タイムカプセル
タイムカプセル
アイザワ エイコ(高校三年生 女子高生A)
ウエモリ アカリ( 同上 B)
オカヤマ ケイ( 同上 C)
キクカワ コトミ( 同上 D)
暗転
音響FI
証明CI→
○教室(季節:春 放課後)
生徒がいなくなった教室はがらんとしていて、普段の喧騒を遠いものにしている
教室の中には机が三つ イスが三つ
音響FO
アイザワ 下手より登場
舞台を見渡した後、机を一つ一つなぞっていく
今までの思い出を思い返すように、時々表情に笑みを浮かばせる
オカヤマ 下手より登場
アイザワの笑みにギョッとして立ち止まる
オカヤマ「……エイコ……なにやってるの?」
アイザワ「あ、オカチーいたんだ」
オカヤマ「いたんだって……気付かないほど浸ってたわけ?」
アイザワ「うん。……ちょっと、いろいろ思い出しちゃってね」
アイザワ ふと遠くを見るような目付き。口元には微笑み。
オカヤマ すかさず、
オカヤマ「怖ッ」
アイザワ「なにがよ」
オカヤマ「似合ってないよ。正直」
アイザワ「オカチーには、わからないだけでしょ。もうすぐ使わなくなる教室で、過ぎ去った思い出にたそがれるっていう、このセンチメンタルーな気持ちがさ」
アイザワ ふたたび笑みを浮かべて遠い目
オカヤマ すかさず、
オカヤマ「いや、だからホラーだって」
アイザワ「なんでよ」
オカヤマ「顔が」
アイザワ「………………」
オカヤマ「そういうのはもっと、かわいー子がやらなきゃ。あんたにはコブシ聞かせて『高校三年生』歌っているほうが似合っているって」
アイザワ「そんな古い歌知らないわよ!」
オカヤマ「例えよ、例え。つまりね、エイコは結局、ウケねらいキャラってことよ♪」
アイザワ「あのねぇ! ここには誰も目撃者となる人間はいないのよ?」
オカヤマ「?……どういうこと?」
アイザワ「あんまりあたしを怒らすと、明日には河に浮くことになるってこと」
オカヤマ「(笑う)やめときなよ。エイコがそんな事言っても全然迫力ないよ。そう言う台詞は、うっちゃんとかがいわないと」
アイザワ「うっちゃんが言ったら、洒落にならないって」
オカヤマ「それもそうか……ところで、なんであんたここにいるの?」
アイザワ「オカチーこそ。あたしはキティに呼び出されたんだけど」
オカヤマ「ああ、私も。なんだ。キクカワは、あんたも呼んだのか。何の用なんだろうねぇ」
アイザワ「さぁ? あの子結構変わっているし。またなんかくだらない事考えついたんじゃない?」
オカヤマ「そうかもね。こないだも、『落し物ゲーム』やらされたしね」
アイザワ「ああ、あれね……」
劇中劇
アイザワ(キティ)
上手から下手に歩いていく途中でわざとらしく財布を落とす
下手に行ったらすばやく羽をつけてくる(白と黒で塗られた羽)
オカヤマ(通行人)
財布に気づく
通行人「あの、これ…………ずいぶん重いな…………いくら入ってるんだ?
…………………じゅ、十万!?」
アイザワ(天使) カバンから 皿を取りだし頭に掲げながら裏声で
天使 「そんな大金、落とした人は困っているでしょう? 早く警察に届けなさい」
通行人「そ、そうだ警察に………………………」
アイザワ(悪魔) 皿を側に置いて後ろ(黒い羽を見せながら)低い声で。
悪魔 「もってっちゃったって、誰にもわからねえよ。十万だぜ、十万」
通行人「そ、そうか…………もらっちゃっても………………ばれないよな………………」
通行人 財布を懐に入れようとする
アイザワ「んで、誰が猫ばばするかしないかって、見てたんだよねぇ。ずっと」
オカヤマ「拾った人に取っちゃ、不幸だったなぁ…………」
アイザワ「何人だっけ? 返してくれたの」
オカヤマ「五人くらいじゃなかった? 他はみんな知らん顔したせいで、キクカワのお付きにボコボコにされてたじゃん」
オカヤマ いいながら肩をすくめて机に座る
アイザワ その隣りの机に寄りかかる
アイザワ「なまじお嬢様だとやることがトンでいるからねぇ。あたしぁキティの将来が今から心配だよ」
オカヤマ「だねぇ。子供とか生まれてもさぁ、『この子可愛くない』とか言って、すぐ養育所とかに預けそうだからねぇ」
アイザワ「かもね。恵まれない子供の特番を授業で見せられても平気で、『この子不細工じゃない?』なんて言っているくらいだからね」
オカヤマ「声似てねぇ」
アイザワ「似るわけ無いって」
オカヤマ「お嬢様度が足りないね」
アイザワ「こちとら、チャキチャキの、下町育ちだからね」
オカヤマ「だから顔もこんなに……」
アイザワ「顔は関係ないっての!」
ウエモリ 下手から登場
ウエモリ「……あんたたち、なんでいるの?」
オカヤマ「あ、うっちゃん」
アイザワ「うっちゃんこそ、何でさ?」
ウエモリ「私は……」
オカヤマ「キクカワに呼び出されたんでしょ!」
ウエモリ「そうだけど?」
アイザワ「やっぱり」
ウエモリ「……『やっぱり』って、ことは二人ともあの子に呼び出されたの?」
オカヤマ「そういうことらしい」
ウエモリ「まったく。何の用なんだか……」
アイザワ「うっちゃんは知っている? キティが何のようか」
ウエモリ「さぁ。でも、いつもの面子だけしかいないことだし、
またなんかくだらないこと考えたんじゃない?」
オカヤマ「たぶんね」
アイザワ「たまには、もっと大人数を巻き込めばいいのに」
ウエモリ「仕方ないわよ。あの子といつも一緒にいるのなんて、私達くらいじゃない」
オカヤマ「言えてる」
アイザワ「キティあれで友達少ないしね」
ウエモリ「確かに、あの子の性格じゃあまり友達も出来ないかも知れないけどね」
アイザワ「それで? キティってば、何のようなの?」
ウエモリ「私に聞かれたって分からないわよ」
オカヤマ「え? そうなの?」
ウエモリ「そうなのって……なんで驚くのよ」
オカヤマ「だって、ねぇ」
アイザワ「てっきり、うっちゃんなら知ってると思ったのに」
ウエモリ「どうして?」
アイザワ「どうしてって、ねぇ?」
オカヤマ「うっちゃんって、なんかキクカワの保護者って感じだからかなぁ」
アイザワ「そうそう」
オカヤマ「修学旅行も、同じ班だったしさ」
ウエモリ「あれは、くじ引きのせいでしょ。あの子結構寂しがってたのよ。みんな一緒じゃないからって」
アイザワ「そうなんだ? でも、うっちゃんしっかりしてるし。キティが暴走しても、止められそうじゃん」
ウエモリ「私が? 私には荷が重すぎよ。まぁ、あの子が何やろうとしているかは分からないけど、たぶん皆を驚かそうとしているんじゃない」
ウエモリ いいながら机からイスを引っ張ってきて座る
アイザワ「ああ、それはあるかも」
ウエモリ「こないだも、クリスマスだからっていって、どでかいケーキ持ってきたし」
オカヤマ「ああ、あれにはびっくりしたね」
アイザワ「ウエディングケーキなみだもんねぇ。こんなさぁ」
アイザワ ケーキの大きさを手であらわそうとする
オカヤマ「最終的には、食べる量がノルマになったっけ」
アイザワ「しかも、極甘だしねぇ」
ウエモリ 二人の話に笑いながらふと窓を見て
ウエモリ「そういやさぁ、なんか校庭の隅が掘られていたんだけど」
アイザワ「え? ほんと?」
アイザワ 窓まで走っていく
ウエモリ「そこからじゃ見えないって。正門の方だし。ま、大した理由じゃないだろけどね」
オカヤマ「どうせ、また木でも埋めるんじゃない? 『何期生 卒業期念樹』とかさ」
ウエモリ「ああ、そうか。三年はもうすぐ卒業だからね」
アイザワ「そうだよ〜次はあたしらだよ」
ウエモリ「別に高校卒業したからって、人生の半分も終わらないけどね」
アイザワ「うっちゃん冷めてる〜」
オカヤマ「確かにねぇ。あと120年は生きるわけだし」
アイザワ「マジ?」
オカヤマ「人間国宝オカヤマって呼んで」
ウエモリ「無理でしょ、それは」
オカヤマ「無理じゃないって」
アイザワ「……『や』を取ったら、『人間国宝オカマ』(自分で言ってウケてる)」
オカヤマ「ア〜イ〜ザ〜ワ〜」
オカヤマ アイザワの首をしめる(両手で)
アイザワ「ちょっと、オカチー、首、首入ってるって」
オカヤマ「永久に眠れ」
アイザワ「うっちゃん助けてぇ」
ウエモリ「これじゃ、絞めるのに時間がかかるから、こっちの方が良いわよ」
ウエモリ 言いながらオカヤマの手を変える
ウエモリ「おっけぇ」
アイザワ「おっけぇじゃない〜い」
キクカワ下手より登場
手に、ワインとワイングラス×4
キクカワ「ああぁあ、皆で何してるの? あたしだけ仲間外れにして、楽しそう」
アイザワ「楽しそうに見えるの? これが」
キクカワ「だって、二人してそんなに顔近づけちゃってぇ。オカチャン大胆♪」
オカヤマ 慌てて手を放す
オカヤマ「あのねぇキクカワ。何であんたの発想はいつもそう言う方向に行くかなぁ」
ウエモリ「見事にこの子らしいけどね」
ウエモリ いいながらキクカワからグラスを受け取り机に並べる
キクカワ「違うの?」
オカヤマ「……もういい。何で怒ってたのかも忘れたよ」
アイザワ「そりゃ、あたしがオカチーの名前を」
オカヤマ「思い出さすなって」
オカヤマ アイザワに軽くチョップ
アイザワ「痛ぁ。人間国宝になるより、人間凶器になるほうがあってるんじゃない?」
オカヤマ「それもいいかもねぇ」
アイザワ「人間凶器オカマ」
オカヤマ「だからそれもういいってーの」
アイザワ「痛ッ 同じとこ叩かないでよ」
キクカワ「(笑って)二人とも、相変わらず仲いいね」
オカヤマ&アイザワ
「どこが!」
キクカワ「どこがって……ねぇ、うっちゃん」
ウエモリ「あきらめな、二人とも。この子にかかればあなた達なんて、『仲が良い』でしかないんだから」
オカヤマ「それもそうか」
アイザワ「しかたない……諦めるさ」
オカヤマ&アイザワ肩を落とす
ウエモリ「それで? この二人はこれでいいとして、なんで今日は呼び出しなんてしたの?」
キクカワ「それはうっちゃん、いい質問です♪ では、はい」
キクカワ ワイングラスを机から三人に配る
ウエモリ「……何これ?」
キクカワ「ワインだよ。うちの秘蔵の品なの。ボルドーの82年もの。おいしいよ」
アイザワ「へぇ……何年物なんてワイン、本当にあるんだ……」
オカヤマ「赤ワインってところが、渋いね」
ウエモリ「いや、そういう事じゃなくてなんでワインなんて?」
キクカワ「皆で飲もうって思って。ホラ、ついであげる」
キクカワ コルクを抜く
オカヤマ「おお、鮮やか」
ウエモリ「……前からあけてあったね、それ」
キクカワ「ばれた? まま、細かいことは言いっこなしだよ」
キクカワ 三人にワインを注ぐ
ウエモリ「いや、だから、ね? 何で学校でワインなんて。っていうか、もしかして、それが目的?」
キクカワ「びっくりした?」
ウエモリ「しない分けないでしょ」
キクカワ「やった。大勝利♪」
ウエモリ「じゃなくて、ばれたらどうするの! って、二人もそんな美味しそうに見てないの!」
アイザワ「そんな事言ってもさぁ……あたし、本場のワインなんて飲んだこと無いし」
オカヤマ「一度注いじゃったものは戻しちゃいけないって家訓が」
ウエモリ「あるわけないでしょそんなもの」
キクカワ「いいからいいから、うっちゃんも堅いこと良いっこなし♪ 皆で飲みたいなぁって思ってもって来たんだから、飲もう?」
ウエモリ「…………わかった」
キクカワ「やった。では、皆グラスを上げて♪ 私たちの友情にかんぱーい」
オカヤマ&アイザワ「かんぱーい♪」
ウエモリ「乾杯」
四人とも一気に飲み干す
オカヤマ「これが……本場のワインか……」
アイザワ「……残念」
オカヤマ「何が?」
アイザワ「『こ、これはぁぁあ!!』とか、なるかと思ったのに」
オカヤマ「それは、料理マンガの読みすぎ」
ウエモリ「しっかし、良くこんなの用意できたね……グラスまでなんか高そうだし」
キクカワ「ワインはパパの倉庫から勝手に持ってきたの。グラスはねぇ……私の以外は特別製なんだよ♪」
ウエモリ「あなたの以外? そういえば、私たちのグラスはフチが緑色なんだね」
キクカワ「そう。私のは赤♪ 間違えないようにちゃんと考えたんだ」
ウエモリ「間違えないように?」
アイザワ「なになに〜? キティだけ、もしか高いグラス使ってる?」
オカヤマ「グラスの丸みで味が違うとか、そう言うやつ?」
キクカワ「ううん。違うよ。味は変わりないはずだもん」
ウエモリ「え?」
キクカワ「(突然明るく)あのさ♪ タイムカプセルって知ってる?」
アイザワ「タイムカプセル〜? ??? ……そんなの知らなくても生きていけるよ」
オカヤマ 話を聞きながらまたワインを注ぐ
さり気無くウエモリのグラスにも
オカヤマ「知らないならそういいなって。あれでしょ? 思い出の品とか、大切な物とか入れて、何年か後に掘り出すって奴」
ウエモリ「誰が始めたのかは知らないけどね。未来に向けたハガキとかもあったよね。こないだ、万博の時に未来へ向けて投函したハガキを、必死に宛名の主に届けるってやってたし」
アイザワ「何でそんな事するの?」
ウエモリ「浸りたいんでしょ」
アイザワ「浸る?」
ウエモリ「自分が通り過ぎてしまった過去っていうものに戻って、その時に浸りたいのよ。ただ、それだけ」
オカヤマ「うっちゃんは相変わらず冷めてるなぁ。んで? なんでそんな話しが出てくるの?」
キクカワ「やってみたいなって思って」
オカヤマ「タイムカプセルを?」
キクカワ「そう。大切な物とか、思い出の物を閉まっておいて、何年かしたら取り出すの。面白そうじゃない?」
アイザワ「うん。面白そう! やろうよ、それ」
ウエモリ「高2最後の思いで作りってわけね」
キクカワ「でもねぇ。やろうと思ったら、問題があったの」
オカヤマ「問題? 埋める場所が無いとか?」
キクカワ「ううん。埋める場所はあるよ。今日用意させといたんだ。そうじゃなくて、埋めるものが問題なの」
オカヤマ「大切な物が無いって事はないでしょ?」
ウエモリ「ぬいぐるみとか、まぁ、CDとかでしょうね。一般的には」
キクカワ「だけど、私が持っているのって、全部新しいのばかりだし。少しでも古くなったら捨てちゃうから、物に対して、愛着とか無いんだよね」
アイザワ「……贅沢な悩み」
オカヤマ「確かに」
キクカワ「だけどね。そんな私でも大切な物があるって気付いたんだ。どんなものにも代えることは出来ない。もちろん、捨てるなんて出来やしない大切な物」
アイザワ「なに?」
キクカワ「なーんだ?」
アイザワ「彼との写真」
キクカワ「ブー。彼氏なんていませーん」
オカヤマ「お金」
キクカワ「ブ、ブー。ありすぎて大切になんて思えませ〜ん」
オカヤマ「それはそれで嫌味だよ……」
キクカワ「さあ、なんでしょう?」
ウエモリ「降参」
アイザワ「早っ」
ウエモリ「だって、人が大切にしているものなんて分からないし」
オカヤマ「それでも、私ら二人とも言ったのに……」
キクカワ「うっちゃんも言ってみて♪ 一人一回は言わないと」
ウエモリ「わかったよ。どんな物にも代えられなくて、捨てられないものでしょ?……友情とか?」
アイザワ「くさぁ」
ウエモリ「言えって言われたから言っただけだよ」
キクカワ「ぴんぽーん正解♪ さすがうっちゃん」
オカヤマ「え? まじで?」
アイザワ「正解なの? ……惜しかったなぁ、あたし」
オカヤマ「どこがだってーの。でも、友情じゃあ、タイムカプセルには入れられないねぇ」
キクカワ「えぇー、なんで?」
ウエモリ「なんでって(苦笑)形の無いものを、どうやってタイムカプセルに入れるのよ」
キクカワ「形はあるよ。私の目の前にちゃんと」
オカヤマ「え?」
アイザワ「なにいってんのキティ。目の前にって、ここには私らしかいないじゃん」
キクカワ「そうだよ。だから、大丈夫でしょ?」
キクカワ以外は、キクカワの表情の真面目さに言葉を失う
ウエモリ「…………形って、もしかして、私達のこと言ってるの?」
キクカワ「そう。だって、私にとって一番大切なのは、オカちゃんに、アイちゃんに、うっちゃんだもん。悩んだんだよ。タイムカプセルって、お店で一番大きなの買っても、お洒落なやつは、人一人くらいしか入らないし。オーダーメードは、怪しまれるしね。かといって、誰が一番なんて決められないし。私は、三人とも大好きなんだもん」
アイザワ「ちょっと、キティ。冗談きついよ」
アイザワ ワインを注いで飲む
キクカワ「冗談なんかじゃないって。だからね。ワイングラスに細工をしたの。誰か一人だけがタイムカプセルに入るようにね。特別な薬を塗っておいたの」
3人 手に持っていたワイングラスをじっと見つめる
アイザワ 慌てて意味も無く口を拭う
ウエモリ「まさか……自分のと、私たちのを区別したのは……」
キクカワ「だって、自分で薬飲んじゃったらしょうもないじゃん」
オカヤマ「嘘でしょ?」
アイザワ「ちょっと、冗談にしては引っ張りすぎだよ」
キクカワ「だから、冗談じゃないって」
ウエモリ「……だけど、一人をタイムカプセル用に薬を塗ったとしても、残りの二人があなたを止めたらどうするの? 言っておくけど、私は友人が倒れたからって、『はいそうですか』って帰るような人間じゃないよ」
キクカワ「大丈夫。三人とも、薬自体は塗ってあるんだ。一人だけ、タイムカプセル用の薬。あとの二人は睡眠薬と、今日の分の記憶が忘れられるようなお薬。凄い小さな
カプセル状にした強力なやつだから、もうすぐでみんな、同じように倒れると思うよ」
アイザワ「友達だと思ってたのに……」
キクカワ「私もそう思ってるよ。だから薬を飲ませたんじゃん。私の一番大切なものとして。大丈夫。誰がタイムカプセルに入ったとしても、何十年も、入った時のままでいられるように、加工するから」
オカヤマ「キクカワっ あんた間違ってるよ」
キクカワ「私が? なんで?」
オカヤマ「なんでって、そんなこと」
オカヤマ キクカワに向かおうとするが、その途中で足を崩す
ウエモリ「オカヤマ!?」
オカヤマ「足が……なんか、しびれて……」
ウエモリ オカヤマに駆け寄る
ウエモリ「そんな……薬が回るのが早すぎる……ねぇ。本当は冗談なんでしょ? これって、ただのしびれ薬とかだよねぇ?」
キクカワ「うっちゃんまでそんなこというの? 私って、そんなに冗談ばっかり言ってるかなぁ?」
オカヤマ「体が……動かない……」
ウエモリ「こんな……ことって……」
キクカワ「オカちゃんもうっちゃんも眠そうだねぇ。きっとそれは薬が回ってきたんだよ。大丈夫。そうなったらすぐだから」
アイザワ「酷いよキティ。こんなの、絶対間違ってる」
キクカワ「もうやめてよ〜。どうしてそんな、間違ってる間違ってるって言うの? 大切な人を、大切だからとっておこうとすることの何がそんなにいけないの?」
アイザワ「人間は、ものじゃないよ」
キクカワ「わかってるよ。物だったら、こんな面倒な事はしなくても良いもん。だけど、ものじゃないからこそ、とっておきたいって思うんだよ」
アイザワ「おかしいよ、そんなの……」
アイザワ 言いながらふらついていく
キクカワ「なんで? 何がいけないの? 別に人それぞれ大切な物は違うはずなんだし。いいでしょ? 私の大切な物が、あいちゃんと違うって、ただそれだけじゃん」
アイザワ「違う……違うよ」
キクカワ「だから、何が違うの?」
アイザワ「なにがって……ねぇ、オカチー、うっちゃん、何か言ってやってよ」
オカヤマ&ウエモリ すでに眠りに落ちている
アイザワ「オカチー? うっちゃん?」
キクカワ「アイちゃんだけだね。眠ってないの」
アイザワ「ねぇ、やめようよこんなこと。絶対。絶対おかしいよ。一度タイムカプセルに入れちゃったら、もう次に取り出したとしても、笑ったり、泣いたり、出来ないんでしょ? 意味無いよ、そんなの」
キクカワ「いいんだよ。私が取っておきたいのは、今の皆なんだもん」
キクカワ少し冷めた顔になる
アイザワ「……どういうこと?」
キクカワ「どうせ皆来年になったら別々のクラスだし、そうしたら、きっと私なんてまた独りぼっちになるんだよ。ううん、一人にならなくても、どうせいっしょにいるのはお金目当ての人たちばかり。これから長く生きたって、結局お金目的で誰かと結婚させられて、お金の関係だけが広がっていくのよ。だからそんなときに、タイムカプセルを開けるの。若いままの、私の大好きな人が出てきたら、私きっと頑張れる。そんな気がする」
アイザワ 話を聞きながら眠りに落ちる
キクカワ「ね? 分かったでしょ? ……あれ? アイちゃん? アイちゃん? ……なんだ。アイちゃんも寝ちゃったのか。……みんなおやすみ♪ さあて、だれが私のタイムカプセルにはいるのかなぁっと」
証明FO
キクカワ「きーまった♪」
全員上手へ退場
音響FI→チャイム音&雑音
証明CI→朝
○学校(朝)
ウエモリ上手から登場
ウエモリ 立ち止まり、不思議そうに観客席の方を見る。
アイザワ上手から登場
アイザワ「あ! おはよう、うっちゃん!」
ウエモリ「ああ、おはよう」
アイザワ「聞いてよぉ。あたし変な夢見ちゃった」
ウエモリ「へえ? どんな夢?」
アイザワ「学校から帰ってきた後また学校に行く夢。でも、何したかは覚えて無いんだよねぇ。朝起きたら、ただ制服のままで寝ててさぁ。シワがついちゃったよ」
ウエモリ「ふぅん。でも、私も似たような夢見たよ」
アイザワ「え? そうなの?」
ウエモリ「ていうよりね、なんか昨日自体が、凄く夢だったみたいにぼやけてるの。なんか、凄い体重いしさ」
アイザワ「そうそう。なんか疲れてるよねぇ。なんだろ? そんな風邪が流行ってるのかなぁ?」
ウエモリ「どうだろうねぇ? あ、そういやさ、あれって前からあったっけ?」
アイザワ「あれ?」
キクカワ上手から登場(上機嫌)
キクカワ「おはよう♪ 二人とも、こんな所で立ち止まっちゃって、どうしたの?」
アイザワ「キティは、相変わらず元気だねぇ」
キクカワ「元気は私のとりえだからね♪ なに? 元気ないの?」
アイザワ「う〜ん。ちょっとね」
ウエモリ「いいところに来た。ねぇ、あんなところに、あれって前からあったっけ?」
キクカワ「あれ? ……って、桜?」
ウエモリ「そう。あそこって、何も無かったんじゃないっけ?」
キクカワ「そうかもね。でもさ、うちの校長って木とか植えるの好きじゃん。だから昨日のうちに生徒驚かすつもりで植えたんじゃない?」
アイザワ「それにしても、見事な桜だね」
ウエモリ「うん。しかも早咲き。まだ卒業式も終わってないって言うのに」
キクカワ「……ねぇ。桜がなんで綺麗かって言う理由知ってる?」
アイザワ「なにそれ?」
ウエモリ「ああ、あれでしょ? 『桜の下には死体が埋っているから』ってやつ」
アイザワ「え? 何それ、なんか怖い」
キクカワ「違うよ」
ウエモリ「え? ……って、ちょっと、もうすぐ本鈴鳴っちゃうよ。二年も最後で遅刻になんかなりたくないでしょ」
アイザワ「やばい! 急ごう!」
アイザワ&ウエモリ下手へ退場
キクカワ「桜が綺麗なのはね。思い出が埋っているからなんだよ。思い出が大切なだけ、桜は見事な花を咲かせるんだよ。きっとね」
退場しかけて 客席に笑いかける
キクカワ「ばいばい、オカちゃん。またね」
音響FI→
証明FO
完