入試 狂乱曲
注意:この物語に出てくる個人名、団体名はもちろん架空の物ですが、物語は本当にあったことです。
――人は、何をもって狂ったというのだろうか?
「もし、お前が私立高校に入ったりしたら、うちは一家心中だからな」
「は?」
何気なく親父が言った言葉は、しかし私を驚かすには十分すぎた。なんせ私は私立を併願でとる気でいたし、親も、その事を良く分かっていると思ったからだ。
「どういうこと?」
思わず聞き返した私に、親父が言った事は、要約すると、このようなことらしかった。
曰く『金がない』
「入学金で、もう首をつるには十分だな」
ボソリと、モルツをコップに注ぎながら親父は言ってのけた。その親父の横で、母親は黙ってお茶を飲んでいる。
弟と妹が、ポケモンを見て無邪気に笑っていた。
「マジですか」
「マジだ」
そんなわけで、私は進路志望の提出用紙併願校希望欄を、白紙で提出した。
9/20 今日、高校の話が学校であった。
「私はK高校一本で行きます」と言ったら
驚いていた。
ハハハ。私だって、嘘だと言いたいもんだ。
「大丈夫か?」
私の担任は、当然心配そうに聞いてきた。なぜ当然かと言えば、私は人一倍
(一倍なら、人と同じだろうと言うつっこみはこの際置いといて)
神経質に出来ているらしく、中学校二年生の時、親に過剰な期待をかけられたため、ストレスをためすぎ、
学校で吐いていたのだ。
(なんて、自慢できる事では、当然ない)
また、その後ストレスを爆発させるために、高校一大人しいはずのDを怒らせ、廊下で大喧嘩すると言う経験もあった。
生徒指導室に、不良ではないのにもかかわらず入った生徒ということで、先生達の間では、
かなりもろい存在として映っていたらしい。私も、事実、自分はもろいと思っていた。しかしだ、
金はない。
出ないのに、併願に頼るわけにも行かない。一本で行くしかなかった。
K高校に決めた理由は、案外単純だった。
私は、それほどバカではなかったので、『いけそうな高校』として、高校を見る必要はなかった。『いきたい高校』の中で、とりあえず、100%入れそうな高校。それがK高校だった。何とか併願をとっていない不安に負けずには入れる高校として、私は良く考えて決めたつもりだった。
……それが、どんな結果を生むかも知らずに。
9/23 今日は暇だったなぁ……でも、まぁいいか。
9/28 本買いまくり。これから読んで読んで読みまくろう!
10/6 今日は帰ってから、テレビ漬け。土曜サスペンスまで見ちゃった
10/11 今日は遊びまくった。あと二日で中間テストかぁ……でも、もう関係無いしなぁ
……勉強。
その言葉が人類の言葉から失われたのはいつのころだったのだろうか(笑)
そう、私は、あまりにも余裕を持ちすぎて、試験のための勉強をする気をすっかりなくしていた。
中間テストでは、とりあえずの点が出たので、それに気が緩んだと言うせいもある。はたまた、二学期は文化祭などと言う楽しげな行事があったためというせいもある。しかし、なんにせよ、私は11月になるまで、勉強はまったくしていなかったのだ。
……そんな私が、11月に得たのは、恐ろしい事実だった。
11/13 今日三者面談があった。
「楽静君は大丈夫ですね。もう進路も決まっていますし」
そう担任はやけに嬉しそうに母親に話していた。……大丈夫だって?
何かその言葉に不吉な感じを覚え、帰ってから入試過去問をやってみる。
……理科14点。過去問を閉じた。
なんでやねーんと、空に叫びたくなる瞬間だった。
担任の言葉が、何度も頭の中に蘇ってくる
『大丈夫だね』
『大丈夫だね』
『大丈夫……』
そう、私の気の弱い心臓君は、担任の余裕を持った言葉の前に、もろくも悲鳴を上げてしまったのだ。
その日からは、もう地獄の日々だった。毎日毎日面白くないような気がして、遊んでいても全然ハイになれない。ストレスはいやがおうにもたまっていって、そんな自分が自分で嫌になる。そんな毎日だった。
そして、容赦なく時は流れ、私はもう一つの問題にぶつかった。
11/24 明日はテストやっちゅーねん。なんでもうやん? 夢か!?
んなわけないやろって。あほや―! なんで勉強せんのよ。
……可決した振りして、テストを受けないというのは出来ないだろうか?
このときの私は、完全に自分を見失っていた気がする。上等な人間と、下等な人間の心が一緒になって体に入っていた。勉強を必死にしている友人達を鼻で笑いながら、勉強しない自分にを責めていた。
……結局、テストは全教科平均70点と言う、まあまあな場所で終わる事になる。
しかし、それは期末などと言う範囲の狭いところだからと言うのを、私はもう悟っていた。
ストレスのためすぎだろうか? それからしばらくして、思い切り風邪を引いた。
12/1 だりぃ……うわぁ、喉が痛いやぁ
風邪かねぇ……だろうなぁ。ふっ、こんな自分でも風を引けたか。
つーか、早くなおさねえとやばいじゃん。
中学校2学期の成績と言うのは案外早く出る物で、12/4の時点で、もう、成績表が渡されてしまった。その結果については、もしかしたら、
「お前高いじゃん、何自分が危険なふりしてるわけ?」
などと、ついいいたくなる人がいるかもしれない。ただ単に、それは目標の高校のレベルが違うだけのはずだげね。
合計30
それが私の成績だった。
二年の成績と足すと、92
はっきり言って、よほどの事がないと、合格圏だった。
ただ、私は、そのよほどの事がなければ……と言うプレッシャーにやられてしまった。
12/6 「おまえは大丈夫」今日の二者面談で、思い切り担任は言った。
よほどの事がなければだと!? あったらどうするんだよ。
そしたら俺は、よほどのバカか? 救いようのないアホ野郎かよ!?
笑うんだろ? 笑うんだよなぁ、落ちたら。ふざけんじゃねぇ!
何かがおかしかった。
十二月になって、友人を怒らす回数が増えた。
寝る時間は減った。でも、勉強する時間は相変わらずだ。
そして、小説を書くことで逃げている自分がいた。
でも、そういう人間でも、友人は見捨てないでくれたし、案外、いやな毎日ってことは、
変わってしまうのだと、後になって知った。あまりにも許せない事実ではあったが、それを教えてくれたのは、
一本の、マニアックなビデオだった。
(私は今でも、それのおかげで嫌な毎日が乗り切れた事を悔しく思う)
12/21 何気なく、友達からエヴァを見せられた。主人公の男がむかついた。
でも……何処が違う? 逃げてるのには変わらないじゃないか。
勉強しようかな?
私がした勉強方法、それはたった一つだけだ。
『過去問を、覚える』
もう、二ヶ月前。今更、「受かる!」シリーズ買うのもばかげていたし、大体、参考書なんてかっても、
覚える気がないのは分かりきっていた。だったら、過去五年間の入試テスト過去問を集中的に覚えてしまったほうが、よっぽど効果的じゃあないか。そう考えたのだ。……なんとも短絡的ではあったが。
しかし、覚えようと思ったら、後は楽だった。冬休みの間、私はほとんど昼間は遊び、
夜は暗記を続けると言う毎日を過ごした。
12/26 今日、テイルズ オブ ディスティニーを買った。なんとDEENが主題歌を歌ってるんだよ。
とりあえず、今日は三時間くらいかな……
12/28 家族旅行。
1/5 今日は一日中本を読んでいた。
1/7 最終日。ああ、もっと休みたかったなぁ。
そんなわけで、3学期を迎えた私だったが、比較的、もう心は落ち着いていた。この時期になると、
もう何をやっても無駄という意識の方が強い。過去もんは、すでに五年前まで遡り、問題を、
一問目から内容を言えるほどになっていた。数学だけは、暗記ではないような気がしたが、
それも解き方を覚えてしまった。
覚えるだけ覚えた私は、とりあえず遊んだ。
1/17 今日は、久しぶりにテーブルトークで遊んだ。なんか、自分の友は、勉強だからなどと言って
遊べないので、弟の友達と遊んでいた。
1/22 今日、テイルズ、レベル99突破。良くこんなに遊んだ物だと、自分を誉める。
1/25 久しぶりに勉強し様と思ったが、めんどくさくなったので寝る。
別に、不真面目な毎日を送っていたわけではないと思う。自分の中で整理できれていない物が、
そのとき私の心を満たしていた。それは友情関係であり、もしかしたら、恋愛だったのかもしれない。
その漠然としたところは、今の私にはよくわからない。ただ、過ぎていく時間に対して、どうしようもない
無力感を感じていた。
勉強がめんどくさくて寝た1/25の次の日、私は、ある一つの言葉に出会った。
1/26 「あおいはる」と書いて「青春」と読む。……そう、今日黒板に書いてあった。
誰が書いたのかは分からないが、妙に悲しい気分になってしまった。
今はまだその意味には遠いかも知れにけど、いつか自分も、青春を迎え、そして終えるのだろうか?
この学校からいなくなる。そんな意識は、もうクラス中に広がっていたのだろう。私立で受かった人間が出始め、いやがおうにも、卒業と言う二文字がちらつき始めた。黒板には「あと○○日」と書かれ始め、先生も、
ほんの少しの事でいらつき始めた。
こうなると不思議な物で、私は逆に落ち着いていた。
周りが慌てるのを見て、鼻で笑いながら、そんな人間にはならないぞと、心の中で、必死に自分を冷静に保とうとしていたらしい。しかし、どこか、体は正直だった。日記には、しっかりと、そのときの私の緊張感が書かれている。
2/9 おーおおう。しまったぁ!
ヤバイ、あと8日だよ。生き残れるかなぁ……生き残るって、どう書いたっけ?
だぁぁ!! やっばいじゃんか。
2/10もう、あと一週間か。それで俺の人生決まるんだなぁ。
ここまで来たら、後は突っ走るだけ!
と、話は簡単に終わらない。私は、この二日間、日にちを数えた日を皮切りに、まったくプツンと勉強を止めてしまったのだ。(苦笑)理由は三つ。
① 遊びたかった
② 小説がもう少しで書きあがりそうだった。
③ ゲームのENDINGを見ていない。
残念な事に、これら全てが終了した時には、試験は次の日になっていた。
2/16 明日は戦いだ。三年間……いや、一年か?……待てよ、二ヶ月だっけか……
とにかく、力の限りを尽くして、がんばらねば! 聖戦だ! ……遠征は確か……知らん。もう寝る。
試験日。確かに緊張したが、実はよく覚えていない。
確か、前から三番目の席だったような気がする。怖そうな先生が前に座っていて、テストが終わるのをじっと待っている。それだけだった。
わからない問題をごまかすように、机を鉛筆で叩く奴もいなかったし、
試験の最中に、トイレに行きたくなる奴もいなかった。
先生に殴りかかる奴もいなかたつぃ、とにかく、全て正常だった。
試験が終われば、周りの同じ学校の奴らと、答えの確認。間の時間中にトイレに言っておいて、またテスト。そんなもんだった。
ずっと貯めたり、爆発したりしていたストレスの原因は、こうして去っていったのだった。
あの時、私たちは皆ほんの少しづつ壊れていたのだと思う。
テスト勉強の事が頭を離れなくなる奴や、逆にアホみたいにふざける奴。いろいろいた。
なんにせよ、私はは試験に受かったし、もちろん落ちた人間もいた。
「……俺、別にこの高校本気で来たかったわけじゃなかったし」
そう言って少し笑ったSの事を、私は今でも忘れていない。奴は、今どうしてるんだろう……
先生が言っていた、「入試でよくある……」なんて事をがあったなんて話はとうとう聞かなかった。
そして、テスト前よりも、テストから結果までの時間が一番長かった事は、言うまでもない。
なんにせよ、受けてから気づくのだろう。
「所詮、テストなんだ」と。
私にしても、受かってた事が分かって一番初めに思ったのは、
「親父、一家心中はしなくていいぜ」
だった。
だから気にしないで受ければ? とはいえない。
思い切り気にして、思いきりストレスを覚え、思い切りばくち感覚で受ければいい。
何かを一つ越えた時、人はいやがおうにも大人に慣れるのだから。
そしてそれは、いつか届く「青春」の糧となる。
完
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