死 に 続 け る 男

風が僕の頬をなでる。

一瞬浮かんでいた幻想が風の冷たさに後ろのほうへ流れていく。
ばかばかしい。
他人に死をゆだねる事の愚かしさ。
死はそんなにも恐ろしいものではないはずだ。

真下には人々の群れ。
遠くには夕日。ちょうど、仕事を終えて帰宅する人々が、駅の構内に姿を消し始めている。
僕はこの場所で風になる。

鉄橋の上から見る電車はとても強そうだ。きっと痛みを感じるのは一瞬。その一瞬で、僕はこの世界から僕という存在を消す事ができるだろう。
素早く行動しなければならない。

誰も僕の動きを止められぬように。橋の手すりに足をかけ、いっけに上半身を下へと落下させる。
列車が来る瞬間を見計らわなければ、運が悪ければ生き残ってしまう。

運が悪ければ?

自分が真剣に考えている事が妙におかしくなる。笑いが口から漏れる。
僕はもうすぐあの場所へいけるのだ暗闇へ。この手すりに足をかけさえすれば。