死 に 続 け る 男

肉を分け入りながらもなおも奥へ進めぬ苛立ち。腕に食い込んだままのボールペンを見つめ、一人僕は呟く。

「結局……どんなに甘い幻想を抱いたとしても、僕が僕自身を消さない限り、この世界から抜け出す事は出来ないんだな」

もはや脳裏に溢れるのは鋭い激痛のみ。
脳裏に抱いた甘い幻想とともに、僕の夢は闇の深くに沈んでしまった。

誰かの力で眠れるのならばきっと、僕は迷いもなくその手に触れるだろう。けれども、夢は所詮夢。人はいやがおうにも、自らの死に抗ってしまう。どんなに苦しい思いをしても、悲しい思いをしても、この世界から抜け出すために苦痛を受けぬ手段を選ぶ事は出来ない。

いや、他に方法はある。きっと。

けれど僕は、この僕を消すために僕の力を使わなければならない。
それは、僕がこの世界から抜け出すための唯一のルール。

ルール?

浮かんできた言葉に、歪んだ笑みが浮かぶ。
暗闇に憧れる僕に課すルール。それほど陳腐なものがあるのだろうか。

所詮僕は、僕自身に傾倒し、僕自身にあきれはて、僕自身を許せなくなったただの愚か者に過ぎない。愚か者には、愚かな死がお似合いだ。

僕は手に食い込んだボールペンをそのまま手前に引き寄せる事に精神を使う。
血が溢れ出す。規則正しい流れが傷口から動きを変える。鼓動にあわせるように、血が噴出す。

もうすでに、動脈にボールペンは達したのか。腕の中に見える白い物。それは僕を発見した者達が、僕という肉体を浄化した後に残るもの。

今の僕の理想の存在。だけど、その僕を見ることは出来ない。
薄れていく意識を必至にふりおこす。

闇の中に、今すぐにも意識は飛んでいきそうな気がする。
流れ出る血と、絶え間ない痛み。暗くなる視界。

そう、すべてが僕を死へと連れて行ってくれる。
もうすぐやってくる暗黒へ。もう僕には死しか無いのだから。