ユメ カタリ

役者
三枝(さえちゃん) 高校二年生
明美(あけみ)   高校二年生





暗転

音響FI→OP
照明FI

○教室(夕方)
教室には机が二つ。上手側と下手側に少し離れて置いてある。
三枝が普通に机に座っている。
三枝の服装は長袖のワイシャツにスカート。
もう一つの机には花瓶が置いてある。花は勿忘草。
三枝の机の反対側に椅子をおいて明美が座っている。
明美の服装は半そでのワイシャツにスカート。
教室の電気はつけっぱなし。
どうやら生徒は皆帰ってしまったあとらしい。二人以外に人の気配は無い。

三枝 真剣な顔でノートに向かっている
明美 つまらなそうにシャーペンを回している

三枝 シャーペンの音が激しくなる
明美 シャーペン回しの速度が増す
   シャーペン空を飛ぶ

音響FO


明美「空中キャッチ」

三枝「うるさい」


明美 つまらなそうにシャーペン回す
三枝 無心に勉強中


明美「さえちゃんってさぁ」


三枝 無視


明美「ねぇ、さえちゃーん?」


三枝 無視

明美 三枝の顔を覗き込む

三枝 左へ避ける

明美 左から覗き込む

三枝 右へ逃れる

明美 右から覗き込む。楽しいらしく、笑顔になっている

三枝 また避けかけて、明美の表情に顔をしかめる
    なおも逃れる三枝。明美は心底楽しそう


三枝「ああ、もう! なんなのよ一体!」

明美「やっとまともに目が合った♪」

三枝「だから何!」

明美「さえちゃんて枝毛多いよねぇ〜」


三枝 苛立ったまま


三枝「そんなくだらないことで邪魔しないでよ! 見てるだけだって言ったでしょ?」

明美「だって。こんな時間まで勉強するとは思わなかったんだもん」


明美 椅子をちょっと後ろに引いてから三枝を指差して


明美「ちゃんと説明しないさえちゃんが悪いっ」

三枝「試験前だってのに、まったく勉強する気の無い明美よりはまーし」

明美「試験でいい点取ったって、何の役にも立たないって。推薦狙ってるわけじゃないし。
   もっと、高校生ライフを楽しまなくっちゃ」

三枝「そんなこと言ってて明美、進級できるの?」

明美「だーいじょうぶ。何とかなるなる」

三枝「(溜息)気楽で羨ましいわ」

明美「なーにを仰います、三枝先生ともあろうお方が。気楽なのはそっちのほうでしょうが」


明美 立ち上がって


明美「頭脳明晰、冷静沈着。学年一番はもうすでに5回防衛成功〜な、さえちゃんだもん。
   テストなんて楽勝でしょ?」

三枝「おだてたってノートは貸さないわよ」

明美「え゛、マジ? 残念〜」

三枝「明美ねぇ〜ちょっとは真面目に勉強しなさいよ」

明美「いいの、いいの。勉強ばかりが人生じゃないってね。
   いくら成績あがったってあたしの夢には関係ないもーん」


明美 言いながら踊ってる


三枝「夢なんて言って、結局あんた、しょーも無いことばかり考えてるだけじゃない。って、あぶない!」


明美 机にぶつかる

三枝 思わず立ち上がる

明美 とっさに花瓶を抑える(落としちゃったら後の台詞変えれば良し)


明美「セーフ」

三枝「馬鹿」

明美「うわっ。傷つく〜」


明美 軽口を言いながらもふと花瓶に目を落として


明美「……なんで、死んだ生徒の机の上って花瓶が置かれるのかな?」

三枝「いたずらでしょ」

明美「さえちゃん〜人情って物をわかってないなぁ。見てよこの花瓶。
(鑑定士のように)この形、いい仕事してるねぇ。そして色。うーん、いい味わいだ。どー見たって」

三枝「二階女子トイレの花瓶よね。それ」

明美「……綺麗な花〜♪」

三枝「中庭にいくらでも咲いてるわ」

明美「……なんで、さえちゃんってそう何でもかんでも悪く考えるかなぁ〜」

三枝「死んだ人の机に花瓶なんて置いてなんになるのよ? 無意味ね」

明美「そっかなぁ。やさしーじゃん? ……若いうちに命を失ってしまった哀れさに、
   きっと誰かが花を手向けたのよ。きっと。……ええ話や〜」

三枝「別に事故にあったわけじゃなくて、自殺よ? 自業自得」

明美「またそんなこと言ってぇ! 辛かったんだよきっと。えっと。えーーっと……この子もさ!」

三枝「名前覚えてないのね」

明美「うっ」


明美 胸を打たれる

三枝 立ち上がりながら明美に近づいていく


三枝「同じクラスなのに」

明美「ううっ」

三枝「しかも、男子ならまだしも、女子なのに」

明美「うううっ……仕方ないよ〜人の名前覚えるの苦手なんだもん」

三枝「(溜息)まさか名前を覚えてもいない奴に同情されてただなんて……(考えている)……
   この子もかわいそうに」

明美「あー!」


明美 指を刺す

三枝 顔をそらす


三枝「なによ」

明美「さえちゃんも覚えてないんでしょ」

三枝「何が?」

明美「この子の名前」

三枝「……私、人に興味ないから」

明美「うわっ。思いっきり自分のこと棚上げしたよこの人」

三枝「名前なんて誰かに聞けばすぐに分かるわよ。どうせそれだけ目立たない人だったってことでしょ」

明美「そうだったかなぁ。なんか、ここまで出掛かっている気もするんだけどなぁ」


明美 しばらく頭を悩ませる

三枝 溜息と共に席につく


明美「……なんで、この子死んだんだろうね」

三枝「さぁ」

明美「将来で悩んでたりしたら、あたしなんでも相談に乗ったのになあ〜」


明美 言いながら机の上に座る。花瓶を揺らさないように注意しながら足をブラブラ


三枝「どうせ、明美のことだから、自分のくだらない夢を上機嫌で語っただけだと思うけど」

明美「あ! 聞き捨てならないなぁその台詞。役者になることのどこがくだらないのよ」

三枝「……歌手の夢はどうしたの?」

明美「もっちろん始めは歌手でデビューよ。役者はそのあと」

三枝「歌手の時点でなれるとは思わないけど」

明美「あたしの喉を馬鹿にしないでよ。自慢じゃないけど(観客を見渡して)
   この程度の人数だったら全員感動させる自信はあるのよ」

三枝「あらすごい」

明美「その顔は絶対信じてない! いいわよ、証拠見せてあげるから! (観客の方を指して)音響!」


音響CI→(候補『地上の星』とか演歌系)


三枝 さりげなく机の中から鐘を取り出す


明美「照明! 中央サス、色赤! 至急」


照明CI→中央サス 色赤


明美 懐からマイクを取り出す
   イントロ終わったら歌いだす。
   すさまじい歌声


三枝 始まって四小節目くらいで鐘を鳴らす。音は一つ


音響FO
照明CI→元の色に戻す


明美「なんで〜どうして鐘が一つなの〜」

三枝「確かに違う意味で感動は出来たわ」

明美「でしょでしょ〜♪」

三枝「そんな声を公共の電波に乗せられると考えられる頭に感動したのよ」

明美「あ、馬鹿にして〜。べっつに、歌手でデビューできなくたって、役者で芸能界入りするからいいわよ」

三枝「明美に吉本は向いてないと思うけど」

明美「お笑いじゃないわよ! このボディと、愛らしい表情を生かすには
   ○○監督辺りのドラマ出演しかないでしょう?」

三枝「ボディ? ……樽の役でもする気?」

明美「なんで無生物なのよ!」

三枝「なんでって……じゃあ何ができるのよ」

明美「何でもできるわよ(胸を張って)」

三枝「例えば?」

明美「例えば〜? (ちょっと考えて)『団地妻、昼下がりのジョージ』」

三枝「え?」


照明CI→怪しげな色(ピンクとか)
音響CI→怪しげな音楽


明美 男の台詞を言うときは下手側顔を隠して
   女の台詞を言うときは上手側顔を見せて


男 「奥さん、僕は、僕はもう」

女 「いや、ダメよ、ジョージさん。夫が帰ってきたら」

男 「奥さん。旦那さんは今ごろホタテの養殖場でお昼寝中さ。ここには戻ってこないよ」

女 「ああ、何でもご存知なのね」

男 「調べたのさ。奥さんと二人きりになりたかったからね」

女 「ジョージさん」

男 「だから、だから奥さん」

女 「でもだめよ。私は、私の身体はっ」


三枝 素早く自身の上履きを脱ぐ


三枝「やめーーーい!」


三枝 明美の頭を殴る


照明CI→元に戻す
音響CO


明美「痛い……」

三枝「なにいきなり年齢制限つきそうなことやってるのよ!」

明美「大丈夫よ。もう少ししたら、旦那さんが帰ってくるの。
   『やー。ホタテ釣りに行ったらサザエが釣れちゃったよ〜って、なにやってんだお前ら』」

三枝「やらんでいいやらんで」

明美「ちぇー」

三枝「(大げさな溜息)馬鹿馬鹿しい。少しでもあんたの夢を真面目に聞こうとした私が馬鹿だったわ」

明美「もー。ほんのちょっとふざけただけじゃん?」

三枝「(椅子に座りながら)そうねぇ。どうせ明美の夢はおふざけだもんね」

明美「(ムッとして)なによ。言っておくけどね。あたし、今は役者や歌手よりも
    ニュースキャスターになる方が夢なんだから。今までのは所詮、小粒な夢でしかないの」

三枝「さっきと言ってることが違うわよ?」

明美「……そりゃあ、役者や歌手になりたくないってわけじゃないけど〜。
   でも、あたしってどっちかって言えば冷静に事件とか報告する人のほうが似合ってるし〜。
   ほら、生放送の緊張感って言うの? ああいうのが性に合ってると思うんだよね」

三枝「滑舌下手なくせに」

明美「なんでさえちゃんはいつも、そうやって腐らすかなぁ〜。練習してるわよ滑舌くらい」


明美 前を向いて元気よく


明美「隣の柿はよく客食う柿だ。隣の柿はよく客食う柿だ。隣の柿はよく客食う柿だってね。ほら♪」

三枝「……ずいぶん危険な柿なのね? もしかしてエイリアン?」

明美「はぁ?」

三枝「気づいてないならいいわ」

明美「ふふ。驚いたでしょ。他にも言えるわよ〜
   坊主が屏風に上手にジョーズの絵を描いた。坊主が屏風に上手にジョーズの絵を描いた」

三枝「……なかなか挑戦的な題材を扱うお坊さんね」

明美「もう、分けわかんない事言わないでよ。どう? すごいでしょ?」

三枝「(溜息)なんか、もう疲れたわ」

明美「あーまた馬鹿にして〜。さえちゃんには夢がないの? そうやってねぇ人の夢馬鹿にしてばかりいると、いい大人になれないわよ」

三枝「あんたに言われたくないわ。……夢ねぇ。無くたって大人にはなれるしね」

明美「夢がないなんてつまんないよ。一体何のために生きてるのって感じじゃん?
   さえちゃんみたいに、勉強、勉強じゃあさ。何が楽しいのかわからないよ」

三枝「……いいじゃない、夢なんて無くたって」

明美「あったほうがいいって」

三枝「無くていいのよ」

明美「えーそんなことないよ」

三枝「いいんだってば」

明美「夢は必要だよ」

三枝「いらないんだってば!」


明美 思わず黙り込む


三枝「(咳払い)とにかく勉強して、大学行って。普通に仕事ついて。そして……
    職場でちょっと有望な人と、ちょっとした出会いでつきあうことになったりして、
    プロポーズされて、結婚して・・・・・・そんな感じでいいじゃない」

明美「それって……夢っていうんじゃないの?」

三枝「違うわよ。将来におけるひとつの可能性であって、夢じゃないわ」

明美「えーでも、勉強して、大学へ入って、オタクサークルに無理矢理勧誘されて、
   友人はオタクばかりの四年間を過ごした挙句、卒業しても就職先無くて、
   パラサイトシングルやって、そのうち両親は死んじゃうから当然生活苦しくなって、
   終いにはどっかの金持ちの後妻に……っていう将来だってあるわけじゃん? 
   そういう可能性もあり?」

三枝「私に選択権は無いの?」

明美「ほら、やっぱりそういう。自分で『こうありたい』って思ってるんなら、
    それって、夢っていうんじゃない?……あたし、そう思う」

三枝「…………そうかもしれないわね」

明美「でしょ〜、なぁんだ。さえちゃんだって夢あるんじゃん」

三枝「明美と同じにして欲しくは無いんだけど」

明美「同じだよ〜。夢って言ってるけど、つまりは将来のやりたいことなんだし。
   いやぁ、安心しましたよあたしは。さえちゃんが夢も希望も持たないがり勉じゃないって事がわかって」

三枝「ちょっと、くっつかないでよ。なにおじさんくさいこと言ってるのよ。
   言っておくけどね、あたしは夢が大切なんて思ってないんだからね。
   勉強して、真面目に生きていれば、そのうち人生はなるようになっちゃうわよって言ってるのよ。
   明美みたいに、夢に逃げてるわけじゃないんだから」

明美「どー言う意味よそれ」

三枝「言葉道理の意味。明美の夢聞いていると、なんか勉強したくなくてその言い訳しているようにしか聞こえない」

明美「……まぁ、勉強したくないってのはあるけどさ」

三枝「ほらやっぱり」

明美「でも、だからっていい加減で言ってるわけじゃない。夢は大切よ」


三枝 明美の迫力に押される


三枝「……そんな真面目ぶって答えないでよ。分かってるわよ、そんなこと」


三枝 席につく


明美「あ、ごめん」


微妙な沈黙
明美 何か言おうと思いながらふと、その視線が花瓶の置かれた机に注がれる


明美「この子にも、夢、あったのかな?」

三枝「え?」

明美「この子だよ。この席の子。……相変わらず、名前思い出せない?」

三枝「明美こそどうなのよ?」

明美「あたしは……てへ」

三枝「まったく、調子いいんだから……あったと思う」

明美「なにが?」

三枝「夢、よ。明美が言い出したんじゃない。この子に、夢あったのかなって」

明美「あ、そか。んでも、夢があったら死んだりしないんじゃない?」

三枝「それは……」

明美「……別にいじめられてたわけじゃないのに。ただ、一人だっただけなのにね」


三枝 無言 何かを考えている


明美「やりたいこと、無かったのかな? 何にもなかったから死んじゃったの、かな。
   毎日がつまんなくて。それで死んじゃったのかな。
   ……寂しいよね。なんか。全然知らない子だけどさ。そういうのって」

三枝「……ううん。それ、ちがう」

明美「え?」

三枝「……あったから、死んだのよ」


明美 不思議そうに三枝を向く
三枝 自身に言うように


三枝「夢があったから。やりたいことがあったから、死んだんじゃない?」

明美「なんで? それっておかしいよ。夢があるから、やりたいことがあるから生きてるんでしょ?
   夢があるのに死ぬなんて、そんなの変だよ」

三枝「……だって」


三枝 俯く


明美「だって?」

三枝「……やめよう、こんな話」

明美「さえちゃん〜」

三枝「死んだ人の話しなんてしたって時間の無駄よ。そんなことより勉強しなくちゃ」

明美「話の途中でそれはないんじゃないの〜」

三枝「別に、いいでしょもう、終わったことなんだから」

明美「何が終わったの?」

三枝「なにがって……(思いつかずに首をふって)さぁ?」

明美「言ってよ。この子が死んだ理由」

三枝「だから、もう」

明美「関係、なくはないでしょ?」


三枝 言葉に詰まる
明美と三枝にらみ合う

三枝 先に視線をはずして 


三枝「……だって、一人じゃ語れないもの」

明美「語れない? ……何を?」

三枝「一人じゃ、夢を語れないでしょう?」

明美「…………」

三枝「……どんなにやりたいことがあったって、一人だから。
   夢が大きくなるたび、一人のままじゃ空しさも一緒に大きくなるから。
   いっそのこと夢なんてなければいいのにって思うのに、
   抑えられなくて。頼りなくって。……頼りなくって…………だから」

明美「死んだ」


三枝 頷く


明美「だったら……話せばいいのに。誰かと話して、一緒に温まればいのに」

三枝「……だって、恐いじゃない?」

明美「恐い?」

三枝「恐いよ。話し掛けたその人が、振り向いたその顔が、温かくて、笑顔で……
   そんな風にはならないもの。
   冷たい言葉が返ってきたらどうするの?
   夢を馬鹿にされたら? 否定されたら?
   大切に抱いている小さな夢を、踏み潰されてしまうかも……そんなの嫌。
   ……誰かと一緒はすごく、恐い」

明美「……そっか…………だから、さえちゃん、死んだんだね?」


三枝 はっと明美を見る


三枝「・・・・・・・何が?」

明美「だから、さえちゃん、死んだんでしょ?」

三枝「あたしが? (苦笑)何馬鹿言ってるのよ」

明美「だから、死んだんでしょ?」

三枝「ちょっと、死ぬ気持ちって言うのになってみただけよ
    ……なによ、いい加減にしないと怒るわよ」


三枝 言いながら左手を右手で抑えている


明美「死んだんだよ、さえちゃんは。覚えているんでしょう? ……右手に握った、カッターを」

三枝「……やめて」

明美「左手に、いくつも出来たためらい傷を」


三枝 徐々に思い出していく


三枝「やめて」

明美「にじんでいく血の色を。お湯の中に広がっていく赤い道を」

三枝「やめてぇ」

明美「遠くなっていく意識の中で、ずっと誰かを呼んでいた時を」

三枝「やめて……」

明美「最後まで目に写っていたのは赤い道。
    だんだんと薄くなっていくその道が、続いていく。ずっと、ずっと、ずっと」

三枝「やめて!!!」


三枝 顔を俯かせる


明美「……そして、死んだ」

三枝「私、あたし、死……んだ?」

明美「そう。死んだ」

三枝「…………そこ、わたしの席なのね?」


明美 頷く


三枝「……(左手をさすりながら)痛かった。恐かった。何度もためらって、何回も泣いて。
   ……でも、逃げたかったの」

明美「うん」

三枝「だって、ここは寒いもの。冷たくって、凍えそうで。辛くって。……誰もいなくて。
   ずっと呼んでたのに。あたしは、ずっと気づいて欲しくて叫んでたのに。
   ……誰もあたしを見てくれない。あたしは一人。……誰も…………誰も?」


三枝 ゆっくりと明美を見る


三枝「……あなたはだれ?」


明美 無言で三枝を見ている


三枝「……私はいつだって一人だった。あなたは誰?」

明美「……私は、あなた」

三枝「私?」

明美「……さえちゃん。ここの席の子の名前、もう、思い出したでしょ?」

三枝「だって、その子は私よ? 三枝あ……あけみ…………あけみは、あたし?」

明美「私は、さえちゃん。……もっと生きてたかった、あなた自身。
   さえちゃんが、作ったのよ。あたしを」

三枝「あたしが……作った……」

明美「さえちゃんと仲良しのお友達。さえちゃんを恐がらせないお友達。
   いつでも一緒で、くだらないことで笑って、お互いの夢を話したりする大切な大切な人。
   それが、さえちゃんの願いだったでしょ?」


三枝 頷く


明美「……でも、結局あたしがいても、役に立たなかったね。一人なんだもんね。あたし達」

三枝「…………ごめんね」

明美「ううん分かるから。…………行こう?」

三枝「…………うん」


明美 手を伸ばす
三枝 その手を掴む


三枝「最後に願っていいかな?」

明美「いいよ」

三枝「願いは何かは聞かないの?」

明美「だって、わかるから」

三枝「そうだね。 ……じゃあ、一緒に言おう?」


明美 頷く


三枝&明美
   「せめて……一人で死ぬのは、あたしで最後になりますように」


照明CO

明美&三枝 退場

照明 スポット→椅子
   椅子の上には花瓶。その足元にシャーペンが転がっている

音響 FI→オルゴール

溶暗
音響FO