く。 ミヤサワ ……アキヨはさ、 サノ なに? ミヤサワ 勝ったら、本当にみんな追い出すつもりだったの? サノ ……わからない。……だってあの時はユキノがさ…… ミヤサワ (ミノシマを見る) ミノシマ ……私はただ、みんな真面目にって……思って。 サノ そりゃ、不真面目かもしれないけど。やる時はやるじゃん。 ミノシマ そのやる時が見えないからこうなったんでしょ。 サノ あたしらのせいって言いたいわけ? ミノシマ 誰のせいかって言ったら……そうでしょ。 アクノガワ でも、部室に来るなって言い出したのは先輩ですよ。 ミノシマ それは…… ナナツメ ゲームをやるくらいならって話だろ、それは。 アクノガワ 悪かったと思ってますけど…… モリイ だけど、今までは言わなかった。 アクノガワ 急に言われたらムッときますよ。 タニサキ 言われるまで止めないって言うのも問題だと思うけど。 アクノガワ それは、悪かったって思ってるよ。 モリイ 急にキレることなかった。 サノ そう。いきなり怒鳴られたら、こっちもなんだよって思うじゃん。 タニサキ やり方は悪かったかもしれないですけど。 サノ ま、今更だけど。 アクノガワ ですよね。      間 ナナツメ 見せたかったんだろ。……ちゃんとやれるって。皆まとまれるって。一つになれるはずだって。だから、(と、ミヤサワを見て)安心していいって。そうなんだろ? ……わかるよ。それくらい。 ミヤサワ 私が?……いなくなるから? ミノシマ ちゃんとまとめられたら、カッコいいかなって思っただけだよ。 ミヤサワ ユキノ…… ミノシマ 無理だったけど。 サノ なにそれ! それじゃあたしらは完全に悪者じゃん。ねぇ? アクノガワ 別に今までもイイモノでは無かった気がしますけど。 サノ うるさい。 アクノガワ はい。 サノ それ先に言えよ! 怒る前にさ。……だってビックリするでしょ! いきなり迷惑とか言われたら。仲良くやってきたと思ってたのにさ。……あたしだって、ケイがいなくなっちゃう分も、みんな明るくしなきゃ、とか考えてたのにさ。ビックリするじゃん! 別にこれと言って何もして無いってのにさ。ビックリするし。 ナナツメ 何もしないのが悪いんだけどな。 サノ うるさい! ミノシマ アキヨ。 サノ なに!? ミノシマ ごめん。 サノ ……謝るなよ! あんた、何も悪い事してないじゃん! なのに謝られたらさ、あたしが…… 大体、謝られたって仕方無いじゃん!……あたしも! 悪かったかもしれないといえば、悪かったんだしさ。 モリイ 確かに少し熱くなりすぎた。 サノ だから! まぁ、ごめん。 ミノシマ うん。 モリイ ……最初から素直に言い合えば良かった。 ミノシマ あたしは割と素直に言ってたつもりなんだけど。 サノ あんたの顔は、冗談か本気か分かりづらいんだよ。 モリイ 確かに。 ミノシマ 顔は関係ないでしょ! (と、ナナツメに)え、関係ないよね!? ナナツメ 俺に振るなよ。(面倒くさい) ミヤサワ (と、ナナツメを止めて)その先言っちゃうともっと面倒な事になるから。 ミノシマ 言っちゃってるからね! 面倒って言っちゃってるから!      明るい雰囲気でミノシマを弄る二年生。 タニサキ あの、なんだか、すっきりした感じの中、言おうか悩むんですが、でも、どうするんですか? アクノガワ そうっすよ。このままじゃ、廃部っすよ。 サノ そうだった。 モリイ どうするの? ナナツメ どうするって言ってもな。 ミヤサワ なんとか出来ないかな。 ミノシマ なんとかって? ミヤサワ 先生に頼んでみる、とか。 サノ 聞いてくれると思う? アクノガワ すごい嬉しそうでしたからね。 モリイ 上機嫌だった。 タニサキ なのに、さっきのナシとか言ったら…… アクノガワ 怒るぞ。きっと。 ミノシマ だよね。 ナナツメ まずまともに聞いてくれないだろうな。 ミヤサワ それでも、私…… サノ ケイ。待って。 ミヤサワ え? サノ で、どうしたいのよ。「部長」は?      皆がミノシマを見る。 ミノシマ え? サノ こういうのは、部長が決めるものじゃん? ミヤサワ ……うん。部長は、どうしたいの? ミノシマ 私……みんなで、部活がしたい。……力貸してくれる? ナナツメ ……じゃあ、やるか。 サノ 仕方ないな。手を貸してやるよ。 モリイ 謝る頭は多いほうがいい。 アクノガワ 普通に謝ってもダメだと思いますよ。 タニサキ だったら、普通じゃなければ? ミノシマ 踊りながら頭下げるとか? ナナツメ いや、やはり土下座だろ。後は高さだな。 タニサキ 反省文で誠意を見せるのはどうですか? アクノガワ 号泣っすよ。号泣。 サノ 息が続く限り謝り続けるとか。 モリイ 金を積もう。 ミノシマ・ナナツメ・サノ・モリイ・アクノガワ・タニサキ それはダメだ(でしょ) モリイ ……いい案だと思ったのに。      皆がワイワイと考え始める。 ミノシマは少し離れた場所にいるミヤサワに気づく。 ミノシマ ケイも。考えてよ。一緒にさ。 ミヤサワ うん。      音楽と共に暗くなる部室。 11 こうなりました。      照明が明るくなると、イズミが端っこに立っている。文芸部員がぞろっといる。 イズミ で? 用は何? ミノシマ その、アレから色々ありまして。えっと(ナナツメ) ナナツメ 僕たち、仲直りしました。な? アクノガワ そもそも喧嘩なんてしてなかったんじゃないかってくらい。 サノ だから、退部の件は無かったことにしてもらえないかなと。思いまして。 イズミ (一瞬満足げに笑顔になるが、あえて気難しい顔で)え〜? そんな事言われても、もう書類書いちゃったし。 モリイ 書きかえれないんすか? イズミ 大体、あんたたち、喧嘩してたでしょ。それが廃部になるって聞いた途端に仲直りって、なんかその場しのぎって感じしない? ミノシマ それは……(サノを見る) サノ みんな心を入れ替えたから大丈夫です。 イズミ そんなこと言って、また喧嘩するかもしれないし。だったらねえ? いっそ一度まっさらにしたほうがいいんじゃない? ミノシマ もう絶対喧嘩はしません。ね? 生徒ALL (と、それぞれバラバラに)お願いします。 イズミ (と、ため息をつきつつ)言うだけだったら、何とでも言えるしね。      ナナツメが目で合図を送る。アクノガワと、ミノシマが頷く。イズミに見えるように3人は土下座する。 ナナツメ・アクノガワ・ミノシマ お願いします! イズミ (思わずその姿に背を向ける)いや、そんな事されてもね?      と、その3人の上に、モリイ、サノ、が乗る。 5人 お願いします! イズミ (背を向けたまま)いや、だからね? 謝るだけだったら、誰でも出来るんだしねぇ。      と、その2人の上に、タニサキが乗る。6人の、人間ピラミッド。ミヤサワはスフィンクスっぽく座る。 7人 お願いします! イズミ いや、だからそんなお願いされても(と、振り返る)何やってんの!? ナナツメ 僕たちの、仲良しぶりを、見てもらおう、かと。 イズミ ちょっと苦しそうなんだけど。え、大丈夫なの? アクノガワ だ、大丈夫です。 ミノシマ あ、ダメかも。 ミノシマ以外の文芸部員 え!? ミヤサワ 降りて降りて! タニサキ は、はい! ナナツメ ゆっくりな。ゆっくりだぞ。      と、人間ピラミッドは崩れる。 ナナツメ ど、どうですか。 イズミ どうって言われても、 タニサキ 怖かった…… サノ ほら、やっぱりダメじゃん。 モリイ インパクト弱かった。 ミノシマ もうちょっと考えなくちゃ。 アクノガワ 一人余ってましたし。 ミヤサワ ちょっと淋しかった。 ナナツメ はじめは乗り気だっただろ! ミノシマ あんなきついと思わなかったし。 タニサキ ほら、先生見てますよ。 ミノシマ (誤魔化すように)今のはあれです。余興です。 イズミ へぇ。 ミノシマ よし、皆整列!      と、ミノシマの言葉に7人がイズミを囲む。そして、ミノシマの振りに合わせて真顔で踊りながら、 ミノシマ お願いします〜 7人 お願いします〜      と、そのままゆっくりイズミの周りを回り続ける。      「お願いします〜」と言い合いながら。踊り続ける。 イズミ (状況についていけず)え、なにこれ。ちょっと、止めなさいって。いや、ちょっと。怖いから。ね? 真顔で迫るな! ね、止めよう? 怖いって。ああもう、分かったから。分かったって! 止めれ〜!      イズミの叫びとともに暗転。音楽。 12 終業式当日A      夏休み直前。終業式が終わった後の放課後。      ミヤサワとミノシマがシーン1と同じようにいる。 ミノシマ まさか思わなかったよね。……無くなるなんてさ。 ミヤサワ 本当だよ。 ミノシマ あんなことで廃部なんてね。 ミヤサワ 本当。あっという間だった。      ミヤサワが黒板を見る。      ミノシマも黒板を見る。 ミノシマ あっという間に無くなって。 ミヤサワ あっという間に、復活、か。 ミノシマ なんか不満そう。 ミヤサワ だって、あんなに騒いだのにさ。 ミノシマ うん。 ミヤサワ 退部者が出た途端に、廃部なんていわれてビックリしてさ。 ミノシマ うん。 ミヤサワ なのに……結局は部員名簿なんていう紙に、皆で名前書き直しただけだったでしょ。 ミノシマ あっけなかったよね。確かに。 ミヤサワ 全部先生の掌の上? みたいな。 ミノシマ どこまで計算していたのかね。 ミヤサワ なんかさ、残らないってことだよね。何にも。皆が喧嘩して、仲直りして、そんなこともここには全然残らないんだよね。これから、また喧嘩しちゃっても残らないし。ここで騒いだことも、誰かが泣いたことも。ユキノがここに座っていたことも。ナナツメ君がその隣にいたことも。オウカは漫画を読んでて、アキヨがアクノガワ君と騒いでて。ジュンは誰かの原稿を読んでて、あたしはここに座ってて。それで、あたしは確かにここにいて。ここにいて、これからいなくなる、ことも。みんな、残らないんだよね。それが当たり前なんだけど。だけど、そういうのがこれからもずっと続くんだなって。なんかさ。そういうのってさ。なんかさ。上手く言えないんだけどさ。      と、タニサキとアクノガワがやって来る。 タニサキ ケイ先輩! アクノガワ 探しましたよ。 タニサキ (と、ミノシマに)部長。見つけたんなら連絡くださいよ。 ミノシマ ごめん。 ミヤサワ 私を探してたの? なんで? タニサキ いいじゃないですか。さ、行きましょう。 アクノガワ 行きましょう先輩。 ミヤサワ え? どこに? タニサキ 部長、後はよろしくお願いしますね。(と、アクノガワに)じゃ、連れて来てね。(と、走り去る) アクノガワ え、ちょ (と、ミノシマに)先輩ついてきてください! (と、外へ)どこに連れて行くんだっけ!?      と、アクノガワが去る。 ミヤサワ ちょっと、ユキノ? なにこれ? どういうこと? ユキノってば! ミノシマ だから、書くんじゃないかな? ミヤサワ ……。 ミノシマ それでも書くんだよ。私たちは。 ミヤサワ 書いてくれる? ミノシマ 書くよ。これからのこと、全部。なにかが残るよう形にして残してみせる。 ミヤサワ うん。      と、タニサキとアクノガワが戻ってくる。 タニサキ (と、アクノガワに)なんで連れて来てくれないの? アクノガワ だって、どこ行くか聞いてなかったから。 タニサキ 何で聞いてないの。先輩、行きましょう。(と、ミヤサワの手を引いて去る) ミヤサワ だから、どこに?(と、手を引かれ去る) アクノガワ だって、俺、ずっとお前だけ(見てたから)いないね。うん。分かってた。      アクノガワが去る。 13 誰が為に鐘は鳴る      静かになる教室。      ミノシマは鞄から張り紙を取り出し、黒板に貼り付ける。「ミヤサワケイ 送別会」      そして、PCに触れる。PCを開いて椅子に座る ミノシマ (と、キーを打ちながら)「後はよろしく」そう彼女の瞳は告げている様に見えた。だから私は心に決めた。何かが残るよう書き続けよう。「何も残らない」と嘆く彼女に、私は言う。「だから書く。それでも書くんだ」と。      飲み物と飾りの袋を持ってナナツメがやってくる。 ミノシマ うん。我ながらいい事言ったな。うん。 ナナツメ ……みんな動かしといて一人だけ休憩か? ミノシマ え? あ、ごめん。買出しは? 終わったの? ナナツメ 飲み物はな。箸とか紙コップは今買いに行ってもらってる。……ミヤサワは見つかったのか? ミノシマ うん。やっぱりここにいたよ。 ナナツメ ばれてないか? ミノシマ 自分のお別れ会が開かれるなんて、想像してないんじゃないかな。ま、準備も全然出来てないけど。 ナナツメ グダグダだな。 ミノシマ だね。 ナナツメ 俺たちらしいか。 ミノシマ うん。      ナナツメは飾りをつけ、部室を少し片付ける。 ミノシマ ……ねぇ、ナナツメ。 ナナツメ ん? ミノシマ これからもよろしくね。 ナナツメ ああ。 ミノシマ あ、別に深い意味はないんだよ。同じ部員同士だし。二年生だし。今年こそは頑張りたいし。 ナナツメ 分かってるよ。仲間だもんな。      話しながらナナツメは机の上を片付ける。      やがて、ナナツメがゴングを持つと、机の上は何もなくなる。 ミノシマ ……全然分かってない。      と、ミノシマが机を見る。そして、ケイの言葉を思い出す。 ミノシマ ……「なんにも残らない」か。 ナナツメ なにがだ? ミノシマ この気持ちもいつかは…… ナナツメ ミノシマ? ミノシマ (と、何かを決意し)……そういえば、二年の中では、私だけディベートしてないよね。 ナナツメ ミヤサワもしてないけどな。 ミノシマ うん。でも、部長としてはちょっと気になっちゃうんだよね。ってことでさ。……ディベート勝負しない?      と、ゴングを中央の机に置く。 ナナツメ ……いいけど。俺相手でいいのか? 勝てっこないぞ。 ミノシマ あんたじゃないと意味ないんだよ。 ナナツメ なんだそれ。じゃあ、お題は出させてやるよ。 ミノシマ そう来なくっちゃ。では、お題は……「ミノシマユキノは、ナナツメソウタと、仲間以上の関係になりたいと思っている。是か、否か」 ナナツメ はぁ!?      ゴングが鳴る。      おろおろするナナツメと、今更照れるミノシマ。      と、部員達がやってくる。面白がって様子を伺う面々。      そして気づいた二人をはやし立てる。      イズミ先生がやってくる。仲のいい部員たちを見て満足げにうなずく。      幕が下りてくる。 完