反 省 文   楽静 

はんせいぶん

 ぼくは わるくないです。




はんせい文

 なんで僕が悪いんですか?




反せい文

 反せいします。




反省文
 なべ島ゆうき

 反省しています。




反省文
 706号室
 なべ島勇希

 とても悪いことをしました。ごめんなさい。反省しています。




反省文
 七〇六号室
 鍋島勇希

 僕が悪かったです。許してください。
 とても反省しています。




反省文
 七〇六号室
 鍋島勇希

 病院内のちつじょを乱してしまい本当にすいませんでした。反省しています。




反省文
 七〇六号室
 鍋島勇希

 五月二十五日の水曜日に、僕は竹島貞夫君を殴ってしまいました。これはとてもいけないことです。場所は食堂でした。
 反省しています。それで反省文を書きました。
上川先生に「『僕は殴らない』と、五十回書きなさい」と言われたのに途中で手を抜いてしまったのは、悪かったことだと思います。




反省文
 七〇六号室
 鍋島勇希

 僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りせん。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕人を殴りません。僕は人をなぐりません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を断りません。僕は人を殴りませ。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕は人を殴りません。僕ハ人を殴りません。僕は人を殴りません。僕ハ人を殴りません。僕ハ人を殴りません僕ハ人を殴りません僕ハ人を殴りません僕ハ人を殴りません僕ハ人を殴りません僕ハ人を殴りません僕ハ人を殴りません僕ハ人ヲ殴りません僕ハ人ヲ殴りません僕ハ人ヲ殴りません。




反省文
 七〇六号室
 鍋島勇希

 五月二五日の水曜日の事をせいかくにお話しします。
 お昼に食堂で僕は一人で食事をしていました。その日はさばの煮つけとご飯とおしんこ。
みそしるでした。すると竹島貞夫君がやってきました。
「この男女」
 竹島君がそういって僕をからかいました。竹島君は僕よりも二歳年上なだけなのに、いつもえらぶって僕をからかってきます。
「お前なんて一生病院」
「頭の病気は治らない」
 竹島君はこんな事も言いました。
 だから僕は竹島君を殴りました。
 確か、顔と、お腹を殴ったと思います。竹島君は僕よりも体が大きいので思いっきり殴っても大丈夫だと思っていました。
 けれど竹島君が何か言って動かなくなりました。
 すべて僕が悪いのだと思い、反省しています。
 本当に反省しています。
 許してください。



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No 210023との会話 七回目
 五月二八日(木)15:30

 担当医師 村上
 看護婦  相川

医師「はい。じゃあ話してごらん」
患者「えっと、どういうふうに?」

医師「話したいように話していいんだよ。私は警察じゃない。ただ、何があったのかを正確に知りたいだけなんだ」
患者「それ、上川先生にも言われました。『正確に記せ』って」

医師「君の反省文はすべて読んだよ」
患者「すべて?」


 患者・医師 共に沈黙(11秒)


医師「さて、じゃあ聞かせてもらおうか」
患者「はい。僕が食堂に」

医師「待った。それは、いつの事かな?」
患者「五月の二五日です」

医師「…………そう。では、続けて」
患者「五月二五日の水曜日、食堂で」

医師「どこの、食堂かな?」
患者「病院のです」

医師「……どんな病院?」


 患者 沈黙(20秒)


患者「…………精神の、です」

医師「……続けて」
患者「そこで、僕は竹島貞夫君を殴ってしまいました」

医師「うん。殴って、どうした?」
患者「どうした……?」


 患者・医師 沈黙(23秒)


患者「……反省しました」

医師「そう。でも、反省文ではあまりそれは伝わってこない、かな」
患者「すいません」

医師「……正直に、いまどう思っているか、話してごらん?」


 患者・医師 共に沈黙(37秒)


医師「……正直に言ってごらん」


 患者 沈黙(30秒)


医師「いいんだよ好きに」
患者「僕だけが悪いわけじゃないって思ったんです」

医師「どうして?」
患者「だって竹島君は……僕のことをからかったから」

医師「からかわれたら殴っていいの?」
患者「そういうわけじゃないけどでも」

医師「彼は一度も君を殴らなかったんだろう?」
患者「だけど」

医師「それなのに君は何度も彼を殴ったんだよ?」
患者「だけど」

医師「……君は、もう大人だろう? 相手はまだ子供じゃないか」
患者「え?」


 患者・医師 共に沈黙(30秒)


医師「……殴ったときの状況を聞かせてくれないかな?」


 患者 沈黙(24秒)


医師「鍋島さん?」
患者「僕は……?」

医師「鍋島さん?」
患者「ちがう。僕は」

医師「いかん。おい、相川さん、鎮静剤を」
看護婦「はい」
患者「僕は……」
医師「しかたない。いったん中止にしよう」


 15・45 終了


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報告書
 五月二八日(木)


 執筆者 村上康夫


 会話の結果、患者は未だ人格の混迷状態にあると推測。
 自分が事件を起こした場所を病院と答えるなど、認識能力にも、異常を疑う点が少なくない。
 事件に関しての法的責任を問うのは難しいと考えざるを得ない。

 一人になると紙と鉛筆を希望し、「竹島貞夫」という人物に関する反省文を書き続けている。
上川という医師に命じられていると本人は話しているが、当院にそのような名の医師は存在しない。
昔の事件と混同しているのかどうかは、目下調査中。

 なお、患者は未だに自らの性別を男だとし、またその年齢は徐々に下がっている。



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読買新聞 
 2003年 五月二五日(月) 夕刊 一二面より



 下校中の児童 無職の女に襲われ死亡

 二五日午後一時ごろ、神奈川県横浜市港舞区の路上で、下校中の青山洋二君(一三歳)が、近付いてきた女にいきなり頭を殴られた。洋二君は頭や腹に重傷を負い、三〇分後病院への救急車の中で死亡した。
 事件から約一〇分後、交番勤務中の山沢署員が現場から約1キロの同市神奈川区の路上で両手から血を流している女を発見、事情を聞いたところ犯行を認めたため、殺人の現行犯で逮捕した。
 調べでは、同市内の無職の女(三十四)。2001年ごろまで同市内の病院の精神病院に入院していたという。
 現場はJR新横浜駅の北約一キロで、民家が点在する工業地帯。



あとがき
さぁ、意味の分からないお話ですね。
これは「情報だけで作る物語」というテーマで書かれた作品です。
情報というと、映像、録音、手紙、新聞、等が
あげられると思いますが、そう言ったものだけで、
後は読者の想像に任せた物語……と、
はっきり言って、
突き放した内容ですね

こういうのも、あるのか。なんて、
思ってもらえれば幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。