――奴―― 作楽静
「時が全てを解決してくれるって思ってたんだろ。悲しみも、怒りも全部。違うか?」 声が自然と強くなる。同時に目頭まで熱くなってきて、俺はただどうしようもない気持ちに唇を噛んだ。 奴は何も言わない。 じっと、俺の言葉に耳を傾けてる。いつだってそうだった。会った時からずっと。 愚痴を言うのは俺、聞くのはこいつ。 知らぬ間にできあがっていた関係が、俺達の唯一の絆だった。互いに縛り、縛られることをきらう、軍人の。 「今度の今度こそ、お前のミスだぜ。お前が間違ったんだ。だよな?」 ミスするのは俺、フォローするのはこいつ。 銃器類をいじっていて長官に見とがめられた時も、戦闘機を撃ち落とし損ねて、軍に被害を及ぼしてしまった時も。 奴は何も言わない 「何とか言えよ。……分かってるよ、悪気がなかったって事ぐらいはな。でもよ、うれしいと思ったのか?」 頭が痛くなる音を出して、戦闘機が頭上を高く飛んでいく。アレに乗っているのは、きっと若造だ。飛ばし方がなってない。 いや、あんな機体でやらされてるんじゃ仕方ないか。 「『お国のため』か。格好悪いよな、誰かのために死ぬなんてよ。そう言ってたのはお前だろ? バカだよ、ほっときゃいい じゃねえか、全部戦争のせいにしてよ。……生き延びちまった方の身にもなれよ」 そろそろ行かなきゃならない。俺は言い訳みたいに奴に背を向けた。途端、すまない気持ちに堪えられなくなって、言うまいと思っていたのに言葉が出る。 「……特攻だとよ。せっかく助けられたのにな。すぐ追いかけることになるな」 遠くで隊長が呼んでいる。俺は、奴に最後の別れと手を振った。 墓標は、最後まで無言で俺を見送った。
完
この作品は とあるHPに投稿した作品です。 あの頃自分は若かったと思うわけではないですが、 戦争というものをあまりわかってません。 お許しください。 ここまで読んでいただきありがとうございました。 |