Waiting for my dear Santa.(short ver.)
作 楽静
登場人物 | |
高望(たかのぞみ) サキコ | 14歳。 クリスマスがやりたい少女 |
高望チエコ | 36歳程度。サキコの母 |
祖母 | チエコの母。 |
高望家は2LDKの賃貸マンション。
母と娘の二人暮らし。
クリスマスイブ。
サキコが鼻歌でクリスマスソングを歌いながら準備をしている。
1
音楽と共に一度暗くなり、
電話をするサキコの姿が浮かび上がる。
チエコ そう。来られないの。……いいの。別に。来ると思ってなかったし。
サキコも、別に期待してなかったと思うから。
ううん。もう新しい家庭があるんだものね。じゃあ、奥さんによろしくね。
ええ。今更謝らないでよ。じゃあね。……メリークリスマス。
……(一つため息をつき)なにが、クリスマスよ。……ただいま。
2
高望家のリビング。
チエコがサキコを見る。
サキコは未だに歌を歌っている。
サキコ ジングルベール、ジングルベール、(以下鼻歌)
チエコ ずいぶん、ご機嫌ね。もう12時近いじゃない。こんな時間まで何やってるの?
サキコ 歓迎の準備。
チエコ あら、ありがとう♪
サキコ お母さんじゃないから。
チエコ じゃあ、なに?
サキコ サンタ。
チエコ ……あんたいくつだったっけ?
サキコ 言いたい事があればはっきり言って。
チエコ いい? サンタなんていないのよ。
サキコ わかっているよ、
チエコ そう。だったら、
サキコ サンタ、お父さんだもんね?
チエコ ……。
サキコ 去年も、その前も、お父さんだったんでしょう? 今年も、
お父さん、サンタになってくれるんでしょう? だから、お礼を
言おうと思って。去年もそう思ってたんだけど。何時の間にか
寝ちゃって。……朝起きたらプレゼントがあって。相変わらず
微妙でさ。だから、今年こそはって。
チエコ それで、待っていたの。
サキコ うん。
チエコ ……母さんもね。あるわ。
サキコ え?
チエコ 起きていた事よ。クリスマスイブに。あんたくらいの時にね。
サキコ 信じていたの? サンタ。
チエコ 別に、信じてたとかそう言うんじゃないのよ。
と、祖母が出てくる。
サキコはチエコと祖母のシーンを端から見ている。
祖母 どうしたの。なんで寝たくないなんて言うの?
チエコ ……待っているから。
祖母 なにを?
チエコ サンタクロース。
祖母 サンタクロース?
チエコ 去年は来てくれなかったから。……でも、今年はきっと、ね?
祖母 チエコ……でも、サンタクロースは、ちょっと忙しいかも
しれないわよ。それに、もうサンタって年でもないでしょう?
チエコ 私にはお父さんいないから。サンタ来ないんだって。
祖母 ……誰が言ったの?
チエコ みんなだよ。みんな、『仕方ないよ、チエちゃんちは』って。
祖母 先生は? 先生は何をしていたの!?
チエコ 『止めなさい』って言ったよ。みんなに。そういう話はするものじゃないって。
『高望さんの家は、不幸な事故を今乗り越えている所なんだから。
そういう話でからかっちゃいけないよ』って。
祖母 ……そう。
チエコ お父さんがいないから、家にはサンタが来ないの?
祖母 ……よし! サンタに手紙書こう。
チエコ 手紙?
祖母 そう。紙に、サンタさんに貰いたいものを書いて、靴下の中にいれておくの。
そうすることで、プレゼントを貰える可能性が増えるのよ。
母さん、靴下持ってくるから、チエ、手紙書いておきなさいよ!
祖母、去る。
チエコ 本当にサンタクロースを信じていたのか。そう母に聞かれたら、
あの時の私はどう反応しただろう? 私はただ、父がいた頃と
同じ様なクリスマスを、父がいない家で、母と一緒に祝い
たかっただけだったと思う。
と、舞台に祖母が現われる。
大きな靴下を持っている。派手な色。
祖母 こっちが良い? こっち? え? 大きすぎる? そっか……
サキ母が舞台を去る。
チエコ 母は、楽しそうだった。私は、そんな明るい母を見たのが
久し振りで……嬉しくて……夢の続きのように、それを書いた。
『お父さんが欲しい』と。
舞台の雰囲気が現代に完全に戻る。
サキコ お母さんのサンタは、おばあちゃんだったんでしょう?
……おじいちゃん、死んじゃってたから。
チエコ そう。……母さん、苦労してた。
サキコ だったら、そんなプレゼントなんて……、
チエコ 分かってなかったのよ、あの時の私は。
サキコ だから、お母さんはクリスマスが嫌いなの?
チエコ え?
サキコ だって、クリスマスツリーも飾らないし。クリスマスの
食事だって、毎年全然関係無いし。去年なんて、普通に御飯に
味噌汁の晩御飯だったし。
チエコ 日本人なんだから。クリスマスはやってもやらなくてもいいの。
サキコ 嫌いなんじゃん。
チエコ いいじゃない。ちゃんとサンタクロースは来ているんだから。
サキコ だってそれは……お父さんなんでしょう?
チエコ ……
サキコ お父さん、クリスマスだけ許されているんでしょう? この家に入る事。
チエコ あの人が、そう言ったの?
サキコ ううん。でも、こないだ会った時、欲しいものあるかって聞かれたから。
チエコ 一緒に遊園地行った時?
サキコ うん。お母さんにも会いたかったって。
チエコ 無理よ。私は行けない。
サキコ だけど、来るんでしょう? お父さん。クリスマスだけは来るでしょう?
チエコ ……来て、どうするの?
サキコ 一日だけ、昔みたいにもどるんでしょう? だって、クリスマスなんだから。
チエコ 来るのは、サンタよ。
サキコ サンタクロースなんていないよ。
チエコ ……でも、母さんは、サンタに会ったって言っていた。
サキコ おばあちゃんが?
チエコが語っているうちに、
祖母がやってくる。
手紙を読み、去る。
チエコ 手紙を書いた私は、何時の間にか眠っていて……だから、
母さんが私の書いた手紙を読んでどんな顔をしたのかは見る事が
出来なかった。でも、目覚めた私が、何も無い枕元を見て
ガッカリしているその時に、
ふと、扉が開く音がする。
チエコ 母さんが、帰ってきた。
照明が変わる。
チエコは一瞬で娘に戻る。
再び、サキコは見ている。
祖母は、手に袋を持っている。
祖母 どうしたの? 変な顔して。
チエコ サンタ、やっぱり来なかったよ。
祖母 どうして?
チエコ プレゼント、無かったから。いいんだ。私、本当はね分かってた。
サンタなんて居ないって。
祖母 どうして?
チエコ サンタはお父さんだったんだから。だから、もう、
祖母 会ったわよ。サンタに。
チエコ え?
祖母 帰るところを追いかけてね。おかげですっかり体冷えちゃったわ。
チエコ ……なに言ってるの?
祖母 ちゃんとチエの手紙も渡したし、プレゼント、貰ってきたわ。
ほら。サンタさんから。
祖母はチエコに袋を渡す。
チエコ ……サンタから?
祖母 そう。ちょっと、困っていたみたいだけどね。サンタ。一体なに
頼んだのか知らないけど。それで我慢してくれって。
チエコ ……。
チエ娘が袋を開けると、
中に入っていたのは箱。
その箱を、ゆっくり開ける。
中には、お父さんっぽい人形が入っていた。
祖母 なに? 人形? へぇ。サンタも面白いプレゼントするわね。
もうチエもそんな年齢ではないだろうけどさ、部屋に飾るくらいには良いかもね。
あ、今日はなにか美味しい物でも食べましょうか?
ちょっと豪華に、クリスマスパーティー!って感じで盛り上がってみる?
お酒もちょっとは買ってこようか? あ、まだチエには早いかな。
ううん。いいわ。今日は許す。何て言ったってクリスマスだもんね。
年に一回しかないんだし。二人でパーっと騒いじゃおう? クリスマスなんだから……。
チエコ 馬鹿みたい。
祖母 え?
チエコ これが、お父さんなの? こんな風に誤魔化すしか出来ないんだったら、
最初っからなにもしなければ良いのよ!
祖母 誤魔化すって……。
チエコ 何がクリスマスよ。何がサンタクロースよ。虚しいだけじゃん。
二人で騒いだって、明るくしたって。サンタなんて居ないんだから。
こんな、こんな物が欲しくって、私はサンタを待ってたんじゃない!
チエコはいきなり人形を叩きつける。
祖母 じゃあ、なんでサンタを待ってたりなんかしたの!
チエコ 私は! ……ただ、戻りたかった……3人の、クリスマスに、戻りたかったの……
チエコが崩れる。祖母が人形を拾いに去る。
照明が戻る。
サキコ お母さん……
チエコ それでおしまい。クリスマスも、サンタクロースも、お終い。
それからはクリスマスが来るたびに、まるで二人とも約束した
かのようにその日が普通の日のように過ごしたわ。ずっとね。
サキコ だから、お母さんはクリスマスが(嫌いなんだね)……。
チエコ でもね、今だからわかるの。
サキコ なにが?
チエコ サンタはいたの。あの日たしかに。
サキコ それは、おばあちゃんでしょう?
チエコ だけど、サンタなのよ。ねぇ、サキコ。
……お母さんじゃ、サキコのサンタにはなれないのかな?
サキコ え……。
チエコ 母さんのやりたかった事が、いまなら分かるの。母さんはね
――おばあちゃんはサンタクロースになりたかったのよ。時は戻らないから。
私達は進んで行かなきゃ行けないから。だから、
せめて奇跡が似合うこの日だけは、新しいサンタクロースになりたかったの。
なれると信じたかったのよ。これからを二人で歩く為に。
サキコ ……私のお父さんはまだ、生きているよ。
チエコ でも、もう、私達とは生きる場所が違ってしまってるのよ。
サキコ でも、来てくれるでしょう?
チエコ 来て欲しいの? ずっと?
サキコ ……だけどもう、戻らないんだね。
チエコ ええ。決して。
サキコがしばし悩む。
サキコ 手紙、書いていい? サンタさんに。
チエコ (父親にだと思い)ええ。いいわよ。いつ渡せるか分からないけど。
サキコ 目の前に居るのに?
チエコ ……あまり、高いものは駄目だからね。
サキコ 夢が無いなぁ。
チエコが去ろうとする。
チエコ 本当はね、あの人ね。誘ってたの。……イブは新しい家族と過ごすんだって。
断られちゃった。
サキコ ……そうかもって思ってた。
チエコが去る。
サキコ 夢を見たかったの。時が戻るって。……でも、前向かないとね。
サキコが手紙を書く。
一度暗転。
チエコが入ってくる。
サキコは寝ているようだ。
チエコが紙を見つける。
なぜか、携帯電話も入っている。
ふと、サキコの声が響き渡る。
サキコ 我が家の女サンタさんへ。もう一人の女サンタを明日収集せよ。
女だけのクリスマスも、良いと思わない? PS 連絡手段には
私の携帯を使って宜しい。メモリーの2番目が女サンタの番号である。
彼女はまだ起きているぞ。急げ。
チエコはサキコが寝ているだろう方向を見る。そして悩む。
チエコは携帯を取り、少し危うげに操作する。
そして、コール音が暫く鳴り、つながる相手。祖母が現れる。
チエコ あ、母さん?
祖母 チエコ?
チエコ うん。……まだ、起きていたんだ?
祖母 あんたもね。
チエコ ……ねぇ、母さん、
祖母 なに?
チエコ ……メリークリスマス。
祖母 ……メリークリスマス。
チエコの顔に笑顔が広がる。
布団からサキコが顔を覗かせる。
その顔も、笑みが広がる。
おしゃべりをするチエコと祖母。
溶暗。
完
あとがき 少人数の芝居を書くことが少なくなってきているのですが、 まだまだ演劇っていうものは参加者を集めにくい分野であるように思います。 練習するにしても、練習用の本が少なくなにをしていいかわからなかったり。 この芝居は上演時間を大体15分程度としています。 やりようによってはもっと短くもできると思います。 どうか日ごろの練習にお使いください。 最後まで読んでいただきありがとうございました。 |