雑音

 歩いていた僕は。

 この道を。
 街灯が照らし出す闇の中に一人いる孤独感。

 負けない。
 誰にも。

 そう信じていたはずなのに風も吹かないこの蒸し暑さに倒れそうになる。

 木々が生い茂る細い道の中、聞こえてくるのは季節を通り越したような虫の音。鈴を鳴らすように小刻みに。闇の中に声が映える。僕の心の中にしみこむ。ゆっくりとゆっくりと腕が差し込む。なまめかしく蠢きながら臓腑を握りつぶす細い指。その指先に赤く染まったマニュキアからは甘ったるい死の匂いがしている。声。木霊となって耳を圧する。僕自身の心が壊れそうになる。慌てて耳をふさいで足を速める。

 なにから逃げ出そうとしている? 
 僕は。

 この日々の中で僕は何かを見つけ何かを失って生きていた。

 雑音。

 崩れていく。生きていていいのだろうかなどとくだらない問い掛けを自分自身のために放とう。
 どこまで続いていくのだろうこの細い道は。限りなく続いていそうな闇の中に街灯の光が苦しそうに喘ぐ。

 闇。

 この闇が晴れるころには、僕は新たな僕になるのだろうか。
 そんな疑問に、自分が生きている今が昨日になり、明日が今日になってしまうことに恐怖を感じる。
 僕は歩いていたのだろうか? 実は今、立ち止まって朝を待っているだけじゃないだろうか。ただこの闇の中で、喰いつくような音の中で、輝く幽かな光を見つめてここで立ち止まり固まっているのではないか。何もわからない。何も見えない。

 目をとじる。
 耳をふさぐ。

 耳の奥に響いてくるのは虫の音。虫。虫たちは明日を見ないのだろうか。
 なぜ僕だけがこの道の中で明日という日を欲しながら恐れているのだろう。

 暗い。
 ここはとても暗い。

 さっきまで輝いていたはずの光はどこへ行った? 
 なぜ、音は虫の声だけになっている? 
 あたりにあるのは冷たい虫の羽音のみ。そう、それは明日を否定する僕の心。ただの音。


 雑音。


あとがき
この話は去年、なんか暗いときに作った話です。
んで、ちょっとリメイクしてみましたが、
自分の雰囲気をかえって壊してしまったような気がして
ちょっと納得いかなかったりします。

感想があればぜひ♪