死 に 続 け る 男
君が好きだよ。そんな単純な言葉をいえなくて僕の夏は終わった。
彼女が大切だったわけじゃない。
だって、
彼女がいなくても、僕の日々は続いていたから。
「でも、寂しかったのでしょう?」
ゆっくりとした問いかけが胸に染みる。
寂しい?
そんな感情を抱くほど、僕はあの日々に憧れてはいない。
「ではなぜ?」
なぜ?
……何故だろう。
どんなに自分に言い訳をしても、
結局僕は彼女を忘れられなかっただけなのか。それとも、
あの日が終わった瞬間に、僕の中の日常が、一緒に崩れてしまっただけなのだろか。
「それは問いかけ? それとも――」
いや、君の言いたい事は分かってる。
これは問いかけなんかじゃない。自分自身への確認。僕という存在の最後の悪あがき。
「そう。じゃあ、もういいの?」
ああ。
もう充分なんだ。
君の手に触れただけで、僕という空虚な残骸は霧散してしまうのだろう?
おろかな日々に別れを続けられるのだろう?
そこが、ここよりも苦しみに満ちた場所でもいい。
夢を抱けぬほどに暗い場所なら、もうあの日々を思うことも無いのだから。
「じゃあ、いきましょう」
そして僕は手を伸ばす。
闇の中へと。