てのひらをきみに
作 楽静


登場人物

高校2年生たち
フジノ  シホ (藤乃紫穂) 女 17歳 第一高校 皮肉屋。
アズマ  ヨウコ(東 葉子) 女 17歳 第一高校 引っ込み思案。
タチノ  マシロ(立野真白) 女 17歳 第二高校 割と気配り。
クロサキ ミヤ (黒崎みや) 女 17歳 第二高校 姐さん体質。
ウツミ  アオイ(内海 葵) 女 16歳 第二高校 自由人。
ツチムラ キミコ(土村君子) 女 17歳 第一高校 平和主義。
ミキ   ヒロノ(幹ひろの) 女 17歳 第一高校 理想主義。
大人
カキハラ アサミ(柿原朝海) 女 24歳 OL   誰にでも優しい。
ミキ   カツミ(幹 克己) 男 24歳 会社員  ナルシスト。
NA ナレーション(無くても良い)


0 オープニング

    2009年3月。後半。とある休日。
    本日の天気は晴れ。南からの風。
    大体数時間の物語である。

    公園がある。大きめの公園。
    ベンチがあって、芝生が伸びている。
    舞台中央にはベンチがある。

    アサミが歩いてくる。重たそうな風呂敷包みを持っている。
    途中で少し息切れしながらも、ベンチに置く。
    息をついてベンチに座る。
    吹いてくる風が気持ちいいらしく顔がやわらぐ。
    アサミと反対方向から、シホがやって来る。
    シホの格好は軽装。何かを探している様子。
    シホの目がベンチを見る。
    アサミは周りを見るが、自分しかいない。


アサミ あの? ……何か御用ですか?


    居心地悪いアサミ。シホはベンチを見ている。
    シホが来た方向からヨウコがやってくる。
    アサミがさらにシホに声をかけようとした瞬間、
    シホはヨウコの存在に気づく。
    ヨウコが何か言おうとするのを無視するように、
    シホはアサミの来た方角へと早足で歩き出す。


ヨウコ シホ!


    ヨウコが追いかける。
    アサミは思わず立ち上がる。


アサミ え、あの、別にベンチだったら、私すぐどき、ますから、って、あれ?


    アサミはふらっとベンチに倒れこむ。
    あたりの景色が暗くなる。


0.5 過去の思い出

    暗い中、声だけが響く。
    それは幼い子供らの会話(録音)


キミコ でも、残念だったよね。

ミヤ まぁ仕方ないよ。もう埋めちゃったしね。気持ち切り替えていこう。ほら、シホも、

シホ うん。あ、じゃあ記念に写真でも撮ろうか?

ヨウコ カメラないよ?

シホ じゃーん。携帯買ってもらっちゃった。

ヨウコ いいなぁ。

シホ ヨウコも中学入ったら買ってもらうんでしょ?

ヨウコ うん。

シホ その時データ送ったあげるよ。

ヨウコ ありがと。

キミコ ヨウコちゃんばっかりずるいなぁ。

ミヤ ずるいぞ〜

シホ 皆にも送るって。ほら、じゃあ、撮るよ〜


     声は徐々に小さくなり、




NA 公園内をご利用の皆様に、迷子のお知らせです。○○にお住まいの、コバヤシゲンノスケさん。通称ゲンジーさん。
  お孫さんが探しておられます。いらっしゃいましたら、至急事務室までお越しください。


    ナレーションが流れながらあたりが明るくなる。
    ベンチの上で寝ているアサミ。
    そのアサミに気遣わしげに声をかけているキミコ。
    電話中のミヤ。そして、アオイがいる。


ミヤ それで? 結局コンビニって、どっちの?

アオイ 東側? 西側?

キミコ (寝ているアサミに)大丈夫ですか?

ミヤ (電話で聞いたらしく)分からないって。

アオイ 新しいほうか、古いほうか聞いて。

ミヤ (電話先に)新しい? 古い?

キミコ (アサミに)何か冷たいものでも買ってきましょうか?

ミヤ 『あったらふるい?』 それ新しいの? 古いの?

アサミ あの、別に大丈夫ですから。

キミコ (ふと会話に参加)あ、「やたら古い」ってことじゃない?

アオイ それか!

ミヤ (電話で聞いたらしく)中間だって。

アオイ 中間かぁ。

キミコ 日本語って難しいね。(アサミに)飲み物、大丈夫ですか?

アオイ よし。ハゲか、ぼうずか聞いて。

ミヤ んん?

アサミ あの、別に結構ですから。

キミコ (聞いてない)おじいさんか、子供かってこと?

アオイ あたま。ハゲか、ぼうず。か

キミコ おしい。

ミヤ ああ。 ん? 同じじゃない? それって。

アオイ ぼうずとハゲじゃ違うでしょ。坊主はまだ髪あるけど、ハゲは無いじゃん。

ミヤ なるほど。(電話に)はげてる? ぼーず?

キミコ (アサミに)あ、えっと、飲み物いりますよね?

アサミ いや、ですから、(いらないって)

ミヤ (電話口から耳を離し)怒られた。

アオイ なんで?

キミコ ハゲとかいきなり言うからじゃない?

ミヤ うん。

アオイ もう。ちゃんと店員のことだって言わなきゃ。

ミヤ (電話に)店員がだって。うん。あ、そうなの?

キミコ やっぱり冷たい飲み物のほうがいいですか?

アオイ なんだって?

ミヤ 店員、おばさんだって。

アサミ あの、ですから、いらないですから。大丈夫ですから。

アオイ あー。そういうパターンか。

キミコ アオちゃん、コンビニの店員さん覚えてるの?

アオイ 覚えてないよ。

ミヤ じゃあ、意味無いだろ。なんだったんだここまでの会話は。

アオイ とにかくさぁ。こっち待ってるんだから早く来いって言ってよ。

ミヤ それは言ってるって。(電話に)うん。そう。

アオイがうるさいから早く来たほうがいいよ。

キミコ (アサミに)あ、それで、飲み物は、

アサミ だから、結構です! あ、


     思わず強く言って、途端アサミはくらっとする。


キミコ 大丈夫ですか? ちゃんと休んでた方がいいですよ。

アサミ はい。すいません。

キミコ 貧血も甘く見てると怖いですからね。

アサミ そうですね。なんか、さっきよりも具合悪くなったような……。

キミコ 私たちのことはいいですから。横になっててください。ね?

アサミ そうします。すいません。迷惑かけちゃって。

キミコ 気にしないでください。慣れてますから。

ミヤ (キミコを指して)この子、親医者なんで。

アサミ ああ。

キミコ 町医者ですけど。

ミヤ ある程度は心配しないでいいと思いますよ。って、アオイ。あんた何やってるの?

アオイ どっちかなぁって思って。右か。左か。

ミヤ 普通に考えればあっち(シホが来た方向を指して)なんだけどね。

アオイ だけど、ここ久しぶりだし? 迷ってるかもよ。

ミヤ 待てばいいんじゃない? 時間はあるんだしさぁ。

アオイ ここまで来たんだからさ。早く掘って開けたいじゃん。

キミコ シホちゃんたち来たら、すぐ掘るの?

アオイ あったりまえでしょ? 何しに来たと思ってるのよ。

キミコ でも、まずは、ほら、近況報告とかさ。

アオイ そんなの後々。シホとヨウコは毎日会ってんだし。あたしたちだって、いつもだべってるじゃん。

キミコ でも、二人に会うの久しぶりだし。

アオイ そういうのは、掘り出した後にね。ゆっくりやればいいでしょ。開けた中身を肴にでもしてさ。ね?

キミコ ミヤちゃんは?

ミヤ そうだなぁ。ま、とりあえず、二人来てからだから。

キミコ そうだよね。

アオイ あ、思い切って二人が来る前に掘り出しておくってのはどう?


同時に
キミコ それはダメ!
ミヤ いや、ダメだろ。


アオイ 分かってるよ。冗談だって。

キミコ みんなで埋めたんだから。みんなで掘り出さないと。ね?

ミヤ そう。みんなで埋めただろう? アオイはどうか知らないけど。

アオイ いやいや、あたしもいたから。

キミコ そうだよね。うん。

ミヤ じゃ、みんなでだな。

アオイ しっかしただ待ってるのもなぁ。ちょっと探しにいかない?

ミヤ どっちに?

アオイ とりあえず、こっち(と、シホたちが去った逆を指す)

キミコ でも……

アサミ あ、私のことは気にしないでください。寝てたら治りますから。

ミヤ いや、でもそれはまずいでしょ。

キミコ 誰か変な人が来ないとも限らないですし。

アサミ いえ、気になさらないでください。お友達と待ち合わせなんですよね?

キミコ はい。

アサミ 私も、待ち合わせしてるんです。だから。

アオイ ほら、こう言ってくれてるんだしさ。

キミコ でも……

ミヤ 行きたきゃ一人で行ったらってさ。

キミコ ミヤちゃん!

ミヤ え? じゃあ、行くの? この人おいて?

キミコ ミヤちゃんとアオちゃんで行ってきなよ。あたし待ってるから。

ミヤ やだよ。待ってりゃ来るのに。

アオイ そんなこと言うと、あたし一人で行っちゃうよ?

ミヤ 行けば?

キミコ ミヤちゃん!

アオイ あっそ、いいですよ。あたし一人で。二人見つけたら、楽しくおしゃべりしながら帰ってくるから。

ミヤ うん。行ってらっしゃい。

キミコ アオちゃんも、一緒に待ってようよ? ね?

アオイ ばーか! 二人とも知らないからね!


    アオイが(シホが来た方向へ)走り去る。




ミヤ (アサミに)あれで来月には高3なんですよ。ゆとりって怖いですよね。

キミコ ミヤちゃんだって同い年でしょ。

ミヤ あたしはあそこまでガキじゃない。

キミコ わざわざ怒るように仕向けるのも子供っぽいと思うけど。

ミヤ そうかな。……それにしても、アオイ、開ける気満々だったね。

キミコ 本当だよね。どうしようかな。

ミヤ 困ったね。掘らないわけには行かないだろうしなぁ。

キミコ うん。

アサミ あの、

ミヤ はい?

キミコ すいません。うるさかったですか?

アサミ いえ。そうじゃなくて。えっと、掘るとか、聞こえたものだから。その。

ミヤ ああ。ほらまあ、子供にありがちなやつですよ。

アサミ お墓作りとか?

キミコ お墓作り?

アサミ お墓作り。

ミヤ いや、しませんよね。

アサミ しませんでした? お墓作り。カエルさんとか、鳥さんとか、死んでるのを埋めて、お葬式ゴッコしたり。

キミコ しません!

アサミ してないんですか?

ミヤ しませんよ。え? したんですか?

アサミ でも、掘り返したことは無いですよ?

ミヤ そりゃ、掘り返さないでしょうよ。

アサミ そんな何人も友達同士で集まって掘り出したりなんて、そこまでひどいことはさすがに。

キミコ 違います!

ミヤ だからしてませんって。

アサミ じゃあ、埋蔵金探し?

キミコ あるんですか? 

ミヤ こんなところに?

アサミ あったらびっくりですよね。

ミヤ ですよね。

アサミ でも、夢を追いかけるのはいいことだと思いますよ。

ミヤ キミコ、ごめん。あたし疲れてきた。

アサミ 頑張ってくださいね。

ミヤ はい。

キミコ あの、そうじゃなくて、私たち、埋めたんです。五年前に。

アサミ お墓を?

キミコ じゃなくって、タイムカプセルです。

アサミ タイムカップ?

キミコ タイム、カプセル。

アサミ タイム=カップ・セル?


     と、アオイが戻ってくる。


アオイ 何で追いかけてきてくれないのよ〜。

ミヤ 早かったね。見つかった?

アオイ 寂しかったから戻ってきた。

ミヤ じゃあ、今度はしっかり見てこないとね。行ってらっしゃい。

アオイ よし。今度こそ。って違う。あたし一人に走らせないでよ。

ミヤ あんたが一人で行くって言ったくせに。

アオイ 違うよね。一人で行けって言ったのはミヤだよね?

ミヤ 細かいことは気にするな。

アオイ 細かくないから。一人は寂しいじゃんか。

ミヤ なら最初から一人で行くなよ。

アオイ 何でそういうこと言うかなぁ。


     アオイはいじける。


キミコ (アサミに)あの、もしかして、熱あるんじゃないですか?

アサミ そんなことはないですよ? あれですよね? 

タイムカップって、タイムコップみたいな。

キミコ 失礼します。(と、額に触れ)うん。やっぱり。熱ありますよ?

アサミ あれぇ? 貧血だと思ってたんですけどね。

キミコ ミヤちゃん。

ミヤ 参ったねぇ。



     と、そこにマシロとヒロノがやってくる。


マシロ 絶対あれアズマさんだって。

ヒロノ そうかもね。

マシロ でも、シホとアズマさんが一緒にいるなんて変か。変だよね?

ヒロノ そうかもね。

マシロ じゃあ見間違いかぁ。

ヒロノ そうかもね。


     と、ヒロノはアサミに気づく。


マシロ でも、こんくらいの距離で見間違えないでしょ。

ヒロノ そうかもね。

マシロ 今日いい天気だよね。

ヒロノ そうかもね。

マシロ 弘法大師もダライ・ラマも?

ヒロノ そう(僧)かもね。って、なに言わせるのよ。

マシロ ヒロノ。あんた話し聞いてないでしょ。

ヒロノ マシロ。

マシロ なによ。

ヒロノ いた。

マシロ 誰がって、あー。アサミさん。

アサミ あ、やっぱり。マシロちゃん。

マシロ もう。探しちゃったよ。携帯、全然出てくれないんだもん。

アサミ ごめんねぇ。なんか、気分悪くなっちゃって。

マシロ え、大丈夫?

アサミ うん。あ、この人たちにお世話になってたの。

キミコ あ、お知り合いですか?

マシロ うん。知り合いってか、知り合い(と、ヒロノを指し、)の知り合い? 
    アサミさん体弱いんだから。駅で待っててって言ったじゃん。

アサミ だって、こんないい天気だから。歩きたくなっちゃって。

マシロ だったら携帯にメール入れてくれないと。うちら探したんだよ。

アサミ ごめんね。

マシロ いや、全然いいんだけどね。

ヒロノ 本当、迷惑ばっかりかけてくれるよね。

アサミ ヒロちゃんも探してくれたの?

マシロ もちろん探してたよ。ね?

ヒロノ 別に。

アサミ (ヒロノに)ごめんね。

マシロ まぁ、あんなこと言ってるけど。なんだかんだでついて着てるだけ進歩ってやつだから。

ヒロノ 無理やり引っ張ってきたのはあんたでしょ?

マシロ そうだっけ?

ヒロノ せっかくの休日、ゆっくり休みたかったのになぁ。

アサミ ごめんね。

マシロ まぁまぁ。(と、三人に気づく)あ、ほんとうすいません。もう大丈夫なんで。ね? あとはこっちで面倒見ますから。

ミヤ だってさ。

アオイ じゃあ、行こうか!

キミコ えっと、なんだか熱があるみたいなんで。出来れば無理をさせない方がいいと思います。

マシロ え、本当に? アサミさん。また、寝てないんでしょ?

アサミ 寝たわよ。寝たけど、早く起きすぎちゃって。

マシロ まったく。あ、本当大丈夫ですから。えっと、ありがとうございました。面倒見てもらっちゃって。

キミコ いえ。成り行きですから。

アオイ よし、行こうか。

ミヤ で、どっち?

アオイ まずはこっち(と、一人で行ったほうを指す)

ミヤ さっき行っただろ。

アオイ 一人で寂しかったから。皆で行こう。

ミヤ 意味が分からん。じゃあ、行くか。

キミコ うん。それじゃあ、お大事に。

アサミ ありがとうございます。


     と、アオイ、ミヤ、キミコが去る。




マシロ いくつくらいだろ?

ヒロノ さぁ。

アサミ 来月3年生って言ってたから、たぶん、マシロちゃんたちと同い年だと思うよ。

マシロ へぇ。

アサミ (ヒロノに)心配かけてごめんね?

ヒロノ あたしはしてないから。兄貴とマシロだけでしょ、慌ててたの。

マシロ 自分だって気にしてたくせに。

ヒロノ 兄貴に電話するから。


     ヒロノが電話し始める。


マシロ 寝たの何時?

アサミ 4時。

マシロ それ、夜中のでしょ。で、起きたのは?

アサミ 6時?

マシロ 全然寝てないじゃん。アサミさん、寝ないと熱出るくせに無理するんだから。

アサミ だって。皆でなんて、久しぶりだったから。

マシロ まったく(と、ベンチの荷物を見て)これ、もしかしてお弁当?

アサミ 皆で食べようと思って。

マシロ そりゃ熱も出るわ。あ、ハンバーグ入れてくれた?

アサミ もちろん。

マシロ ヒロノ。ハンバーグ入ってるって。

ヒロノ (電話から一瞬見て)それが?

マシロ ちょっと前まではアサミさんのハンバーグでご機嫌になったのにね。

アサミ いいのよ。私が悪いんだもん。

マシロ アサミさんは悪くないでしょ。くっ付いたのは仕方ないんだし。

アサミ でも、

マシロ あれは、ただブラコンなだけだから。

ヒロノ 電話中。静かにして。

マシロ じゃなきゃ、拗ねてるんだよ。仲間外れみたいだから。

ヒロノ うるさいって言ってるでしょ?

マシロ はいはーい。

ヒロノ (電話に)じゃあね。早く来た方がいいんじゃない?


     ヒロノが電話を切る。


マシロ カツミさん、どこだって?

ヒロノ 駐車場探してるって。

マシロ 混んでたからねぇ。ここの。

アサミ ごめんね。

ヒロノ なにが?

アサミ なんか、いらいらさせちゃってるから。体調管理も出来てないなんて、ダメだよね。

ヒロノ いいんじゃないの? そんな、抜けてるところがいいみたいだから、バカ兄貴は。

アサミ そ、そうかな。

マシロ アサミさん、褒められてないからね?

ヒロノ だから、仲いい二人だけで勝手にやっててよ。

アサミ ヒロちゃんをのけ者になんて出来るわけないでしょう?

ヒロノ むしろのけ者にしててほしいんだけど。いまどき、ピクニックなんて言われてもねぇ。

アサミ ほら、昔、三人で来たことあったでしょ? ここ。ヒロちゃんが小学生の時だっけ?

マシロ へぇ。そうなんだ?

ヒロノ 忘れたよ。そんな昔の話。

アサミ ヒロちゃんまた来たいって言ってたから。だから。

マシロ あーひどいなぁ。それじゃあ、あたしがのけ者じゃん。

アサミ あ、でも、マシロちゃんとも来てみたかったから。

マシロ えー。本当かなぁ。拗ねちゃうよあたし。

アサミ 本当だって。だから、ね? せっかくいい天気だし。みんなで一緒に同じ時間過ごして、
    みんなで話せば、きっと、変な誤解とか、わだかまりとか、消えると思うの。だから。


     ヒロノが歩き出す。


マシロ ちょっと、どこ行くのよ。今、アサミさんすごくいい事言ってたじゃん。

ヒロノ 兄貴探してくる。

マシロ どうせすぐ来るって。

ヒロノ じゃあ、探しに行っても問題ないでしょ。

マシロ 何でそういうことになるかな。そんなにカツミさんと一緒にいたいか。このブラコン。

ヒロノ 違う。

マシロ いーや、違わない。あんたは本物のブラコンだね。

ヒロノ 違う。

マシロ そういえばブラコンって簡単に言うけどさ。これってなんか、ブラジャー・コンプレックスの略じゃないかって思うこと無い?

ヒロノ 無い。

マシロ 大声で、ブラコンって言いながらも「もしかしたら、あたしは今ブラジャーコンプレックスの略語を
    大声で叫んでいるんじゃないだろうか? というかその前にブラジャーコンプレックスって何だ? 
    あれか? ブラジャーを着けるかつけないかを悩むきわどい年齢のコンプレックスのことか?

ヒロノ 知らない。

マシロ 周りの女の子たちはブラをつけているにもかかわらず、
    自分は未だにスポーツブラで大丈夫なんだけどこれってどうなの? 
    でも、自分のサイズに自信ないしみたいなコンプレックスのことかぁ! うわっありえる」って思ったりしない?

ヒロノ しない。

アサミ え、あたしずっと、ブラコンって「ブラザー・コンプレックス」の略だと思ってた。

マシロ ところがどっこいなわけですよ、アサミさん。

アサミ じゃあ、シスコンは?

マシロ もちろん、システム・コンピューターの略です。

アサミ コンプレックスですらないんだ!?

ヒロノ 帰っていい?

マシロ 今帰ると、「あたしはブラコンです」って認めるようなもんよ。

ヒロノ だから違うって言ってるでしょ?

マシロ だって、お兄ちゃん探しに行きたいなんてねぇ。

ヒロノ あたしは、その人と一緒にいたくないだけだから。


     ぎこちない間


アサミ ごめんなさい。


     ヒロノが走り去る。


マシロ ヒロノ!


     マシロが追いかける。
     と、二人と交互になるようにヨウコとシホがやって来る。


マシロ あれ? シホ? なんで?

シホ マシロ……今の、ヒロノ?

マシロ うん。あ、えっと、話すと長くなると思うんで。とりあえず、じゃあね。

シホ うん。また。





ヨウコ 今の……タチノさんと、ミキさんだったよね?

シホ そうね。

ヨウコ どうしたんだろうね。二人して、走っていくなんて。

シホ さぁ。

ヨウコ 仲良く見られたりとか、してないよね? あたしたち。

シホ 急いでたから大丈夫じゃない?

ヨウコ ごめんね。

シホ なにが。

ヨウコ シホの立場、悪くなっちゃったら、その。

シホ いないわね。

ヨウコ え?

シホ 他の連中。

ヨウコ あ、どうしたんだろうね。あれかな? 行き違いになったとか。

シホ そうかもね。

ヨウコ 結構待たせちゃったもんね。ごめんね。あたしがアイス食べたいなんて言ったせいで。
    なんか、走ったらアイス食べたくなっちゃって。ほら、あるよねそういう時。
    カップアイスってほどじゃないんだけどさ。なんか気軽にさ。さくっと食べたくなって。
    なのに選ぶのに時間かかっちゃって。あれだよね。なんか、選んでた時間のほうが長かったよね。
    食べるのなんかあっという間で。だって、早く食べないと、頭痛くなってきちゃうからさ。
    ね。何かすごく一気に、食べちゃって、うん。ごめんなさい。

シホ 話がつながってないと思うけど。

ヨウコ なんか、いっぱいいっぱいになっちゃって。おかしいよね。二人で一緒にいるだけなのにね。

シホ そうね。

ヨウコ 久しぶりだからかな、シホと話すの。

シホ それは、嫌味?

ヨウコ 違う。違うよ? なんで?

シホ 同じ学校なのに日ごろ話さないせいで、二人っきりになると何話していいかわから無いって言う、あてつけ?

ヨウコ でも、それは、シホのせいじゃないし。

シホ そうよね。あたしのせいじゃない。悪いのは誰?

ヨウコ あたし、かな。

シホ だったら嫌みったらしく言わないでくれる?

ヨウコ ごめん。

シホ まったく。誰が言い出したんだか。タイムカプセルなんて。5年も前のこと。

アサミ お友達なら、あっちに探しに行きましたよ?

シホ はい?

アサミ タイムカップを埋めたお友達でしょう? さっきまで、あたしと一緒にいたんです。

シホ 失礼ですけど。あなたは?

アサミ カキハラアサミって言います。アオちゃんとか、キミコちゃんのお友達でしょ?

ヨウコ はい。

アサミ ね。

シホ 知り合いなだけです。昔の。

アサミ あれ?

ヨウコ そんなことないよ。と、思うけど、あたしは。

アサミ えっと?

シホ 中学卒業してからほとんど会ったこともないし。

ヨウコ それは、皆予定が会わなかったから。

シホ みんな、ねぇ。

ヨウコ みんな、忙しいから。

シホ 何人がそう思ってるのかしらね。

ヨウコ そうって?

シホ 「みんな」って思ってるのは何人かと思って。少なくとも、あたしは思ってないけどね。

ヨウコ みんな、思ってるよ。キミコだって、アオイだって。ミヤだって。……あたしだって。

シホ そう。

ヨウコ それに、今日逃したら、また会えなくなっちゃうから。きっと。

シホ そうかもね。そうね。ちょうどいい機会よね。

ヨウコ うん!

シホ 過去にけりつけるのには。

アサミ えっと、で、結局友達なの? 違うの?

シホ 知り合いです。



     と、アオイ、キミコ、ミヤの三人が戻ってくる。


ミヤ だから、抽象画だって。

アオイ ちゅうしようか?

ミヤ お前わざとぼけてるだろ。

キミコ はっきりした絵じゃなくて、イメージ的な絵のことだよね?

ミヤ そう。そんなん。

アオイ ああ。それは抽象画って言うんだよ。

ミヤ うん。だから抽象画だろ?

アオイ 中止しようか?

ミヤ お前本当に日本人か!

キミコ ヨウコちゃん! シホちゃん!

アオイ おお! 久しぶりじゃーん! 元気してた?

ヨウコ うん。アオイも、元気みたいだね。

アオイ あたしは元気だよ〜。

ミヤ やっと、全員揃ったか。(と、アサミに気づく)あれ? 

さっきの二人は?

アサミ ああ。ちょっと人を迎えに行ってまして。

ミヤ それで置いてけぼりですか。ひどいな。

アサミ 私が頼んだんです。

キミコ シホちゃんも、久しぶり。

シホ そうね。

アオイ あれあれ? シホ元気ないんじゃない? どうしたの?

シホ 別に。本当に久しぶりだな、って思って。

キミコ そうだよね。こうやって五人揃うなんて、中学以来かも。

アオイ え、だったら2年ぶりじゃん。すっげー。なんていうか、すげー。こう、ほら、あれだ。すげーーー。

ミヤ お前ちょっと黙れ。

アオイ え、ミヤにはこのすごさ分からないわけ? 凄いでしょ。感動の再会だよ。なんか、すげーって思わない?

ミヤ そうですねー。

アオイ よーし、このテンションのまま、掘ってみようか〜。

キミコ え!? もう掘るの?

アオイ 掘るよ〜。今のあたしなら地球の裏側まで掘れる気がする。

ミヤ 掘りすぎ。

キミコ ちょっと落ち着いてからでもいいんじゃない?

アオイ そんなこと言ってたら日が暮れちゃうよ。

シホ 今日はそれ掘り出すのが目的だったんでしょ? だったら早いほうがいいんじゃない?

アオイ だよねぇ。おしゃべりするのはその後ってことで。

シホ 開けたら私は帰るけど。

アオイ え、何でよ。

シホ 塾あるから。

アオイ えーなんで塾いれるかなぁ?

シホ 逆にこっちが聞きたいわよ。何で今日なのよ。

アオイ だって、あたし、明日から家族旅行だし〜。

ミヤ って、このバカが言うから。

シホ 家族旅行って、まだ行ってたの?

キミコ 毎年のことだもんね。

アオイ そ。結婚記念日に海外旅行。今年はイタリアへ行ってきます。

ミヤ 毎度のことながら豪勢だわ。

キミコ アオちゃんちは仲いいもんね。

アオイ ところが今年は父ちゃんの休みが取れなくてさぁ。本当は今日から行くはずだったのに、明日からにずれ込んじゃったのよ。
    おかげで母ちゃんがうるさいうるさい。で、空いた日をどう使うかと思っていたら、思い出したわけだ。タイムカプセルのことを。

ミヤ で、人の迷惑も考えず収集したと。

キミコ でも、そろそろ開けたいなって思ってたから。ね?

シホ だったら、アオイが帰ってきてからでも良かったじゃない。別に春休み中ずっと旅行しているわけじゃないんでしょ。

アオイ そうしたらヨウコがいないことになっちゃうじゃん。

シホ ヨウコが? なんで?

アオイ だって、引っ越すんでしょ? 滋賀県だって?

キミコ 岐阜県。

ミヤ ばか。琵琶湖があるとこだって。

キミコ それも滋賀県。

ミヤ あっれぇ?

アオイ とにかく、そこへ引っ越すんでしょ? 来週だっけ?

ヨウコ うん。

アオイ ね。だから、今日しかないわけよ。

シホ なにそれ。

アオイ え?

ヨウコ シホ、あのね。

シホ 皆知ってるんだ? その、引越しってやつ。

アオイ うん。母ちゃんから聞いたし。

キミコ あたしもお母さんから。

ミヤ 案外親のネットワークってバカにできないもんな。

シホ へぇ。そうなんだ。

ヨウコ あのね、シホ。ちがくてね。

シホ 何が違うの?

ヨウコ 黙ってたわけじゃなくて。

シホ じゃあ、なに?

ヨウコ ごめん。

アオイ え、あたしなんか余計なこと言っちゃった?

キミコ もしかして、シホちゃん。

ミヤ (ヨウコに)言ってなかったわけ?

アオイ え、なんで? だって、あんたたち同じ学校でしょ? おかしくない?

シホ 別に。ヨウコと話さないから。学校じゃ。


     ぎこちない間。


     その間を壊すようにカツミがやって来る。


カツミ アサミ〜

アサミ カツミさん!

カツミ あ、ダメだ。アサミ。ドントスタンド。立っちゃダメだ。気分悪いんだろ? 体調が優れないんだろ? カームダウン。
   落ち着いて。リラックスリラックス。よーし。ここは落ち着くために深呼吸をしてみよう。いいかい?1,2で吸って、
   3,4で吐くんだ。はい。1、2、3、4、1、2、3、4、よーし、落ち着いたかい? それでも落ち着かないなら、
   僕の顔を見て。ね? 目が輝いているだろう? でも、それは僕の瞳に、君が映っているからだよ。
   うっわーーーー恥ずかしい〜。恥ずかしいけど、僕は言う。それほど君はまぶしいよ。

ミヤ まずお前が落ち着け。

アサミ カツミさん。

カツミ なんだいアサミ。ちなみに、まぶしいって言うのは顔がてかっているわけじゃなくて、
   君の顔は常に後光がさしてるように僕から見えるってことだからね。

アサミ それじゃあ、カツミさん、目が痛くない?

カツミ 大丈夫。そんな時はほら、(サングラスをかける)サングラスをかけるから。

アサミ あら、それじゃあカツミさんの顔が見えなくなっちゃう。

カツミ だいじょーぶ! (サングラスを取る)君のためなら僕は喜んで日に焼かれるさ。
   僕は、君という太陽に羽を溶かされ落ちるイカロスに過ぎないのだから。

アサミ あ、そうそう。今日のお弁当にはイカを揚げたのも入れてきたの。カツミさん好きだったでしょう?

カツミ もちろんイカは大好きだ。でも一番好きなのはなんだと思う?

アサミ ハンバーグ?

カツミ もちろん大好きさ!でも、何よりも好きなのはね、


     以下しばらくアサミが食べ物をあげては、
     「それももちろん大好きさ、でも、」と続く。
     本人たちは非常に楽しそうである。


ミヤ いい加減、誰か止めろよ。

キミコ でも、知らない人たちだし。

ミヤ だからって、ってシホ、どこ行くのさ。

シホ 帰る。

アオイ ちょっと待ってよ。タイムカプセルは?

シホ 掘れそうに無いでしょ? 確か、あそこだったし。

キミコ うん。

シホ だから。

アオイ ちょっと待ってよ。じゃあ、何のために集まったのか分からないじゃん。

シホ だから?


     と、その会話の途中でマシロとヒロノがやって来る。




ヒロノ 兄貴。なに、やってるの?

カツミ なにって。アサミの無事をこうやって確かめてるんだよ。

ヒロノ 気持ち悪いんだけど。

カツミ どこかだよ! 顔か? 声か? 台詞か? 愛か?

ヒロノ 全部。

カツミ 嫉妬は醜いぞ?

ヒロノ そういう受け取り方も全部気持ち悪い。

アサミ ヒロちゃん。あの、

カツミ いや、アサミ。ここは僕に任せておいて。さぁ、ヒロノ。じゃあ、お兄ちゃんと面と向き合ってしっかり話をしようじゃないか。
   そして教えてあげよう。愛の素晴らしさを。

ヒロノ 教えようとしなくていい!

カツミ そもそも愛という字は、真ん中に心があってだな、


     カツミとヒロノが言い合う。
     マシロがシホによる。


マシロ うっす。

シホ おはよ。

マシロ おはよって時間でもないけどねぇ。

シホ そうね。

マシロ その人たち、シホの連れだったんだ?

シホ まぁ、そうなるわね。

マシロ 紹介してよ。

シホ 高校で一二年同じクラスだった、タチノマシロ。

マシロ マシロでーす。

シホ 小中と一緒だった、キミコに、アオイに、ミヤ。

マシロ で、アズマさんも?

シホ そう。

マシロ うわっ。すごい。あれだ。同窓会みたいな?

シホ そうね。

マシロ へぇ。アズマさん、ハロー。

ヨウコ お、おはよう。

マシロ やだなぁ。そんな硬くならないでよ。何もしないからさ。もう、あれはさ、過去のことじゃん? ね?

ヨウコ うん。

マシロ やだ。本気で怖がっちゃってるの? 可愛いなぁ。そりゃ終わったこととか言っても、
   簡単には切り替えられないよね。でも、大丈夫。うん。あたしは、何もしないから。
   シホの友達なんでしょ? もう最初っから言ってくれればよかったのに。
   え、で、皆揃って何するの? 遊びに行くわけ?

ヨウコ タイムカプセル。

マシロ え?

シホ 埋めたのよ。みんなで。タイムカプセルってやつ。で、今日掘り出すんだって。

マシロ うわっすごいじゃん。え、何年前?

シホ 5年。

マシロ どこに?

シホ その、ベンチの下。

マシロ うわっ。じゃあ、あたしら完璧に邪魔してたんだ。うん。わかった。そういうことならすぐにどかすよ。

シホ ありがとう。

マシロ その代わり、あたしたちにも見せてね〜。


     マシロが離れる。アサミを立たせようとしている。


ミヤ なに、やられたわけ?

ヨウコ 別になんでもないよ。

ミヤ なんでもないって顔だったか? 今の。

キミコ (首を振る)

アオイ なんかさぁ、上から目線だった気がするんだけど。

ミヤ するね。おおいにする。

ヨウコ ごめんね。

アオイ 何であんたが謝るのよ。

ヨウコ なんとなく。

アオイ なんだそりゃ〜

シホ なんとなくで謝らないでくれる?

ヨウコ ごめん。


     アサミがベンチから立つ。


マシロ ほーら、二人ともいい加減にしなさいって。アサミさんが困ってるよ。


     その言葉でカツミはアサミに向き、ヒロノはそっぽを向く。
     キミコはシホとヨウコの二人を見ている。


アオイ お、なんだかんだで空いたじゃん。

ミヤ だね。

アオイ 早速掘り出しましょうか。

ミヤ そうだね。って、あああ! 待った。

アオイ 何よ。

ミヤ いや、なんていうか、キミコ!

キミコ え?

ミヤ キミコが、その前にヨウコとシホに話があるって。ね?(と、目で合図)

シホ あたしたちに?

ヨウコ 話ってなに?

キミコ いや、あたしにも何のことだか。

ミヤ あるだろ、話。

キミコ ああ! うん。

ミヤ よし、じゃあアオイは離れて。

アオイ なんでよ。あたしも聞きたいよその話。

ミヤ いいからいいから。

キミコ 二人とも喧嘩は良くないよ!

ミヤ 違ーう。

キミコ え? 違うの?

ミヤ そうじゃなくて、ほら、(と、顔で必死にベンチの下を指す)

キミコ 首を、寝違えたら痛い? 痛いよ!

ミヤ 違〜う。違うだろキミコ。タイム?

キミコ タイム?

ミヤ か? タイム、か? ぷ?

キミコ タイムカップ?

ミヤ なんだそれは。

キミコ 多分だけど、時間の形した、コップのような何か?

ミヤ わけわからん。そうじゃなくて、タイム? か?

アオイ タイムカプセルでしょ?

ミヤ そうだよ。

キミコ それならそうと言ってくれなきゃ。

アオイ よし。じゃあ掘ろう。

ミヤ じゃあ、いいんだな? 掘ってもいいんだね? タイムカプセルを掘って、開けても?

キミコ ああああ! ダメ! アオちゃん待って。

アオイ 何を待つのさ。

キミコ えっと、その、ミヤちゃん。

ミヤ 実はだな、アオイ。あんたには黙ってたんだけど、公園の入り口で、ドラマの撮影やってたんだ。

アオイ へぇ。

ミヤ 主役は、たぶん○○(苗字)

アオイ △△(名前)え、どこで!? いつ?

ミヤ さっき。あっちで。

アオイ ごめん。ちょっと掘るの待ってて。


     アオイが走って去る。
     



シホ なんなわけ?

ミヤ いや、ちょっとしたアクシデント。

ヨウコ アクシデント?

ミヤ キミコ。説明してやって。

キミコ 二人とも、タイムカプセルって埋めたときのこと覚えてる?

シホ 少しは。

ヨウコ あたしも、少しだけなら。でも、なに埋めたかとかは。

キミコ 埋めた物はいいの。埋めたメンバー思い出して欲しいんだけど。

シホ 五人でしょ?

キミコ その時、こんな会話しなかった?


    と、声が流れる。


キミコ 「でも、残念だったよね」

ミヤ 「まぁ仕方ないよ。もう埋めちゃったしね。気持ち切り替えていこう。ほら、シホも、」

シホ 「うん。あ、じゃあ記念に写真でも撮ろうか? 」

ヨウコ 「カメラないよ?」

シホ 「じゃーん。携帯買ってもらっちゃった」

ヨウコ 「いいなぁ。」

シホ 「ヨウコも中学入ったら買ってもらうんでしょ?」

ヨウコ 「うん。」

シホ 「その時データ送ったあげるよ」

ヨウコ 「ありがと」

キミコ 「ヨウコちゃんばっかりずるいなぁ」

ミヤ 「ずるいぞ〜」

シホ 「皆にも送るって。ほら、じゃあ、撮るよ〜」


     声はFOしていく。


ヨウコ したね。確か。

シホ うん。した。

キミコ その時、アオちゃん、いなかったよね?


     間


ヨウコ そういえば。

シホ いないね。

キミコ やっぱり。

ミヤ 考えてみりゃへんな話なんだよ。あいつがいるわけ無いんだもの。

ヨウコ え? じゃあ、なんでアオイって、あんなにタイムカプセル掘り出したがってるの?

ミヤ たぶん、やろうとしたことは覚えているんだよ。

キミコ だけど、埋めたときにいなかったことはすっかり忘れちゃってるんだと思う。

ヨウコ でも、冷静に考えてみたらさ。

ミヤ 5年だよ? あたしらだって、なに埋めたかは覚えてない。埋めた様子なんてのはもっとね。
  きっと、あたしらが話してるのを聞いて、思い込んじゃったんだな。自分もいたはずだって。

ヨウコ え、でも、どうするの? 掘ってみたらないんでしょ? アオイのは。

ミヤ 当たり前だろ。埋めてないんだから。

シホ ショックでしょうね。

キミコ いじけやすいから。とことん落ちると思う。

ヨウコ 可哀想。

ミヤ で、どうしようかってことになるわけだ。

カツミ なるほど、話はよーく分かった。

ヨウコ&シホ&ミヤ&キミコ はい?


     いつの間にかカツミが話を聞いていた。


カツミ ようは、タイムカプセルを掘り出せないようにすればいいんだろう。ここから。なら、僕に任しておきなさい。

ミヤ いや、でも、そういうわけにも、

カツミ 君たちはアサミがお世話になった人だからね。これくらいは当然さ。どんと構えておきなさい。ね、アサミ?

アサミ え? あ、はい。

マシロ とはいえ、カツミさん。何する気?

カツミ お弁当を食べよう。

ヨウコ&シホ&ミヤ&キミコ はい?

カツミ ちょうどおなかもすいたことだし。まだ、アサミも体調良くないだろう? 
   だったら僕らがこのベンチでお弁当を食べていたとしても、なんら不自然ではないはずだ。

アサミ カツミさん、おなかすいたの?

カツミ もう、ぺこぺこだよ。

アサミ じゃあ、お昼にしましょうね。


     と、アサミはベンチの上で風呂敷を解き始める。


ミヤ いや、そんな強引なって、これ全部弁当?

キミコ でかい。

ヨウコ すごいね。

シホ これを、一人で?

アサミ はい。頑張りました。

カツミ アサミは頑張りやさんだから。

マシロ 久しぶりのアサミさん弁当か。ほら、ヒロノも食べようよ。

ヒロノ 私はいいよ。

マシロ まったく。素直じゃないんだから。あ、ハンバーグもらい。


     と、マシロが食べ始める。


カツミ こら。人が食べようとしていたのを横取りするな。

アサミ まだありますから。よろしかったら皆さんもどうぞ?

キミコ いえ、それはさすがに。

アサミ おいしくなさそうですか?

キミコ まさか。

アサミ 先ほどお世話になったお礼ですから。

キミコ じゃあ、(と食べて)おいしい。

カツミ だろう?

ミヤ 何であんたが自慢気なんだ。あたしも、いいですか?

アサミ どうぞどうぞ。お二人も、どうぞ?

ヨウコ シホ、どうする?

シホ いただけば?

アサミ シホさんも。これなんか、結構自信作なんですよ?

シホ ……じゃあ、一つだけ。


     と、そこへアオイが帰ってくる。


アオイ ミヤ〜どこも撮影なんかして無かったよ。

ミヤ ごめん、気のせいだった。

アオイ 軽っ。って、みんな何食べてるの?

キミコ アサミさんのお弁当。ご馳走になってるの。

アオイ いいなぁ。走ったらおなか空いたよ。

アサミ よかったらどうぞ。

アオイ やった。なんかせがんだみたいで悪いですね。

ミヤ 明らかにせがんでただろう。


     皆でわいわいと弁当をつつく中、アサミはふと席を立ち、
     ヒロノへと近づく。


アサミ ヒロちゃんも、たべて?

ヒロノ あたしはいいから。

アサミ 早い時間から頑張って作ったの。少しでもいいから食べてくれるとうれしいな。

ヒロノ いいって言ってるでしょ?

カツミ アサミ。放っておけばいいよ。食べたくないやつに食べさせても、もったいないだけだから。

アサミ このハンバーグなんてね。自信作なんだ。ヒロちゃん、好きだったよね?

ヒロノ いらない。

アサミ 三人で遊びに行くときはいつも、お弁当に入れてって言ってたでしょう? 久しぶりに作ったの。食べてくれると嬉しいな?

ヒロノ いらない。

アサミ 一口だけでも。ね?

ヒロノ 押し付けがましいんだよ!


     ヒロノがアサミの手を払う。
     お弁当箱が落ちる。


ヒロノ あ……

カツミ ヒロノ! お前、何てことするんだ!

アサミ あたしがちゃんと持ってなかったのが悪いから。

カツミ アサミ。お前はなんていい女なんだ。

ヒロノ あてつけてばっかり。よくやってられるね。

カツミ お前よくそんなこと言えるな。少し前まではあんなに懐いていたくせに。

ヒロノ だからなに!?

カツミ 逆切れかよ!

ヒロノ うるさい! もう、あたしを巻き込むな! 二人だけで世界作るならそれでいいからさ。
   二人だけで勝手にやっててよ。あたしのことは放っておいて!


     ヒロノが走り去る。


マシロ ヒロノ! まったく。あの子はっ。


     マシロが追いかける。


10
     カツミは散らばったお弁当の中身を拾いながら、


カツミ ごめん。アサミ。

アサミ カツミさんが謝ることじゃないから。

カツミ 何で上手くいかないんだろうなぁ。ヒロノもアサミと仲良かったのに。ずっと。
   (五人に説明するように)隣同士なんだよ。うちと、アサミの家は。小さい頃から一緒で。
   あいつ、アサミに凄い懐いてたのに。それこそ、本当の姉妹みたいだったのに。
   俺なんて、逆に男一人だけで二人の関係が羨ましくて仕方なかったのに。なんでこんな急に。
   俺たちが付き合ったからって、何も変わることなんて無いのにな。

ヨウコ でも、違うじゃないですか。

カツミ 違う?

ヨウコ 隣のお姉さんと、お兄さんの彼女じゃ。

カツミ そんなの、呼び方が代わっただけじゃないか。

ヨウコ 呼び方だけだって、急に関係が変わっちゃったら、戸惑いますよ。
   戸惑ったら、分からなくなっちゃうじゃないですか。
   自分が今までどうやって接してたのかとか、どれ位の距離だったのかとか。
   分からなかったら、話せなくなっちゃうじゃない、かと、思ったり、したり。ごめんなさい。

カツミ え、何故謝るの?

ヨウコ なんか、勝手に口挟んじゃって。

カツミ いや、そんなことはないよ。

アサミ カツミさん。追ってあげて。

カツミ いいの?

アサミ うん。

カツミ ありがとう。

アサミ うん。


11
     カツミが走り去る。


アサミ お弁当。まだ残りありますから、食べてくださいね。

ミヤ じゃあ、もうちょっといただこうかな。

キミコ 私も、もう少しだけ。

アオイ だったらあたしはその残りを全部。

ミヤ 少しは遠慮しろ。

アオイ だって、全然食べてないんだからさぁ。

シホ 嫌味?

アオイ へ?

シホ (アオイの言葉は聞こえてない)さっきのって、嫌味?

ヨウコ そういうんじゃないよ。

シホ 言いたいことがあったらはっきり言ってくれない? それこそ、あてつけみたいにしないでさ。

ヨウコ あてつけとかじゃなくって、本当。自然に出ちゃっただけで。

シホ だからそれがあてつけだって言ってるの。あたしははっきり伝えているはずだけど。何で言い訳するの?

ヨウコ 言い訳じゃなくてさ。

ミヤ ちょっとちょっと、やめなよ二人とも。なんなんだよさっきから。

キミコ そうだよ。何で喧嘩してるの?

シホ 別に。

アオイ ああ、なに? シホもしかしておなか空いてるんじゃない? あんまり食べてないみたいだし。

シホ 空いてない。

ミヤ どうしたのよ。昔は仲良かったじゃん。高校行ってから上手くいってないの?

シホ ……

ヨウコ あたしが悪いんだ。

シホ (ため息)そうじゃないでしょ。

ヨウコ あたしが悪いんだよ。いつも、言わなきゃいけないこと言えないでいるから。

シホ それはそうだけど、でも、そういうことじゃなくて、

ヨウコ 思ったことはっきり言えないせいで、シホに迷惑かけて。だからシホいらだって。
    あたしがはっきりすればいいのに。それが出来ないから。だから、

シホ そういうことじゃないって言ってるでしょ!

ヨウコ ごめん。

アオイ ……よし、タイムカプセル開けよう。

ヨウコ&シホ&ミヤ&キミコ&アサミ はい?

アオイ 今すぐ掘ろう。そして開けよう。そうすれば全て解決。うん。

ミヤ いや、何故そこに行き着いたのかが分からんのだけど。

アオイ 友情の亀裂を埋めるには、過去の友情の証を見せるのが一番。ね? 
   地中に埋められた、思い出という名のアイテムが皆のわだかまりを一気にほぐすんだよ。うん。名案だね。

ミヤ いやいやいやいや。

キミコ あの、でもねアオちゃん。

アサミ 確かにいい考えかもしれませんね。

アオイ でしょぉ?

ミヤ いやいやいやいやいやいやいや。ほら、あんたたちも止めてよ。

シホ もう、どうでもいいわ。

ヨウコ ……

アサミ じゃあ、ちょっとお弁当箱どかしますね。

アオイ おう。

カツミ ちょーーーーーっとまったぁ!


12

     カツミが現れる。
     何故か変な格好をしている。


カツミ 悪いが、そうはさせないぜ。

アサミ カツミさん?

カツミ おっと。俺の名前はカツミじゃない。だが、カツミと言う男から頼まれごとをしてね。ここにやってきたというわけさ。
   誰かが困ったその時に、誰も呼ばずとかけつける。迅速実直、直行直帰。
   誰も名前を知らないならば、自分で勝手に名乗ってくれる。呼んで、お助けライダー!


     間


ミヤ さ、じゃあ掘るか。

アオイ よーし。そう来なくっちゃね。

キミコ あたししゃべる持ってきた。

ヨウコ あ、あたしも。

シホ とりあえず、ベンチどかしたほうがいいんじゃない?

アサミ じゃあ、この辺片付けますね。

カツミ 何でだよ! 何だよその反応は!

アオイ あれ? で、どこに埋めたんだっけ。

ミヤ 軽く掘っていけば、薄い板にぶつかるはずだから。その下。

アオイ あ、そうなんだ。

ミヤ あたしに抜かりは無いよ。

キミコ ウエットティッシュ持ってくれば良かったね。

アサミ あたし持ってますよ?

キミコ あ、いただけますか?

アサミ どうぞどうぞ。

カツミ だから、なんでだよ! え? だって、困ってたんでしょ? 掘り出したらまずいからって。
   だからせっかくこうして、僕が頑張ってやったんじゃないの!

ミヤ いやぁ。そこまでいろいろなものを捨ててまで守りたくないかな。

カツミ 何も捨ててないよ!

ミヤ 恥とか?

カツミ この格好のどこが恥ずかしいんだ! なぁ?アサミ。

アサミ あ、私も掘るの手伝いましょうか?

カツミ アサミ!?

アサミ ごめんなさい。カツミさん。今だけはちょっと他人のふりしてていいかしら?

カツミ え、うそ、そんなにダメ?

アオイ あ〜、板ってこれ?

ミヤ そうそう。

シホ 残ってるものね。

キミコ そういえば、こんなのだったよねぇ。

ヨウコ うん。

カツミ (変な格好を取り除く)僕が、悪うございました。

アサミ (カツミに近寄って)失敗はあるから。ね。気にしないで。

カツミ そんなに僕変だった?

アサミ (笑顔で)すっごく。

カツミ (うれしそうに)そっか。

ミヤ 何でうれしそうなんだ。


13
     と、マシロとヒロノがやって来る。


アサミ ヒロちゃん。戻ってきてくれたんだ。

カツミ (途端元気になって)そう! ヒロノにはちゃんと僕が話をつけてきたから。
   本当は一緒に戻ってくるはずだったんだけどね。ほら、こいつテレやだから。

マシロ いや、あんたのあの格好に巻き込まれたくなくて他人の振りしてただけだから。

カツミ そうだったの!?

アサミ でも、どうやって?

カツミ ふふふ。それはこんなようにさ!


     と、回想シーンが始まる。
     何故か雰囲気は夕日。


カツミ 待て! ヒロノ!

ヒロノ なに?

カツミ 俺の胸に飛び込んで来い!

ヒロノ 兄貴?

カツミ お前の悲しみ。すべて俺が癒してやる。さぁ、ドンと来い。

ヒロノ でも、

カツミ バカだな。もう、強がらなくってもいいんだよ。


     ヒロノがカツミの胸に飛び込む。


カツミ ごめんな。お前の気持ち、分かってあげられなくて。

ヒロノ お兄ちゃん。

カツミ 好きなだけ泣くがいい。そして、二人で一緒に帰ろう。

ヒロノ うん。

マシロ はい。違います。そんなシーンはありません。


     マシロがヒロノをカツミから引っ張る。
     雰囲気が元に戻る。


カツミ あれ?

マシロ あれじゃなくて。なんか、雰囲気も夕方っぽくなってたけど、まだお昼だから。ヒロノもノセられないの。

ヒロノ ごめん。つい。

マシロ そういうところばっかりは似てるんだから。ね。本当のこと話しましょうよ。

カツミ そんな違いは無いじゃないか。

マシロ へぇ。実際はこうでした。


     回想シーンが始まる。


マシロ 戻らなくていいの?

ヒロノ なんて顔して戻ればいいのよ。

マシロ いいじゃん謝っちゃえば。それで済む話じゃん。

ヒロノ ……

マシロ と、ここでカツミさん登場。

カツミ 待てヒロろ(噛んだ)

ミヤ 噛んだな。

キミコ 妹の名前噛んだよ。

アオイ 実の妹なのに。

アサミ カツミさん……

カツミ やかましい! 噛んじゃ悪いか! 緊張してたんだよ! (と、回想シーンに戻って)ひ、ヒロノ。

ヒロノ なに?

カツミ 俺の胸に飛び込んで来い!

ヒロノ はぁ?

カツミ お前の悲しみ。すべて俺が癒してやる。さぁ、ドンと来い。

ヒロノ えっと。

マシロ 飛び込んだら?「おにいちゃーん」って。

ヒロノ ごめん。意味が分からないんだけど?

カツミ じゃあ、その意味が分からない混乱も、俺の胸で癒してやる。だから、どんと来い!

ヒロノ バカだ。

マシロ バカだ。

カツミ ああ、バカさ! バカだからわかんないんだよ。お前がなんで怒ってるのかとか、どうしたらいいのかとか。
   だったら、とりあえず、体張るしかないじゃないか。

ヒロノ それで、なんで抱き合わなきゃいけないの?

カツミ 俺たちは兄妹だろ。

ヒロノ だから?

カツミ 言葉なんていらないさ。

ヒロノ (大きくため息)そうだ。こういう人なんだこの人は。

マシロ 大変だね。

ヒロノ 分かったよ。

カツミ よし、ドンと来い。

ヒロノ じゃなくて。分かったから。アサミさんのとこ、先戻ってて。あたしも、すぐに行くから。

カツミ 本当か?

ヒロノ うん。ちゃんと謝るから。ちゃんと。


     と、回想終わり。


マシロ てわけで、帰ってきたと。

アサミ ヒロちゃん。

ヒロノ なんかばかばかしくなっちゃって。別に付き合ったって、バカ兄貴は馬鹿のままだし。
   アサミさ、アサミ姉ちゃんはぼけっとしてるし。だったら、あたしも、あたしのまんまでいっかなって。
   なんか、一人で勝手に怒って一人で勝手に解決して、バカみたいだけど。あたしも、ほら、兄貴の妹だから。

アサミ ごめんね。悩ませちゃって。

ヒロノ ううん。あたしこそ、その、お弁当、ごめん。

アサミ 大丈夫。まだあるから。食べてくれる?

ヒロノ うん。


     アサミはうれしそうに近くにレジャーシートを引き始める。


アオイ よし。これで全て解決だね。掘ろう!

ミヤ ま、既に掘り始めてたけどね。

アオイ こういうのは気分が大切なんだよ。掘るよ。

ミヤ&キミコ おー。


     そして、舞台は一端暗くなる。

14 数分後。


     舞台のベンチはやや移動。
     掘られた跡がある。
     その近くにはレジャーシートを引いて座るアサミ、
     カツミ、ヒロノ、マシロ。
     四人はお弁当をつまみつつも、五人を見ている。
     そして、舞台真ん中にはタイムカプセル。
     アオイ、キミコ、マシロ、シホ、ヨウコがいる。


キミコ じゃあ、開けるよ?

アオイ オッケー。

キミコ ミヤちゃん、いいね?

ミヤ 仕方ないさ。シホも、ヨウコも、いいでしょ?

シホ それが目的なんだしね。

ヨウコ うん。

キミコ 開けます!


     キミコがタイムカプセルを開ける。


アオイ どう? 中身は無事?

キミコ うん。ちゃんと入ってる。

アオイ 誰のから行く?

ミヤ 一番上にあるのからでいいんじゃない?

アオイ あたしなに入れたっけなぁ。

ヨウコ シホ、なに入れたか覚えてる?

シホ さぁ。もう忘れたわ。

キミコ えっと、……短冊?


     キミコが一番初めに取り出したのは短冊。


アオイ なにそれ?

キミコ あれかな。七夕に入れるやつ。

ミヤ なんでまたそんなものを。

キミコ あ、シホちゃんの名前だ。

シホ あたし?

キミコ 「みんな、ずっと仲良くいられますように フジノシホ」

シホ そんなの、いれてたんだ。

アオイ 何で短冊?

シホ 知らないわよ。

ミヤ あれじゃないか? なんか、願いが叶う気がしたんじゃない?

アオイ えーー。

シホ うるさい。(キミコに)返して。

キミコ はい。

シホ あたしの字だ。(思わずヨウコに)下手くそよね。

ヨウコ え、あ、結構上手いと思うよ。

シホ (話しかけてしまったことに気づき)あ、そう。

キミコ さて、次は……レシート?

アオイ なんでよ。どこの?

キミコ 2月11日。牛丼並1個……。

ミヤ あ、それあたしだ。

アオイ え、なんで?

ミヤ ほら、狂牛病がなんたらで、ちょうど牛丼がなくなった時期あったじゃん。近所の。

アオイ そうだっけ?

キミコ ああ。そういえば。

ミヤ で、ちょうど無くなるっていう最後の日に偶然食べてさ。いや、もしかしたら、もう一生食べること無いのかなぁとか思って。
  多分。レシートでも、値打ちとか上がるんじゃないかなぁって。

アオイ すぐ復活したけどね。

ミヤ うるさいな。ガキだったんだよ。

キミコ その割には、ちょっと計算高いけどね。

ミヤ ああ。五年前の自分がいたらぶん殴りたいわ。


     ミヤは言いつつ、レシートを取ると、大事そうにしまう。


アオイ 取っておくんだ?

ミヤ うん。まぁね。思い出だし。

アオイ 皆たいしたもの入れてないなぁ。

キミコ そうとも言えないんじゃない。ほら、手紙が二つ。


     キミコは手紙を取り出す。


アオイ 二つ?

キミコ うん。こっちはあたしで。で、こっちは。……ヨウコちゃんのだね。

ヨウコ あ、だめ。


     ヨウコが取ろうとしたのをミヤが止める。


ミヤ いや、ここは読んでおかないと。なに? ラブレター?

ヨウコ そんなんじゃなくて。

ミヤ キミコ、読んじゃえ読んじゃえ。

キミコ でも、凄い秘密とか書いてあったら。

ミヤ そんなもの書いておくヨウコが悪い。

キミコ それもそうか。

ヨウコ そんなぁ。

ミヤ 第一、何書いたか覚えてないだろ。

ヨウコ うん。あんまり。

ミヤ じゃあ、仕方ないでしょ。

アオイ ってちょっと待って。

ミヤ なに?

アオイ あたしのは?

キミコ あ。

アオイ あたしのは何で無いの?

ヨウコ それは、えっと。

アオイ え、ちょっと待って。なんで? これ、いじめ?

キミコ ミヤちゃん。

ミヤ これまでか。

アオイ どういうことよ。

ミヤ いいか? アオイ。タイムカプセル埋めたとき、どんな会話したか覚えてる?

アオイ そんなの覚えているわけ無いじゃん。

ミヤ うん。でもね、あたしたちは覚えてるんだわ。

アオイ そうなの?

ミヤ 確か、こんな会話だった。


     声が流れる。


キミコ 「でも、残念だったよね」

キミコ ってあたしが言って、

ミヤ 「まぁ仕方ないよ。もう埋めちゃったしね。気持ち切り替えていこう。ほら、シホも、」

ミヤ とあたし。

シホ 「うん。あ、じゃあ記念に写真でも撮ろうか? 」

シホ あたしが携帯だして、

ヨウコ 「カメラないよ?」

ヨウコ あたしが答えた。

シホ 「じゃーん。携帯買ってもらっちゃった」

ヨウコ 「いいなぁ。」

シホ 「ヨウコも中学入ったら買ってもらうんでしょ?」

ヨウコ 「うん。」

シホ 「その時データ送ったあげるよ」

ヨウコ 「ありがと」

キミコ 「ヨウコちゃんばっかりずるいなぁ」

ミヤ 「ずるいぞ〜」

シホ 「皆にも送るって。ほら、じゃあ、撮るよ〜」


     声が小さくなっていく。


アオイ あれ? あたしいない?

ミヤ そうだな。いないな。

アオイ なんでよ!

ミヤ というか、冷静に考えてみろよ。今日は何の日?

アオイ お休み。

ミヤ じゃなくて。例年、あんたは何をしている?

アオイ そりゃ、この時期は家族旅行で……あ。

ミヤ そういうこと。

キミコ アオイちゃん、タイムカプセル埋めるって企画だけして、当日旅行行っちゃったから。

ミヤ いつ帰ってくるかとか聞いてなかったしさ。まぁ、すっぽかされて腹も立ったから。それで。

アオイ そうだったのかぁ。


     アオイは俯く。


ヨウコ みんな、本当、どうしようか悩んだんだけどさ。でも、アオイのことだから、その、

シホ 埋めることも忘れてるんじゃないかと思ったのよ。まさか、いなかったことを忘れるとは思わなかったけど。

アオイ それでみんな、なんか掘り出すの乗り気じゃなかったんだ。

ミヤ あんた落込むだろうと思ってね。

アオイ そっか。うん。なんか、幸せだね。あたし。

ミヤ はい?

キミコ アオイちゃん?

アオイ あたし自身は忘れたものをさ、ずっと覚えていて、心配してくれる人がいるなんて。ね? これって幸せなことだよね?

ミヤ ま、そうかもね。

キミコ うん。きっとそうだよ。

アオイ よっし。じゃあ、さっそくヨウコの手紙を読もう。

ヨウコ ああ、結局読むんだ。

アオイ そりゃそうだよ。いいでしょ?

ヨウコ 文章変でも気にしないでね。

キミコ じゃあ、読むね。「何年後かの私へ。」ヨウコちゃん、本人へお手紙だね。

ミヤ いいから、先を読みなって。

キミコ うん。「元気ですか? 勉強頑張ってますか? 毎日楽しく過ごせてますか? 
   友達はたくさん出来ましたか?」疑問文ばっかり。

ヨウコ 多分、なんて書いていいか分からなかったんだと思う。

キミコ 「好きな人はいますか? 少しは頼れる人になっていますか? 
   昔、シホにそうしてもらったように、あなたの手は、誰かの手を、つかんであげられていますか?」
   シホちゃんにって?

ヨウコ うん。それは、えっと。(シホに)ね?

シホ さあ。

ヨウコ あ、……うん。べつに、たいしたことじゃないから。

キミコ そうなの?

ヨウコ うん。

シホ あたしが、言ったのよ。ヨウコに。友達になろうって。

ヨウコ 覚えてて、くれたの?

シホ つまらなそうに椅子に座っててさ。廊下ばっかり見てたから、この子。だから。

ヨウコ 友達の作り方とかわからなくて、一人でいたあたしにね。
    シホが声をかけてくれたんだ。手をこうやって伸ばしてね。
    『友達になりましょう?』って。それであたしが手をつかんで。
    それで、昼休みに遊んだんだよね。シホ、一緒に遊んでる人にあたしを紹介してくれて。
    その時、皆にも会ったんだよ?

アオイ そう、だったっけ?

ミヤ なんかいつの間にか一緒にいた気がしてたけど。

キミコ きっかけなんて、覚えてないもんね。

ヨウコ あたしきっと、シホが手を差し伸べてくれなかったら、皆とも仲良くなれなかった。
    シホがいたから皆とも遊べて、仲良くなれて。こうやってタイムカプセルいれて、掘り出せて。
    シホがいてくれて本当に良かったって、思ってる。


     間


ヒロノ でも、そんなアズマさんを、シホは見捨てたんだ。

マシロ ヒロノ!

ヨウコ ……ちがうよ。

ヒロノ 違わないでしょ? 現にアズマさんが困ってたときだって、シホは何にもしなかったわけだし。
   まぁ、困らせてたのはあたしたちだから。あんまり言えないけどさ。

ヨウコ それは、私がしっかりしなくちゃいけなかっただけで。

ミヤ どういうこと?

アオイ あんたたち、ヨウコのこといじめてたわけ?

マシロ やだなぁ、いじめてたなんて大げさなものじゃないから。

ヒロノ ただ、からかってただけよね。

マシロ ヒロノ、べつに今そんなこといわなくても。

ヒロノ だってさ、腹立つでしょ。友達だって言うんなら、一言くらい言ってくれよって話でしょ? 友達ならさ。
   変に距離作られると、周りが迷惑するんだよね。あ、まぁ、二人が友達だって言うのも過去の話だって
   言うんならそれでいいんだけど。

シホ そうね。(昔の話だから)

ヨウコ 違う! シホは、今でもあたしの大事な、大事な、だけど、あたし上手く話せないから。
   言いたいことちゃんと言えないから。それできっといらだたせちゃって。
   あたしいつもちゃんと言おう言おうって思っても、でもできないから。だから。
   だから、シホは悪くない。悪いのは全部、私だから。

ヒロノ ……あたし、先行ってるね? おなかいっぱいだし。ちょっと歩いてくる。兄貴、車ってどこに止めたの?

カツミ えっとあっちのほうかな。

ヒロノ うん。分かった。

マシロ ヒロノ。

ヒロノ なに?

マシロ あたしも行くから。

ヒロノ うん。


     ヒロノが去る。


マシロ ヒロノが言いたかったこと、分かるよね?

シホ うん。

マシロ あいつ損な性格してるから。学校で詳しく話し聞かせてね。じゃあね、シホ。アズマさんも。


     マシロが去る。


カツミ あ、じゃあ、俺たちも行こうか?

アサミ ええ。


     カツミとアサミが片付け始める。


アオイ なんだあいつ。開き直りかよ。

キミコ ヨウコちゃんも、相談してくれれば良かったのに。

ミヤ とりあえず、殴ってくるか。

アオイ よし。

シホ 違うのよ。

ミヤ なにが?

シホ あたしが、言えなかったの。そんなことやめようって。ただ、それだけ。

アオイ なんでよ。何で言えないのよ。あんた、友達でしょ?

シホ でも、言えなかった。なんか、言ったら軽くなっちゃうような気がして。
  だって高校生になってまで、「友達」なんてさ。なんか、子供みたいで。

キミコ 関係ないよ。年なんて。

シホ そうなんだけどね。

ヨウコ ごめん。

シホ ヨウコは悪くないでしょ。

ヨウコ あたしも、何か距離置いちゃったから。だから。

シホ 言えばよかったのよ。はっきり。それだけだから。

アオイ ……あ〜あたしおなか空いちゃったな。

ミヤ なんだよいきなり。

アオイ 坂下の駄菓子やってさ、まだやってると思う?

ミヤ さぁ。

キミコ やってると思うよ。こないだ店の前通ったから。

アオイ よし行こう。

ミヤ 行こうって……そうだな。行くか。

アオイ うん。あ、二人は後からきなね。

シホ 別に気を使わなくていいから。

アオイ ちゃんと話しなって。話せば、分かるよ。ね?

ミヤ 今夜大雨が降るな。

アオイ どういう意味よ。

ミヤ そういう意味だよ。


     アオイとミヤが言い合いながら去る。


キミコ きっと、簡単なことだと思うんだ。だから。ね?


     キミコが去る。


カツミ 行こうか?

アサミ うん。


     カツミとアサミが去る。


15


     ヨウコとシホは背を向けたままで。


ヨウコ ごめんね。

シホ もういいって。

ヨウコ 引越しのこと。言えなくて。

シホ いつ、行くんだっけ?

ヨウコ 来週。

シホ そう。

ヨウコ ごめん。

シホ なんでよ。

ヨウコ あ、えっと、おばあちゃんがね。体調悪くなっちゃって。
    それで、こっち来てもらえないかって話もあったんだけど。
    おばあちゃんち持ち家で、うち借家だから。だから、お父さん長男だし。
    どうせならって、よくわからないんだけど。
    お母さんなんて、「長男の嫁になんてなるんじゃ無かった」って文句ばっかり言ってるんだ。
    なんか、家の中もぎくしゃくしちゃって。だからってわけじゃないんだけど。
    これ以上、迷惑かけられないな、なんて思って。だから、ごめん。

シホ なんであんたが謝るのよ。

ヨウコ 迷惑、ばっかりかけてたから。ずっと。だから。

シホ そんなの、あんたが謝ることじゃないでしょ。

ヨウコ そうかもしれないけど。でも、

シホ そんなこと言ったら、あたしなんて、もっとだし。

ヨウコ シホはいつも私を助けてくれたよ。

シホ あんたがからかわれてたって、あたし何も出来なかったじゃん。

ヨウコ それは、ほら、仕方ないよ。

シホ あんた助けたら、あたしがいい子ぶってるとか言われるんじゃないかって。
  どうせすぐからかいの対象なんて変わるし、なんて思って。そういう問題じゃないのに。
  あんたと話せなくなって。話せなくなったらなに話してたのか分からなくなって。
  だったら、話さないでいるほうがいいかななんて思って。あんた一人にして。
  あたしは違う友達なんて作ってへらへら笑ってて。きっと、また学校行っても、
  マシロとも話すし。ヒロノとも話すし。そしたら、やっぱりあんたとは話さないだろうし。(短冊を出す)
  こんな、こんなこと書いてたのも忘れて、全部上辺ばっかで。
  だから。何がだからなのか分からないけど、だから。……ごめん。

ヨウコ ねぇ、シホ。

シホ なに?……なによ。


     ヨウコは、シホに向く。
     手を差し出した。


ヨウコ 友達に、なってくれない? また私と。……あたし引っ越しちゃうけど。
   また、すぐぎこちなくなっちゃうかもしれないけど。でも、私、シホと友達でいたいんだ。ずっと。

シホ なに言ってるのよ。いまさら。

ヨウコ 今更じゃなくて。今から。ってことで。


     シホがヨウコの手を見る。
     おずおずとシホが手を出す。


シホ でも、わたし。

アオイ ああ、まだるっこしい!


     アオイが飛び出してくる。


ミヤ アオイ!

キミコ アオちゃん!

シホ あんたたち、帰ったんじゃ。

ミヤ いや、まぁ、気になっちゃって、ね。

アオイ そんなことより、ほら、仲直りの握手でしょ。早くしなって。

シホ でも。

アオイ でもじゃないの!


    アオイがシホの手をつかむ。
    そしてシホの手をヨウコがつかむ。


アオイ はい。仲直り。っと。ね?

ヨウコ うん。

シホ ……ぁりがとう。

アオイ んーー? 聞こえないなぁ?

シホ うるさい!

ミヤ さ、じゃあ、ごはん食べに行こうか? みんなで。

キミコ そうだね。ね、シホちゃん?

シホ 塾、キャンセルしておく。


     シホが電話をかける。


アオイ よかったね。

ヨウコ うん。

ミヤ そういえばさ、

キミコ なに?

ミヤ 結局、なんの手紙だったの? キミコが埋めてたのは。

キミコ え、もうその話はいいじゃん。

ミヤ あ、こいつ、ごまかす気だ。

アオイ そうはいくか!

キミコ ちょっと、やめてよ〜!


     キミコとアオイが二人係りでキミコを抑える。


ミヤ ヨウコ! 手紙、とって。

ヨウコ あ、うん。

キミコ やめて〜。読まないで〜。

アオイ ヨウコのも読んだでしょ。いいから読んじゃいな。

ヨウコ うん。「何年か後の私へ」キミコも、手紙だ。

キミコ やめて。せめて、あたしの耳をふさがせて〜。

ミヤ やなこった。

ヨウコ 「あなたは、今どんな風になっていますか? 
   私は、今年の夏休みに地球に最も近づくと言われた火星を見に行きました。
   次に地球に最も近づくのは284年も待たなくてはいけないそうです。
   それに比べて私たちの一生はなんと短いものでしょうか。そんなことを思いました。
   それでも、1年後は怖い。
   二年後はもっと怖い。
   あなたがこの手紙を読んでいるだろう何年か後はもっと、もっと怖い。
   こんなことを書いたら、未来のあなたは笑いますか? 
   火星の動きは284年先までも分かっているのに、
   たった1年も先が読めなくて、私は怖くてたまりません。
   せめて、この手紙を読んだその時、
   あなたが笑っていられたらいいなと、私は願っています」


     いつの間にかシホもしっかり聞いている。


アオイ うっわぁ〜。やっちゃったね。

ミヤ 青いねぇ〜。真っ青だねぇ。

キミコ 子供だったんだから仕方ないでしょ!

ヨウコ でも、なんだかよく分かるよ。

シホ そうね。

キミコ そういう反応も嫌だったの! ほら、返して。ごはん食べに行くんでしょ。行こう!

ミヤ はいはい。

アオイ よしよし、怖がりなキミコちゃんにはしっかりついていってあげますからね〜。

キミコ やめてよ〜。


     ヨウコとシホは見詰め合う。


アオイ ほら、なーにやってんの。

ミヤ あんたたちも行くよ。

キミコ 一緒に行こう?

ヨウコ うん。


     ヨウコがシホに手を差し出す。
     シホがヨウコの手を握る。
     二人が歩き出す。

     ゆっくりと幕が下りてくる。

あとがき
最近、引越しの話が多くなっています。
それは自分が引越しを経験することが多かったからと言うのもありますが、
仲の良かった友人たちが(私の年齢くらいになると)会社の移動なんてもので
ある日突然遠い地へ行ってしまうことがあるためです。
「来週から〜」なんてのはまだいいほうで、「明後日には関西です」なんて話もあります。
いつでも会えると思ってた日々なんて、なんて可愛らしいんだろうと、
つい思わずにはいられなかったり。


何年も続く、一生物の友情は、きっと確かに存在しています。
会えなくなったとしても、メールも、電話も出来なくなっても、
繋がっている繋がりみたいなものも確かに繋がって……いたらいいなぁ。
そんなことを思いながら書きました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。