トリコロール
虜  回転

                           作 楽静

登場人物

<メインキャスト>
魔女
みづき
ありさ

試験官(声のみ)


<いてもいなくてもいい役>
生徒
母親


(照明:暗転
(音響:FI→

魔女 :し、失礼します。

(照明:CI→青
(音響:→FO

試験官:受験者は受験番号のみを言いなさい。

魔女 :はい! 受験番号、七十七番の・・・

試験官:番号のみ、の声が聞こえませんでしたか?

魔女 :す、すいません。

試験官:七十七番、あなたの成績は大変結構です。内申点、ペーパー点共に合格ラインに達しています。

魔女 :じゃ、じゃあ。

試験官:しかし。実技テストでの成績が、いまいちです。

魔女 :え、でも。

試験官:目的はクリアしています。しかし、そのためには手段を選ばないと言うか、
     あなたのやり方にはモラルがありませんね。

魔女 :ですが。

試験官:あなたの言いたいことは分かっています。終わりよければ全て良し。確かにその通りかもしれません。
     しかしそれではやはり、我々の仲間になるには足りないのです。

魔女 :足りない・・・で、でも、まだ試験は残っています。

試験官:もちろんです。結果のみが問われる最終試験。それを受けてもらいます。

魔女 :それに合格すれば、いいんですよね。

試験官:その通りです。しかし、結果のみが問われる最終試験。
     それが、なぜ実力テストと区別されるか分かりますか。

魔女 :分かっています・・・使え、ないんですよね。

試験官:もちろん。この試験に合格すれば、あなたのやり方がいかに非常識であくどいとしても、
     我々の仲間です。しかし不合格の場合、再び試験資格を得るためには、
     100年の研修期間をおいてもらいます。

魔女 :大丈夫。まかしてください。絶対合格しますから。なんせ、もう目星はついているんです。

試験官:それでは行きなさい。七十七番。幸運を祈ります。

魔女 :はい!・・・・ったくお堅いんだから。

試験官:何か言いましたか?

魔女 :い、いえ、失礼します。地獄耳

試験官:・・・・聞こえてますよ

魔女 :あ、あの、じゃそういうことで。


 魔女―下手に退場

(照明:CI→白
 みづき・ありさ上手より登場

○公園(昼)
 公園の入り口を示す石や、草むらっぽいのもある。
 (ベンチがあっても面白いかもしれない)

ありさ:あーあ、疲れた。六時間ってやっぱきついよね。

みづき:なに言っているのよ。寝てばかりだったくせに。

ありさ:そ、そうだっけ?

みづき:一時間目の英語から、よく寝ていたじゃない。
     チャイムの音が鳴るのにも気づかないで気持ちよさそうに。あんまりよく寝ているもんだから、
     先生が「可哀相だ」って、起こさなかったのよ

ありさ:そうか、それで起きたら昼休みだったんだ。まったく、気づいたら起こしてくれればいいのに。
    先生に好かれてると、こういうときに困るよねぇ。

みづき:起こした方が良かった?

ありさ:う〜ん出来れば寝てたいけどさ、やっぱ授業中、
    しかも一時間目から居眠りはさすがにヤバイ気がするんだよね。

みづき:よくそんなに寝られるわよね。夜おそいの?

ありさ:なんか色々忙しくってさ。昨日も、遅くまで友達と
    長電話しちゃったし。

みづき:よくそんな長々と電話で話すことがあるわね。

ありさ:え?いっぱいあるよ、話す事なんて。ほら、例えば昨日のドラマとかさ。

みづき:・・・・・・?

ありさ:あれ?もしかして、みづき昨日のドラマ、あれ見てないの?

みづき:・・・・・・??

ありさ:まさかね、今時あのドラマ見ていない人なんていないよ。
    もしいたとしたらよっぽどの変人か、テレビも買えないような
    貧乏人だけじゃん。見てなきゃ、カスって感じだよね。

みづき:・・・・・・???

ありさ:もしかして、本当に見てない?ほら、「ニュース23」

みづき:ああ、あれなら見・・・

ありさ:の、前の時間にやってるやつ。

みづき:・・・・・・

ありさ:・・・・・・

みづき:昨日は勉強してたから

ありさ:ふーん、そうなんだ。えらいね。でも、みづきってそれしか楽しみ無いみたい。

みづき:私は今の楽しみよりも、10年後の楽しみのために勉強してるの。

ありさ:将来の事なんて考えてるの?

みづき:考えてないの?

ありさ:だって、今がよければ良いじゃない。もしかしたら、
    ノストラダムスの予言が当たって地球なんてこっぱみじんこかもよ。

みづき:あの予言は、もう外れたと思うけど?

ありさ:あ、みづき知らないんだ? 本当はね、世界は2010年に滅びるんだよ。

みづき:2010年?

ありさ:そう。グランドなんとかってやつ。惑星の軌道が、全部縦になるんだって。

みづき:へえ? ・・・それでどうして世界が滅ぶの?

ありさ:え? それはわからないけど・・・でも、未来なんて、なってみないと分からないじゃん。

みづき:ありさらしいわね。そういう考え方。

ありさ:みづき、もっと友達作りなよ。そうすれば考え変わるって。

みづき:友達なんて、作ろうと思って出来るものじゃないわよ。

ありさ:そんなことないよ・・・・・まあ、いつも教室の隅で
    参考書開いているだけじゃ無理だろうけど

みづき:それに私、友達がたくさんいるからって人生に成功するとは
     限らないと思うの。ううん、逆に友達がたくさんいるせいで、
     勉強が出来なくって、どんどん落ちこぼれていく可能性の方が
     高いんじゃないかなぁ。

ありさ:ええっ、そんなことあるわけないじゃん

みづき:でも、休み時間に勉強できないでしょ?ありさ、
     貴重な時間を、友達と過ごすことに使ってるじゃない。

ありさ:あたりまえだよぉ。だって、せっかくの休み時間なんだよ!

みづき:その10分間で、どれだけの英単語が覚えられると思う?
     問題集だって、3ページは確実に解けるし。

ありさ:ほら、私ってそうやってコツコツやるのってなんか苦手だから
     一夜漬けの方が得意だなぁ。

みづき:得意?じゃあその得意の一夜漬けの成果どうだったの?

ありさ:今日帰ってきた課題テストのこと?難しかったけど、
     まあ、けっこうできたよ。

みづき:けっこう?すごいじゃないありさ!!ってことは
     90点代取ったんだぁ。

ありさ:いや、あの、まあまあ。

みづき:まあまあ?ってことは70点くらい

ありさ:ぼちぼち・・・・そんなに良くはなかった。

みづき:・・・・やっぱり。でも、半分は取れたでしょ?
     私が教えた所出たんだし。

ありさ:えっ・・・・

みづき:あのテストで半分以下だったら、もう人生終わったも同然よねぇ。
     ありさ、授業中寝て余裕があるんだから、出来たんでしょう?

ありさ:・・・・・・・

みづき:あ、・・・・もしかしたら半分以下だった?

ありさ:うん。

みづき:・・・・・ごめんねありさ。
     ・・・・・もしかして傷つけちゃった?

ありさ:べつに〜。あっでもあれは書けたよ。
    みづきが2時間かけて教えてくれたやつ・・・ほらっ・・・あれ?
    なんだっけ?・・・イフ・・・イフユア・・・ユア?

みづき:If your wish came true,what would you wish? でしょ?
    ほら、やっぱり一夜漬けじゃ本当の実力はつかないのよ。

ありさ:みたいだねぇ。ま、次は頑張るって。

みづき:前回もそう言ってたじゃない。二年生になっても進歩無しね。
     来年は受験生なんだから。

ありさ:受験かぁなんかピンとこないよ。進路とかもぜーんぜん判んないし。

みづき:『今がよければ・・・』って言ってたもんね。

ありさ:うん!だから将来の夢とかってよく分かんないけど、
    今の夢はいっぱいあるよ、欲しい物とかさ。

みづき:それって、『夢』よりも『願望』っていうか『欲望』に
    近いんじゃない?

ありさ:やだなあ。『願い事』って言ってよ♪

みづき:『願い事』か・・・・・ありさの願い事って何?

ありさ:やっぱり、頭がよくなるようにかな。

みづき:自分の頭が悪いことは知ってるんだ。ちょっとは進歩してたのねぇ。

ありさ:そりゃあ、みづきと一緒にいればね。・・・・あと、バックも
    欲しいし、お金だって、あ、あとかっこいい彼氏も欲しいかな。みづきは?

みづき:私?わたしはありさみたいに勉強できないわけじゃないし、鞄も、お金も、
     もちろん彼氏なんてまだ欲しいと思わないから
     ・・・・世界をこの手の中に収めたいって言うのはどう?

ありさ:・・・・・みづきって、案外支配者タイプなんだ。

みづき:べつに、本当に叶うわけじゃ無いんだからいいじゃない。

ありさ:そんなこと判んないじゃない。それにみづきの願い事って、
    なんか美しくないよぉ。

みづき:ありさこそどうなのよ。

ありさ:美しいじゃん。年頃の女の子の考えそうな事って感じでさ。無邪気で良いんじゃない?

みづき:それって、自分で言う?

ありさ:だいたいさ、『どうせ叶わない』とか言うからダメなんだよぉ。
    例えば、たった一つの願い事が叶うとして・・・・・

みづき:そんなことありえないわよ。

ありさ:だからたとえばの話。イフユア・・・・

みづき:If your wish came true,what would you wish?

ありさ:それよ、それ。他のどんな願い事を捨ててでも叶えてもらいたい、
     たった一つの願い事・・・・・あっなんかいいなそういうの。

みづき:まったく……こんな英語もわからないんだから、やっぱり頭よくしてもらった方がいいんじゃない?

ありさ:もう! もっと夢がある発言してよ。

魔女  下手から登場
     ベンチ影(じゃなければ石の影)に隠れて話を聞いている。
     魔女のように黒い服を着て、杖を持っている。
     なぜか、背中に羽が生えている。

みづき しょうがないと言いたげに


みづき:・・・そうねぇ・・・こんなおバカなありさのことほっとけないもん。
     2人の永遠の友情・・・なんて願うのもいいかな。


ありさ 感動したように


ありさ:みづき・・・うん。私も同じ願い事する!!
    みづきと私の友情がずーっと続くようにって。

みづき:・・・・調子いいわねぇ。さっきまでそんな事
    思ってなかったくせに。

ありさ:みづきと違って、世渡り上手だからね、私

みづき:・・・・・・

ありさ:・・・・・・うそだよ〜

みづき:・・・・・願い事が叶うかどうか分からないけど。
    たとえ叶わなくても、私達友達でしょ

ありさ:もちろんこれからも、ずっと、ずっとね。

みづき:仲良くしてねありさ。

ありさ:当たり前でしょ、みづき。


 二人とも、下手に退場しようとする


魔女 :ちょっと待ったー!!私の話を聞いてくれない?

みづき:・・・・何ですか?

ありさ:あの、宗教の勧誘とかだったら、おことわりだから!!

魔女 :違うわよ。あなた達が話していたことについて、
    ちょっと話があるだけなの。

ありさ:話してたこと?人の話立ち聞きしてたの?

魔女 :まさかぁ、最後の方だけちょこ〜っと聞こえちゃっただけ。それでね。

みづき:ねえ、行きましょうありさ。

魔女 :待ってってば、大丈夫、怪しい人間じゃないから。

ありさ:怪しい人間じゃないってみづき。話くらい聞いてあげようよ。何か、面白そうじゃん。

みづき:だけどどう見たって、怪しい人にしか見えないじゃない。

魔女 :だから、怪しくないの!怪しい人って言うのは、見るからに怪しい格好なんてしないものよ。

みづき:・・・・・

ありさ:そうなんだ。

魔女 :誘拐犯だって、殺人犯だって、『そんなことする人には見えなかったのに・・・』って言うでしょ?
     怪しい=危ない人とはならないのよ。

ありさ:なるほど。

みづき:でも、姿格好が怪しいなら、充分避けて通るだけの価値はあると思うけど。

ありさ:あ、それもそうだよね。

みづき:でしょ、だからありさ行くわよ。

魔女 :ねえ、だからちょっと待ってよ。待ちなさいよ。
     何かチラ〜っと願い事がどうこうみたいなこと話してなかった?

ありさ:話してましたけど?

みづき:あ、言っておきますけど、これは願い事が叶うランプですなんて、
    訳の分からない商品を出してもらっても、私達は買いませんから。

魔女 :そんなコトしないわよ。もっと直接的なこと

ありさ:直接的?

みづき:・・・もしかして、願いを叶えてやる。とか言うの?

魔女 :ピンポーン!

みづき:(ため息)春先だからかな。行こっか、ありさ。 

ありさ:そうだね。行こうう。

魔女 :いいの?本当に願い事が叶うかもしれない機会を
    不意にしちゃうんだよ?いいのかなぁ。後で絶対後悔するわよ。
    別に、とって食おうってわけじゃないんだから。ほら、化粧品とか、
    健康食品とかの、無料サービスだと思ってさぁ。

みづき:いったい何なの? こんな真っ昼間から変な服着て
    さも親切そうに近づいて。いい年して、みっともないとは
    思わないの?

魔女 :みっともないって何よ!!この服わね、伝統にのっとった由緒
    正しい服なのよ!!そりゃ確かに流行からは後れてるけど・・・
    魔女には黒って決まってるんだもの仕方ないじゃない。
    私だって、キャミソールとかアニマル柄とか着たいわよ。    

みづき:・・・・・魔女って言ったわね。今。

ありさ:うん、魔女って言った。

みづき:やっぱりおかしいのよ。

ありさ:あっでもコスプレマニアの人かも。

魔女 :ちょっとー!私は魔女なの!!・・・見習いだけど

ありさ:え?何か最後の所よく聞こえなかった。

魔女 :と、とにかく、だからあなた達の願いを叶えてあげられるわけよ。分かる?

みづき:そう・・・・それで、本当は何なの?

魔女 :だから、本当も何も魔女なんだって。

みづき:分かったから、本当のこと言いなさいよ。

魔女 :分かって無いじゃない。魔女だって言ってるでしょ!

ありさ:ちょ、ちょっとみづき。

みづき:言いたいことは分かるけど。魔女なんて存在してないの。
    今は化学が支配する世の中なんだから。そうやって、
    夢にとりつかれて動くのはいいけど、私達を巻き込まないで。

魔女 :そんなこと言ったって・・・・ほら、ほうきも持ってるし

みづき:そんなもの、何処にでもある竹箒でしょ。

魔女 :ぶーっ!!魔女の箒は竹じゃなくて『エニシダ』で出来てるの。

ありさ:でも、見た感じ竹っぽいしなぁ、掃除する人が持ってるやつみたい。

魔女 :えっと、ほ、ほら。黒い服着てるでしょ?

みづき:お葬式に行く人は皆喪服よ。

魔女 :ど、動物の言葉だって分かるんだから。ほら、見てあそこにいる
    カラス、『お腹空いた』って言ってるわよ。・・・あっねぇ
    ほらみてみて!羽だってついてんだよ!パタパタするんだから。

ありさ:ほんとだぁ、やっぱり本物かもよ。

みづき:ばかねぇ羽ついた魔女なんて聞いたことないわよ。

ありさ:・・・そっか、ほうきで飛ぶんだもんね。

みづき:それにこれ、値札がついてる。

魔女 :いいじゃーん。おしゃれで。
    ね。だから、私は本当に本当の魔女なんだって。
    何で信じてくれないのよ!

みづき:証拠を見せなさいよ。ちゃんとはっきりと、本物の魔女だ
    って言えるだけの根拠を。それがないのなら、あなたは春先に出たただのいかれた変質者よ。

ありさ:変質者・・・・攻めてコスプレマニアとか、ちょっと
    思いこみが激しいとか。

魔女 :どれも違うわよ。・・・・わかったわ。簡単な魔法を使ってあげる。見てて


(音響:CI→
 魔女俯く。長い沈黙の後に、顔上げ。


魔女 :・・・・・五千九百八十円

みづき:え?

ありさ:な、なに?

魔女 :(みづきを指さす)あなたの財布の中身。五千九百八十円。
    他にテレホンカードが二枚に、市の図書カード一枚
    そして『てつや』のプロマイド。


みづき 言われるままに財布の中をあさる


ありさ:え〜みづきって小室好きなの?意外。

みづき:・・・・・ちくしてつやよ。

ありさ:えっ・・・・・本当だ。

みづき:どうして・・・・・?

魔女 :だから、私は魔女だって言ってんでしょ。信じた?

ありさ:じゃあ今の魔法なんだぁ。

みづき:魔法。のわりにはせこいわね。手品と変わらないじゃない。

ありさ:他のこと出来ないの

魔女 :だから、願い事を叶えてあげるってば(かわいく)

ありさ:そ〜んな可愛い言い方しといて、結局願い事を叶える変わりに、
    お前の魂を地獄に引きづり込んでやる、とか。

魔女 :そんなことしないわよ。私はいい魔女なんだから。

ありさ:そっか。

みづき:そっかじゃないわよありさ。悪い奴がわざわざ自分から
    『私は悪い人間です』なんて言う分けないでしょ。

ありさ:そ、そっか・・・酔ってる人間ほど『いやぁぜんぜん平気ですよ』って言うのと同じか。

みづき:そうよ、だからこれの言うコトなんて簡単に信じちゃダメよ。
    これが本当に魔女で、しかもいい魔女かなんてまだ判んないんだから。

魔女 :ちょっとみづきちゃん。

みづき・ありさ:ちゃんづけは止めて。

みづき:・・・何でありさまで言うの?

ありさ:いや、あの、なんとなく。

魔女 :なんで?みづきちゃん。

みづき:イヤなのよ。

魔女 :どうして?みづきちゃん

みづき:・・・・分かっててやってるでしょ。

魔女 :そんなことないわ、みづきちゃん

みづき:・・・・もういいわ。なに?

魔女 :だからねみづきちゃん。これってなによこれって。
    私にだって名前があるんだから、名前で呼んでよ。

みづき:言ってないのに、わかるわけないでしょ?

魔女 :そ、そっか。(咳払い)私の名前は
    ユーラシア・UN・ユーゴスラビアユートピア・ユータナジー・ユザワヤよ。

みずき:・・・・・それで、あなたはどうして。

魔女 :名前で呼んでよ。

ありさ:えっと、ユ、ユ、ユ・・・・・・ユザワヤさん。ごめんなさい、
    覚えられなかった。

みづき:ユーラシア・UN・ユーゴスラビア・ユートピア・ユータナジー
    ユザワヤさんよ。

ありさ:す、すごい・・・そんな意味不明な言葉よく覚えられたね。

みづき:ありさ・・・・・ユーラシアは、ヨーロッパとアジアが存在する
    大陸の名前。UNは、ユナイテッド・ネイジョンズ、
    国際連合の事よ。ユーゴスラビアはバルカン半島にある共和国だし、
    ユートピアは理想郷でしょ。ユータナジーは医学用語で安楽死ね、
    それから

ありさ:ユザワヤは判る!鎌田にある手芸材料屋さんだよね!
    めっちゃ安くて種類も豊富!何か辞書引いてゆの段からテキト〜
    に付けたみたい。

魔女 :ありさちゃん、人の名前テキト〜とか言わないでよ。それにね
    みづきちゃん、ユーラシアは、我が家に代々伝わる由緒正しい
    名前なの。何でも、鼻ぺちゃで悩んでいたクレオパトラの鼻を
    高くしてあげたお礼に、クレオパトラが付けてくれた名前らしいわ。
    それに、ユーゴスラビアとユートピアじゃないの。ユーゴスラビア
    ユートピアで1つの単語。意味は『青は藍より出て藍より青し』よ。
    ユータナジーはひいおじいちゃんの名前。ユザワヤは、幸運を
    呼ぶおまじない。ママが、私の幸せと、自分を超える立派な魔女に
    なるようにって心を込めて付けてくれた名前なんだから。

みづき:・・・・・UNがぬけたわよ。

魔女 :あぁ、それはユナイテッド・ネイションズであってるの。

ありさ:え゛〜何でそんな名前付けたのぉ〜私ならやだぁ。

魔女 :それは、国連が発足された年に私が生まれたから。

みづき:確か国連が発足されたのって1945年の事よね?
    あなたって若く見えるけど・・・・

魔女 :みづきちゃん女性に年齢の話はタブーよ。とにかく、ゴメンね。

みづき:何がよ?

魔女 :せっかく知識披露してくれたのに無駄にしちゃって。

みづき:・・・なによそれ。だいたい私はねあなたが魔女だなんて
    これっぽっちも信じてないのよ。

ありさ:みづき〜いいじゃんおもしろそうだよ。

みづき:おもしろくないわよっ!!私帰るわ、そんなに面白いんなら
    ありさ1人でやっててよ。

ありさ:みづき〜待ってよ。みづきが帰るなら私も帰るってば。

魔女 :待って!!

みづき:いい加減にっえっ・・・・


 魔女―ほうきを2人に向けて回しながら何か唱える。
(音響:CI→


みづき 魔女を信じる


みづき:・・・・それで、その魔女さんが、どうして私達みたいな極一般的な高校生を捕まえて、
     願いを叶えてやるなんて言うのかしら。

魔女 :それはね。私がいい魔女だからよ。いい魔女って言うのは、
    願い事を持っている人を見ると、その願いを叶えて
    幸せにしてあげたいぃぃって思うの。こう、強い思いが
    身体中を駆けめぐるのよ、分かる?
    こう、なんて言うのかな、幸せの無償奉仕よ、
    良い言葉じゃない。

ありさ:幸せかぁ・・・・

みづき:財布の中身を見るぐらいしか脳がないくせに、
    人を幸せにするなんて出来るの?

魔女 :何て事言うのよ。出来るわよ。なんせ魔女なんだから。

みづき:・・・・さっき、見習いだけど、とか言ってなかったかしら

魔女 :聞こえてたの・・・・まあ、見習いって言ったって、
    今まで何人もの人を幸せにしてきたんだから大丈夫よ。
    それに、あなた達の願いを叶えれば、正式な魔女になれるの。
    つまり、もう実力は一人前なのよ。後は、資格を持つだけって事ね。

ありさ:じゃあ例えば、どんな魔法を使ったんですか?


魔女 :気になる?ど〜しても?ど〜しても知りたい?・・・・
    分かったわ、特別に教えてあげる。本当は、他の人の願い事を
    第三者に教えることはいけない事なんだけど・・・本当に特別よ。


魔女 人形を差し出す。


魔女 :これよ

ありさ:これ・・・・人形?ですよね。

魔女 :そう。でも、ただの人形じゃあないの。・・・・あのね、
    『この美しさが朽ち果てるなんて耐えられないわ。永遠に美しい
    ままでいたい。年を取るなんて嫌ッ!お願いよ魔女さん。
    私の美しさを永遠のものにして』って、願った人がいたの。
    だから、これ。

ありさ:ええ! 人形にしちゃったの!?

魔女 :そうよ。だって、ほら、永遠に美しいままじゃない。
    ちょっと、ちっちゃくなっちゃったけど、いつまでも肌はすべすべ、しわ一つ出来ないわよ。

みづき:・・・・絶対、本人が願ったことと違うと思う。

魔女 :そんなこと無いわよ。ほら、幸せそうな笑顔でしょ?
    絶えず微笑を続けて、もう笑顔そのままって感じよね。

ありさ:・・・・ほ、他にはどんな願いをした人がいたんですか?

魔女 :そうねぇ………お金が欲しいって願い事をした人がいたわ。

ありさ:お金。

魔女 :そう。まあ確かに、誰しも一度は憧れるものよね。お金、美貌、名誉なんて。
     っで、その人は、そんなささやかな欲望を持っている時に、運良く私に出会ったのよ。

ありさ:それで?

魔女 :そう、それで。聞くけど、この日本で、一番お金があるところはドコだと思う?

ありさ:え?お金が一番あるところ?………国会議事堂かな?

みづき:………ありさ。一応聞くけど、どうしてそんな突拍子もない答えが出てくるの?

ありさ:え、だって、国会議事堂って、大きいじゃない。それに、偉い人がいっぱい集まるし。

みづき:大きいだけなら、東京ドームの方がよっぽど大きいわよ。

ありさ:え、じゃあ、東京ドーム?

みづき:んなわけないでしょ!

ありさ:……あ、そうか、銀行だ。

魔女 :ピンポーン、その通りよ。

みづき:銀行?確かにお金はあるかもしれないけど、今やバブル時代の
    余波を受けて、借金だらけじゃない。お金があるなんて、書類上のことじゃないの?

魔女 :みづきちゃんが、そうひねくれた考え方をしたいのは分かるけど。

みづき:ひねくれた考えって何よ。

魔女 :と、とにかく、昔のことだし。そんな厳密に考えないでよ。お金があるのは銀行。
     それでいいでしょ、オーケー?

みづき:それで?

魔女 :だからね。お金が欲しいんだから、お金があるところに連れてってあげようと思って。

みづき:連れてくですって。

魔女 :そう。日本銀行の、金庫の中にぽーいっと。

ありさ:あ、何か聞いたことある。

みづき:『世紀の大泥棒、厳重な警備をくぐり抜け、銀行金庫内に潜入』って、
     何週間かニュースを騒がせたやつね。・・・・昔の事って、最近の事じゃない。

ありさ:確かその泥棒さん、金庫の中から瀕死の状態で見つかったんだよね。

みづき:当たり前じゃない。金庫の中は密閉されているのよ。下手したら、窒息死ね。

魔女 :えっ・・・

ありさ:酷い。

魔女 :な、何でそうなるのよ。お金が欲しいっていったから、
     ハイハイッて願いを叶えてあげただけじゃない。
     私は悪くないわよ。そんな願い事をする方が悪いのよ。

みづき:ふうん。

ありさ:・・・・

魔女 :なによぉ

ありさ:もしかして、まだあるの?

魔女 :もちろん!聞きたい?

ありさ:・・・もういい。

魔女 :じゃあいよいよ2人の番ね。何にする?

みづき:・・・・・ねぇ、もしかして2人で一個?

魔女 :・・・・・・うん。

ありさ:やっぱ見習いなんだ。

魔女 :べっべつに私が見習いだからとか、そう言うわけじゃなくて、
     ただいろいろこちらにもキマリって言うかなんていうか。

みづき:2人で一個って言う事実は変わらないんでしょ、結局。

魔女 :・・・うん。だから2人で相談して決めてネッ!

ありさ:相談って言われても・・・・・

みづき:・・・・・


 (2人顔を見合わせため息)


魔女 :そんな深刻になんなくっても。

みづき:うかつな願い事なんてしたら、あなた何するか分かんないじゃない。
     それに、私達は別の人間なのよ、2人で一つの願い事なんて、そう簡単に見つかんないわよ。

魔女 :どうして?

みづき:どうして・・・って?

魔女 :だって2人は友達でしょ?2人で一緒に楽しめることいっぱい
     あるじゃない。どうしてそう言うの根這わないの?実際いたよ、
     2人専用のカラオケBOXほしいとか、2人でアルプス旅行
     したいとか。そういうのないの?

ありさ:・・・・私・・・私、GLAYのliveチケット最前列ど真ん中がほしい!!

魔女 :あっなるほど!2人ともGLAYのfanなんだ。せっかく2人で
    行こうと思ってたのに、チケットとれなかったのねぇ。

みづき:・・・グレー??灰色??なにそれ?

魔女 :あれ?

ありさ:・・・あっあのliveは・・・あゆみと行こうと思ってて
   あっだって!嫌いでしょみづきそういうの。だから・・・・・
   お願い!!願い事譲って!!ど〜しても行きたいの!!友達でしょお願い!!

みづき:・・・・うそつき。

ありさ:えっ?

みづき:ありさ言ったじゃない。私と同じ願い事するって。

ありさ:・・・・

魔女 :えっ?あるんじゃない!2人同じ願い事。な〜んだ
    だったらもっと早く言ってよ。私ちょっとドキドキしちゃった
    じゃない。2人の同じ願い事、それ叶えてあげるから、ネッ言ってよ、ほら。

みづき:もういいわよ。

ありさ:みづき。

みづき:ありさの願い事叶えてもらえばいいでしょ。

ありさ:そんな言い方しなくたっていいじゃない。なんで私ばっか悪いの?
    みづきだって魔女さんが。

魔女 :だから名前が。

ありさ:どうでもいいよ!みづきだって魔女さんが2人で一個の願い事
    って言ったとき、すぐ言わなかったじゃん。本気でああ思って
    たんなら、すぐ言えるよね?

みづき:・・・・責任転嫁しないでよ、ありさこそ、私にテキトーに合わせてただけで、
     そんな気なかったくせに、嘘だったんでしょ。

ありさ:みづきちょっとまっ

魔女 :嘘・・・・だったんじゃない。

みづき&ありさ:!?

魔女 :永遠の友情なんて、よっぽどの本物か、全くの偽物じゃなきゃ言えないよ。

ありさ:やっぱり私達の会話、しっかり聞いてたんじゃない。

魔女 :え゛っあっほら、その・・・ぐ〜ぜんたまたま聞こえちゃって・・・

みづき:それで、あなたは私達の友情が、全くの偽物だって言いたいの?
    確かに今ちょっともめちゃったけど、仕方ないじゃない。
    人間だもの、そう言うことだってあるわよ。

魔女 :みづきちゃん怒んないでよ、私が言ったわけじゃないんだから。

ありさ:どういう意味?

魔女 :だって・・・・・似たようなこと言ってたじゃない。

みづき:上手へ退場
     (ストップモーションでも)

(音響:CI→
(照明:CI→

注:魔女が生徒役に付く。または別に用意する

生徒 :チケット残念だったよね。

ありさ:ホ〜ントスッゴイ頑張ったのにさ。当日ダフ屋とか出てるかな。
    でもぼったくられそうだし・・・あ〜〜あ。

生徒 :まっまたチャンスはあるよ。ねっそれより・・・よかったの?

ありさ:なにが?

生徒 :live私と行って。

ありさ:なんで?

生徒 :うん、だってあんた藤田さんと仲いいじゃん。
    やきもちやくんじゃない?

ありさ:みづきがやきもち?何言ってんの。

生徒 :だって、彼女他に友達いないっぽいじゃん、逆に言うと、
    ありさがたった1人の友達なんだよ。そのありさが他の子と
    liveとか行ったら嫌なんじゃない?

ありさ:冗談やめてよぉ。そりゃみづきは友達ってあんまいないけど、
    それってみづきの勝手じゃん。私が遠慮する必要ないよ。

生徒 :まあね。

ありさ:でしょ。それに、私今まで充分みづきの相手努めてきたんだよ。
    ちょっとぐらいリフレッシュしたいよぉ。

生徒 :・・・やっぱ疲れる?

ありさ:疲れるってわけじゃないけどね。2人の時は結構みづきも
    喋るし・・・・でもなんか違うんだよね。みづきって勉強
    ばっかって言うか、勉強にしか興味ないし。だからドラマなんて
    全然みてないから、時々話題に詰まるんだよね。
    でも、テストの山なんか教えてもらえるじゃん。
    教え方も先生より詳しいし一緒にいて損はないからさ。

生徒 :ふ〜ん。

ありさ:それに、みづき頭いいって言っても、教科書以外の事って全然駄目なの。
    ちょっとしたなぞなぞとかは、もう真っ直ぐに考え過ぎちゃって、
    絶対答えに辿り着かないんだ。だからね、何かすっごい自分に自信が持てるの。
    みづきの方が、私より成績はいいけど、私の方が優れてるんじゃないかって。
    結局勉強できてもそれだけじゃ・・ね。

生徒 :まあねぇ2見てると、ありさが藤田さんに手差し伸べてる
     みたいだもんね。

ありさ:でしょ!!いい引き立て役ってトコかな。みづきにしたって、
    悪い話じゃないと思わない?友達やってあげてんだから。
    感謝してもらわなきゃ!!


(音響:→CO
(照明:→CO


魔女 :ありさちゃんって、頭悪いくせにこういうとこすごいよね。尊敬しちゃう。
    普通考えないよ、自分の引き立て役のために友達やってるなんて。

ありさ:ちょっと、何でそのこと。

みづき:ありさ、ひどい!そんなこと思ってたの!?・・・・
    私ずっと友達だって思ってたのに。私を利用してたのね。

ありさ:みづき、ちがう。

みづき:何が違うって言うのよ。

魔女 :ちょっと落ち着いてよ。

みづき:落ち着けっこないわよ。

魔女 :・・・・・・・どうして?

みづき:あなたねぇ私がありさに何されたか判って言ってるの?

魔女 :うん・・・でも、みづきちゃんがそんなに怒ることないじゃない。

みづき:・・・・・なによ。

魔女 :だって、みづきちゃんはちょっと誤解していただけなんだから。
    利用してるのは自分だって。

ありさ:・え、それって?

みづき:・・・・・知らないわよそんなこと。

魔女 :ふーんでも、私は知ってるんだ。


(音響:CI→
(照明:CI→


母親 :みづきちゃん。お夜食持ってきたわよ。

みづき:あ、お母様。・・・・・

母親 :何を見ていたの?・・・10円玉・・・?

みづき:ああこれ・・・さっきありさが変なこと言うから気になって・・・
     ほら、この10円玉の平等院鳳凰堂の扉が閉じたりしまったりしてるって。

母親 :・・・・それでずっと悩んでいるの?

みづき:・・・ええ授業中もずっと気になっちゃって・・・・・
    どういう事かしら。閉じたりしまったりって・・・

母親 :みづきちゃん。よく考えて。と・じ・た・り、し・まっ・た・り。
    漢字で考えてみればすぐ判るでしょ?・・・・ねっ閉じるもしまるも。

みづき:あっ・・・・同じ・・・・くだらない。

母親 :その問題出したの、あの、ありささんでしょ?きっと悔しいのよ。
    ほら、彼女、お世辞にもちょっと頭いいとは・・・・それにしても、
    こんな問題出して喜ぶなんて彼女って本当に低レベルなのね。

みづき:いいのよ。ありさって、こういうくだらない問題しかできないんだもの。
     かまってあげなきゃ可哀相よ。私の方が大人なんだし。

母親 :そうね。でも大変じゃない?子供の相手なんて。

みづき:自分よりレベルの低い人間と一緒にいると、
    自分への戒めになるのよ。『こうなってはいけない』って。
    時々考えるの、もしも私がありさみたいだったら・・・・
    ゾッとするわ。だからありさと話す度に、どんなことがあっても、
    彼女のようにはならないように気を付けてるの。もっとも、
    あの子と一緒にいれば、どう見たってオチこぼれを見捨てない優しい友人に見えるだろうけど。

母親 :そうね。よく分かるわ。

みずき:世の中の何の役にも立ってないんだから、使ってあげないとね。
     馬鹿とハサミは・・・・ってやつよ。

母親 :さっすがみづきちゃんね♪

(音響:→CO
(照明:→CO


魔女 :やっぱみづきちゃんの方が頭いい分言うこと違うよね。
    でも結局は、似たもの同士なんだし、ねぇ・・・あら。

ありさ:みづきだって私のこと利用してたんじゃない
    なのに、なによ被害者ぶっちゃって。
    みづきの方が、よっぽど酷いコト言ってるじゃない。

みづき:よく言うわよ!人当たりのいい笑顔浮かべながら、
    私のこと影で悪く言って、お調子者ってサイテーよ。

ありさ:みづきの方こそ『ずっと友達で』みたいなこと言ってたくせに。
    とんだ偽善者よね。

みづき:何言ってるのよ、ありさも頷いてたじゃない。だいたい、
    いつも寝てばかりいるような頭で、人を騙そうとする事自体馬鹿なのよ。

ありさ:その馬鹿に騙されてたんじゃない。みづきなんて、
    勉強が出来るだけで、他は何も分からない世間知らずのくせに。

みづき:ありさは、その勉強すらできないんでしょ。

ありさ:私は勉強なんて出来なくても、世の中わたっていけるから。
    みづきなんて、勉強取ったら何にも残んないくせに!

魔女 :ちょ、ちょ、ちょっと、二人ともケンカしないでよ。
    何で二人ともケンカするの?互いの本音が分かったんだから
    良かったじゃない。これでやっと本当の友達でしょ?

ありさ:こんな奴となんか、もう友達じゃないわよ。

みづき:友達なんて、こっちから願い下げよ。

ありさ:そうよ、みづきなんて一生暗い人生送ればいいのよ。

みづき:ありさなんてノー天気な人生しか送れないんでしょうね。


 二人とも、上手と下手に去ろうとする。


魔女 :ちょ、ちょっと待って。ねえ、願い事は?

二人 :いらないわよ!!

魔女 :そんな・・・本当にいいの?幸せになれるわよ?
    人生にたった一回しかないチャンスかもしれないのよ?
    本当にいいの?後で後悔するわよ絶対。ああ、あの時願い事
    叶えてもらえば良かったって。

二人 :・・・・

魔女 :ほら、みづきちゃん。願い事、何かあるんじゃないの?あるでしょ?
     自分のやりたいこと、あるわよねぇ。何でもいいから言ってよ。叶えてあげるから。

みづき:・・・・私は、別に魔女の力なんてを借りなくてもまっとうな人生送れるからいいわよ。

魔女 :そんなせっかく。

みづき:だったら今すぐありさのこと消しちゃって。

魔女 :だって私はいい魔女だからそれはちょっと・・・・・

ありさ:じゃあみづきと私を赤の他人にして!!

みづき:そうね、それがいいわ。

魔女 :え〜そんなところで気があわなくったっていいのに。

ありさ:あんた魔女でしょ!さっさとしてよ。

みづき:彼女に当たることないじゃない。

ありさ:ほぉら、またそうやっていい子ぶって、えらそうに。

魔女 :いや、私のことは、ぜんぜん、そんな。

みづき:黙ってて。

魔女 :はい。

みづき:魔法で縁が切れないんならいいわ、自分で切るから。
    じゃあねありさ。あなたどうせ来年も二年生でしょ、
    あと一年同じクラスで我慢すれば校舎別々になって
    顔みることもなくなるわね。

ありさ:同じクラスにいたって参考書とにらめっこしているような
    人の顔なんて思い出すこともできないから、一年我慢せずにすみそうよ。


みづき 下手へ退場


魔女 :えっあっちょっとみづきちゃん・・・あ〜えっと、どうしよっか?

ありさ:早くチケット。

魔女 :やっぱそれ?・・・・いやあのさ、そう言う願いも叶えることは
    出来るには出来るんだけど。

ありさ:じゃあ早く!

魔女 :・・・でもいいの?みづきちゃんとこのまんまで。

ありさ:あそこまで言われて今までどーりなんてやってらんないに
    決まってるでしょ。

魔女 :けどお互い様なんだし・・・・まあね、確かにみづきちゃんって
    堅いし、一緒にいたら方こっちゃうよね。

ありさ:ホントだよ!!流行なんてぜーんぜんだしさ。
    ○○も○○も○○も知らないし(ビジュアルバンド。流行によって変更)
    JAMのユキちゃんがぁとか言ったら、『何、イチゴジャムってキャラクターいるの?』
    だって、信じられない。

魔女 :あら〜魔界でもブレイク中なのに。

ありさ:へ〜そうだんだ?  やっぱ終わっちゃってるよ。だから別れられて
    よかったんだんじゃない?何か魔女さんは何しに来たのって
    感じだけどさ。その点では感謝してもいいや。あんな何かって
    言うと知識ひけらかすやつ二度と喋りたくない。毎朝その日の
    ニュースと、経済がどうとか内容はなんたらかんたらとかさ。

魔女 :・・・・その度に劣等感感じてきたの?

ありさ:えっ・・・なにそれ。

魔女 :みづきちゃんが、難しいこと言う度に、理解できなくて
    惨めだった・・・・

ありさ:なにバカ言ってんのよ!私はあんな勉強しかできないやつに 
    劣等感なんて感じたことない!!だいたいねぇテストの点が
    なんだって言うの?そんなもんで、人間の価値って決まる
    訳じゃないでしょ!!

魔女 :決まらないよ、テストの点ではね。

ありさ:ほらやっぱりそうでしょ!!みづきも世の中も間違ってるよ。
    勉強できて、いい大学入って、いい会社入って、そう言うのが
    えらいって考え方大嫌い。教科書に書いてある事なんて
    何の役にも立たないし、私のこと助けてくれないもん。

魔女 :ノストラダムスの予言が当たったらね。

ありさ:えっ?

魔女 :でもって、はずれちゃうんだよねぇだから地球は滅びないし、
    10年後の未来もあるの。・・・ねえどうするの?
    ありさちゃん、これからずーっと『今さえよければ・・・』
    なんて思いながら生きくわけ?その考え方って、すっごい
    破滅的だって知ってる?あっバカだから知らないか。

ありさ:だからなんなのよ!そんなに勉強できないのが悪いことなの?

魔女 :勉強できないからありさちゃんはバカだって言ってるわけじゃないの。
    自分で自分の可能性全部、しかもつまんない考え方で潰しちゃって、
    その事に気づいてないからバカだって言ってるの。
    これじゃみづきちゃん、ありさちゃんと別れて正解だな。
    みづきちゃんは人生成功するよ。魔女が言うんだから間違いない。
    勉強できるおかげでたくさん選択しあるもの。どれでも選り取り
    みどりってやつね。その中から、本当に自分のやりたいこと見つけて人生上々だ。

ありさ:・・・・私は?

魔女 :・・・・・

ありさ:そんな〜だって今更どうしろって言うの?自慢じゃないけど
    私の友達なんて皆バカだもん。

魔女 :じゃあ、来年皆仲良くそろって2年生。

ありさ:ヤダよぉ。ねぇ私どうしたらいいの?
    そりゃあ夢なんてまだ判んないけどさやっぱ人生成功したいよ〜。

魔女 :でも、ほら、高校だけが全てじゃないし。
    何が何でも卒業しなきゃって事もないんじゃ

ありさ:うそ〜さっきと言ってること違うじゃん。ねぇ魔女さん助けてよ。

魔女 :名前で呼んだら何とかしてあげてもいいけど。

ありさ:あんな長くて難しいの、一回で覚えられるのみづきくらいだよ。
    ・・・・・・・・そっかみづき、今までみづきの出したヤマって外れたことなかったし、
    私が覚えられなかっただけで、ちゃんとやれば何とかなるかな。
    え〜でも、あんなコト言われて、もうみづきのこと嫌いだしなぁ。
    みづきだってスッゴイ怒ってるんだし・・・・

魔女 :みづきちゃんは平気よ。なんせ彼女は頭のいいバカだもん。
    何かテキトーに誉めておけば、今まで通りになるんじゃない?

ありさ:そっか、そうだよね、なんせみづきだもんね。
    後は、私がどれだけ我慢できるか・・・か。

魔女 :どう? できる?

ありさ:・・・・うん!何たって明るい未来が待ってるもの!!
    みづき1人ぐらい手玉に取ってみせるって。なんせ私世渡り上手だしね。


魔女  笑う
ありさ 上手へ

みづき 下手から登場
魔女  みづきに追いついたように走って肩から息をする。


魔女 :みづきちゃん、待って。

みづき:なに?・・・・もとはと言えば、あなたさえ現れなければ、私達はいつも通り友達でいられたのよ。
    良い魔女だなんて言って近づいて、結局友情を壊しに来ただけじゃない。
    まぁ、元々存在しなかったんだから壊れたっていうのは適当じゃないわね。

魔女 :・・・・・ごめんね

みづき:いいわよべつに

魔女 :でも・・・私のせいで。

みづき:いいって言ってるでしょ。あなたのおかげでありさの本音知ることが出来たんだし。
     まあこっちの本音まで知られちゃったけど・・・・
     どうせありさとは高校卒業するまでの友達のつもりだったから。

魔女 :・・・・そんなの寂しいよ。

みづき:何言ってるの?『人は1人では生きていけない』なんて安っぽい台詞言わないでね。

魔女 :う゛っ・・・・

みづき:あなた魔女なんでしょ?まったく物語の世界って嘘つきよね。
     魔女がこんなに間抜けだったなんてどの本にも書いてなかったわ。
     昔の人も、魔女がこんなんだって知っていたら『魔女禁止令』なんて
     くだらない法律作らなかったでしょうね。

魔女 :え゛っそんなのあったの?日本に?

みづき:ばかね魔女狩りって言ったら中世ヨーロッパでしょ。
    もっともこの『魔女禁止令』が廃止されたのって、1950年
    のことなのよ。わかる?1950年朝鮮戦争が始まった時よ。

魔女 :・・・・本当にいろいろ知ってるんだね。

みづき:当たり前でしょ、ありさじゃあるまいし。

魔女 :…………確かに、ありさちゃんって本当にバカだもんね。

みづき:でしょ、歴代の内閣総理大臣すら言えないのよ。

魔女 :うわ〜ってことは今の文部大臣も、建設大臣も官房長官も判らないんだ。

みづき:そうやんなっちゃう。

魔女 :ホンットにバカだよねぇ、そ〜んなちょっと調べれば誰にでも
    判るから知っていたって対して何の自慢にもなんないようなこと。

みづき:それ私に言ってるの?

魔女 :えっ

みづき:あなたの言いたいこと想像つくわよ。
     『みづきちゃんは勉強しかないんだから勉強できて当然』とか。

魔女 :えっ何で判るの?

みづき:判るわよ。私はね自分のこと理解できないようなバカとは違うの。
     でもね、勉強しかできないんだからと思うでしょうけど、
     それって大切なことだと思わない?勉強ができさえすれば、
     いい大学に進むことが出来る。運動が苦手だろうとも、
     それを十分にカバーできる。秀でる者がある分だけ、人は、
     他の人よりも優位に立つことが出来るのよ。

魔女 :優位に立ってどうするの?

みづき:優位に立てれば、物事が全てスムーズに動くじゃない。
     相手は私の格下として、それなりの動きをし、私はその力を地盤に成功していくのよ。

魔女 :性格悪いねみづきちゃん。

みづき:ずいぶんはっきり言ってくれるじゃない。

魔女 :でもみづきちゃん、それならありさちゃんと友達だった方が良かったんじゃない?

みづき:どういうことよ?

魔女 :だって、ありさちゃんと友達じゃなくなったってことは、
    あなたは学校を卒業するまでの間、ずっと教室の隅で一人、
    黙って座ってる化石となるのよ。

みづき:別に、それが何だって言うのよ。

魔女 :優越感を満足させることもできない。

みづき:たった二年でしょ。

魔女 :どうかな〜だってみづきちゃん、今まで十七年間生きてきて、ありさちゃんが初めての友達でしょ。

みづき:何でそんなことあんたに判るのよ。

魔女 :だって、みづきちゃんみたいな根暗少女にわざわざ自分から
    近寄っていって、その上友達になって利用される人間。なんて、
    そうそういるはずないもの。そんなの、ありさちゃんぐらいじゃないの?

みづき:・・・・・・

魔女 :そして、みづきちゃんが、他人に対する優越感を初めて知ったのもその時。
    なんせ、教室の隅にじっと毎日勉強のためだけにいるんだもん。
    そんな感情に、気づくはずもなかったよねぇ。

みづき:だ、だから何だって言うのよ。

魔女 :自分よりも劣っている者を見下ろす時の気分。その心地よさに、
     あなたはもう気づいているはずよ。

みづき:な、何言ってるのよ。

魔女 :隠したって無駄。ありさちゃんと話しているときのみづきちゃんを見ればすぐに判る。
     ・・・・みづきちゃん、あなた、本当に楽しそうに笑ってるじゃない。

みづき:・・・・・・

魔女 :忘れることが出来るの?勉強しかできないみづきちゃんが、
    初めて知った快感を。卒業するまでの2年間、ううん、
    もしかしたら、みづきちゃんみたいなお堅い子に近寄ってくる
    ようなバカなんて、もう二度と現れないかも知れない。

みづき:二度と・・・・

魔女 :どうせ、ありさちゃんはみづきちゃんを必要としているのよ。
     ありさちゃんの頭なら当然に。後はあなた次第じゃない。
     ・・・それとも、ありさちゃんを手玉に取ることなんて出来ない?

みづき:馬鹿なこと言わないでよ。
     あんなバカ、適当に何か一言二言くっつけてすまなそうな顔すれば、すぐに操れるわよ。

魔女 :・・・・何か、私より魔女っぽい。

魔女 上手へ退場
みづき:上手から下手へ
ありさ:下手から上手へ

みづき&ありさ お互いに見つめあう


みづき:・・・・ありさごめん

ありさ:みづき・・・・

みづき:私、ありさのこと本当に大切な友達だって思ってる。
     だけど、私ありさみたいに明るくないから。ありさのこと羨ましかった。

ありさ:・・・・私も同じだよ。みづきのこと好きだけど、
    私がすっごい苦労しても出来ないようなこと、
    簡単にやっちゃえるみづきが羨ましくて・・・・つい・・・だから私こそ本当にゴメン

みづき:・・・何か、私達って・・・全然似てないと思ってたけど。結構似てたんだ。

ありさ:うん。私ね、みづきが本当のこと言ってくれて嬉しかった。
    そりゃ最初はムカッってしたけど。これで本当に本当の友達って気がするんだ。

みづき:・・・・良かった。私もそう思ってたの。

ありさ:本当に!?

みづき:もちろん・・・・・(ぼそっと)そんなわけないでしょ

ありさ:えっ?・・・何か言った?

みづき:ううん何にも。ねえ、ありさこそ、本当にまた元通りになってくれるの?

ありさ:当たり前でしょ!・・・・(ぼそっと)利用させてもらうんだから。

みづき:えっ?

ありさ:みづきがいてくれなきゃ私やっぱり駄目だもん。
    だからさ、こんな出来の悪い私だけど・・・これからもよろしく。

みづき:こちらこそ。・・・・ありさから学ぶことたくさんあるみたい。

ありさ:なに?そんなものあるの?

みづき:ええ・・・・たとえば・・・バカに付ける薬はない、とか。

ありさ:・・・・・・・

みづき:うそよ。

ありさ:わかってるって。

みづき:それじゃ、決まりね願い事。

ありさ:うん!


2人 互いに反対を向いてガッツポーズ。


ありさ:ねえ魔女さ〜ん。

みづき:ユーラシア・UN・ユーゴスラビアユートピア・ユータナジー・ユザワヤさんよ。

ありさ:・・・・・ユザワヤさーん


魔女 上手から登場


魔女 :2人とも願い事決まったみたいね

みづき:はい・・・・いろいろありがとうございました。

魔女 :気にしないでよ。

ありさ:私達がこうやって本当の友達になれたのも、全部ユザワヤさんのおかげです。

魔女 :私はほんのちょっと手を貸しただけよ。それに、私もこれで
    一人前の魔女になれるんだから。

みづき:あなたとっても魔女に向いてると思うわ。

魔女 :ありがとう。じゃあ、そろそろいいわね、2人の願い事言って。

二人 :・・・・私達の友情が、永遠に続きますように。

魔女 :(呪文)
    これで二人は、もう永遠に友達よ。・・・・
    ずっと離れることのできない、生涯唯一絶対的な親友。

ありさ:ありがとう。

みづき:・・・・ありさ。帰ろうか。

ありさ:うん、そうだね。ねっどっかでお茶しない?

みづき:そうね、話したいことたくさんあるものね・・・

魔女 :・・・じゃあねありさちゃん、みづきちゃん。・・・・・・
    大事なコト、もう忘れちゃダメよ。自分にとって、
    相手がどんなに大切なのかってこと。


2人 うなづく


魔女 :じゃあ、もう大丈夫ね。

ありさ:はい、魔女さんも一緒にお茶してきます?

魔女 :ううん。私は早く戻って報告しなくちゃいけないから。

ありさ:そっか、それじゃあ。

魔女 :うん、ばいばい、仲良くね。

みづき:ええ、さよなら。

2人―列んで下手へ退場

魔女 :(クスリと笑って)・・・ええ、さようなら。

(照明:暗転


魔女 :ただいま帰りました。


(照明:FI→青
(音響:FI→ED

試験官:あなたの帰還をもって、最終試験を終了とします。よろしいですね?

魔女 :もちろんです。……………で、結果の方なんですけど。
     って、そんなに早く出るはず無いですよね。じゃ、失礼しま……

試験官:いえ、待ちなさい七十七番。結果はもうすでに出ています。

魔女 :ええっ!じゃあ私、明日っから、もう本物の魔女ですか?

試験官:残念ですが

魔女 :そうですよね、まさかいきなりって事無いですよね。
    やっぱりそれなりの手続きとかあるんですよね。

試験官:ですから。

魔女 :ああ、それにしてもやっと念願の魔女かぁ。
    今までの努力がついに実んだぁ

試験官:七十七番。話を聞きなさい。違います。

魔女 :え?何がですか?

試験官:残念ですが。あなたにはもう百年間、
     見習いとして頑張ってもらいます。

魔女 :な、何でですか?私ちゃんと人不幸にしてきました。
    あんな風に、他人にべったり依存することでしか自分を成り立たせないような人間必ず不幸になります。
    しかも、それが不幸なことだとは、おそらく気づかないまま一生を終えるんです。
    自分で自分を殺したも同然なんです!!

試験官:確かにあの2人はあなたの言うとおり不幸な人生を送るでしょう。
     ですが・・・試験の規定を忘れていませんか?

魔女 :試験の、規定?

試験官:そう。魔法を使ってはならないとしていたはずですが。

魔女 :そんな、魔法なんていつ?

試験官:財布の中身は、どうやって当てたんですか?

魔女 :・・・・・・女の第6感。

試験官:では、あの少女達にどのようにしてあなたを魔女だと信じさせたのですか?

魔女 :・・・・・・人徳。

試験官:もう百年、頑張って下さい。

魔女 :で、でも、納得行きません。
     願い事を叶えるさいに魔法を使わなければいいんじゃないんですか?

試験官:試験が始まってからです。

魔女 :そんなこと言ったって、私、二人の所までほうきで行ったんですよ。
     試験始まってからなら、その時点で失格じゃないですか。
     ほうきに乗ってしか来られない試験場から、どうやって、ほうき以外であの二人の所まで行けるんです?
     方法があるんなら、教えて下さい。

試験官:そ、それは。

魔女 :方法ありませんよね?無いって事は、
     やっぱり願いを叶える時まで魔法を使っていいって事になりますよね?

試験官:・・・

魔女 :と言うことは、私は合格。

試験官:・・・わかりました。

魔女 :やったぁ。

試験官:再試験を行ないます。

魔女 :え?

試験管:あなたの言うことも確かにもっともです。ので、改めて試験をする事にしましょう。
     今度はほうきだけは魔法を使ってよいという条件で。

魔女 :そんなぁ、いつやるんですか?

試験管:早いほうが良いでしょう。今すぐです。

魔女 :そんなぁ、お風呂だって入ってないのに……

試験管:もう百年頑張りますか?

魔女 :それだけはやだ。

試験管:それでは次のターゲットを決めなさい。すぐに試験をはじめましょう。

魔女 :はい……はぁ。なんかすっごい損した気分

試験管:いやなら止めてもいいのですよ

魔女 :い、いえ、やります。


魔女 観客席を見渡す。


魔女 :じゃあ・・・次のターゲットは・・・・・

魔女 観客席の一人をさして

魔女 :あの人で


 音響高まり溶暗