宇宙戦鬼 その三

∧五∨エンディングにはまだ遠い 

「はあ、全く、もう少し、親父からよく聞いてから宇宙に出るんだった」
「コーヒー飲みますか」
「お、ありがとう」

 宇宙船の、窓側に腰掛け、フっくんが入れてくれたコーヒーをすすりながら、俺は、これからのことについて、漠然とした不安を抱えていた。
 まずは、異星人を殺したと言うこと。反省しても、絶対に許されるはずのない行為だと言うことは、常識でわかる。

 それに、いきなり事件に巻き込まれたおかげで忘れていたが、親父が言っていたこと、『宇宙中を見聞して、母星に報告する』
このことについては、全く手をつけていない。 異星人を死に追いやって、今更髪の色がどうとかの問題でもないが、とにかく、それが自分が宇宙に出たきっかけでもあるのだ。

「もうすぐですねえ」

 考え込む俺の後ろから、フっくんがしみじみと声を発した。その言葉の意味が分からずそちらを見ると、フっくんは、遠くを見るような視線を上に向けていた。

「竜鬼さんと会ったのがついさっきなのに、なんだか、ずっと知り合いだったような気がしますよ。案外、僕らは前世なんかであったことがあるのかもしれませんねえ」
「おい、フっくん、何だよそりゃ。なんか、お別れの挨拶みたいじゃないか」

 異星人にも前世の思想があるのか云々は、この際おいといて。一番言葉の中で引っかかった部分をまず指摘した。その俺の言葉に、フっくんの顔が、不思議そうな顔つきになる。いかにも、『なんだこいつ何言ってんだ?』と言うような、そんな漠然とした顔のまま。

「あれ、竜鬼さん何をそんな当たり前のことを言ってるんですか?」

 俺は危うく手に持つコーヒーのコップを握りつぶすところだった。

「な、フっくん、お別れなのか?何で、どうしてだよ」
「何を言ってるんですか竜鬼さん、・・・いや、竜鬼様」

 突如、ふざけ半分だったフっくんの顔が急に真面目な顔つきになった。今まで見せたことのないその顔のまま、今まで聞いたことのない言葉使いで、フっくんは俺に恭しく頭を下げた。

「貴方様の、今回の試練。まことに辛い物でありましたが、見事、合格となりました。この合格の暁として、必ずや貴方様は、竜王星の、第十七第王として任命されることが決定され・・・」

「ちょぉぉぉぉっとまったぁぁぁぁぁ」

 歌舞伎役者もまいるほどの剣幕で、俺はフっくんに言葉と同時にチョップをくらわした。

「でこかんん」

 意味不明な言葉を吐いて、シリアス全開だったフっくんが、三流役者並のすばらしい突っ込まれ役を見せる。

「な、なにするんですか!か、完璧な、完璧なシリアス場面を、貴方って人は」

 目に涙を浮かべて、頭を痛そうにさすりながら、フっくんは、断固抗議するような形を見せた。

「何の話してるかわかんねえ!もっと順序よく説明しろ」

 仁王立ちであまりにも情けないことを当然のように俺は言いながらフっくんを睨みつけた。その言葉に、フっくんの目が丸くなる。「な、な、な、何の話をしているかわからないですって?」
 その腕がフルフルと震え初め、目はきつく俺をにらみつける。精一杯背伸びをして俺のズボンを握ると、冗談じゃない、と口を開いた。

「竜鬼さん、貴方いったい何のために宇宙に出たんですか?」
「んなもの、髪を赤くしたくないからに決まってるだろう」

「髪?・・・がなんですって?」
「髪を赤くしたくないからって言ったんだ」

 俺の答えが、フっくんにはお気に召さなかったようだった。なぜだかわからないが、その顔が真っ赤になっていく。

「髪って何ですか!説明しなさい」
「んなもん、頭に生えている・・・」
「そんなことを聞いているわけないでしょう、貴方の旅の理由をもっとしっかりと説明しなさい」

 フっくんの剣幕に押されるように、俺は親父から言われた、俺が旅に出る理由を正直に話した。

「・・・と、言うわけ、おわかり?」
「な、なんて事ですか・・・」

 俺の話を聞き終わった途端、フっくんは、すっかり時が抜けたようにその場に座り込んだ。その肩が、小刻みに震え初め、俺は不審に思ってその顔をのぞき込んだ

「おいフっくん?」
「ふふはははははあは」
「だーフっくんが壊れた!」

 フっくんの突如発狂したような笑いに、俺は飛び上がらんばかりにあわてふためいた。「はーおかしい、さすがは、親父さんだけありますね」
 あわてる俺に、フっくんは、まるで憑き物が落ちたような瞳を向けた。

「ふ、フっくん?」
「大丈夫ですよ、壊れてなんかいませんって。・・・それより竜鬼さん、これからお話しすることをよく聞いてください」

 フっくんの真剣な顔に、俺は思わずうなずいていた。そのことに、フっくんが満足そうな顔を見せる。
「・・・まず一つ。髪の毛が赤くなると言うのは嘘です」
「・・・・・・・・・はい?」

「では、二つ目・・・」
「お、親父の言葉はやっぱり嘘だったんかい!」

「・・・そうです、たぶんこれからお話しすることに関係してくることでしょう」

 ショックを受ける俺に、フっくんはむしろ当然というような顔をした。

(嘘・・・。お、俺は半分は信じてなかったけど、半分は信じていたわけで・・・)

 頭を抱えて、俺は自分の間抜けさを反省した。その頭の向こうから、フっくんの声が耳入って来る。

「・・・竜王星は貴方の親父さんを王として迎えるはずでした。しかし、その親父さんは地球という星に逃げ、自分の息子を王にしろと言ってきたのです。だから、竜王星のお偉いさん方は、もしその息子とやらが、竜王星の王として、完璧ならばよし、もしそうでないならば、親父さんを改めて、王にすると言うことで・・・」

 フっくんには悪かったが、俺は手を挙げて、話の腰をぽっきりと折った。

「フっくん、またわからなくなってきた」
「・・・何がですか?」

「俺の故郷は、ジンカー星じゃないのか?」
「ああ、それも嘘でしょう。たぶん、自分の名字と同じ星があるなんてわかったら、妙な疑いを持つだろうとでも思ったんじゃないですか?」

(に、二重嘘・・・)

「だから、お偉いさん達は、貴方に試練を与えることにして、貴方はその試練にしっかりと合格してしまったんですよ」
「ちょっと待て」

 再び俺はフッくんの話を手でやめさせた。

「俺は試練なんか受けてないぞ」
「受けたじゃないですか」

 にこにこと、フっくんは先を続けた。

「勇気ある決断、剣の腕、弱者に与える慈悲の心、倒した敵にも抱く後悔の念・・・人の上に立つ者としては、完璧ですね」
「だから、試練ってなんだよ?」 

 不思議そうな顔をする俺に、フっくんはにやりと笑って付け加えた。

「普通真空中で声が届くわけないんですよね」「ま、まさか・・・」

 俺は、フっくんの言葉で、一人の女性の姿を頭に浮かべた。俺のとまどいをおもしろそうに見つめながら、フっくんは続けた。

「声が聞こえたのは、通信を切ったと見せかけて、切らなかったからなんですよ」
「あ、アレが試練だって言うのか?」

 ほとばしる鮮血、初めて持った剣、夢を追い求めた女の狂気。それらがすべて・・・。
 フっくんは、何でもないように言ってのけた。

「竜鬼号が本気を出せば、あんなSL勝てっこないんですよ。・・・だいたい、ニメア星人は、役割を大事にする言っていったでしょう?」
「でも、あの女は俺を鉄郎だって追いかけて・・・」
「それは演出です」

「変なアニメのコスプレ・・・」
「危機感をあおるようにと」

「だ、だって、俺はあいつらを切って・・・」
「それも大事な役割の一つでした」

 フっくんの言葉の意味に、俺の心の奥にあったもやもやがぱっとはれていくのを感じた。

「じゃ、じゃあ、あの女は生きてるんだな」
「ええ、今頃、作戦が成功したことに、皆で祝杯を挙げていますよ」

 本当なら、殺したと思っていたものが生きていたことに、喜びを感じるはずなのに、俺の心は、フっくんのその言葉で怒りに燃えた。(お、俺の、俺の涙を返せ!あの時、死んでいくだろう思われた奴に、涙を流した、俺のあの時を返せ!)

「ま、まあ、竜鬼さん、そのおかげで、貴方は王になれるんだから良いじゃないですか」

 俺の怒りにさすがに怖くなったのか、フっくんはまあまあと、慰めの言葉をくれた。

「そのことだがフっくん!」
「何ですか竜鬼さん」

「試練に勝っただけで、俺が王になれるわけねえだろ、こう、なんか証拠みたいな・・・」
「証拠ならあります」

 フっくんは、そう言って俺にエナジーストーンを差し出した。

「これがどうしたんだ?」
「竜鬼さん、貴方がこの石を握って、作り出した剣は、竜王星に代々伝わる竜王剣という剣なのです。この剣は、王族にしか握れず、この剣を持つことが、王の証でもあります」

「・・・だから?」

 俺の言葉に、フっくんは、ごほんと一つ咳払いをして、話を続けた。

「エナジーストーンを使ったからと言って、その剣と全く同じ者を作れるのは、よほど王族に近くなければいけません。ましてや、見てもいないのに、剣を生み出せるのは、生まれつき剣を握るべく定められた者、つまり、王の血縁しかいないんです」

 フっくんの言葉は、間接的に、俺は王になるために生まれてきた者だと言っているように聞こえた。いや、事実そうなのだろう。

「わかった、わかったよ」 

 俺は、過ぎ去ったことはどっかりと忘れて、これからのことについて考えなければいけないと悟った。真剣な顔で、フっくんの瞳をにらみつける。

「王になると、どんなことがあるんだ?」

 フっくんの顔が、パアっと明るくなるのがわかった。たぶん、俺が王になる気になったとでも思ったのだろう。快活に、答えをはじき出す。

「まずは、国税使い放題」
「ほうほう」

「ついでに、自分の言うこと聞かない奴は即死刑にできる」
「なるほど」

「それから、気が滅入ったら、パアット戦争もできる」
「・・・・・」

 俺の頭の中に、税金を使い放題にして、気に入らない奴は死刑にし、すぐにドンパチおっぱじめる王の様子が浮かんでくる。

「それじゃあ、まるっきりの、悪政じゃねえか!」
「だぼんじゃ」

 俺のつっこみに、フっくんはよけることなくぶちあたり、お約束らしきボケを見せた。俺の身体中を、むなしい風が通りすぎる。
 もしもここに第三者がいたなら「シーン」とでも思わず言ってしまうような、そんな気がした。

(むなしい、やはり俺は王になる器じゃないな)

 自分勝手理論でそうまとめると、俺はフっくんに向かってプラプラと手を振った。

「やーめた、俺は王になる気ないし。だいたい、王ってつまらなそうじゃん」
「な、なにを・・・」

 フっくんの顔が真っ赤になり、その後考え込むように腕を交差させる。

「そりゃあ、座りっぱなしで痔になるし、嫌われ過ぎると暴動起きるし、強い星にはペコペコしなきゃいけないし、いつ臣下に命とられるかわからないし、食事にどく入れられるときもあるし、夜もおちおち寝てられないし、色々と問題もありますけど・・・」

 フっくんのボソボソとつぶやく言葉は、完全に俺の熱冷ましになった。冷え冷えとした瞳で、俺は再度言った。

「駄目駄目じゃん、俺やっぱ王になんかなるのやめた」
「そ、そんなあ」

 弱り切ったフっくんの目を見ると、少し罪悪感が生まれたが、俺ははっきりと宣言した。「俺は嫌だ、地球に返って、まともな一生を歩むんだ」

「僕はどうなるんですか?竜鬼さんが星に来てくれなかったら、僕は責任とらされて、死刑とかになっちゃうかも」

 泣きそうなウルウルとした瞳で、フっくんが俺を見上げた。俺の心の中の、罪悪感という言葉が膨らんでいく。この雑然とした宇宙空間の中で、フっくんは、まるで純粋な宇宙人のように見えた。この宇宙空間の中で、この宇宙空間の・・・・・。

(は、そうか)

 俺は、センチメンタル的な考えの後に、とんでもない落とし穴が待っていることに気づいた。俺は、俺は、宇宙船の操縦ができない!「フっくん、一緒に行こう!」

(宇宙船を操縦できる奴を味方に付けねば)

 俺は、心の底にある考えを見せないように、くるりとフっくんの方を向いた。

「ふっくん。俺と一緒に宇宙に行こう」
「なんですって!」

 フっくんの驚きなど無視して、熱っぽい眼差しで語りかける。

「俺がやろうとしていることは、逃亡でも、現実逃避でも何でもない、この果てしない宇宙の中で、自由を勝ち取るための戦いなんだ。人に言われて何かするなんてまっぴらごめん。そんなことを考えたときはないか?自由にこの宇宙を駆けめぐりたい、そんなことを夢見たときはないか?フっくんの自由は俺が保証する、誰も見たことがないような所へ一緒に行ってみよう、さあ、冒険しようじゃないか!」

「自由・・・冒険・・・」

 フっくんは、熱にかかったかのように、ふらふらとした瞳で俺を見つめた。反射的に俺がうなずく、そのうなずきに、フっくんは、はっとしたように俺の手を強く握りしめた。

「やりましょう竜鬼さん、僕は、貴方についていきます」
「よし、やるぞフっくん、二人で宇宙中を駆けめぐってやろう」

 俺達二人は手を握りあうと、「オー」と声を張り上げた。
 しかし・・・俺の言葉の魔法にかかったのはフっくんだけではなかった。俺自身もまた、自分の言葉に酔いしれ、自分の本来の目的、・・・そう地球に戻ると言うことをすっかり忘れることになったのだった。

「行くぞフっくん、エンジン全開、目的地は、『まだ誰も訪れぬ星』」
「オッケー竜鬼さん、宇宙の果てまでかっとびます」

 竜鬼号は、こうして、竜王星に背を向けるように飛びだって行った。


「大変です、竜鬼号が、我が星に背を向けるように飛び立ちました」

 レーダー係のその言葉に、紅茶を飲んでいたお偉いさん達と、王と、後一人の人物は、同時にむせた。

「な、何じゃと、それでは竜鬼殿は」
「レーダーの範囲内から消えました。検索不可能です」
「くう、最新鋭のエンジンを積んだのが仇となったか」
「ええい、なぜこんな事がおこったのだ、案内役はどうした」
「そ、それが、通信に応答しません」
「してやられたか」
「どうする?」
「どうするもこうするも、こうなったら、本来初めから決まっていたようにするしかあるまい」

 その言葉に、その場にいたお偉いさん全員が、もう一人の男の席を見、そして目を丸くした。

「あの男はどうしたあああ」
「しまった、鎖にでも縛っておけばよかったのだ」
「馬鹿者、それでは、この星が消し飛ぶことになるやもしれんだろう」
「ええい、親子そろって、我々をこけにしくさってからに」

 それまで、黙っていた王が、いきなりそう叫ぶのに、お偉いさん達の心臓は震え上がった。

「王、お気を確かに」
「馬鹿者、これが落ち着いていられるか!さっさと、馬鹿息子と、その子を捕まえてこんか」

 騒然となる、王室を外から眺めながら、問題の人物・・・竜鬼の親父はタバコをくわえた。

「全く、親父にもまいったものだ、それもこれも竜鬼の奴が悪いんだがな」

 タバコにライターで火をつけると、いきなりそのライターを握りつぶす。
 その目に、怒りが広がり、ぽたぽたと落ちるライターの中身を忌々しそうに服でふき取る。

「竜鬼の奴め、俺から逃げられると思うなよ。なんとしても、お前を王にして、俺は悠々自適な老後を送ってやる」

 そうつぶやくと、その場からふっと姿を消す。・・・数分後、猛烈なスピードの宇宙船が宇宙中を駆けめぐるのを、何人もの人が目撃したという・・・・・・。

「竜鬼さん、」
「何だフっくん」

「まずはあの星にでも降りて見ませんか?」
「どれどれ」

 フっくんの言葉に、それまでボケッとしていた俺は、窓によって外を眺めた。
 青い、地球によく似た惑星が、下に広がっていた。うんうんと大きくうなずくと、俺はフっくんに合図を送った。

「良いね、フっくん、あそこにしよう」
「オッケー竜鬼さん、着陸します」

 竜鬼号は、静かに、星に降りていく、その様子を見つめながら、俺は、これからも続くだろう冒険に胸を膨らました。



 ・・・もし自分がある日
 みなと、同じではないとわかったら?
 みなと、流れる時が違うと気づいたら?

 退屈の時から放たれて
 旅立てるのだとわかったら
 自分を縛る物など無いと気づいたら
 どうするだろうか・・・
 
 もちろん、その時は、その状況を楽しまなくちゃ。思いっきり楽しんで、嫌なことなんか忘れちまえ!
 人生は一度きり、暗くなるよりは、明るく生きた方が得ってもんだ。
 そうはおもわない?思うだろ!
 いっちょやってやろうぜ!

あとがき
この作品は実は私がはじめて投稿しようと思った作品です。
正直言って
無謀でした。
だってこの作品

駄作なんだもん(涙)
ここまで読んでくれてありがとうございました。
マジで。

では。