友 作楽静
時計の針が、小さな音を一つ立て、予定の時間が来た事を知らせる。時間だ。 そう思った瞬間に、俺はまたいつもの匂いが漂って来たことに気づく。 甘酸っぱさの中に、糖分をとりすぎた豚の汗のような匂いが混ざる。 それだけならまだしも、隠し味とばかりに、下水道で泳いだ後の水泳選手の海水パンツのような、そんななんとも形容しがたい匂いを引き連れて、あいつは現れる。 「や、待った?」 そうだ、まだ足りなかった。 時間ぴったりに来たことに、満足した顔で席につくあいつの前で、俺は今にも鼻をつまみたいのを必死にこらえつつ、とどめの匂いを思い出す。 多くの匂いの中に隠れて、わずかしか匂わないが、本来ならば、これだけで相手を不愉快にさせることができる匂い、ポマードは、 あいつの髪を、今日も塗り固めている。 「で? 今日はなんだったっけ?」 「い、いや、それが、今日、俺、予定が入っちゃって、それで、、あの、すぐ、行かなきゃ、いけないんだ」 あえぎながら俺はようやく言葉を口にする。 「あ。そうだったのか。それなら待って無くてもよかったのに。まあ、じゃあ、また別の機会ってことで」 「あ、ああ」 忙しそうに走り去るあいつの背中を見送って、俺はやっと深呼吸をしようとして、あいつの残り香の前にむせ返った。 「……今日もいえなかった」 俺の中にあるのは、後悔のみ。ふと、周りを見渡せば、さっきまで人でにぎわっていたレストランには、人っ子一人見当たらない。 よく見ると、気を失っているものまでいる。 次こそは。そう自分に言い聞かせるのは、何度目だろうか? (お前その香水やめろよって)
完
この作品は 実際にこんな友人がいたわけでは 決してありません。 べつに、 T氏の体臭が嫌だったとか T氏が人より個性的な匂いだったとか そんなこと、 全然言うつもり無いですってば(爆 ここまで読んでいただきありがとうございました。 |